~怪生の徒花~ フィアスコ実卓リプレイ   作:林檎丞二

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冷たい闇に抱かれて

 

「……ぐすっ」

 

 街灯も疎らで薄暗い路地に小さく聞こえる鼻をすする音。最愛の人とよく仕えてくれた使用人、とても大事にしてきた人たちを自ら投げ捨ててきたレミリアはその小さな両肩を落としてトボトボと力なく歩いていた。

 

 脳裏に蘇るのは、彼女らとの思い出。

 

 銀の美女はいつも甘えさてくれていた。故国を離れ、独り寂しく世間を避けてひっそりと過ごしていたレミリアにとって、頼れる姉のような存在だった白雪。困ったことがあれば優しく手を差し伸べてくれていた。小さなことでもうまくいった時は冷たく優しい手で頭を撫でてくれていた。頼りになる姉は、いつしか恋慕の情を抱く相手になっていた。それを自覚してからは、たまに会うその時が待ち遠しくて仕方がなかったし、会うたびにその思いは積み重なってゆく。

 いつからか、連絡が途絶えるようになった。はじめの頃は白雪も忙しいのだろうと思っていたが、その期間が長くなると焦燥感を覚えるようになった。もしかすると白雪は……。最悪の展開が頭をよぎると胸を掻き毟りたくなるような不安と焦りでどうにかなりそうだった。

 白雪から紹介してもらった公男に聞いてもどこにいるか分からないと言われる。白雪を思って涙に暮れた日もいくつもあった。

 だからこそ、白雪かもしれない人物を見たという情報を手に入れた時は居ても立っても居られなかった。すぐさま彼女らしき人物を見かけたというホテルへと向かったし、そこで白雪本人を見つけた時は歓喜の感情で頭がどうにかなりそうだったのだ。

 

 しかし、そこで告げられた彼女の言葉は、未だかつて投げかけられたことがない、絶対零度の言の葉たちだった。

 

 運転手兼護衛の公男との出会いは白雪を通じてだった。まだ日本に来て間もない頃。異国での生活に慣れていない様子だったレミリアに白雪が紹介してくれたのだった。見た目はどこか日本人離れしていて、故国を思い出させる。

 しかしながら日本の文化や習慣に精通していて、彼のおかげで回避できた揉め事は両手で足りないくらいだ。

 とても気が利く男であり、雇い主としてこちらを尊重しながらも諌めるところはしっかりと諌めてくれていたできた使用人。本業は運転手といってもその他雑用を頼めば百点満点以上の結果をだす、非の打ち所の無い好漢だった。

 その見た目からは想像できない語尾や妙な口癖もなれてしまえば愛嬌だった。

 

 レミリアは彼を心の底から信頼していたのだ。ましてや自分が想いを寄せている人物が太鼓判を押した男だ。だからこそ白雪と連絡が途絶えたとき、真っ先に頼りにした。

 しかしなそれは裏切られた。白雪と公男は、血を分けた家族よりも強い繋がりを持つ、使役者と使い魔だったのだ。お互いの生死はおろか、居場所すら認知できる繋がり。

 レミリアが白雪を探した際、公男に白雪の居場所を尋ねたが、彼は白雪の居場所を知っていたのだ。それを知らないと嘘をつかれた。自分の白雪への思いを知っていて尚。

 

 レミリアの心を支えていたのは白雪と公男だった。そんな二人から裏切られたレミリアはこの世がまるで終わってしまったように感じていた。夜の妖怪である自分にとっては暖かささえ感じる闇が、とても冷たく寂しく感じられた。

 

「くっ……」

 

 止めようとするものの、後から後から涙があふれる。このままあてもなく歩いて太陽に焼かれたい気分をしていた。力ある吸血鬼である自身が、太陽に焼かれて灰と化すには時間がかかるだろう。おそらく地獄の苦しみを味わうのだろう。

 だが、それでも良かった。このままどこまでも底冷えする闇に抱かれながら生き永らえるくらいなら、いっそのこと焼かれて死にたかった。

 

 心に大きな穴が空き、空虚な心持ちで歩いていたときだった。

 

 どこか覚えのある気配をした小さな白い蝶がレミリアの眼前にヒラヒラと現れた。

 

「こ、の気配は……」

 

 思わず立ち止まるとその蝶はポンッと小さく音を立て一枚のメモ用紙へと姿を変えた。その用紙を手に取り書かれていた文章に目を通す。その字は白雪のものだった。

 

『レミリアへ

 先程は雪女のクセに熱くなって声を荒げてしまってごめんなさい。貴女の気持ちも考えずに当たり散らしてしまってごめんなさい。ずいぶんひどい事をしてしまったわね。

 傷つけた当人が偉そうにと思うかもしれないけれど、貴女と仲直りがしたいの。

 零時に帝国ホテル近くの公園で待っているわ

 白雪より』

 

 手紙の中身を確認したレミリアは、数瞬立ち止まると歩いてきた道を急いで引き返す。いつの間にか止まった涙の跡を拭い、白雪の待つ公園へと駆け出す。

 内心は非常に複雑だった。怒りや呆れの感情もあれば、喜びの感情もある。

 

 ただ一つ言えることは、無性に白雪に会いたいということだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 レミリアは白雪のことで頭が一杯になり、慌てて公園へと向かっている。自身の通った道をなぞるように走る、小さな生き物の事など一切気づいていない。

 

 その小さな生き物であるハムスターは、つぶらな瞳を爛々と輝かせていた。

 




セッション時は白雪から携帯電話がかかってきて『公園で待つ』旨を伝えられたが、大正時代に携帯なんてねぇわ!ってことで使い魔っぽい演出に。レミリア、白雪、公男の繋がりの詳細はほぼほぼ捏造?です。セッション時には特に決めていなかった。こんどフィアスコやる時は時間に余裕を持って、みんなで関係性を詳細に決めてみたい。

あと二話で終わると思われます。気が向けば、あとがき的なものも書くかもしれません。
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