皆さんは七不思議というものをご存知だろうか?
何処の学校にも存在する文字通り7つの噂である。そして7つ全て知ってしまうと不幸が訪れるというとても恐ろしいものです。
有名なのはトイレの花子さん、ヨースケくん、走る二宮金次郎、理科室の人体模型、光るベートーヴェンの肖像画、などなど、たくさんの言い伝えがある。
ちなみに、龍崎の通う中学校にもその7不思議というものは存在していた。
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「ふわぁ…」
停学一週間と一日が経ち、残り6日となったある日の午後 龍崎はアパートの屋根に寝転んで空を見ていた。何もする事がなく、あるとすれば残りの中学範囲の予習かつ復習。だが 分からない箇所があり、聞きに行こうにも聞きに行けず困っている最中なのだ。
「ま、別にいっか。今日は一日中こうしてよ…」
そう言うと目を閉じた。
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……………暇だ。
私は携帯を置き敷いてあるミノの上に寝転がった。今 私以外は誰もいない。何故なら鬼太郎と親父さんは温泉旅行。砂かけ婆と子泣き爺は外出中。故にお留守番していた。けど、誰もいないとなるとつまらない。
「……」
辺りを見回してみた。少し散らかっている……。
「仕方がない…少し掃除してあげよ」
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「うわぁ!凄い綺麗だなぁ!これ猫娘がやってくれたのかい!?」
「うん!鬼太郎に少しでも喜んで欲しくて!」
「ありがとう!僕は凄く嬉しいよ!大好きだよ猫娘!」
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な…なんて事はないか。鬼太郎はこんなに明るくないし。それに…私は鬼太郎の事なんて好きでもないし!取り敢えず掃除を…
「だ〜ひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!!」
「!?」
突然部屋中に笑い声が響きよく見ると子泣き爺が転がりながら大爆笑していた。
「猫娘も可愛らしくなったの〜!!鬼太郎がいない間に掃除とは!やはり若いのは羨ましいわい!」
「う…うるさいわね子泣き爺!大体なんで私が鬼太郎の為に掃除しなきゃなんないのよ!というか何でここに!?砂かけ婆と一緒に買い物行ってたんじゃないの!?」
「帰りに温泉に寄ってきたんじゃが久しぶりに混浴でもせんかと言われてなぁ。ババァの身体見ても何も得ないからぬけてきたワイ!」
よし。今の言葉録音完了。砂かけ婆に送信っと……。あれ?まなから連絡が…
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「ごめんね。突然呼び出して…」
「いいわよ。で?どうしたの?」
頼んだドリンクをズズッと飲みながら猫娘はまなへ質問する。
「じ…実は…最近妙な事が起きてるの。授業中に視線を感じて上を見たら天井に変なシミがついてたり…
私がテストで困ってる時に変な声が聞こえてきて答えを教えてくるんだけど…その答えが…」
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「えぇと…『坊ちゃん』を書いた人は……」
『ケツメ漱石!』
「誰…!?」
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「一番怖かったのはお弁当の時で!」
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「ふんふんふん〜♪」
ガタガタッ!
「な…なに!?」
突然お弁当箱が動き出して開けてみたら…中から小魚が出てきたの!
