昨日の見上げ入道の一件から翌週 学校に来て早々に犬山から屋上に呼び出された。
「何でしょうか?犬山さん」
俺は丁寧口調で聞いた。するとソイツは表情を変えずに聞いて来た。
「……聞きたいんだけど…龍崎君って『妖怪』なの…?」
「…」
今コイツに話すと面倒な事になりそうだな…誤魔化してみようか? いや、先週のアレ見られちゃ誤魔化してもしょうがない。丁寧口調も 止めだ。
「あぁ。そうさ。俺は『妖怪』だよ」
「急に口調変わったね…」
「うるせぇよバカ」
俺は口調を変えて答えた。バカと言われて頬を膨らませてるがどうでもいい。
「それで?俺が妖怪だと知ってどうしたい?学校から追い出すのか?口止めを条件に俺をパシリにするか?」
俺がそう聞くと犬山は首を横に振る。
「別にどうもしないよ…ただ、何で妖怪である君が学校なんかに…?」
「は?それは世界を知るためさ。これでも俺はまだ10代なんだぞ?お前らと同じぐらいさ。日本という狭い国で好き勝手やるより今の世の中 や世界を知る方が面白いだろ?」
「…意外と勤勉なんだね」
「そうだ。そこらにいる能無しの低級供と一緒にされちゃ困る。で、他に聞くことはあるか?なければ俺は戻らせてもらうぞ」
俺がそう言い、奴の隣を通りすぎる。
「待って」
「ん?」
「龍崎君は…何であの時 猫姉さんを助けてくれたの…?」
「猫姉さん…?誰だそれ?」
聞いたこともない名前を出された。誰だ?ソイツ。
「あの赤いワンピースを着た人だよ。覚えてないの?」
赤いワンピース…?あぁ。アイツか。
俺は思い出した。俺が着いた時にボロボロになってた奴か。
「アイツか。助けた理由?まぁ単純にあのデカブツと闘う時に邪魔だったから」
「そ…そんな理由で…」
「そんな理由だ。じゃ、俺は戻らせてもらう」
俺は犬山に背を向け屋上の出入り口向かった。ただその途中 言い忘れた事がありドアノブに手を掛けながら振り向いた。
「最後に言い忘れたが …この事は誰にも話すんじゃねぇぞ…?」
「うん… そう言えば…何であんなひどいいじめを受けてるの…?」
まな は龍崎に向かって問う。するとドアノブに手を掛けながら振り向くと答えた。
「……は?俺が大人しくしてたらアイツらが絡んできただけだ。まぁ俺にとっちゃどうでもいいがな。中学にもなってイジメなんていう くだらない事してる低レベルな奴に構ってちゃ時間が勿体無いだろ?」
「でも…あそこまでやられたら流石に!「あ〜うるせぇよ。他人の心配する暇あったら高校受験の勉強でもしてろ」
俺は犬山の言葉を遮り屋上の入り口を開けた。
(ま、そのイジメた奴らにはそれ相応の恐怖を与えてやるがな…)
俺は犬山に背を向けながら口角を広げると屋上を後にした。
教室に向かう途中 周りから罵声を浴びせられたが龍崎は無視した。
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猫娘side
何故だろう…先週の見上げ入道の件以来 突然現れた人型妖怪の姿が頭に思い浮かぶようになった。
思い浮かぶ理由は全く分からない。まぁその内 忘れるだろう。
「猫娘…?」
「ッ!」
名前を呼ばれて私は意識を戻した。
「どうしたのじゃ?お主 先週から少し様子が変じゃぞ?」
茶碗に入った湯に浸かりながら親父さんが私に聞いてくる。私は「何でもない」とだけ言い その場を去った。
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時は戻り数時間前 屋上から教室へと向かった龍崎は教室へと向かっていた。
(アイツに話しても問題は無さそうだな。それに妙だな…前のドームの近くから微量だが妖気が感じる…)
龍崎は歩きながら窓の方を見た。妖気は感じるもののそれらしきモノは見当たらなかった。
「ま、いいか」
そう呟くと自分の教室へと入った。そして自分の机を見つけ 座ろうとしたが
「…」
とても座れると言う状況ではなかった。
表面には焼ごて で『死ね』や『消えろ』 等の文字を掘られ 教科書がビリビリに破き捨てられていた。
龍崎は周りのクラスメイトを見渡した。誰もこちらを見ない。
(中学にもなってこんな古いイタズラをするとは…ガキめ)
