神速のGK 作:インパラス
「サッカーにあんたを…取られるみたいやねぇ」
俺が言われたんじゃない。オカンがアフロに言ったらしい。海で泳いでいた俺は、んなことは聞いていない。兄貴から聞いた。
オカンは相変わらず、アフロ限定で親バカを発揮している。そろそろ子離れしろよ。
セレクションから三週間。アフロの選考結果が返ってきた。
当然、合格だった。
俺は通知すら送られて来ない。ゴミになるだけだから、別にどうでもいいが。
次の日の朝、モリを片手に日課の泳ぎに出て、帰り道についていた。
夏はいい。日が出んのが早いからな。久々に今日の朝メシは大漁だ。夜までもつなこれ。
景況よく口笛を吹くと、それが合図であったかのように、一台の車が前の道で止まった。
「おはよう含太くん。朝から元気ね」
「えー…おはよう。最近神出鬼没じゃない?」
「まあね」
社長サンが、軽の窓から顔を出していた。助手席に、寝息をかいた娘がアホヅラを晒している。えー、なんで連れて来てんだよ。
「で、何の用?」
「うん。含太くん君さ、来年からエスペリオンでサッカーしなよ。これ言いに来たの」
は、それだけ?
「東京は行かねーよ」
「どうして?サッカー上手なんだよね?君」
「どうもこうも、俺セレクション落ちたからね。言ったじゃん」
「ああ、それね。君スカウトされるらしいよ。ほら、ね?」
いやいや、何が「ほらね」なんですか。横に娘がいるのに、エロく言いやがったぜこの人。あー、無表情でさりげなく谷間見せてくるのが逆にソソる。
「アフロが行くだろうし、金ねーんだよ」
「君全て免除だって。掛かるのは道具類とかくらいよ。おこづかいも…足りないの?」
「東京空気悪い」
「空気洗浄機買ってあげる」
「海がねえ」
「うちのプールならいつでも使っていいよ。お休み重なったら、ここにも連れてきてあげる」
「…なんで、そこまですんの?」
マジでわからない。でも俺と一緒にいたいとかではないと断言できるわ。あくまでも、お友達にしか過ぎないからね。
「その子が、君の事気に入ったみたいなの」
「………え、それだけかよ」
「それと、さっきも言ったけど、サッカー選手として優れている、らしいからね」
「それも、このお嬢様から?」
「先月、食事行った時に君とサッカー談義したってね、この子にしてはめずらしく楽しそうに話してくれたんだけど?」
先月って言えば、寿司食ってた時のことか。俺、何話したかよく覚えてないんだけど。寿司に意識いって、適当に流していたと思うんだが。
〜三週間前
「…青井選手は……あ、どちらも青井選手ですね…えっと」
「そいつはアフロでいいよ」
「じゃあ、ゴンタはゴンタでいいよ」
「はあー?」
「だって、俺アフロじゃねえや」
「えっ、えっと…」
「あー、別にいいよ、好きに呼んで(普通じゃありえねえけど、社長サンの娘だし)」
「あ…はい。では、弟選手と、兄選手でもいいですか?」
「あ~?うん。まあいいよ(意味わかんねーけど、これっきりだしいいか)」
「なんか変わってるけど、俺もいいや」
「おっちゃん、大トロや大トロくれ!!」
「…ふふっ。…あの、弟選手は、なぜキーパーのポジションをしているんですか?」
「アフロ最初から大トロかよ……ん?ああキーパーね。んー、好きだからだよ」
「…好きなのはいいことですね。では、他のポジションをしたいとは、思わなかったんですか?」
「というと?」
「…兄選手のようなFW、もしくはボランチの位置などは?パスも正確でしたし…ロングシュートも打てる…攻守の要にもなれると思うんです」
「(金目鯛うまー。今なんつったけ)あーそうですね。接触プレーが苦手なんですよ(すぐ倒れるカスがいるからダメなんだよ。潰したくなる)」
「…GKも接触プレーありますよね?」
「(めんど)そうですね。でもその前に取れるし、当たらないようにも動けますよ(カスの汗がつくのは最悪だから)」
「…そうですか……普段、どんな練習をされているんですか?」
「この本日の刺身盛りって気になるんよなあ…」
「お。アフロ、俺にもそれ寄越せよ。ああ、すみません…えーと、動画見て真似したりですかね。そこの兄がいるので、ボール蹴らせて…蹴ってもらったり」
「?……あ、そうです。兄選手の方は、周りをよく把握されて動いていましたが、それも練習で…?」
「あー、こいつは、オカルト持っているわけ」
「オカルト?」