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「私ならそのお魚、美味しくいただいちゃうわね♪」
「いやいやいや!そう言う問題じゃないですよ!で…さっき私の下駄箱の中に黒い百合が供えられてて…知ってますか?花言葉…。『呪い』っていうらしいです…」
「呪い…ね。少し調べてみましょ…。あ、まな、少し聞いてもいい?」
猫娘は突如 まなへ 質問した。
「え?どうしたんですか?まさか……龍崎君の事ですか?」
まな の予想は的中し猫娘は頷いた。猫娘は上野公園で会って以来 ずっと龍崎と日常的に同じ空間にいるまなを心配していたのだ。
「アイツは学校でどう過ごしてるの?」
「えっと…ただ普通に勉強してるだけ…それだけですね。うん」
「特に危害とか加えられてない?」
「それはないですね。けど一週間前に虐めっ子達を殴って停学になっちゃいましたけど…」
「そう。ありがと」
猫娘の様子にまな はハッと思いつくと質問した。
「もしかして猫姉さん龍崎君の事が好きなんですか?」
「ちょ!な…何言ってるのよ!私があんな奴 好きになる訳ないじゃない!私が好きなのはき…」
猫娘は真っ赤になりながら咄嗟に口を塞いだ。
「き?」
「と…兎に角!その変な現象の正体を確かめに行くわよ。案内して」
「はぁ〜い」
その後 猫娘は皆がいなくなった夕暮れ時にまなと共に学校へ赴くこととなった。
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「……さて、寝てばっかじゃなく勉強もっと……ん?」
日光浴を終えた龍崎は勉強をするため部屋へと戻り鞄の中からノートを取り出そうとした。だが、それらしきものは見当たらなかった。
「ッ…学校に置いてきたか。まぁ夕方には誰もいないから取りに行くか」
そう言うと制服に着替えて夕方になった街へと出た。
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夕暮れ時に学校へ着いたまなと猫娘は校舎の中を進んでいた。
「七不思議…?」
「そ。どこの学校でもあるでしょ?あれは殆ど 妖怪の仕業よ」
「確か内の学校にもあったかも…『走る二宮金次郎』『渡り廊下の人面犬』『音楽室のベートーヴェン』『理科室の人体模型』『三階の女子トイレの花子さん』『二階の男子トイレのヨースケ君』 とか…これ全部妖怪だったなんて…」
「取り敢えず、花子とは友達だから今回の事について聞いてみましょ」
「はい!」
そう話していると三階の女子トイレが見え猫娘達は中へ入りノックした。
コンコン
「花子 私よ。猫娘よ。いたら返事して」
だが返事は返ってこなかった。試しに猫娘はジャンプして中を見てみたが何もいなかった。
「う〜ん…いないみたいね…」
「どうしてだろ…」
「分からない…取り敢えずまな の教室に行きましょ」
そう言い2人はトイレを後にした。
一方教室では
「んふふ♪まなちゃんの為に今日も俺は頑張りますよっと♪」
1人のボロ布を纏った男が手に雑巾を持ち机を拭いていた。顔は少し大きくネズミのようなヒゲが特徴的だった。格好からして明らかに部外者である。
ガラガラガラッ
「!?や…やべ!」
突然教室を開けた音に男は身をビクッと震わせるとすぐさま掃除用ロッカーへと身を隠した。
ーーーーーー
猫娘とまな はまなのクラスである1-Aの教室の前に来ていた。
「ここがまな の教室?」
「うん」
すると
ズル……ズル……ズル……
誰もいない教室の中から何やら水気のような音が聞こえてきた。
「え…!?だ…誰もいないはずなのに…!」
慌てるまなを猫娘は宥め静かにさせると教室のスライドドアを一気に開けた。
「……誰もいない」
見渡す限り誰もいなかった。すると、たくさんある机の中で一つの席だけ雑巾が置かれ水浸しになっているものがあった。
「私の席が……こ…これって妖怪『机舐め』!?」
「そんな妖怪いません。……近くにいるわね?」
猫娘は猫特有の警戒態勢を取り辺りにいる自分達以外の気配を悟った。その気配は掃除用ロッカーの中から伝わってきた。
「どうやら、花子でも七不思議でもない“何か”がいるらしいわね」
そう言いロッカーへと近づいた。
「ど…どうしよ…」
「心配ないわ。この『ニャニャニャの猫娘』に任せなさい。見つけてギッタンギッタンにしてあげるから」
そう言い猫娘はどう料理してくれようかという表情を浮かべ拳の骨を鳴らすとロッカーの扉を力強く開けた。
ガンッ!
