神速のGK 作:インパラス
お詫びのもう一話です
11対21
「キーパーしかやらねえから」
「あくまで練習でだけだ(今のところはな)。公式戦ではGKとしてのプレーを期待している」
「ならいいけど」
「そうか。では頼むぞ」
「ハイ、伊達コーチ」
「…」
公式戦だったら考える余地もないが、練習ならイエロー取られないし、別にいい。
プチッと潰し甲斐があるのは、公式戦だからな。GKが最適だ。
つーか、他が雑魚すぎて、正直退屈だったから、暇潰しになる。
「で、何で練習前にこんなことを?」
「あとでわかる」
なら、今言えよ。
「主将の義経健太です。わからないことがあったら遠慮なく訊もじょ
小合宿から帰ってきたのは、Aチームの奴ら。Bとは初の合同練習だ。
見覚えのあるカスがいる。なんか、アフロと見つめ合ってるんですけど。しかも、笑ってやがるし、きしょ。
それ以外の奴らからは、矢鱈と視線を感じる。オッサンが話してんだろ。ちゃんとオッサンの方見て話聞け。こっち見んな。
「ほんじゃ今日の練習ー、試合やりましょー。11人対21人。で。まずはBチームが11人、ボールはBチームからドウゾー」
オッサンがふざけた話し方で、ふざけたことを言った。
「青井弟、お前は中盤に入れ」
試合が始まったが、ピッチがクソ狭い。ワラワラと目障りだ。
で、あほなアフロが敵三人に囲まれて、正面から即行でボールを取られた。自分からボールやったようなもんだ。雑魚が。
ワラワラワラワラと、簡単に自陣に入ってくる。だが…こんなものか。
雑魚共相手に舐めているのは分かるが、所詮、こんなものかよ。
狙うか。
フィニッシャーに出されるパスを誘うために、フリーになるスペースを作る。
あ、違げえ。コイツこのまま蹴る気だわ。まあ、わかる。Bは全然対応できてないし。
でも、それ無理だから。甘いよ。
プレスをかける。コイツらが俺を意識しているのは、試合前から気づいている。
真正面からの勝負はない。
ほらな。
「なっ!?」
奪取成功。パス出そうとすんの、丸分かりなんだよ。
「おい、寄越せ」
ボールを拾ったチビに要求。ショートで受け取り、加速をかける。パスを出した瞬間に、チビは前線へと向かう。犬みてえ。
だが、俺が蹴ったのはコート右サイドへのロングだ。しかし、フィードではなく、パス。受け手がいる。
「おいおい、どこに蹴って……」
馴れ馴れしく、舐めたように口を開いたハゲの横を抜ける。そのままハーフウェイを越し、敵陣へ。
右サイドからアフロが、ほぼ中央へのクロス。
俺に出したつもりだろうが、ワラワラ沸くディフェンスが邪魔で、前に進みづらい。同人数なら、余裕でこのパスは通っていたが、微妙に間に合わねえから、軽く足を当てるだけで、ボールはスルー。中央左寄りに走り込んできたチビに、ボールがいく。
だが、チビに余裕はない。すでに敵二人が詰めてきている。DFだけで6は、いるからな。
チビは、ヘッドを使って再度中央へボールを戻した。DFの裏は、ついている。
判断は悪くない。だが、コースが適当すぎるんだよ。
俺がトラップした時には、二枚…いや三枚に囲まれているだろうな。ダイレクトでミドルを撃ってもカバーのが速い。抜きに行くことも出来るが、無駄に当たられるのはウザい。
後ろからの声はない。他はまだ上がってきていない。どいつも、使えないカスばっかりだ。
ボールを拾いに、左に寄る。撃てそうだが、壁がついてきている上に、一枚は、既にプレス。お前、当たってきたら殺すから。
シュート体勢を取って早めに空振り、シュートフェイントをかける。その足で、ヒールを使い右に浮かせる。
「おおお!」
俺がDFを引きつけて出来た、僅かなスペースに、アフロが詰めてきている。オフサイドギリギリか、アフロにしてはいい位置だ。前に壁はいない。
アフロがダイレクトでシュートを撃つ。
あー、蹴るまでが、遅っそー…。もっと速く走れよノロマ。
「ああっ!」
右から足を伸ばしてカバーしたハゲに、寸前のところで弾かれて、ボールはラインを割った。コーナーからだ。
いや、これコーナー無理だろ。人多過ぎ。
「おい、何してんだ。決めろよクソアフロ」
「ご、ごめ…」
「アシト惜しかったなー」
「チビ、お前もだ。ましなボール寄越せ」
左のコーナーに立つ。前は普通に密集している。体格差も違えから、競り合いにもなんねえ。弾かれて潰れるだけだ。
蹴るか。
俺は両方使えるが、今選んだのは、左のアウトサイドポイント。
狙いは一つだ。
助走を取って、左足から軽く踏み込む。身体の向きは真っ直ぐ、目線は密集地に向け、欺く。
右足の幅を広くしてラインを越し、その勢いのまま引いた左足を振り子運動、膝下を意識しながら、大きく振り抜く。
手応えが、固定した踝から膝までビリっと伝わる。
