ゲゲゲの鬼太郎 天翔の少年   作:狂骨

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天龍の裁き

「ガハァッ…!」

「猫娘!」

突如現れた団三郎に猫娘は首を掴み上げられ身動きを取れなくなってしまった。そしてその一方でまな も狸の妖怪と化し唸り声を上げながら悶え苦しんでいた。

 

「ヴァァ!!!」

「まなちゃん!」

獣と化したまな の脳内に刑部狸の『要石に触れろ』という命令が流れ込み 、まなの身体は従うようにゆっくりと要石へと近づいていった。

 

「まなちゃん!やめるんじゃッ!まなちゃんまで石になってしまうぞッ!!」

「まな!目を覚まし…ガァ…!」

目玉親父や猫娘は懸命にまな へ自我を取り戻すように呼びかけた。するとそれに答えるかのようにまな は自分の頭を抑え込み動きを止めた。

 

まだ自我が少しだけでも残っているようだ。だが、それも時間の問題だ。刑部狸の命令がその自我を蝕み始め 再びまな を要石へと動かそうとしていた。

 

「どう呼びかけようと無駄さ!刑部狸様の命令は絶対だからなぁ!」

そう言い団三郎は左手に力を込めると猫娘を葬ろうとした。

 

 

「…ま……な……」

 

 

ーーーーーーーー

 

「ん…?何だ?全然出ねぇな。何やってんだアイツら?」

先程まで刑部狸が鎮座していた岩場にて、龍崎は大きな遺物に座りながら携帯を見ていた。彼が座っているものの周りには、無数の狸達が腸を抉り出されたり、頭部が潰されて脳髄が溢れていたり、更には頭蓋骨を砕かれていたりと、とてつもなく悲惨な光景が広がっていた。妖怪であっても人目見れば嘔吐しそうな程の雰囲気の中、龍崎は顔色を変える事なく、携帯をポケットにしまうとその遺物から飛び降りた。

 

「直接行くか。成功の知らせとして、コイツの首でも持ってけばいいか」

そう言うと龍崎は横たわる刑部狸の首を無理矢理もぎ取ると要石へと向かった。

 

「ん〜……ストレス発散にはちょうど良かったな…」

そう言うと不気味な笑みを浮かべながら口の周りについた血を舐め取った。

ーーーーーー

 

所変わり、要石がある崖では 団三郎が今にも猫娘へトドメを刺そうとしていた。

 

「終わりだ…!」

「うぐぅ…!?」

もうダメだと思い 猫娘はゆっくりと目を閉じた。

 

その時だった。

 

グシャ

 

団三郎の腹が何者かの手によって貫かれた。

 

「ガハァッ!?」

腹を貫かれた事により、団三郎は血を混じらせた胃液を大量に吐いた。団三郎の身体を貫いた犯人は背後にいた。

 

「何だ。バイブ流したのに 出なかったのはこういう事だったのか」

 

団三郎の背後に見えた人影に猫娘は目を見開いた。

 

「り…龍崎…!」

そこに立っていたのは龍崎であった。本人は猫娘に目を向ける事なく貫いた手を引き抜いた。

 

団三郎は猫娘を掴んでいた手を離すと同時にその場に崩れ落ちた。

「お前はさっきの…!刑部狸様は…!」

「あぁ。コイツの事か?」

「!?」

目の前に差し出された物を見た瞬間 団三郎の顔は絶望に落ちた。

 

 

それは刑部狸の“生首”だった。白目を剥き、舌が力を失ったかのように垂れていた。

団三郎はそれを見た瞬間に刑部狸を殺めた犯人が龍崎であると確信した。

 

「お前が刑部狸を!?」

「あぁ。案外 弱かったな。他の狸よりも強そうだったから少し本気を出したら一瞬で片付いちまったよ。ま、殺しても要石があるからどうせすぐ再生するんだろ」

そう言い要石へ目を向けた。

 

「あれ?犬山は?」

龍崎は辺りを見回した。すると、要石の方向へ手を引きずりながら向かっていくまな の姿を確認した。

 

「なんだ、もう終わるじゃねぇか」

「!?」

そう言われた瞬間 団三郎は止めようと立ち上がる。だが、龍崎に頭を地面に叩きつけられ身動きが取れなくなってしまった。力自慢の団三郎でさえ小柄な龍崎の腕力に勝てなかった。

 

「動くなよ。東京を狙った時点でお前らの死はもう確定してるんだ」

「ぐぅ…!」

団三郎は恨みの目を龍崎へと向けた。だが、龍崎は団三郎へ目を向けずまな の方を見ていた。

 

一方で 刑部狸が死んだ事で呪いが解けた まな は要石に触れ 押した。要石はまなが歩くたびに一切 抵抗を見せる事なく動いていった。

 

そして 崖に差し掛かった時 まな はゆっくりと要石を押した。

 

押された要石は崖から音を立てずに落下すると垂直抗力の力を受け 地面へと落ち砕けた。

 

