ゲゲゲの鬼太郎 天翔の少年   作:狂骨

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バイト

「お…おいなんだよ斎藤。こんな時に呼び出しやがって」

夜の東京の使われていない廃ビルに 数十人もの若者達が集まっていた。どの若者も金髪に茶髪にピアスといった 印象の悪い者達だった。

 

そんな中で、ソファに座り自分の義手を憎々しく掴みながら斎藤は怒りの声で言う。

 

「龍崎を…あの野郎をマジでブチ殺してやるんだよ」

前回 龍崎に一番酷い目に遭わされたにも関わらず彼は反省していなかったのだ。彼は自分の情報と金を駆使して、都内中から、武闘派のガラの悪い高校生を集めていた。

その中には 高校を中退した者、鑑別所から出た者、はたまた前科を持つ者達 ばかりであった。

 

「ちょいとばかし…先輩方に頼まれてくれませんか?コイツを連れてきて欲しいんです」

そう言い斎藤は写真を男達へ渡した。

「何だコイツは?」

「最近 関東で名を轟かせている『帝王』です。先輩方にも覚えがありますでしょ?」

「そうだな。関東で知らねぇ奴はいないと言われてるからな。要するにこのガキを捕まえればいいんだな?」

「はい。そしてここに連れてきてください」

「なら、それ相応の見返りをもらうぞ?」

「報酬としては一人5万でどうですかい?」

斎藤に提示された報酬に男達は頷く。

 

「では、お願いしますよ。ただ、今はやめておいた方がよろしいです」

「何故だ?」

「とっておきの餌がまだ見つかっておりませんので…」

そう言い斎藤はスマホの写真を見た。そこには街中を歩く猫娘の姿が写っていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

ある休日

 

龍崎は動物園でバイトをしていた。しかも、本来 バイトにはやらせてくれない動物への直接の干渉をさせてもらっている。それは、全部の動物が龍崎に懐くというより、手懐けられているからだ。

 

「ぐぅぅ〜」

「分かったから。そんな顔を擦りつけんなよ」

史上最大の肉食獣であるホッキョクグマでさえも、龍崎を見た途端に懐き、顔を擦り寄せてきた。

休日なので、子供を連れてきた親達も、あまりにもの懐きっぷりに目を疑っていた。

 

「ほれ、魚だ」

「〜♪」

龍崎の投げた魚をホッキョクグマは嬉しそうに口でキャッチする。

 

「さて、シロクマはここで終わりと。次はライオンだな」

檻から出る龍崎をホッキョクグマは見送る様に見つめていた。因みに龍崎は主にライオンやシロクマといった大型の哺乳類や、ワニやカバなどと言った特級の危険生物の世話を任されていた。

 

ガチャン

ライオンの檻に着くと、龍崎は渡された餌である肉を辺りにいるライオン達へと投げた。するとライオンは次々とキャッチしていった。

餌をやり終えると、立派な鬣を持つ雄ライオンが寄ってきて、龍崎の肩に手を置くと顔を舌で舐め始めた。

 

「俺は食いもんじゃねぇよ。ほら、アンタの奥さん嫉妬してるぞ?」

「グルゥ!?」

見ると 高低差のある檻の下らへんから、そのライオンの番らしき雌ライオンが恨めしそうにこちらを見つめていた。

 

すると、その雄ライオンはアッサリと龍崎から離れていった。

「やれやれ。さて、次は…パンダっと」

そして檻を出ると次の檻へと向かっていった。

 

「いやぁ助かるよ。君のお陰で休日見にくるお客さんも増えてきたし」

向かう途中 園長らしき人に声を掛けられる。

「別に、俺がやりたくてやってるだけですよ」

そう軽く言うと檻へと向かっていった。

 

「ようし。お前ら〜竹だぞ〜」

そう言うと辺りに竹を置く。すると、パンダ達が集まり、竹をバキボキと音を立てながら噛み砕いた。

「よし食え食え。さてと、次は…ヒョウにコンドルにナイルワニ…まだまだたくさんいるな」

肩を鳴らしながらも龍崎は次の檻へと向かっていった。

 

 

ーーーーーーー

 

 

「ほら雅〜!早く〜!」

「はーい!」

動物園の入り口にて、雅は、友達と共に動物園に来ていた。まな も誘おうとしたが、鳥取県の境港へと出向いており、不在な為、いつもの4人ではなく、3人で来ていた。

 

「最初何見に行く?」

「じゃあライオン見に行こ!結構近いし!」

「賛成〜!」

3人は入場料を払うと中へと入っていき、近くにあるライオンがいるエリアへと来た。

 

「やっぱり雄ライオンって迫力あるねぇ…」

「うん。特にあの牙…すごいなぁ〜」

3人は目の前のカバーガラスの前を通るライオンに圧倒されていた。すると、餌の時間となり、飼育員が中へと入り、餌をライオンに投げ与えていた。

 

