4丁目の扉が開く前日の昼。
「なに?お化けの学校?」
渋谷のファストフード店でコーヒーを飲んでいた龍崎は口に運ぼうとしていたカップの手を止める。片手には携帯が握られており、誰かと通話しているようだった。
『えぇ。何でも噂らしいわよ。夜中の3時に三丁目のお墓で呪文を唱えると四丁目の扉が開いてお化けの学校に行けるって』
「へぇ」
話している相手は大人のように少し声が低く、喋り方も色気のある女性だった。
「お化けの学校か。聞いた事ねぇ上にくだらねぇ」
龍崎は記憶を辿りながらコーヒーを口にする。
『まぁごく最近の情報だから。でも結構有名みたいよ?数人の友達が帰ってこないとか』
「…神隠しみたいだな」
連想しながら龍崎はノートに参考書の計算式を書き記していく。
『えぇ。ま、調べるのはアンタの自由よ。あ、この後オペだから。じゃあね』
「あぁ」
通信が途絶えると同時にその計算式は終わりを迎えた。
「ッ…何で俺のナワバリにはこんな面倒事が多いんだよ…」
舌打ちをした後、コーヒーを飲み終えるとゴミを片付けて店を出て行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
4丁目の入り口を潜った鬼太郎と目玉親父。
中へと入ると、現れたのは変わらぬ人間の景色。だが、空は怪しく光っており、辺りには小さな妖気が所々に存在していた。
「…本当に…4丁目に来たんですね…」
「うむ…」
しばらく歩くと、昭和の時代にあった寺子屋を思わせるのような建造物が現れた。これが『お化けの学校』だろう。
「…!これが…お化けの学校…」
中からは何匹もの強い妖気を感じる。ここで間違いないようだ。
「うむ…じゃがどうやって入るか…」
「一応変装します」
鬼太郎は懐から丸いサングラスを取り出すと装着する。
「それで変装になるのかのぅ〜…」
これで変装のつもりなのだろうか、私から見ればただサングラスを掛けているだけに過ぎない上にちゃんちゃんこや下駄という個性的な特徴が丸出しであるので、これで鬼太郎と気付かない者がいればその者は完全なる大バカ者だといえる。
ーーーーーーー
カランコロンカランコロン
足場が木造のためか、鬼太郎の下駄の音がハッキリと響く。廊下は暗いが、月の明かりが照らされ、少し青く染まっていた。
「父さん…誰もいませんね…」
「そうじゃな。だが油断してはならぬぞ」
誰もいないものの、辺りの妖気はハッキリとしている。油断は禁物だ。
すると、明かりのついている教室が見えてくる。
「ん?」
鬼太郎は気づかれないように覗いてみた。
見てみると教卓につく人影とそれに集う子供達が見えた。鬼太郎は教卓に立っている者に目を向けた。
「はぁい。これがカエルの内臓よ!」
「!?」
見るとそれは龍崎に真っ二つに切り裂かれた二口女だったのだ。
「二口女!?龍崎にやられた筈じゃ…」
復活していることに驚く鬼太郎と目玉親父。そんな中で授業を聞いていると、子供の好奇心を誘う解剖などを次々と行っていた。
『では心臓を取り出してみたい人〜!』
『『『はぁい!!!』
その楽しげな雰囲気に鬼太郎は首を傾げる。
「…やけに楽しそうですね…」
「う…うむ…」
それからその教室から離れるとまた別の教室が見えた。今度はかまいたちだ。
「では〜、この壺にある液体と水をどれくらいの割合で混ぜれば血液ができるか〜?答えてもらおうか」
そう言いかまいたちは次々と生徒を指名していく。
次の場所は『校長室』だった。今度は子供だけでなく、親も来ていた。進路相談を妖怪がしてるのかと思い、目を凝らしてよく見る。見れば今度は『見上げ入道』だった。
「演劇の主役は陽菜はやりたくないと言っているのがわからんのか!?」
「で…でも今だけでも前に立たないと…」
「それでもし陽奈が失敗し、皆から非難されるようなことがありでもしたら…そんな事も考えなかったのか!?自身の気持ちばかり押し付けて子供の将来を考えない!それでも親か!」
自身の意思を子供に押し付ける親に見上げ入道はまるで保護者であるかのように一喝する。確かに現社会でも自身の子供に意思を押し付ける親は多い。
「……」
全く的を射ている事に鬼太郎は何の手も出せず、その場を後にし、散策を続けるべく暗い廊下を進んでいった。
そしてその日 鬼太郎が帰って来ることは無かった。
◇◇◇◇◇◇
鬼太郎が4丁目へ向かってその次の日、心配した猫娘は寸前まで一緒にいたまなに鬼太郎の行方を聞く。
そして、聞いた後に、自身もその場へと向かう為に1人夜の道を進んでいた。だが、その道中、待ち伏せていたのか、はたまた追いかけてきたのか分からないが、何故かまなと合流した。
「はぁ…私はついて来いとは言ってないわよ」
「けど…蒼馬達までいなくなっちゃったんだから…」
昨日、まなのクラスメイトである蒼馬も同じく四丁目へと消えてしまったのだ。確かに心配でついてくる気持ちは分からなくもないと猫娘は納得しながらも、溜息をつく。
「何があっても知らないわよ?鬼太郎だって戻ってこないんだから…」
猫娘は今回の怪奇現象が危険である事をまなに伝える。けれども、まなは帰る気はないようだ。
「それに猫姉さん 四丁目に行くための呪文知らないじゃないですか」
「う〜ん…」
そう話していると目的の場所へと着く。そして、まなは情報の通りの呪文を唱えた。
「サンマイダーラーナギダーラーモウジャノヨコネニキモツイタサンマイダーラーナギダーラーモウジャノヨコネニキモツイタサンマイダーラーナギダーラーモウジャノヨコネニキモツイタ」
すると、目の前の空間が襖を開けるかのようにゆっくりと景色が横に動き、黒い入り口が現れた。
「これが…四丁目の入り口…」
「…」
まなは真相を目の当たりにして驚いているが、猫娘にとっては珍しくないのか、特に反応を見せなかった。そして、完全に入り口が開くと猫娘は黙ったままゆっくりと中へと入っていき、まなも続いた。