海へと出た鬼太郎は筏を漕ぐ。すると、周辺から船幽霊達が姿を現した。
「鬼太郎!」
「はい」
鬼太郎は親父から教えてもらった豆知識である船幽霊の対策を実行した。それは炎谷がやった事と同じ底抜けの柄杓を渡す事である。
目玉親父の言う通りに鬼太郎は柄杓を渡す。すると、先程の龍崎達と同じように船を沈める事が出来ないと船幽霊は理解し、全員 海の中へと消えていった。
その時だ。
ベーンッ ベーンッ ベーンッ
数メートル離れた地点で渦が巻き起こり、その中から不気味な琵琶の音が聞こえてきた。そして その中からは青白い身体を持ち、琵琶を手に持つ老人が現れた。
「やはり貴様か。ゲゲゲの鬼太郎よ」
「お前は……『海座頭』!」
「やはりお主の仕業だったか…!皆を船幽霊にしたのは!」
「その通り。海底に沈んでいる船の財宝を手に入れる為に境港の住人を我が僕にしたのだよ!」
「なんだと!?そんな事が許されると思っているのか!?」
「フン!知った事か!ようやく長い封印から目覚める事ができたんだ!邪魔はさせぬ!」
そう言うと海座頭は琵琶へと手を掛けた。
「貴様らも海へ沈むがいいッ!」
ベンベンベンベンベンッ!
弾かれた琵琶の音色は脳内へと響き渡り頭痛を巻き起こした。それと同時に周辺の海水が湧き上がり今にも鬼太郎を飲み込もうとしていた。
「くっ…!」
その時だった、
「鬼太郎!」
「まな!?」
すぐ近くに漁船が現れ ねずみ男を乗せたまな が姿を現した。
「鬼太郎!今から境港の皆と一緒に庄司おじさん達の魂を取り返すから!」
そう言うと持っていた携帯を隣にいるねずみ男の耳へ当てる。
『こんな時くらい役に立ちなさいよね!』
「わ…わかったよ!行きますって!」
どうやら猫娘達も来ているようだ。ねずみ男は潜水服を着用すると、黒い海へと飛び込んだ。
だが、それを見逃す程 海座頭は甘くはない。
「何をやっているだ船幽霊供!奴らを仲間にせぬか!」
ベーンベーンッ!
琵琶を弾くとそれに呼応するように船幽霊達は海へと潜る。
一方でねずみ男は魂が封印されている倉庫らしきモノを見つけると、その引き出しの取手へ碇を掛けた。
そしてすぐさま海面へと上がると まな へ合図をする。
「よし!リエおばさん!準備できたよ!」
『はいよ!皆いくよ!」
『『おおおお!!!』』
浜辺でまな の合図を受け取ったリエは皆へと呼びかけると一斉に綱を引いた。だが、扉は簡単には開いてはもらえなかった。
「うぐぐぅ……重てぇ…!」
「こんだけの人数で引いても開かねぇのかよ!?」
10人以上もいるのにも関わらず、扉が開く気配は無かった。
それどころか、徐々に海へと引かれていった。
「なんだ!?引っ張られてるぞ!?」
「どうなってんだ!?」
引っ張らるモノの正体は船幽霊達だ。扉を開けさせまいと皆が引っ張るひもを逆に引っ張り返し、全員を引きずり込もうとしているのだ。
「うぐぐぅ……無理だ…!」
「どんどん引っ張られる…!」
「負けるな…!皆…!」
脚を地面とは鋭角になすように後方に状態を落とし踏ん張ろうとするが、どんどん綱は引っ張られていった。
その時 皆の頭上を白い反物が飛んだ。
「ようやく間に合ったな!」
その声と共に 曇りが晴れ青空が見える空に一反木綿に乗った猫娘 砂かけ婆 子泣き爺が姿を現した。
「もう!一反木綿ったらほんとスピード出ないんだから」
「しょうがないばい。重い女二人と石の爺を乗っけてるから」
「なんじゃと!?」
「なんですって!?」
そんなやり取りをしていると網を持つ最後尾の人の後ろの砂が盛り上がり 腰に綱を巻きつけたぬりかべが現れた。
「ぬりかべ!」
砂かけ婆達は一反木綿から飛び降りるとすぐさま網を持つと叫んだ。
「ほれ!いくぞ皆!」
『おおおお!!』
砂かけ婆の呼びかけに皆は答えるとすぐさま綱を引く。そして、重量がトンにも達するぬりかべは皆が引っ張ると同時に後ろへ思い切り倒れる。
「ぬりかべ!」
その瞬間 ぬりかべの体重に綱が全て持っていかれ、海中にいる船幽霊も同じ反動で引っ張られた。
結果
ドバァァァンッ!!!