龍崎は破き捨てられた教科書を全て拾い集めるとグシャグシャに丸めゴミ箱へ捨て教室を出た。
龍崎が出た後 教室は何人かの大爆笑に包まれた。
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「_____であるからしてここの文法はこのように活用し…」
あれから龍崎はすぐに戻り授業を受けた。それから数時間が経過し 今は帰りのSHRをおこなっていた。
「では、これでSHRを終わります。気をつけて下校してください」
SHRが終わると 下校する者や部活 クラブ等で残る者などがいた。因みに龍崎は前者だ部活にもクラブにも所属していない。本人曰く面倒だそうだ。
龍崎はいつものように改札を通り自分の家へと向かっていた。その時、背後から何かの気配を感じた。
「……」
龍崎はゆっくりと振り向いた。だが、そこには何もいなかった。
だが龍崎はその場を見つめていた。気づいていたのだ。何者かが近づいていることを。
そして龍崎は殺気を放ち警戒態勢を取った。
だが何も現れなかった。
「いるのは分かっていますよ」
すると、目の前の地面が歪み そこから頭部だけしかない巨大な妖怪が姿を現した。目は大きく口は耳元まで裂けており、 その口内に生えてる歯は鋭利に尖っていた。
「私の気配に気づくとは…貴様 そこらの妖怪とは一味違うな」
その場に響き渡る低い声。龍崎は屈することなく返した。
「これはどうも。貴方は…」
その質問に対しその妖怪は淡々と答えた。
「私は妖怪『たんたん坊』。『妖怪城』の主である。して、貴様の名は何という?」
相手が名乗ると龍崎は礼儀に習い答えた。
「『龍崎 忍』 そう呼んでください。それで…その『妖怪城』の主様が俺に何の用でしょう?」
するとそのたんたん坊という妖怪は口を開いた。
「簡単な事さ。お前…『ゲゲゲの鬼太郎』というのを知っているな?」
「『ゲゲゲの鬼太郎』?あの幽霊族の末裔ですか」
突然出された名 『ゲゲゲの鬼太郎』 。龍崎はこの妖怪については少し記憶があるのだ。幼き頃 己を育ててくれた老婆から聞いた昔話 その話に出てくる人物が『ゲゲゲの鬼太郎』だ。
「確かに知っていますが…それで何ですか?」
するとそのたんたん坊はその人物を憎むかのように低い声で語り出した。
「アイツは妖怪でありながら我ら同族を襲うのだ。理由は単に人間供を助けるだけ。人間なんぞ地球の環境を蝕んだ上に簡単な事で争いを起こし殺しあう。こんな憐れな奴らに加担するとはバカバカしいとは思わんかね?」
その質問に龍崎は「いや…分かりませんね」と返した。それでもたんたん坊は続けた。
「それ故に我らは今宵に妖怪城を復活させ鬼太郎たちを抹殺する。どうだ?我らと共に憎き鬼太郎に裁きをくだそうではないか?」
たんたん坊の話を聞く限り、要は自分の目的達成の為の勧誘。だが、龍崎にとってはその様な事は一番嫌いな面倒ごとである。龍崎は断ろうとするも考え直した。
(鬼太郎を抹殺…要するにあの有名な鬼太郎と戦うことが出来るってことなのか…?なら……コイツを少し利用してみる価値はあるな…)
たんたん坊を利用する事に決めた龍崎は笑みを浮かべると頷いた。
「分かりました。貴方に加勢しましょう。ですが、何故 俺なのですか?俺は人間の学校に通っています。貴方にとって気に食わないじゃないですか」
龍崎は自分の制服を見せるとたんたん坊は答えた。
「確かにそうだ。妖怪が人間の学校に通っているのは気に食わん。だが、私にとってはどうあれ、人間供を苦しめれる事が出来るのなら何だっていい。それだけだ」
「成る程。分かりました。して、いつ頃そちらへ?」
「今すぐだ。もうじき13本目の人柱が揃う。そうなれば妖怪城は完全復活するのでな。それと…」
「?」
たんたん坊は黙ると龍崎を睨んだ。
「万が一 他言したりするような真似を見せたらすぐに殺す。いいな?」
低い声でたんたん坊 は龍崎に忠告した。龍崎はそれに対しニッコリと笑うと頷いた。
「では、私は先に行っておる。因みにこれ住所」
「これはこれはご丁寧に」
龍崎に場所の書いた地図を渡すとたんたん坊は姿を消した。
姿が消えた瞬間 笑顔だった龍崎の目の色が変わった。
(ゲゲゲの鬼太郎…か。戦ってみたいな…)
その目は戦闘のワクワク感で埋め尽くされていた。