「じゃあこれのデータを纏めて明日の昼までにデータ送っといてくれ」
「はい」
とあるサラリーマンが上司と思わしき人物から分厚い書類の束が入った袋を渡された。
「はぁ…こんな書類…明日の昼までには無理だろ…」
夕方の街頭が照らす道を歩いているとふと 遊んでいる小学生の子供達を見つけた。
「いいなぁ…あの頃に戻ってみたいよ…」
どんな大人でも必ずそう思う時があるだろう。会社の呪縛から解き放たれもう一度あの自由な少年時代へと戻りたい。
そう思った時だった。
「戻りたいの?」
目の前に浴衣を着た少女が現れた。足音もなければ気配もなかった。普通の人ならばそう思い慌てふためくが、疲労している男性にとってはどうでも良い事だった。
「あー戻りたいね。あの時は絵をたくさん描いていたな」
そう言い子供達を見ているといきなり手を引かれた。
「だったら、連れて行ってあげるよ」
「え?…」
少女がそう言った直後 目の前に光が現れ男性と少女を包み込んでいった。
光が収まるとそこには 目を瞑り倒れ伏す彼の姿があった。
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「鬼太郎、手紙が来てるわよ」
「ん?」
猫娘からポストに届いていた手紙を渡され 鬼太郎は受け取ると読み上げた。その内容は 父親がある日を境に眠りについてしまい目を覚まさなくなってしまったのだ。
「なんだって…!?」
鬼太郎はすぐさま人間界へと赴き手紙を出した少年へと会いにいった。
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人間界へと着いた鬼太郎は差出人の少年に会うと父親が入院している病院へと案内してもらった。見てみると父親が横たわっており、昏睡状態だった。
「数日前からずっとこんな感じです…さすっても往復ビンタをしても…鳩尾にストレートパンチしても起きないんです…」
「君のその涙は悲しいのか悔しいのかどっちなんだ?」
目玉親父は明らかに妖怪の仕業だと思いう〜んと考え込んだ。すると、ある事を思い浮かべた。
「夢の妖怪といえばアイツがおった!詳しく聞いてみよう!」
鬼太郎と目玉親父と少年『ヒロシ』 そして途中で加わった猫娘と まな の5人はアイツと呼ばれる妖怪の場所へとの所へと向かった。
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「はぁぁぁぁぁぁぁ!?俺の仕業だって!?ふざけんじゃねぇよ!」
誰もいない山の中に 一つの小屋があり、そこの住人は大きな声で怒鳴った。
「なんじゃ。お主の仕業ではないのか? 『枕返し』」
目の前にいる小鬼のような姿をした妖怪を見て目玉親父は驚く。この妖怪こそ、目玉親父のいっていた夢に詳しい妖怪 『枕返し』である。
今から何年も前に、子供達の夢に侵入し 悪事を働いていたのだ。だとしたら今回の件も察しがつくだろう。
だが、
「そんな事する訳ねぇだろ!?ったく!どいつもこいつも俺の所為にしやがって!」
「別に聞いたのはワシ1人だけじゃろ?」
本人はこのように否定していた。けれども夢の関連となると枕返ししかいない。彼がやっていないとなると一体誰がやったのだろう。
「何年も前に偉い坊さんにコテンパンにやられてからもう何もしてねぇよ。ふわぁ…それじゃおやすみ」
そう言い枕返しは証言と共に眠りにつこうとした。
「お…おい!せめて 夢から覚ます方法だけでも!」
「うるせぇな。こちとら昨日 徹夜で『ぬらりひょんの孫』一気見したから眠くてしゃーないんだよ」
まるで親父のようにベソをかきながら どうでもいい言い訳をし、枕返しは目玉親父の助けに手を貸そうとはしなかった。
もう打つ手がない。そう思った時だった。
「なぁ〜んだ。夢の事に詳しいって聞いてたのに全然詳しくないんだね〜?」
「…なんだと?」
まな が放ったその言葉に枕返しの神経が反応し横にしていた身体を立ち上がらせた。