ボールは、低弾道で進む。キーパーの頭の高さちょい上。
前に出ていたキーパーと、ゴールの間を抜け、予想よりも曲がらなかったボールは、逆サイドの枠に当たる。
ボールは内側に弾かれて、小さくゴールネットを揺らした。
マグレ臭かったが、ゴールだ。
無駄に面倒だった。もうやらねえなこれ。今度からは、普通に右だ。右でも入るし。
ただ、やっただけの価値はあった。
狙い通り、そこら中、どこを見ても、最高の
「ククク」
思い知れよ。凡才共。
Aチームボールからスタートしたが、攻められる、攻められる。そのくせに中央からは全然こねーの。サイドからクソ程に抜かれている。
簡単に、一点決められた。使えないカスしかいねえ。マジで。
「ハイ。んじゃ交代ー。Aチームが11人。Bチームが21人。ボールはBチームから」
今度は、こっちの人数が増える。怠いし、もういい。
「オッサン、キーパーも交代しろよ。次は俺にやらせろ」
潰してやるからさ。そして、俺をAに上げろ。
「ん?あー、うん。青井、ちょっと」
オッサンが手招きしてきた。面倒臭え上にイラッとくるが、周りの目がウザい。
オッサンの前まで行くが、何の反応もない。
「おい」
「ちょっとここで、一緒に見ようぜ」
「あ"ーー?」
「いや、だからここで試合を見るんだ。聞きたいことがある」
オッサンは無視だ。
フィールドに目を向ければ、アフロがハゲに、真正面からボールを奪われたところだ。
頭使えよ、アフロも周りの奴らも。
Aはカウンターに移らずに、サイドにボールを散らした。で、中に上がったクロスを、フリーの義経が決めて終了。特段技術もない、普通に繋いで入れた点だ。
自力が違うか。
つうか、オッサンの聞きたいことってなんだよ。早く言え。
「おい」
「んー、もうちょいな」
「ああ?」
「…」
オッサンは、だんまりを決め込んでいる。
その上、手で、試合を見ろとジェスチャーを飛ばしてきた。
帰るか。
「…って、どこに行く気だ」
「トイレ」
「早く戻ってこいよ。あ、その前に少し」
「…なんだ」
「さっきの、お前とアシト、それと大友と三人でのボール運びなんだけどな、アシトがあんなに動けた理由分かるか?」
「俺が天才だからだろ」
「…そうか」
グラウンドを離れる時、一度ピッチに目を向けると、アフロがBの二人からキレられているところだった。基本、スタンドプレーの塊みたいなやつだしな、アフロは。
「あの〜、ちょっといいですか!」
「はい、何ですか」
グラウンドを離れ、時間を掛けてトイレを出たら、女の子に…いや、二十は過ぎてんな。顔は…及第点。身体もそこそこ。ただ、今までいなかったタイプだ。キャップから出る短髪は癖っ毛だが、雰囲気に合うし、ボーイッシュで健康的なエロさがある。
「初めてまして!あたし、サッカーエブリー記者の、金子葵です!」
「ああ、記者さんでしたか。どうも、青井と言います」
サッカーエブリーっつうと、読んだことあるような…ああ、寮にあった雑誌か。
この女、声もいい。記者っていうのも使える。
決まりだ。
「あの、さっき広報の人に聞いたんだけど、君スカウト生なんでしょ。それも去年の時点で凄いゴールキーパーだったって。でも、さっきは中盤!華麗なボール捌き!ディフェンスを置き去りにするスピード!そして極め付けは、日本人には難易度の高い、隙をついたアウトサイドでのコーナーキック!ぜひ、お話を聞きたくて!君がトイレに行くの見えてたんだ!」
「…へー」
「あ、ごめん。でも、どうしても話してみたくて…」
「いいですよ。あ、でも困ったな。監督から直ぐに戻るように言われているんです。だから今は…」
「あ、そうだよね…」
「良かったら、練習後にどうですか?」
「うーん…本当は、個人にっていうのは駄目なんだよね…育成時代はデリケートだからって言われてて…」
「大丈夫ですよ。今少し話しただけでも分かりました。金子さんは、ちゃんと考えてくれている人だって。記者って、苦手なイメージあったんですが、金子さんみたいな人もいるんですね」
「あ、あはは。大げさだよ!」
「いえ、本心ですよ。本当にそう思ってます」
「…そ、そう」
悪くない反応だ。いけるな、これ。
「書くものありますか?」
「え、うん。あるけど…?」
胸ポケットに差したペンだけを渡してくる。紙はねえのかよ。まあ、いいか。
「すみません」
「あ、ひゃ、くすぐった!…あ、これは駄目だよ。私が怒られるから」
「そうですよね。でも、記者と選手じゃなくて、友達ってことならどう?」
「え、でも」
「嫌なら、それでもいいけど」
「…うん。そうだね、友達なら…いいよね」
こんなもんだろ。ただ、この女気づいてねえな。背徳感を感じているの、バレバレだよ。
しかし練習…サボろうかと思ってもいたが、戻るか。
記者リベンジなるか