豪華絢爛なホテルのロビー。そこでは様々な服飾の紳士淑女が歓談していた。その中で一際目立っている純白の女性、白雪は目の前にある、自分より幾分か下にある蜂蜜色をした髪の少女を見つめていた。俯いているせいで前髪が垂れ、その相貌を覆い隠している。小さく鼻をすする声が聞こえ、幼い見た目をしている彼女が泣いていることがわかる。
「……」
そんな彼女からの問を無言で流している白雪。その目にはとても冷めた感情が見え隠れしていた。
「ねぇ、なにか言ってよ……。どうして、どうしてそんなに冷たくなってしまったの!?」
白雪の沈黙がもどかしかったのか、早く答えろとばかりに大きな声を上げるレミリア。穏やかな社交場である帝国ホテルのロビーに相応しく無いその声に、幾人もの客がなんだなんだと目を遣る。
「……」
問いを投げかけられた方である白雪だが、悲壮感さえ漂うその慟哭じみた叫びにも無言だった。
「ねぇ!白雪さん!なにか言ってよ!」
そんな白雪にしびれを切らしたのか、詰め寄るレミリア。身長差もあってどこか白雪に縋り付くような姿勢になる。
「……貴女は何も分かっていないのね」
詰め寄るレミリアに冷たい視線を向けたまま、白雪はそう呟くと自身の着物を掴んでいるレミリアの手をそっと握る。
「話してくれないと分からないよ……」
そう小さく震えた声で答えるレミリアは行き先が分からなくなった迷子の幼子のような顔だった。
「……っ!!」
その態度がなにか白雪の琴線に触れたのだろうか。握ったレミリアの手を大きく振り解いた。
「その、何も知らないような顔が!無垢な顔が!私をひどく苛つかせる!」
そのままの勢いでレミリアを突き飛ばす。
「私から大切なヒトを奪い取っていって!よくもそんな純粋無垢な幼子のような顔ができるわね!バンパ……っ」
激昂のあまり、思わず口に出しそうになったレミリアの正体。かろうじて我に返った白雪はなんとかその名を口にだすことを踏みとどまった。それを口にすることは、人に紛れ闇に生きる住人にとっては最大と言ってもいい禁忌だった。
そう、レミリアは人ではない。同じく白雪も。豊かな金髪を結わえる少女のような女の正体は"ヴァンパイア"。人の生き血を啜り闇と共に生きる異国の怪生だ。一方の、雪の結晶を象った刺繍が入った着物を身にまとう白銀の女は"雪女"。昼も夜もなく吹きすさぶ氷の結晶を身に纏う日ノ本の怪生。ひょんな縁からこの二人は友好を結んだのだった。
最も今、その絆は断たれかけているが。
「大切な人ってどういう……」
今までおよそ目にすることがなかった白雪の怒りの表情に身を固くしながら、疑問の声を上げようとしたときだった。
「お嬢様!ご無事ですか!?何やら悲鳴じみた声が聞こえたのだですが!?」
帝国ホテルのドアが大きく開けられた。そこから、侵入を阻もうとしたドアマンを引きずりながら現れたのは吸血姫の忠実な運転手である公男だった。
短いですがキリが良いので投稿します。公男の「聞こえたのだですが」は仕様です。
今回は(も?)実際のセッションとは大きく変わっています。主に白雪のセリフ。レミリアのセリフもマシマシですw