その瞬間

 

 

「ぐぁぁ!!」

団三郎は口から血を吐き散らすと苦しむようにもがきながらその場で生き絶えた。

 

 

他の狸達も同じだ。周りから狸達の悶え苦しむ声が聞こえ、数分経つと段々と静まってきた。

すると、要石を壊された事によって 鬼太郎を覆っていた妖気が晴れ 石化が解かれた。

 

「うぅ…!」

「鬼太郎!」

倒れる鬼太郎をまな は急いで抱きとめた。

 

「ゲホッゲホッ!」

「おいおい大丈夫か?」

「余計なお世話よ…!」

そう言い猫娘は誇りを払い立ち上がる。

 

「けど…ありがとね。感謝するわ…」

「目的が一致しただけだ。感謝される筋合いはない」

お礼を言われた龍崎は一瞬笑みを浮かべるも、見せない様に横を向き髪を下ろした。

ーーーーーー

 

「鬼太郎!大丈夫!?」

「あぁ…何とか…」

鬼太郎はまなに支えられながら立ち上がる。

 

「鬼太郎〜!」

「父さん!」

駆け寄ってきた父である目玉親父を鬼太郎は手に乗せた。

 

「お〜!無事で何よりじゃ〜!」

「父さん 泣きすぎですよ」

大量の涙をおいおいと言いながら流す目玉親父を鬼太郎はなだめた。

すると、 微量ながら妖気を感じ取った鬼太郎は後ろへ振り返る。

 

「ッ!」

咄嗟に鬼太郎は戦闘状態へと入った。それもそうだ。幾日か前に自分を襲った相手が目の前にいるのだから。

 

「猫娘!ソイツから離れろ!」

咄嗟に鬼太郎は龍崎へ向けて指鉄砲の姿勢をとった。

 

「待って鬼太郎!龍崎君は鬼太郎を助けるのを手伝ってくれたの!」

「え…?」

 

まな は咄嗟に止めると今までの経緯を話した。最初は納得しようとしなかったが、目玉親父の証言や猫娘と話す姿を見て納得したようだ。

鬼太郎は立ち上がると龍崎へ手を差し出した。

 

「疑って悪かった。ありがとう。皆を助けてくれて」

それに対して龍崎はフッと笑うと手を出さず、背を向けて歩き出した。

 

「俺はただ単に刑部狸供を殺したかっただけだよ。お前の救出なんざついでにすぎん」

そう言うと龍崎はそこから上に向かって炎を放つと穴をあけそこから外へと出て行った。

 

すると

洞窟も崩れ始め 瓦礫が落下してきた。

 

「急いで避難だ!」

「えぇ!」

その後 鬼太郎達は砂かけ婆達と合流すると龍崎が開けた穴を使い外へと脱出した。

 

ーーーーーーーー

 

一方で、一足早く洞窟を出た龍崎はとある平地を歩いていた。

 

そこは富士の裾野であり、辺りには森が広がっていた。

 

そして、 龍崎の行く末には “何か”が佇んでいた。

「これか、妖怪獣『蛟龍』というのは」

目の前には刑部狸達が崇めている『妖怪獣』が眠っていた。

 

 

『おのれ六将めぇぇぇぇぇッ!!!』

「お?」

突然、天を揺るがす程の怒声がその場に響き渡り上を見ると紫色の炎が空を覆っていた。

それは 刑部狸の憎しみと憎悪が固まってできた“怨霊”である。

 

『よくも我らの邪魔をしてくれたなぁぁぁぁ!!!貴様だけは許さんぞぉおおッ!!!』

恨みを込めて叫んだ刑部狸の怨霊は妖怪獣の身体へ吸い込まれるように消えていった。

 

その時 妖怪獣の目が光り出し倒れていた身体が起き上がった。

 

「さぁ…楽しませてくれよ?狸ども…!」

目が金色に輝き歯を剥き出しにしながら笑みを浮かべると再びオールバックにした。

 

『ギャォオオオオオオオッ!!!!』

妖怪獣は龍崎へ威嚇するかのようにその場に巨大な砂嵐が吹き荒れる程の咆哮をした。

するとその場に台風よりも激しい突風が吹き荒れ辺りの木を根こそぎ空の彼方へと吹き飛ばしていった。

 

「ハッ!いい鼻息だ」

まるで子供のように頬を染め興奮した龍崎は学ランを脱ぎ捨てるとタンクトップ一枚となった。脱ぎ捨てられた学ランはその暴風に吹き飛ばされ消えていった。

 

 

暴風が鎮まると妖怪獣の巨大な口がゆっくりと開かれた。

 

「ほぅ?」

その瞬間 龍崎の立っていた地面が大爆発を起こした。

原因は妖怪獣の放った高密度の妖力の玉である。体内から練り上げられたその妖力の玉が放たれた事により そこの地面にはクレーターが出来上がっていた。

だが、妖怪獣は辺りを見渡していた。今の一撃に手応えが感じていなかったのだ。

 

