神速のGK 作:インパラス
「ゴンタ!お前出るんや…!勝てる、勝てるぞこの試合!」
「何当然のこと言ってんだよアフロ」
「ははは!…っ、いて」
「あのハゲは俺が潰すから、抜かせろよ」
試合時間は残り十分切っている。まだ使えそうなのは…アフロ含めて三人か。チッ、雑魚が。
どうしてやろうかと、ペナルティエリアで考えていたら、速攻で自陣に攻められていた。
DFが機能してないから、ここまで一直線だ。ろくな戦術も技術もなしに、スルスルと抜けてくる。
ははは。
抜け出た敵FWが、フリー状態のハゲにショートパス。そこはお前が決めろよ。
ま、通さないんだけど。遅いから。
カットカット。
「な?!お前!!」
「はい、お疲れ様」
気を抜いてんのがわかんだよハゲ。なめてんだろ。
カスの分際で調子に乗ってんじゃねえよ。
しかし、パス出そうにも出せる奴がいねえ。アフロは気づいちゃいるが、微妙な位置。ロングフィードで稼げるが、残り時間がない。
ボール取られたら勝つのは無理だ。
それなら一択。
「フッーー」
「っっ!?そいつ止めろォ!!」
もう遅いから。
「…おい、福田。どこにあんな奴がいたんだ」
最初に言葉を発したのは、伊達だった。
今、フィールドは異様な空気で包まれていた。誰しもが言葉を発していない。ただ一人に、その場の視線の全てが集められていた。
「…くくっ。はははははは。
「福田さんっ。彼、一回は、エラシコで抜いてたよ!何でそこでやるのかと思ったけど…僕、あんな華麗にやった人初めて見たんだけど…!」
月島が興奮を隠さずに言った。
フィールドが騒然とし始める中、監督コーチ陣は、冷静に今起こったプレーを分析していた。
そして、最後のシュートだ。ハーフウェイラインを越して更に前進、ごく僅かな予備動作で放たれた強烈なロングシュートは、キーパーに触れさせないままに、ネット端に吸い込まれていった。
これをGKがやってのけたのだ。いくら奇襲といっても、あまりにリスクのある運びだった。
相手はユース生だ。二度同じことはさせないだろう。だが、得点を決められたという事実は変わらないのだ。
「…福田。仮に、これセレクション生が勝ったらどうすんじゃ?」
GKコーチの弁禅が、我観とした様子で福田に尋ねる。
「どうもしないな。そもそもポジションが違うから、ハンデが大きすぎる。まあ、いい経験だよ」
そうだ。一人が飛び抜けているからと言っても、此方はエスペリオンのユースだ。
負けるはずはないと、誰もが心のどこかで思っていた。
しかし、その予想は外れることになる。
後半残り三分。
含太から葦人へのロングパスが通り、葦人が左に急旋回。そのまま左サイドラインまでいくことで、ポジションコンバート故に慣れていない敵ディフェンスを釣り出し、DFがいなくなった逆サイドへとボールを上げた。
そのパスを、右サイドに上がっていた…本来トップ下のはずの橘がドンピシャで受け取り、ゴール前のスペースに詰めてきた大友にパス。
そのままフリーの大友が撃ったシュートは、間一髪で戻った阿久津によってブロックされる。
が、左サイドから、ボール落下地点に詰めていた葦人によって、ボールが枠に蹴り入れられ、3ー3となる。
そのまま、残りの時間は両者無得点(この間シュートセーブ二回)、試合はタイのまま笛が鳴った。
ここで、福田が最後のアピールにとPK戦の指示を出した。セレクション生達は、最後のチャンスをモノにしようと力を取り戻す。しかし、実際には福田の意図はそこにはなかった。
PK戦は、2ー0で幕を閉じた。一回目に橘が決め、四回目に大友が右の枠の中ギリギリに入れての終幕。
セレクション生チームのゴールネットは、四回の内、一度も揺れることはなかった。
「で、なんで俺呼んでんの?」
「…ちょっと聞きたいことがあってな。ちなみに、セレクション不合格は変わんないから」
「じゃあなんだよ、早く言え」
呼び出された時は、無視しようと思ったが、このオッサンに寿司を奢らさせないといけない。仕方なく来てやった。
だが、もう遠慮はなしだ。超高級なやつしか許さないから。ついでにアフロも誘ってやるか。アイツは無駄に食うからね。
「お前…なぜキーパーなんだ?いや、別にキーパーがって訳じゃねえんだけど、アシトはさ、ガンガン点取りたいやつじゃん。お前は違うのか?」
ああ、なんだ。そんなことかよ。
