ゲゲゲの鬼太郎 天翔の少年   作:狂骨

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龍の力

「ア……アンタは……」

猫娘は突然 崩れた壁から現れた少年に目を丸くしていた。だが、それと同時に一筋の冷汗を流していた。

 

(な…何て膨大な妖気…すれ違った時とは全く違う…!)

猫娘は長年の戦闘経験より、その少年から滲み出る強大な妖気を感じ取っていた。猫娘の脳内は『逃走』という命令で埋め尽くされた。

だが、その威圧感をものともしない人物がいた。

 

「キミって……確か同じクラスの……」

まな が呟いたその言葉に猫娘の中で働いていた本能が収まった。

 

「アンタ コイツのこと知ってるの…?」

猫娘がそう聞くとまな は首を振り頷いた。

「龍崎 忍……私のクラスメイト…けどなんで君が…?」

すると ずっと黙っていたその少年は周りを見渡すと口を開いた。

「おや?犬山さんですか。なぜ貴方がここに?」

「それはこっちのセリフよ!?龍崎君の方こそ何でこんな所にいるのよ!?」

あまりにも能天気な言葉に対しまな は驚きの声をあげた。その一方、問いに対し龍崎は手を顎に当て「う〜ん」という表情を浮かべた。

 

「まぁただのひ…「ハアッ!」 ん?」

 

ドォオンッ!!!

 

龍崎が口を開いた直後 見上げ入道が空気の塊を放った。その塊は龍崎に直撃し 当たった瞬間 周囲の瓦礫を吹き飛ばした。

 

「龍崎くん!」

 

「フン 人間如き が儂の前に堂々と立つなど生意気な。まぁいい1人殺してしまったがそこにいる奴らで十分じゃろ」

そう言うと見上げ入道は一番近くにいる まな へと目を向けた。

 

「さて、では秘技霊界おく…ガバァ…ッ!!!」

見上げ入道がまな を霊界へ送ろうとした瞬間 見上げ入道の右頬が内側に向かって凹んだ。

 

「ぐぅ……」

見上げ入道は体制が崩れ地面に手をついた。

 

「な…何が…起こった……の?」

猫娘はもちろん まな も理解できずにいた。彼女達が見えたのは見上げ入道が突然倒れた ただそれだけだった。すると、見上げ入道の下から先ほどと同じ声質の声が聞こえた。

 

「随分と舐められたものだな。あんなハエが止まるような速度の攻撃で俺を倒せると思っていたのか?」

その声は見上げ入道の右手辺りから聞こえた。見上げ入道はそこへ目を向けた。だがそこには何もいなかった。

 

「ど…どこだッ!姿を現せッ!!」

そう叫びながら見上げ入道は1つ目で周りをくまなく探した。だが見えるのは瓦礫のみであり先程の少年の姿は一切映らなかった。

 

 

その様子を猫娘は遠くから見ていた。

「…今ならまな を逃がすことができるかもしれない…」

そう考えた猫娘はゆっくりと立ち上がると 深呼吸をし息を整えた。

 

「(あの巨大な手に掴まれたら終わり…掴まれる前にドームから出ればこちらの勝ち…)

そう心で思い浮かんだ作戦を頭に叩き込むと最後の力を振り絞り四つん這いとなった。

そして、見上げ入道の狙いがまな から逸れた時 猫娘は一気に力を放出し駆け出した。

 

「今しかないッ!!」

そう言い猫娘は見上げ入道の足元を通り過ぎ 尻餅をついているまなの元へ着くとすぐさま手を掴み 龍崎が作った入り口へと走った。

 

「なッ!?しまった!」

見上げ入道はようやく気づき すぐさま猫娘達を追った。だが見上げ入道が気づく頃には猫娘とまな は入り口付近へと着いていた。

入り口付近に着くと猫娘はまなから手を離し背中を押した。

 

「このままドームから逃げな。アイツは私が食い止めるから」

そう言い猫娘は向かってくる見上げ入道へと体を向けた。だがまな は逃げようとしなかった。

 

「そんな深手で…無理ですよ!一緒に逃げましょう!」

「一緒に逃げた所ですぐに捕まる…だったら誰かが残って足止めするしかないの!」

「猫娘さん…」

その時

見上げ入道の巨大な手が猫娘の身体を掴んだ。

 

「危ない危ない。もう少しで逃がす所だったな」

そう言い見上げ入道は猫娘を持ち上げた。

 

「猫娘さんっ!」

「バカッ!早く逃げなッ!」

まな が駆けつけようとするも猫娘は一喝し止め逃走を促した。

 