「ある意味才能ってやつ。試合終わりでも、ほぼプレイヤーの動きを記憶しているんですよ。オッサ…福田監督がコイツをセレクションに呼んだのも…これうま…それが理由ですね」
「…才能?」
「ん?あー(やべ、何言ったかわかんねえ。しかし、これ何。俺が獲る魚でも、こんなクソ美味くないんだけど。やはり捌き方か…兄貴に覚えさせるしかねえ)お嬢さんはサッカーお好きなんですね」
「?…はい。あの、私のことは海堂…いえ、杏里でいいですよ。Jr.ユースからの人達はそう呼びます」
「じゃ、杏里サン?」
「…さんは、いりませんよ」
「杏里ちゃん」
「…まあ、それでも……………あ……あの、私将来フットボールの監督になりたいん…です…けど、その」
「へー、頑張って下さい(うわ、アフロ食ってるあれなんだよ。色やばくね)」
「……あの、私でもなれると思いますか…?」
「サッカー好きだったら、なれるんじゃないですかね(知らねえけど)。杏里ちゃん真面目そうだし、知識もあるし、真剣っぽいしね」
「……!そ、そうですか………あの、烏滸がましいことなんですが、た、例えばいつか…いつか、私の
「全然オーケーですよ(おっさん共より可愛い子の方がいいのは当然。…アリだな。寧ろ女の子が監督しろよ。やる気出るわ)是非とも頑張って下さいね」
「…!…はい!……私なりに、世界のGKの選手たちと比較して、弟選手のプレースタイルを分析してみたのですが…弟選手の武器は、身体能力…それも反射神経が特に優れていると思うのですが…だとすれば」
「(まだあるのかよ。寿司に集中したいんだけど)」
あと何話していたかは、全然覚えてねえ。寿司が美味かった。それだけだ。
「御宅のお嬢さん、フットボールの監督になりたいんだって。社長サン子ども一人だよね。後継ぎどうするの?婿養子?」
「君がなってもいいよ」
「は?冗談だろ」
「まあ、そうね。含太くん頭の出来良さそうに見えないし」
「あ"ー?俺、成績いい方だよ」
「へえ、意外」
「あ、信じてねえな。全国模試、十番内に入った事もあるんだけど」
「…それ、本当?……うーん神様って残酷ね。君、サッカーもできるんでしょ?」
「アンタが言うなよ。まあ、出来ないことの方がないくらいだよ」
「じゃ、決定」
「なんねえって」
「冗談よ。この子も別に君になんか恋愛感情持ってないし。ね、杏里」
「……き、気づいてたんですね。…弟選手ごめんなさい」
「どんまい、含太くん」
「えーなんか俺、フラれたことになっているんだけど」
「えっ…そ、それは…」
「杏里、ヨダレ垂れてるよ、ほら」
帰るか。腹減ってきた。
休日といっても、そろそろ全員起きている筈だ。兄貴に、捌いてもらおう。
「それ、気になっていたんだけど、おいしそうね。私達、さっきパン食べただけなの」
「え、来んの?家」
「駄目?」
「いや、駄目じゃねえけど…」
あー、そうか。今までは、社長サン一人だったが、今は杏里ちゃんがいる。ユースの件も話せば、別にいいか。
「うん、いいよ。兄貴の作る飯マジで美味いから、楽しみにしててよ」
「やったね杏里」
「…お邪魔します…ふぁ」
でけえ欠伸。
「どう?しゃちょ…海堂さん?兄貴の料理」
「すごく美味しいですよ。焼き加減も絶妙で…お兄様は、何処かでご修行を?」
「いえいえ、そんな大したものじゃないです。むしろ、こんなものですみません。でも、魚料理だけは少し自身があるんですよね、昔から含太がよく獲ってきてくれたので」
「いえ、ご謙遜なさらないで下さい。素晴らしい腕前です」
「…本当に美味しいです」
社長サン、社長モードって言うのか。さっきと服も着替えて(Tシャツジーパンだった)、オフィスカジュアルだ。外行きの面ってことは分かるが…いいなこれも。普段とのギャップがいい。いや、こっちが表なのか。
「……」
オカンが何も言わない。
アフロは、うめーやうめーやといつもの如く無駄に感想垂れ流しながら食っている。
オカン、気づいてんのかな。だからどうって訳でもないが、少し面倒になる予感はある。
「あの、食事中に失礼しますが…含太をスカウトって、本当なんでしょうか?正直、見た目からしてこんな不良息子をって…信じられないんですけど」
「もぐ…ごく。失礼しました。後日、正式にスカウトの者が参りますので、詳細はその際にご説明致します」
「…はぁ、そうですか。…含太、アンタは東京に行くつもりなの?」