「プチッ と、踏み潰してやりてぇからだよ」
「…は?」
「頑張って頑張っちゃった挙句、才能にひれ伏すって現実をさ、教えてやるんだよ。凡才共に」
「……それ、本気で言ってるのか ?」
「当然だろ。御宅のユースの奴らの顔見たかよ?笑えたぜ」
「…はぁ」
オッサンはそれ以上は何も無いようで、黙り込んだ。早く寿司連れていけよ。
「GKコーチの弁禅だ。オレからも聞くことがあるんじゃが、いいか」
「なんだよ」
「何故コーチングをしなかった?いや、なぜ青井兄にしか、声かけすらしなかったんだ?セービングは大したものじゃったが、DFを動かせば、もっと楽にできただろう」
いやいや、そんなこと聞く意味なんてないだろ。他は死んでたじゃねえか。
そもそも、俺一人で十分だし。
「必要ないから」
「あの試合のレベルならそうだろうが、この先DFと連携せんかったら、厳しくなるぞ」
なんだこのヒゲ。何でコイツにそんなこと言われねぇといけねえんだよ。うぜえ。
だが、まあ今日限りの付き合いだ。それより、寿司が無くなったら困るからね。
「ハイ。今後はしっかりやっていきます」
「うむ、まだまだこれからじゃな」
うぜえ。
ヒゲは満足したとばかりに、腕を組んで椅子に座った。うぜえ。
「それにさ、あのドリブルしてた時なんだけど…!!」
「オッサン、約束通り寿司食わせろよ。最高級なやつね」
さらにメガネの男が話しかけてきたが、面倒だから切ることにした。
「は?何のことだよ」
「あ"あ?飯奢る約束しただろうが」
「…ん?…あー言ったけど…なんで寿司?そんな金ないんだけど」
「ふざけんな」
寿司は延期だ。クソが。夜は会議があるらしい。次東京に来た時に奢るっても、もう来ねえよ。オッサンには、お前が愛媛に奢りに来いって言っておいた。
もう夕方だ。腹は減ってくる。
…食堂に行くか。アフロは知らねえ、その辺にいるだろ。
「あら、含太くん?」
俺は、基本的に名前で呼ばせない。例外は、オカンと兄貴とアフロ。あと。
「あれ、なんでいるの社長サン」
そう、この人だ。いつ見ても三十代には見えない若さと美貌だ。まあ、かなり金かけているらしいが。……今日は、パンツスタイルのスーツか。初めて見たが、有りだ。別荘で会う時は、Tシャツジーパンの適当な服装だし。
「なんでって、ここの親会社だからよ」
「えー…マジで?」
「まじまじ。君はなんでここに?」
「セレクション受けに来たんだ。落ちたけど」
「ふーん、残念。ドンマイ。いいことあるさ」
「慰める気が微塵もねぇな。ちゃんと慰めてよ」
「これから会議だから無理ね。あ、そうだ。いつか高級寿司食べたいって言ってたよね。私行けないけど奢るよ」
「やったぜ。ついでにアフロもオーケー?」
「その辺は好きにしていいよ。でも
スルーしていたが、社長サンの斜め後ろには、さっきのジジイがいた。その横には、社長サンに似た顔の女の子もいる。娘か。マジでこんなでけえ娘がいるなんてな。
しかし、何だこいつ。どこ見てんだよ。ぼーっとしてんな。
「…お母様お母様。この人です。先ほどお話した化け物キーパーの人は。お知り合いだったんですか?」
「そうなの?」
化け物って…ガキの教育がなってないようですよ、お母様。
「お友達ですよ、お嬢さん。どうも青井と言います。お母サマには、お世話になっています」
「…ご丁寧にどうも。海堂です。先程はすばらしいプレーの連続でした。あの……青井さんは合格ですよね?」
いや、不合格って言ったよね。結果は後日郵送されるらしいが、俺は直接言われたからね。
「残念ながら、不合格です。遅刻しちゃって、さっき試合に出られたのも、他にGKがいなかったので」
「……え?ふ、不合格?あんな飛び抜けていたのに?」
「ハイ。ああ、どうもありがとうございます。そうですね、今回は運がなかったようで」
「…え?え?……じゃ、じゃあ、どこでフットボールやるんですかっ」
「地元の愛媛で」
「…ええっ!だって、シュートだって全部…」
あー、面倒くさ。
トロい喋り方なのに、妙に食いついてくる。
社長サンいなくなってるし。この子も寿司に付いてくるのか。いや、奢りだから文句は言えないけどさ。
よし、アフロに任せよう。
「あっ!おーい、ゴンター!!お前自分の荷物持てよ!」
いいタイミングでアフロが来た。いやぁアフロだから、目立って分かりやすくて助かる。
さあ、やっと寿司だ。