「凄い食いつきっぷりだなぁ」

「というか、あの飼育員さんも凄いよね。よくこんな怖いところに入れるよ」

「ねぇ。………ん?」

そんな中、雅は目を疑った。自分の見間違いか?と思い一度 目を擦り、もう一度見てみる。

 

「ねぇ…あの飼育員さん、どっかで見た事ない?」

「「え?」」

3人はライオンに懐かれている飼育員をジッと見つめる。

 

「あれ……もしかして龍崎君じゃない…?」

「もしかしてなくても…龍崎君だよね…」

「うん…」

3人は口々に龍崎である事を言う。

 

「まぁでも見間違いか。バイトで餌やりなんてさせてもらえないし」

「そうだね。人違い人違い」

「そう…かな?」

雅は若干 疑いながらも2人に合わせる。

 

ーーーーーー

 

「次 何見に行く?」

「う〜ん…取り敢えず何か食べよ」

3人は園内を歩き回った事に疲れたため、軽い食事を取ろうと、近くの喫茶店へと入る。

店内はとても賑わっており、家族連れやら、カップルやらで溢れていた。

 

そして、3人は食事を済ませていると、園内へ放送が流れた。

 

『ただいまより、中央広場にて、『トラとの触れ合い』を開催します。トラと直接 触れ合う事ができるので、興味のある方は是非いらしてください』

とんでもない放送に皆は興奮した。

 

「トラとの触れ合いだって!」

「行こう行こう!」

3人はすぐさま店を出ると中央広場へと向かった。

 

ーーーーーー

 

カチャン

 

「よし。行くぞ」

龍崎はトラの柵を開けると二匹のトラを選抜し、檻から出した。

 

「グルル……」

「ん?嫌なのか?触られるの。まぁそう思うのも仕方ない。まぁいいだろ?今日は最高級の肉 やるからさ」

「グル♪」

肉に反応したのかトラは喜び龍崎の肩に抱きつく。

 

「分かった分かった。ほんじゃ、2人ともちゃんとサービスしてくれよ」

そう言い龍崎は紐 なしでトラ達を中央広場へと連れていった。

 

ーーーーーー

 

 

一方で中央広場は既に人がたくさん集まっており、雅達は人混みの中 トラを待っていた。

 

「やっぱ人 いっぱいだね…」

「そりゃあそうだよ。生のトラに触る機会なんて滅多にないしね」

「でもよくよく考えるとちょっと怖いな。襲われたらどうしよ」

「ビビり過ぎだよ雅。ちゃんと手懐けられてると思うよ」

すると、後方にいる人達がいきなり騒ぎ出した。

 

 

「ぅおお!?」

「きたぞ!?」

「……てちょっと待てよ…縄つけてねぇぞ!!」

見るとそこには紐無しで、ほぼ放し飼いの状態で飼育員の後をついてくる二匹のトラが見えた。周りの人達はあまりにも予想外な出来事に次々と写真を撮り出す。本来動物はフラッシュは苦手だが、スマホで撮るものが多いのでそこの所は心配は無かった。

 

雅達はトラに目がいきすぐさま周りにい集まった。すると、飼育員の人がマイクを持つと呼びかける。

 

「え〜本日はトラの触れ合いに来てくれてありがとうございます。それでは、皆さんにご紹介しましょう。まず右の子はベンガルトラの『アム』君で、こっちはベンガルトラの『シマラ』ちゃんです。では、小さい子を優先してお好きに触れ合ってください」

 

すると、周りの小さな子達が次々とトラの周りに集まった。

 

「うぉ!すげぇ!」

「カッコいい!」

「毛がふさふさしてる〜!」

好奇心旺盛な子供達は次々にトラに触りまくる。そんな中、雄のアムは目の前にいるが、怖がって近づかない女の子にゆっくりと顔を近づけると顔を舌でペロリと舐めた。

 

「うわぁぁん!!怖いよ〜!」

するとその子供は泣き出し、親の元へと走っていった。

 

「あはは。やっぱり怖いよね。いきなり舐められちゃうと…」

「でも懐いてる証拠だよね」

雅達はその光景を見ながら早く触りたいと思いワクワクとしながら順番を待っていった。

 

そして、順番が回ってくると、雅達は早速 トラの毛に触れる。

 

「うわぁ!凄い!フサフサしてる!」

「写真写真!」

3人は雌のシマラを背景にスマホで写真を撮る。

 

「でも、本当に大人しいよね」

「どんな訓練してるんだろ…」

雅や皆は不思議に思いながらもトラの鼻の上を撫でる。すると、トラは雅の手に顔を擦りつけてきた。

 

「わわっ!?」

「おや、懐いてますね」

その光景を見た飼育員は微笑ましそうに言ってきた。

 

「シマラがそこまで積極的に懐くのは珍しいんですよ」

「へぇ〜。そうなんで……え!?」

3人は飼育員の顔を見て驚く。なぜなら、飼育員をしていた者は同じクラスの『龍崎』だったからだ。

 

「龍崎君!?」

「おや、貴方方は」

龍崎も皆がいる事に驚いた。

 