「あー、有りかなって思ってきてるよ。でも別にいいだろ。全額ユース持ちだってよ」
「……そう。アンタまで…」
無視されてますね、これ。アフロが東京行く気満々で寂しいのに、アンタまで…ってとこかな。俺だけなら絶対に、こうはならないから。
朝飯が終わる頃には、オカンと社長さんは、仲良いとは言えないが、普通に話せるレベルまでにはなっていた。なっていただけで、空気悪かったから、アフロと社長サンとお嬢様を連れて、ボール持って砂浜に行った。
昼過ぎ、社長サンが東京に戻った。急な仕事が入ったそうだ。しかし、帰ったのは社長サンだけだ。
お嬢様は、夏休み期間中だ。受験生だろ、お前も帰って勉強しろよと、言葉を選んで言ったが、入る高校もう決まっているからいいんだと。コネってやつかよ。
で、泊まる場所はどうするかだが、当然ウチに泊まるということはない。部屋ないし、初対面のお嬢様も息詰まるだろうし。
「…私、別荘に泊まりますので。キーもお母様から預かっています。ただ、その、ここから少し距離が…」
俺が軽く走って十分くらいだ。お嬢様トロそうだし、荷物もある。徒歩だと三十分は余裕で超える。タクシー呼べよと思ったが、まあ女の子一人だからな。
「はは、もちろん送っていくよ。田舎でも、女の子一人にはしておけないしね」
「…よろしくお願いします」
夜。
飯食って、アフロが録画していた欧州サッカー動画観て、お嬢様を別荘に送った。朝また迎えに行くことになっている。いつ帰るのか知らないが、飯は基本ウチで食うことになっていた。
お嬢様と別れた後は、適当な女の子のところ行ってヤッて、家に帰った。
酒臭いオカンがテーブルに突っ伏していた。
「おい、そこで寝んなよ。風邪引くぞ」
「…ん?ああ、お帰り不良息子。アンタさ、海堂さんと寝たでしょ?」
「ああ」
「いつから?」
「今年の春」
「…そ」
嘘だよ。十二の時だ。
それから、夏休みが終わっても、お嬢様は月一くらいで、ちょくちょく愛媛に来た。社長サンが一緒の時もあれば、ジジイがついている時もあった。
社長サンが一人で来なくなったので、もうヤれなくなるなと考えていたのは、杞憂だった。お嬢様が寝てからか、それか朝ヤればいいだけだった。あの人は相変わらず、すげえ神経していると思う。最初だけはマジで引いた。
年明けて三月。十五日。
今日は、愛媛を出る日だ。アフロは挨拶してくるとか言って、一度学校に行った。当然、俺はいかない。何でそんな面倒なことするのかがわからない。アイツ脳みそまでアフロなんじゃねえの。
「アシト行った?」
「ああ、聞こえてたぜ。見送りにいかねーとか、薄情な母親」
「何?アンタ見送ってほしいの?」
「はっ。いらねーよ、そんなもの。ガキじゃあるまいし」
「いや、アンタはガキやからね。中坊の癖に、言うことだけは、いつもいつも…」
これは、長くなるパターン。しかし、オカンも妙に感傷的になっている。
「アシトにね、スパイク買ってあげたんよ」
「奮発したな」
「柄じゃない手紙も書いた」
「半年避けておいて、勝手だな」
「二十万入った通帳も持たせた」
「へー」
「…アンタには、何一つないのよ」
「別にいらねーから」
しかし、客観的に見ると酷い差別だ。まあ俺には必要ねえけど。金も使う機会なかったから、それなりに貯まっている。
「ああ、貰ったものならあるよ。産んでくれてありがとう。才能あるのは俺自身のおかげだが、オカンが死ぬ気で産んだから生きてんだ。感謝はしてるさ」
オカンが固まった。
最後くらいいいだろ。
「……あっそ。…言ったことないんやけど、瞬に聞いたの?」
「ああ、アフロ出た後、俺が居座って中々出てこなくて死にかけたってな」
「……感謝してるんなら、普段からもっと態度で示せよこの不良息子」
「プロになって、金入ったら半分やるよ」
「……はぁ」
おいおい、俺は年に億は稼ぐぜ。もっと喜べよ。
「…アンタは…サッカー分からん私でも、才能あるのは分かるわ。でも…アシトは大丈夫なの?」
でた親バカ。俺がそんなの知るかよ。
「アイツに俺
「…じゃあ、アシトは…」
あー、面倒くせー…。
「だがな、アフロはユースの監督に、世界に連れていってやる、って言われてたぜ」
「……」
昔からオカンは、アフロに負い目を感じている。まあ、だからなんだと言う話だが。アフロが悪い。
「じゃ、俺も行くから。じゃーな」
「…風邪引くなよ」
「ぶほぉっ」
おいコラ。
アシトはアラバスタやってた。