10月31日。その日はケルト神話における収穫を祝うお祭りであり、アメリカでは子ども達が仮装をしお菓子を貰う、日本では良い歳した大人達が露出の多い服装やアニメのコスプレをし、渋谷をただ歩き回りその様子をSNSに投稿するイベントである。
そして、その同時刻。
「猫姉さんがハロウィン嫌いだったなんて知らなかったよ〜…ごめんね?こんな時にイベントに誘っちゃって」
「いいわよ。スイーツに罪はないからね」
その映画館の列には猫娘と、彼女と同じ格好をしたまなの姿もあった。猫娘はハロウィンに対して良い思いを持ってはいなかったが、スイーツが出るならば話は別であり、まなに連れられて、限定スイーツが配布されるイベントに参加する事になったのだ。
それから彼女らは映画館の受付へと入ると、受付へとチケットを渡す。
「はい。んじゃ、これ掛けて中入ってくださいよ〜」
「……」
その聞き慣れた声に猫娘の目が変わり、VRゴーグルを受け取る手が止まった。
「…ほら、突っ立ってないで早く席に……げぇ!?猫娘!?」
そのゴーグルを渡したのはねずみ男であった。
「ガッカリ…アンタがいるって事はスイーツ配った後に高い布団を買わされる類の詐欺イベントってことね?」
「違うわ!!俺は正式にアルバイトとしてやってんだい!!」
ねずみ男がそう言うとまなは首を傾げる。
「え?ねずみ男さんはハロウィンとか楽しまないの?」
「け!だーれがあんなもん!!ハロウィンなんざ商業主義の産物!人は混むしゴミは散らかるし、全くロクなもんじゃねぇ!本当にハロウィン爆発しろっ!ってんだ」
「あははは…」
「……何か否めない…」
ーーーーーーー
それから猫娘達が劇場へと入っていくと、ねずみ男はため息をつく。
「全く。なんで猫娘まで来るんだか」
すると
「すいません。チケットを」
「はいはい〜」
再び来客の声が聞こえ、ねずみ男は軽く返事をしながらゴーグルを手渡した。
そんな中であった。
「コイツをつけて……てぇ!?」
手渡した際に相手の顔を見た途端にねずみ男の全身に鳥肌がたった。
「あ…アンタは…!!」
「あ?あ〜テメェは」
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
ー
その後、猫娘はまなと共に席に座りゴーグルを掛ける。因みにまなは映画の説明で流石に怖気付いてしまったのか、手を握り締めていた。
それから映画が始まるのであった。
「…」
映ってくるのは定番の逃げ惑う人々やそれを追うゾンビ目線の映像。更にその光景は映画館であった。
「ひぃ…!!猫姉さん…!!」
「VRVR。慌てすぎ」
その映像は劇場の入り口へと向かって行き、その扉をゆっくりと開く。
そんな中であった。背後から近づいてくる足音と気配を感じ取った。その気配に猫娘はあらかた検討がついていた。
そう。それは嫌がらせである。映画館にてよくある暗闇である事を逆手に痴漢などを行う輩がおり、更に今回は視覚どころか感覚もあやふやとなるVRゴーグルを被っているため周りの皆も目にしていないので窃盗なども働く輩もいるのである。
その類であると勘付いていた猫娘はそのまま手を伸ばし___背後から伸びてきた手を掴み投げた。
「えぇ!?」
「…やっぱり。こんな事だろうと思ったわ……」
まなが驚く中、猫娘はゴーグルを取り出して目の前の現実へと目を向けた。
そこには____
_______10人以上もの青白い顔をした人間がこちらへ牙を向けていた。しかもその顔色だけでなく、瞳の色も人間と異なり真っ赤に染まっており口元からは鋭い牙がのぞいていた。
「え!?」
「か…囲まれてる!?」
すると
猫娘とまなが驚く中、目の前のモニターが光出し、そこには以前ゲゲゲの森へと攻めてきた西洋妖怪である吸血鬼『カミーラ』の姿が映し出された。
『この吸血劇場の支配人としてカミーラがようこそと言っておくわ』
「アンタは…西洋妖怪!」
『オ〜ホッホッホ!さぁ、ここからがショータイムよ」
パチンッ
画面越しに高笑いしたカミーラは指を鳴らすと、数人もの青白い顔をした女子高生達が向かってきた。
「まな!逃げるわよ!」
「う…うん!」
猫娘は即座にまなを抱き上げるとその場から跳躍し出口へと駆けていくのであった。
ーーーーーー
劇場から出た猫娘とまなは、その目の前にある入り口へと来ていた。そこには先程まで受付をしていたねずみ男の姿があった。
「アンタ…!まさか西洋妖怪と組んでたって訳!?」
そう言い猫娘は目を鋭くさせ、口を耳元まで裂けさせると戦闘状態へと移行して長い爪を向けた。