「………」
あったのはただの箒やチリトリといった掃除用具。それだけであった。特に目立った物は何もなかった。
「気の所為か…な!」
再度開けてみたがやはり何もいなかった。
「う〜ん…私の勘違いだったみたいね」
「そっか。じゃあもう帰ろう」
「そうね」
帰ろうと決めた時
『!?』
入り口から何かが走り去っていく姿を捉えた
「いた!待ちなさい!」
2人はすぐさまその影を追いかけ教室を跡にした。
ーーーーー
「ふわぁ…弱すぎて欠伸がでる…」
夕焼けがなくなりうっすらと暗くなった頃の路地裏にて、龍崎の周りには全身に打撲を負った高校生達が倒れていた。しかも1人ずつ必ずどこかの骨が骨折しておりとても軽傷と言われるものはいなかった。
「て…テメェ…よくもやりやがったな…!」
「は?カツアゲしたお前が仲間呼んだから悪いだろ?言っとくが報復しにきたらこれじゃ済まさねぇからな。因みにお前らの財布の中から1000円ずつ持ってくから。じゃあな」
そう言い龍崎は抜き取った財布を投げ捨てると路地裏を出て行き表通りへと出た。
「ったく学校の目の前だっていうのにめんどくせぇ事させやがって」
そう落胆しながら龍崎はそこから跳躍すると昇降口へと着地し中へと入った。
「さて…早くいくか」
そう言い真っ暗な廊下を歩き自分の教室を目指した。すると、ふと気がついた。
「…?なんかいるな。しかも複数。まぁいいか」
龍崎は複数の妖気を感じ取るも興味が無いため放っておく事にした。
真っ暗な廊下は昼間の賑やかな雰囲気と違い誰もいない不気味な景色へと変わっていた。
龍崎は階段を登り二階へも上がりさらにそこからまた三階へと登っていき自身のクラスである1-Aの教室へと着いた。
ガラガラガラ
扉を開け自身の机の中を探るといくつかのノートが置かれていた。
「あったあった。よし、帰るか」
目的を達成した事により、龍崎はもう用がない為 教室から出て行った。
すると、突然下の階から何やら物音がきこえた。
バタッ! ガタガタッ!
「何だ?まだ誰かいるのか?まぁ通り道だし行ってみるか」
そう言い龍崎は下の階へと向かった。
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コンコンッ
「いるのは分かってるのよ!出てきなさい!」
下の階では、猫娘とまな、そして途中で合流した砂かけ婆や一反木綿そして頭に巨大なタンコブを作らせた子泣き爺達は怪しい人物を男子トイレへと追い詰めていた。
その人物はトイレに閉じこもっている模様で、一向に出てくる気配はなかった。
「あれ…?ここって確か…」
その時、まな は何かを思い出した。
「そうだ!二階の男子トイレ!」
その発言に猫娘は七不思議の一つを思い出した。
「って事は…七不思議のヨースケ君…!?」
猫娘は閉じこもっているのはヨースケという妖怪なのかと考えた。
一方で中にいる人は…
「だ…誰だよヨースケって…花子さんじゃないのかよ…?」
その時
「花子がどうしたって…?」
突然 誰もいない背後から声が聞こえねずみ男は悲鳴をあげた。
「ギャァァァァ!!!」
そしてその勢いでトイレから転げ出て、外で待つ皆の前へと姿を見せた。いきなりのねずみ男の登場に一同は驚きを隠せないでいた。
「ねずみ男!?」
「何でお主が!?」
ねずみ男を見て猫娘は「まさか…」と言い先程の変な物音や最近のまな の身の回りで起きている事がねずみ男なのではないかと思い爪を伸ばし目を鋭くした。
「全部アンタの仕業だったってこと…?」
「ち…違ぇよ!俺もお前らと同じだよ!俺もまなちゃんを変な奴から守ろうとして…」
「怪しいのぅ〜?」
砂かけ婆の言葉に頷くように皆はねずみ男の言う事を信じようとはしなかった。
「信じてくれって!それよりも出たんだよ!って…ヒィェッ!?」
するとねずみ男のいた個室から制服を着た不気味な男子生徒が姿を現した。ねずみ男はまたもや悲鳴をあげると皆の所へ駆け寄った。
「お前か…お前がやったのか…」
現れた男子生徒はふらふらと声を震わせながら皆を睨んできた。
「この子には指一本触れさせんけんね!」
一反木綿はまなの前に立ち塞がるがその男子生徒もといヨースケはそれを否定した。
「そんな女に興味はない。用があるのは……」
「へ…?」
その薄暗い隈がかかった目はねずみ男へと向けられた。