 

 

「へぇ。やっぱすげぇな」

「グゥゥ…?」

声のする方向へと妖怪獣はゆっくりと目を向けた。そこには先程 自分の足元にいた龍崎が巨木の枝の上にあぐらをかきながらこちらを見ていた。

 

「さて、俺からも行くぞ?」

龍崎は立ち上がると両手両足に妖力を集中させ青い炎を纏った。

そしてその場から脚に力を集中させると妖気を爆発させ、それを機動力として一気にその場から妖怪獣に向けて飛んだ。

 

 

「ハァッ!!」

「グゥァァァァァッ!!!」

龍崎は炎を纏った拳を妖怪獣の頬へ向かって突き刺すように放った。

その拳は頬へ突き刺さると同時に炎が一瞬 光った途端 大爆発を起こした。

 

「グルル…ギャァォオオオオオオオオオッ!!!」

妖怪獣は頬から伝わってくる激痛と高温に悲鳴を上げながら巨体をヨロケさせるもすぐに体制を立て直し龍崎へ向かって粒状の妖気をマシンガンのように放った。

 

「へぇ。多彩な奴だ」

龍崎はその攻撃を横へ駆けながら避けた。妖怪獣は龍崎の挑発に乗るかのように首を傾け次々にマシンガンを龍崎へ当てようとした。それに対して龍崎はまるで遊んでいるかのように笑いながら避けていった。

 

「どうした?どうした?全然当たってねぇぞ」

 

「グァァァァァァァッ!!!」

 

そして、最後の一発を避け終えると、龍崎の全身から蒼いオーラが溢れだした。その輝きはもはや宝石に匹敵する程の美しさで、暗い景色を蒼く照らした。

 

「さぁ!もっと楽しませろ!まだ前菜にも行き届いてねぇんだからな…!」

 

 

ーーーーーーー

 

一方で龍崎の開けた穴から出た鬼太郎達は目の前で起こっている小規模の戦争のような戦いに圧倒されていた。

 

「これは…何という妖力のぶつかり合いじゃ…」

「今まで何百年も生きてきたが…ここまで激しい戦いは初めてじゃ…」

子泣き爺の言葉に鬼太郎は頷く。

猫娘も河童達の時とは全く違う妖気の質に恐怖感を抱いた。

「今のアイツの妖気…こんな遠距離からでも感じ取れる程 濃いわ…河童達の時とは比べものにならない…」

「それにあの龍崎という少年…未だに本気を出しとらん。完全に遊んでおる…底が知れぬ…」

 

ーーーーーーー

 

 

龍崎は走りながら踏み込み、大きく跳躍すると、纏っていたオーラを手に纏わせ、そのまま妖怪獣へ向かって拳を振りかぶった。

 

「フッ!」

「ビギャァァァァ!!」

龍崎の放った空中からのストレートパンチが妖怪獣の額へと放たれた。当てられたと同時に拳に纏わりついていた炎が青から赤へと変色すると爆発し更なる苦痛を与えた。

傷口から更に火傷を負わされた妖怪獣は苦痛の叫びを上げるとその場に倒れた。見れば傷口から相当な量の妖力が溢れ出ていた。

 

「おいおいどうした?妖力がどんどん無くなってくじゃねぇか」

倒れた妖怪獣の額に着地した龍崎は見下ろした。

 

「何だよ。たった数発殴っただけで終わりかよ?」

「…」

妖怪獣は何も答えなかった。唸り声も上げず ただ言われるがままになっていた。だが、分かりにくいが身体が何故か痙攣しているのだ。まるで何かに怯えるように。

 

「おい…何とか言えよ…?」

ナワバリを荒らされた事で怒りを混ぜた声で龍崎は妖怪獣の胴体を脚で突いた。

 

その瞬間 妖怪獣の全身という全身から汗が滲み出てきた。

理解したのだ。自分が何を相手にしているのかを。

 

 

その恐怖感が全身を支配し 妖怪獣の身体を縛っているのだ。

 

 

 

そうとは知らない龍崎にとってはもう動かない妖怪獣は用済みである。

「はぁ…だんまりか。つまらなかった」

そう言い龍崎は手に青い炎を集め凝縮させた。すると、炎を取り込んだ腕は青く光り出した。

 

 

「死ね」

 

その言葉と共に龍崎の力の込もった重い一撃が妖怪獣の身体へと放たれた。

拳が深く突き刺さるとその地点から妖怪獣の身体の所々に青い亀裂が走り始めた。龍崎は拳を抜くとその場から跳躍した。

 

 

そして

 

ドォオオオンッ!!!

 

草むらへと飛び降りた直後 妖怪獣の身体は青く光り破裂した。

バラバラになった身体から青い魂が浮き上がりその魂はその場で静かに燃え尽きていった。

 

 

 

「綺麗な花火だな」

着地した龍崎はそう呟きながらその場から跳躍し我が家へと向かった。

 

 

 


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