「俺は夢の専門家だ!妖怪の中でも随一のなッ!夢に関しちゃ俺の右に出る者は決しておらんッ!」
「ホントに〜?なら見せてよ〜?」
「あ〜!もう上等だよ!テメェら付いてきな!」
そう言うとズカズカと家から出て行った。
「やるじゃない まな!」
「グッ!」
猫娘に褒められた まな は満面の笑みでサムズアップした。
皆は枕投げに雲の上の崖に案内された。すると、枕投げは空の彼方へと枕を掲げた。
「やぁぁぁぁッ!!!」
すると突然枕が七色に輝きはじめ、そこから空へ向かって巨大な虹が掛けられた。すると枕投げは掛けられた虹へと乗ると歩き出した。
「おら!ボサッとすんな!この橋は5分しか持たねぇんだ!」
皆も虹へと乗ると枕投げの後を追いかけた。
「凄いなぁ…初めてだよ虹の上を歩くの…」
まな は初めて体験する。 誰もが一度は夢見た 虹を渡る。まさかこの歳で体験するとは思わなかったらしく、顔を赤くしすごく興奮していた。
「ハッハッハッ。気をつけろよ。今俺たちは他人の夢の中に入り込もうとしてる。本来 夢はどんな無理な事でも叶っちまうからな。 何でもかんでも想像しちまうとそれが具現化しちまうぜ?例えばこの橋の後から怪物が襲ってくるとか」
『ギクッ!?』
そう言われた瞬間 ヒロシとまな の身体がビクッと震えた。
その反応を見た猫娘は冷や汗を垂らした。
「ま…まさかアンタ達…」
そのまさか だ。ヒロシとまな は怪物が襲ってくる事を想像してしまったのだ。まぁ原因は枕返しなのだが。
「ギャォォォォォッ!!」
『!?』
見ると背後に黒く巨大な怪物が現れ次々と虹を喰らい尽くしながら追いかけてきた。
「逃げるゾォォォォッ!!!」
『ぎゃぁぁぁぁぁ!!!』
皆はすぐさま走り出し怪物から逃げた。
「ちょっと!なんで言われて想像しちゃうのよ!」
「ごめんなさ〜い!!」
まな は走りながら謝罪するも後の祭りだ。怪物はどんどんと近づいてくる。ここでまたまたやらかしたのが枕返し
「これで分かっただろ!?いいかテメェら!決して想像すんじゃねぇぞ!………例えばこの虹が消えちゃったりとか…」
『………』
その言葉にまな とヒロシは黙った。
「ま…まさかアンタ達…」
そのまさかだ。猫娘の問いに頷くと同時に足元の虹はパッと消えた。
「余計な事言うから〜!!!」
「あ…ごめん」
皆は一気に落下していき、鬼太郎はヒロシと枕返しを抱き抱えた。
一方で猫娘とまな はそれぞれ別の場所へと落下していった。
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「……ん?」
目を覚ますと辺りが木に囲まれている場所にいた。木陰が多く、木々の隙間からは太陽の光が差してきていた。
「ここが…夢の世界…?」
あまりにもの普通すぎる世界に私は目を疑った。
「お姉さん……だれ…?」
「!?」
突然後ろから声をかけられ 私は振り向いた。そこには背がヒロシ君よりも少し小さい小学生らしき男の子が立っていた。その男の子の顔は髪で隠れていてよく見えなかった。私は妖怪だという事を隠す為に偽名を名乗った。
「私は…『猫 ヒロミ』よ」
突然 思いついたため、よくある名前を使用してしまった。その男の子は不振に思わないのか頷いた。
「へぇ。綺麗な名前ですね」
「あ…ありがとう…てそんな事してる場合じゃない!」
私は夢の中に来た目的を思い出しすぐさま鬼太郎達を探した。だが、辺りは木に囲まれていて鬼太郎らしき姿は見当たらなかった。
「鬼太郎ー!どこー!?」
大きな声で叫んでみたが返事は返ってはこなかった。
「叫んでも無理ですよ?ここは結構な山奥ですから」
「そんな…」
その子の言葉を聞いた瞬間 私は森のど真ん中で膝をついてしまった。
「はぁ…どうすればいいのよ…」
「…少し休んで行きませんか?」
「え?」
肩を叩きながらその子は私を立ち上がらせると前へと進み私を案内し始めた。