ゲゲゲの鬼太郎 天翔の少年   作:狂骨

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龍の帰還

翌々日の朝 旅館を出た龍崎は近くの寺で休んでいた。

 

「ふわぁ…」

安らかな風に吹かれながら風景を堪能していると突然 携帯が鳴った。

 

「なんだ?」

画面を開いてみると追加した覚えがない『桃山 雅』から連絡が来ていた。

 

「桃山?なぜこんな時に…?」

開いて内容を見た瞬間 龍崎は絶句した。

 

『今日どうしたの?学校だよ?』

その文面を見た瞬間 龍崎は今日は学校である事を思い出しすぐさまここから走り東京へと向かった。

 

「ッ!よりによって今日 月曜かよ!時間感覚が狂ってやがる!」

周りの皆が直視出来ない程のスピードで龍崎は四国を後にした。

 

 

ーーーーーーーー

 

狸達が政権を奪ってから 私達の高校生活が変貌した。世の中で狸派と反狸派と別れて反狸派の人達は物凄い差別を受けていた。

狸蕎麦を頼めば逮捕。火災が起きても消防車は決して火を消してくれない。更に学校では反狸派の人達は資格試験の申し込みの禁止かつ調査書を作成しないという規則を出された。

 

そして

 

「おい。テメェ反狸派の癖に俺らに口出すのか?」

「調子ぶっこいてんじゃねぇぞ!」

反狸派は壮絶ないじめを受けていた。私のクラスの殆どは狸派へと移行し私や雅 他数名の人達はその日から蔑まれるようになった。

 

だけど、そんな環境下でもあの子は変わらなかった。

 

鬼太郎…どこにいっちゃったの…。

ーーーーーーー

 

「ふぅ…ようやく着いた…」

あれからかれこれ5時間半 現在は12時半となり、龍崎は東京へと戻ってきた。

 

「……随分と変わったな」

途中から感じ取れた狸達の妖気。都心に着いた時、その妖気の濃度は極限まで高まっていた。その様子から、狸達が政権を乗っ取った事を悟る。

 

『狸様の為にッ!!』

『反狸派は逮捕だッ!!」

『狸派に逆らってんじゃねぇぞッ!!』

辺りから次々と聞こえる狸達を崇拝する者の声。それを聞くたびに龍崎の額に筋が浮かび上がる。

 

 

 

あの低級妖怪共が………

 

_______随分と調子に乗ってくれたじゃねぇか…!!!!!!

 

 

 

龍崎の身体から湧き出たドス黒い妖気はスクランブル交差点の中心から東京全域に撒き散らされる。そして、その妖気は次第に形を変えると怒り狂う目を持つ龍の顔となった。

 

 

 

『ヴゥゥゥゥ…!!!』

 

その場に響き渡る龍崎の唸り声。それはいつもの声ではなかった。地の底から響く様な低い声。正に野生動物の声だった。

 

 

「……取り敢えず学校に向かうとするか」

 

ーーーー

ーー

 

ガラガラガラ

 

「すいません。遅刻しました」

そう言い龍崎が入ると同時に黒板消しが飛んできた。それと共に担当する教師の罵声が飛んでくる。

 

「何をやっていたんだ!」

「…すいません。寝坊しまして…」

 

そう言い訳すると教師は額に筋を沸き上がらせて更に怒りの声を上げる。

 

「反狸派な上に遅刻してくる生徒に授業を受ける資格はないッ!廊下に立ってろッ!」

そう怒鳴られた龍崎は担任に無理やり廊下へと立たされた。今の担任は『山口』という保健担任であり、昼夜生徒へ怒鳴り散らすという人気が皆無の教師であった。

 

それから廊下へと立たされた龍崎は先程の言葉の中にある『反タヌキ派』という単語を思い出すと首から筋を浮かび上がらせた。

 

「随分と勝手な事しやがったな…!!」

 

 

ーーーーーーー

 

ホームルームが終わり、放課後となった。

龍崎は通学路である道を通っていると 近くの暗い建物の間に女子が集っていた。

 