「お前だッ!」
「お…俺!?」
そう言うと同時にヨースケの身体は浮くとねずみ男の身体を持ち上げた。
「お…お助けぇぇぇ!」
ねずみ男の叫び声と共にヨースケはそのままトイレから出て行ってしまった。取り残された一同はその様を見ている事しか出来なかった。
「行ってしもうた…」
「よかったよかった」
「良くないじゃろがクソジジイッ!」
「にしても…ヨースケ君…って何者?何でねずみ男を攫ったの…?」
先程の不可解な光景に猫娘は疑問に思う。すると一反木綿はある事を予想する。
「実は男が好きだとかい?」
「両思いには見えなかったがのう…あ…あらやだ///」
まさかのBLに頬を染める砂かけ婆。取り敢えず助けるため 皆はヨースケが向かった先へと進んだ。
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「ん…ここから結構感じるな」
二階へと降りた龍崎は更に下に降り妖気が異常に濃い体育館へと来ていた。
「……何だこれは?」
入り口の扉を開けるとそこには、異様な光景が広がっていた。
天井に黒い影が6つ吊るされており、そこには二宮金次郎 や人面犬などの七不思議の妖怪達がいた。
それを見ていると突如 そこから声が響いた。
「お…お〜い!アンタ!助けてくれ〜!」
「ん?」
そこには布を纏った見知らぬ男が吊るされていた。馴れ馴れしく自分に助けを求めてくるが全く知らない男だった。
「?貴方は誰ですか?」
当然ながら名前を問うが男は名乗るどころか暴れ出した。
「俺が誰かなんてどうでもいいんだよ!今すぐ助けろ!いや助けてくださぁ〜い!!お願いしまぁす!!」
「はぁ…」
ねずみ男は妖怪だとバレたらマズイと思い名前を名乗らずジタバタと暴れる。それは龍崎には理解できず只の礼儀知らずという風に受け取ってしまった。それでも溜息をつくとしょうがないと言いロープを生成した炎で燃やそうとした。
その時
「誰だお前は?」
「ん?」
突然体育館のステージ裏から足音が聞こえ 少しずつ表へと出てきた。それはヨースケであった。ヨースケは龍崎を睨むと口を開いた。
「まさかお前か?俺の花子を隠したのは…!」
「…は?」
今のヨースケの精神は花子不在の件で侵されており、目の前にいる龍崎を犯人だと疑い始めた。そうとは知らず龍崎は違うと答えた。
「俺はただノートを取りに来ただけです。それに花子さんと言う人に面識はありません」
「嘘を……つくなぁぁぁぁぁ!!!」
ヨースケは拳を振り回し龍崎へ向かってきた。だが、そのパンチは弱々しく、素人レベルとほぼ同等と言っていい程の弱さだった。
「はぁ…」
溜息をついた龍崎はノートを置くとその放たれた拳を受け止めた。そして片方の手で腹に向かって強烈なパンチを放った。
「ガハァッ…!?」
その拳は深く潜り込みヨースケの口から肺の空気を吐き出し床へ崩れ落ちた。
「がぁぁぁ…!!ゲホッ…ゲホッ…!」
鳩尾にモロに入り込んだ事により、痛みに苦しむかのようにその場でもがき始め嘔吐もした。
「何言ってるんだお前は。オイ」
そう言い龍崎はもがき苦しむヨースケの頭を鷲掴みし持ち上げた。
「さっきから花子花子って、四六時中女子トイレにいるアイツか?何も知らねぇぞ俺は」
「うぐ…!?お前が…隠したんだろ!俺の…花子を…!」
「ッ…」
龍崎は舌打ちをすると乱暴にヨースケの頭をその場から2メートル離れた地点へと放り投げた。
「ガハァ…」
「ったく。めんどくせぇ奴だな。おい アレをやったのはお前か?」
吊るされている人面犬達を指差してヨースケに問う。するとヨースケは血反吐を吐きながら答えた。
「そうだ…!アイツらは俺の花子に手を出した…だから懲らしめてやったのさ!」
「…ふぅん。あっそ」
質問したのにまるで興味が無いかのように返すと龍崎はヨースケへと背を向け歩き出した。
「お…おいアンタ!助けてくれるんじゃねぇのかよ!?」
「知るか。自分で何とかしろ」
アッサリと頼みを断るとそのまま体育館の扉へと向かい帰ろうとした。その時
ガラガラガラ
突然誰かが体育館の扉を開けた。入ってきた人物は龍崎がよく知る者だった。相手は龍崎を見つけるや否や目を大きく見開いた。
「あ…アンタは…!」
「龍崎…くん…!?」
「…何だお前らか」
それは まな、そして先日 対峙した猫娘達だった。