「黙れッ!」

見上げ入道は手の握力を強め猫娘を強く握りしめた。

 

「ぐぁ……」

 

「弱小妖怪の分際で小賢しい真似をッ…!このまま捻り潰してくれるッ!」

 

そう言い見上げ入道は握力を限界まで高めた。

 

「あ…(意識が……薄れてく…妙に眠い………これが死…………鬼太郎……ちゃんと伝えたかった………す……き…

 

猫娘の意識は闇へと落ちた。

ーーーーーーーー

ーーーーー

ーー

 

猫娘を握り潰すため見上げ入道は握力を限界まで高めようとした。だがその時 握りしめていた手が切断された。

 

「なっ…!わ…儂の手がッ!」

見上げ入道は混乱し急いで手を修復しようとするが次は反対側の手であった。

 

「グァァァァァァァッ!!!!手がッ!てガァァァァァァァァ!!!!」

 

そして、切り離された二本のうち 猫娘が掴まれた手を何者かが空中で受け止めた。

受け止めた者は龍崎であった。龍崎はまな の近くで着地すると猫娘を解放し まな へと預けた。

 

「犬山さん、この人をお願いします」

「えぇ!?龍崎君も逃げないと!」

まな は共に逃げようと言うも龍崎はそれを無視し両手を失いもがき苦しむ見上げ入道に向かってゆっくりと近づいていった。

 

「龍崎君!」

まな がそう名前を叫んだ瞬間 先程まで丁寧口調だった龍崎の口調が変わった。

 

「うるせぇな。テメェらがいると足手まといなんだよ。早く失せろ」

その気迫に押された まな は猫娘を背負うとその場から離れた。

まな達の姿がなくなるのを確認すると龍崎は両手を失しないもがき苦しむ見上げ入道へと目を向けた。

 

「さて、待たせたな見上げ入道とやら 。すぐに殺してやる」

そう言うと龍崎は手を握り締めるとその場所から消えた。

 

 

「ガバァ!?」

瞬時に見上げ入道の顎が突き上げられる。

強烈なアッパーを放たれた見上げ入道は何とか耐えるが、それよりも早く攻撃は襲いかかってきた。

 

「オラァッ!!」

「ガベェ…!?」

すると次は右に身体が崩れる。顎ではなく、頬に水平蹴りを放たれたのだ。

 

ドォン!

 

その威力はまさに自信よりも巨大な何かに殴られたかのような感覚であり、耐え切る事が出来なかった見上げ入道はその場に倒れた。

 

「がぁぁ…!!い…いてぇ…!何だこれは…!!」

何も分からない。自身はなぜ倒れている?何が起こった?理解できぬまま、見上げ入道はその元凶である少年を探す。

 

「終わりだ。死ね」

「!?」

その瞬間 自身の身体が青い炎に包まれた。

崩れゆく意識の中、見えたのは真正面からこちらに手を向けている少年の姿だった。

 

「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

そして炎が身体全てを飲み込んだ瞬間、爆発した。

 

ーーーーーーー

ーーーー

 

「……すめ ………娘………猫娘!」

 

「ッ!」

名前を呼ばれ私は目を覚ました。そこには鬼太郎の顔があった。周りの景色も見覚えがある…ゲゲゲの森だった。

「鬼太郎……助けてくれたんだ……」

私がそう言うと鬼太郎は首を横に振った。

「君を助けたのは僕じゃない」

「…え?じゃあ ……まな?」

それでも違うと鬼太郎は言った。

「君を助けてくれたのは まな とは違う人間だ。僕が霊界から戻ってきた時には見上げ入道は倒されていたよ…」

そう言い鬼太郎は遅くなってしまった事に対し謝ってきた。私は大丈夫と言いその場から立ち上がった。

 

「まだ寝てた方がいいぞ?疲れただろ?」

「平気…少し散歩してくる」

私はそれだけ言うとゲゲゲハウスを出て森の中へ歩いた。

 

ーーーーーーーー

ーーーーー

ーー

 

チャポンッ

 

私は森の中にある池のほとりに 座り込み 足を投げ込んでいた。

私の脳裏の中で浮かぶのは あの人間のことばかりであった。

頭の中で浮かぶ度にその人間への感謝の気持ちで心がいっぱいだった。あの人間がいなければ私…それに まな も見上げ入道に魂を奪われて日本は見上げ入道の手に落ちていた…。あの人間には多大な恩がある……

「今度会ったら……お礼を言おう……」

そう心に決めると私はそこで横になり目を閉じた。

 

 


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