「なんでここに!?」

「そりゃバイトですよ。休日は稼ぎ時ですからね」

「だからってハード過ぎない?トラと一緒に歩いてて怖くなかったの?」

雅の質問に龍崎はシマラの顎を撫でながら答える。

 

「えぇ。怖くありませんよ。動物は普通に接していれば仲良くなれます。こんな感じに」

すると、シマラの顔が少しずつトロけて、最終的には地面に寝転んでしまった。

 

「す…凄い…ちょっともう一回…」

雅がもう一度 撫でようとした時

 

「グァ!」

「きゃぁ!?」

シマラが突然 状態を起こし雅の肩に前足を乗せてきた。襲われるかと思い目を閉じていたが、みると、シマラは雅の顔を舐めていた。

「相当 懐かれてますね。あなたの撫で方が気に入ったんでしょう」

「そ…そうなんだ」

「グルル♪」

シマラは嬉しそうに雅の頬に積極的に頬を当てにきた。

 

 

すると、横のアムの触れ合い場で騒ぐ声が聞こえた。

「すっげぇ!マジで大人しいぞこのトラ!」

見ると1組のカップルのうち、彼氏と思わしき高校生ぐらいの男性がトラの上にまたがっていた。

 

「きゃ〜!よっちゃんカッコいい〜!」

彼女と思わしき女性はその姿をスマホで次々と連写していった。一方でまたがっているトラのアムは不機嫌そうな表情をしていた。

 

「アーアア〜!!」

まるで自分がターザンになったかのように騒ぐ男性に周りの人達は少し引いていた。だが、そんな事は知らずに、男はまるでロデオでもしているかのように身体を上下に揺らした。

 

「あれはちょっとねえ…」

「うん。アム君が可愛そうだよ…」

 

すると、

雅に抱きついていたシマラは雅から離れ、乗っている男に近づくと服を引っ張り引き摺り下ろした。

 

「おわっ!?何すんだよ!」

引き摺り下ろされた男性は起き上がるとシマラを睨んだ。

 

「グルル……」

一方でシマラも 親友であるアムに嫌がらせをした事にたいして、怒っており、唸っていた。このままでは、シマラは確実にこの男性を襲うだろう。そう思った龍崎は間に入る。

 

「お客様、触ってもいいとおっしゃいましたが、なにも乗っていいとは言っておりませんよ」

「はぁ!?別に触るも乗るも同じだろ!?大体なんでだよ!さっきの子供 は乗ってたじゃねぇか!」

「小学 低学年以下の子供だからいいんです。大人もいいだなんて一言も言っておりませんよ?それに、そこに書いてあるじゃないですか。デッかく」

そう言い龍崎は看板を指差す。見ると『トラへ乗ろう』という文字の下に、『対象年齢は小学生低学年以下または身長120cm以下とさせていただきます』と赤い文字で書かれていた。

 

「はぁ!?全然分からねぇじゃねぇか!テメェ舐めてんのか!?」

「ん?」

男性は完全にキレたのか龍崎の胸ぐらを掴んだ。その時だった。

 

「グォォッ!!」

「うわぁぁ!?」

雄のアムが飛び出し男性を地面へと押し倒した。すると、雌のシマラも参戦し、二匹で男性の顔へ牙を近づけた。

 

「た…助けて!怖い!怖いよ!死にたくねぇよ!!」

「よっちゃん!?ちょっと!飼育員!何とかしなさいよ!」

連れの女性は龍崎に詰めかかる。が、龍崎は「よく見てください」と言い、男性の頭部を指差した。

 

よく見ると、二匹は男性を襲っているのではなく、顔を舐めていた。

「ただ舐めてるだけですよ。この子達は少々 悪戯好きでしてね。こうやって、襲うと見せかけて舐めるというのがよくあるんですよ」

説明すると、龍崎は二匹を離れさせた。

だが男性は完全にビビっており、ズボンから液体を流しており、龍崎の隣にいる三人は少し引いた。

 

「お客様。すいませんがここでマーキングはやめてくださいよ?」

「く…くぞぉぉぉぉ!!!!」

男性は泣き叫びながら女性を置いて入口の方へと走っていき、女性も後を追っていった。

 

「まぁ自業自得だな」

そう言い擦り寄ってきたアムの頭を「偉いぞ」と言いながら撫でる。

 

「さてと、あのお客さんの所為で貴方達の前のお客さんはどっかいったし。ここいらで閉めるか」

龍崎はシマラに指で帰る仕草をすると、後をついてきた。

 

「では、3人はゆっくり楽しんでいってください」

『う…うん…』

先程の出来事に3人は若干冷や汗を流しながらも、手を振り見送った。

 

「何て言うか…龍崎君って…何でもできちゃうよね…」

「うん…勉強もできてスポーツもできて喧嘩もできて 猛獣も手懐けられるし…」

「逆に何でもできすぎて少し気持ちが悪い…」

 

改めて三人は龍崎の恐ろしさというより、気持ち悪さを目の当たりにするのだった。

 

 

 

 


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