「ふわぁ…」
大きな口を開け あくびをしながら龍崎はその場で寝転がった。
「今日はもうここまでにして少し寝るか…」
そう言い布団を敷くと毛布を掛けずに目を閉じた。
龍崎が眠った時刻は 鬼太郎、そして猫娘達が夢の世界へと入った時と同時刻であった。
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夢の妖怪『枕返し』の見せる夢には他者の夢に介入する能力に加え、もう一つの力がある。
それは
ごく稀に 自分が脳内でよく思う人物が眠っている時 その人物の過去を見る事ができる。
けれども、そんな事は滅多にない。確率で表すならば宝くじで2等が当たるに等しい程だ。仮にあったとしたらその者の記憶に大きな違いを生み出してしまうだろう。
だが、それは起こってしまった。
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森で出会った少年に連れられ猫娘は山小屋へと案内された。見る限り古く、小さく、少し腐っており、中には少しだけであるがキノコが生えていた。
明らかに一般の家庭とは思えない様式に猫娘は不振に思う。
「そこに座っててください」
「そうさせてもらうわ(古い小屋ね…この子一体何者なのかしら…)」
不審に思いながらも少年の言われる通りに段差がある場所へと腰を下ろした。
「キノコとか生えてるけど、大丈夫なの?」
「えぇ。毒性はないので」
そう言い少年はキノコを収穫する。
「でもこんなに狭いとこじゃ、両親とかが窮屈じゃないの?」
そう言い猫娘は質問をする。すると、少年の口から信じられない事が出された。
「僕の両親は…もういません。数年前に他界してしまいました」
「!?」
今の言葉に猫娘は目を見開いた。この少年はまだ幼いながらも家を持っていない上に家族も失っているのだ。
「偉いわね。一人で生きていくなんて」
「いえいえ。これぐらい慣れっこですよ。取り敢えず今夜中にここを出発して東に向かいます」
「東?旅でもしてるの?」
「いえ。ビルが建ち並び、人が大勢いる『東京』という場所を目指しています」
「!?」
猫娘は驚きのあまり立ち上がる。そして恐る恐るこの場所を聞いた。
「えぇと…ここって何県…?」
「長野県ですね。位置だと南アルプスらへんです」
すると猫娘は頭に地図を思い浮かべた。南アルプスとなれば長野県の端だ。東京へと行くとなるとバスが思い当たるだろう。
「バスでいくの?」
そう質問した時、驚くべき答えが返ってきた。
「徒歩です」
「え…えぇ!?嘘!?徒歩!?バス 使わないの!?」
「お金が勿体無いですから。それにたった3日ぐらい歩けば着くので」
「3日!?」
更なる衝撃が猫娘に走る。大人でさえも途中で休憩、野宿を挟んでも5日以上は掛かる距離をこの子は3日で着くと言った。ここまで来るとこの子は本当に人間の子なのか怪しく思えてくる。
いや、怪しくはない。 私は先程から微量に感じ取れる妖力に疑っていたが、この言葉で確信した。
「もしかして…アンタ…妖怪…?」
その言葉と共に少年は笑みを浮かべながら応えた。
「えぇ」
「…!?」
私はその笑みからすぐさま戦闘態勢をとる。本能が反射的に私の身体へ命令したのだ。『離れろ』と。その子から僅かながら感じた妖気は私が前に感じたものと酷似していた。そこら辺にいる妖怪よりも更に濃い妖気。まさしくこの少年は『アイツ』だ。
「(こ…コイツ…まさか…)」
その時だった。
私のいた空間が歪み出した。
「ちょ…!?何これ!?」
私の足場はなくなり、辺りは少しずつ黒く染まり始めた。
目の前にいる少年の姿も少しずつ歪み始めた。
私は脚を動かしその子…いや、そいつへ向かって走り出し叫んだ。
「待って…!待ちなさいよ!………『龍崎』ッ!!!」
その叫びを最後に私は夢の世界から現実へと引き戻された。
ーーーーーーー
そしてその同時刻
「!」
龍崎も目を覚ました。頭の中には幼少期の頃の記憶が映されていた。
「…変だな…なんで猫が出てきたんだ?」
見ていた夢に突然 見慣れた女性が現れ龍崎は首を傾げた。何とも不思議な夢だった。昔の自分の姿を見ている時、突然 後ろから猫娘が現れるとは。
「何故だ…?奴とはあの時 会った覚えはねぇんだが…ま、いいか」
起き上がるとアパートを出て行った。
ーーーーーーー
「!」
目を覚ますと枕返しの住処である小屋にいた。周りにいる皆は寝ておりまだ夢の中の世界のようだ。
「……なんで……子供の頃の龍崎が…?」
私は先程見ていた夢を思い返した。私は過去に会っていたのか?いや、それはない。これも枕返しの能力なのか?
何も理解できず、私はただ皆の帰りを待つだけであった。