扉を破壊したと同時に綱を持っていた船幽霊達は青空が指す海面へと放り出されたのだ。
壊された倉庫からは捕らえられた魂達が脱出し、それぞれ自分の肉体である船幽霊へと宿った。すると、皆は次々と人格を取り戻し海面へ顔を出した。
「ぷはぁ!助かったぁ!」
「死ぬかと思った…」
ーーーーーー
一方で 魂を解放された事で手駒を失った海座頭は眉にしわを寄せると激昂した。
「おのれぇぇ!!よくも邪魔をしてくれたなぁぁ!!許さんぞッ!!」
ベンベンベンベンベンッ!
とてつもない速さで琵琶を鳴らすと鬼太郎の乗っている筏を中心に渦巻きが発生した。
「沈むがいいッ!!」
「ッ!」
そして海座頭は身動きが取れなくなった鬼太郎へ向け、他の海面から水を巻き上げると鬼太郎へ向けて放とうとした。
その時だった。
「「おい」」
ガシッ
「…ッ!?」
何者かが海座頭の肩を左右から掴んだ。その掴む握力に海座頭は驚き 琵琶の動きを停止させた。よって鬼太郎を襲う渦巻きはなくなった。
そして海座頭は汗を流し震えながらゆっくりと振り返る。
そこには
「てめぇ…よくも海に落としてくれたな…?財布がビチョビチョになった所為で千円札と万札が散り散りになっちまったじゃねぇか…?」
「こっちも同じだよ…。どうしてくれんだ…?」
海に飲み込まれ行方をくらませていた龍崎と炎谷が怒りの表情で海座頭の肩を掴んでいた。
「あぁ…そのいや…年寄りのした事だから穏便に…」
「年寄りだからって何でも許されると思ったら…」
「大間違いなんだよ…!」
そして二人は拳を振りかぶると
「「このクソ爺がッ!!!」」
バァァンッ!!
「ぐばぁ…!?」
一斉に海座頭の両頬へストレートパンチを放った。
見事に打ち込まれた拳に海座頭の身体は妖気を放出し魂だけを残し消滅した。
ーーーーーーーー
ヒュ〜
ドーン! ドンドーンッ!
「おぅ?デカイのが上がったな」
あれから海坊主の件は終わり、皆はそれぞれ祭りの準備に取り掛かった。都会から帰ってきた若者達はアイドルへの出場依頼、そして屋台の用意。この地にずっと居続けてきた者達は名産の海の幸を捕獲するために漁へと出かけ それぞれ役割を分担していった。
そして、準備が終わり、県外からも多くの観光客が訪れ、花火が間近で見れる港は多くの人で溢れていた。
その中で 龍崎は祭りの本部のテントで打ち上がる花火を見ながら蟹を食べていた。
「ハッハッハッ。やっぱビールを飲みながら見る花火は最高だな!」
そう言いながら炎谷は缶ビールを一缶一気に飲み干した。
「お!?炎さんいい飲みっぷりだな!」
「これでも酒は強い方なんでなぁ!」
「「ハハハハハ!!!」」
完全に酔っている様で実行委員と共にワイワイと騒いでいた。
「まぁ…たまにはこう言うのもいいかもな…」
やれやれと苦笑しながらも内心 少し楽しんでいた龍崎は空に浮かぶ花火の大群を見ながらうっすらと笑みを浮かべた。