「ん?」

見る限り何かを囲んでいる様子で龍崎は何だろうと思い近づいてみた。そこには数人の女子生徒が一人の女子生徒に詰め寄っていた。

 

「す…すいません…お金はないです…」

「は?アンタさっきお菓子買ってたでしょ?だったらあるじゃん?出しなさいよ」

そう言いリーダー格らしき女子は囲まれている女子へ蹴りを入れた。辺りにはスクールバックに入れてあるものまで散らかっていた。

 

「いい?反狸派はねぇ私達 狸派ましてや先輩から金求められたら嫌な顔一つせずに差し出せばいいのよ。こんな事も分かんないの?」

何の説得力もないかつ、理不尽な理論に龍崎は溜息をつくと話しかけた。

 

「おい。狸の尻尾つけた変人共が群れてんじゃねぇよ」

「あぁ!?」

そう言うとその女子達は振り向いた。

 

「アンタは確か暴力沙汰で停学になった龍崎じゃない?なによ。文句あるの?」

 

「大ありだよ。ていうか下級生に金せびるとか いつの時代だよ。そんなに金に困ってんならバイトでもしたらどうだ?」

 

「はぁ!?」

龍崎のど正論に女子達はキレた。1人の女子を囲んでいた3人の女子達は尻にある尻尾を見せた。

 

「アンタ この尻尾が見えない訳?これ以上 口出しするなら……『刑部狸』様に言いつけるわよ?」

 

「刑部狸……か」

その名前を出された瞬間 龍崎の口角がつり上がった。

 

「そうか。言いつけたらどうなるんだ?此処にくるのか?なら今すぐ呼べよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“見つけて殺す手間が省ける”

 

 

 

「!?」

衝撃的な発言に女子達は尻餅をついた。言葉とトーンの重み そしてとてつもなく邪悪な笑み。今の発言は間違いなく本物だ。嘘でも悪ふざけでもない。それを認識した女子達は額から冷や汗を流し始めた。

 

「に…逃げるぞ!!」

「うわぁぁ!!」

 

すると女子達はすぐさまこの場から逃げていった。それを見届けた龍崎は残念がる様に少し溜息をつく。

 

「はぁ…呼んでくれないのかよ…折角 仕事が片付くと思ったのに」

すぐに仕事が片付きそうだったというのに惜しい事をしたと思いながら龍崎はうずくまっている女子へと近づいた。

 

「大丈夫ですか?」

そう言うと女子は顔を上げた。見ると知っている顔だった。

 

「貴方は…桃山さん?」

「りゅ…龍崎くん…?」

その女子の正体はクラスメイトである雅だった。

 

「何故貴方がこんな嫌がらせを?」

「じ…実は…」

 

龍崎は雅から今の東京の現状を教えてもらった。

 

狸達が東京を支配した後、反狸派と狸派とで別れ反狸派は社会から相当 蔑まれているそうだ。中でも学生の反狸派は資格試験申請の不許可かつ、虐めという最悪な状況下に立たされているらしい。そして自分はその対象者だったのでこういう事をされたのだ。

 

「成る程。貴方は狸派にうつらないんですか?」

手を取り立ち上がらせながら龍崎は雅に問う。

 

「私は嫌だ…何で狸達に従わなければいけないのかよく分かんないし…」

ごもっともな意見に龍崎は頷くと散らかった荷物を集め鞄に入れてあげた。

 

「取り敢えず家まで送りますよ」

「うん。ありがとう」

龍崎は情報提供のお礼として雅を家まで送った。

「これからは気をつけてください」

 

「うん。本当にありがとね。龍崎くんも気をつけて…」

 

「えぇ」

雅を送り届けた後 龍崎は人混みの多いスクランブル交差点へと戻ってきていた。周りには狸の尻尾を付けた者で溢れかえっており、警察が尻尾を付けていない反狸派を取り押さえている光景が所々に映っていた。

 

「さて…『刑部狸』とやらの情報を集めるか」

 

そう言い龍崎は夜の街へと消えていった。

 

かと思いきや歩いて眠気が出たのでアッサリ切り上げ帰宅したのだった。

 

 


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