だが、そんな彼からはいつもの怯える反応が見られなかった。
「…ん?ねぇ!聞いてるの!?」
すると、彼がゆっくりと振り向き此方へと顔を向けてきた。だが、その顔は___
____先程の女子高生達と同じく真っ白に染まり赤い目と鋭い牙を光らせていた。
「まさかねずみ男さんまで!?」
「成る程…アイツも嵌められたって訳ね」
まなが驚き、猫娘も彼の様子と日常の行動から納得すると、すぐさま彼の前に立つ。
それに対して、ねずみ男も口元から牙を光らせた。
「シャァァァ!!」
すると
ガチャ
振り向いて動いた際に彼の身に纏っているボロい布が入口の取手に引っ掛かると、それによって入り口が開き、巨大な風が発生した。
「おわぁぁ!?」
その風は外へと吹くかのように、その風によってねずみ男はその場から出口の向こう側へと吹き飛ばされていった。
「……」
その光景を目にしていた猫娘は疑いながらも慎重に扉へと手を掛ける。だが、その扉が開くことはなかった。
「一時的なものだったみたいね。完全に閉じ込められたわ」
「そんな…!」
すると 先程出てきた劇場の扉が開き、吸血鬼と化した女子高生たちが再び此方へと向かってきた。
それを見た猫娘は咄嗟にまなの手を握る。
「こっちよ!」
「あ…うん!!」
その時であった。
「どけ」
「「!?」」
突如として第三者の声と共に襲い掛かろうとしてきた女子高生達が壁へと吹き飛ばされた。
その聞き慣れた声を耳にした猫娘とまなは足を止めて振り返ると驚きの表情を浮かべた。
「な…なんでアンタがここにいんのよ!?」
そこにはいつもと異なりTシャツとダボダボのズボンといったラフな服装の龍崎が立っていた。
「知り合いにスイーツを頼まれていてな。それよりも妙に感じ慣れてる妖気があると思えばやっぱりお前か」
すると、彼の背後から吸血鬼と化した人間達が襲いかかってくる姿が見えた。
「龍崎くん!後ろ!!」
「分かってるさ」
まなの叫び声が届くと同時に龍崎は拳を握り締める。
その瞬間
__!!__!!__!!
数発もの打撃音と共に龍崎へと襲い掛かろうとした吸血鬼達がその場に倒れた。
「やっぱり。気絶すりゃ黙るようだな。さてと…?」
ーーーーーーーーー
ーーーーー
ーー
龍崎と合流した猫娘とまな。そんな中で龍崎はあくびをしながら現在の状況を分析した。
「成る程。ドアが開かないのか」
そう言い龍崎は猫娘達と同じく扉へと手を掛けるも開くことは無かった。
「アンタでも無理なの?」
「あぁ。映画館全体を特殊な魔力が覆ってやがるからな」
「て事は、あの吸血鬼を倒さないといけないって訳ね…」
「いや、アイツを倒しても意味がねぇぞ」
「え?」
猫娘が驚く中、龍崎は扉の取手を指でなぞる。
「感じられる魔力の質が違ぇ。どっちかと言えばあの金髪の小娘に近いな」
「アニエスの!?」
「あぁ。俺がゴリ押しすりゃ開けられるが、まずナワバリで勝手な真似したあの吸血鬼を殺さなきゃ気が済まねぇ」
そう言い龍崎はその場から奥の部屋へと目を向ける。
「お前らはどうするんだ?」
「私は……」
猫娘は自身の横に立っているまなや倒れている女子学生達へと目を向ける。龍崎はいまだに得体が知らないために何があるか分からない。だが、それでもここにいればいずれ他の吸血鬼にされた人間達が襲ってくるだろう。
「〜!!」
故に猫娘は苦渋の末に決める。
「一緒に行くわ…それに、奴の居場所についてはだいたい目星もついてる」
「そうか。でも、俺の邪魔すんなよ」
「くぅ…分かってるわよ……」
それから3名はカミーラの元へと向かうのであった。
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ーーーーー
ーー
場所は変わりその映画館の数ある部屋のうち、ソファーや古時計などが揃えられた洒落た部屋の_____
_____鏡の中に広がる“その部屋”では。ソファーに座りくつろぎながらワインを飲み、目の前にあるモニターで猫娘、まな、龍崎の行動を見物するカミーラの姿があった。
「うふふ。甘いわね。確かに私は“ここにいて”…“ここにはいない”。貴方達に見つけられるかしら?」
その時であった。
「成る程?鏡の中に魔力で別空間を作ったのか」
「!?」
背後から声が聞こえ、すぐさま振り向くとそこには立て掛けてある鏡から入ってくる龍崎の姿があった。
「え!?は…早くない…!?」
「あぁ。お前の魔力が鏡の中からダダ漏れだったからな。一直線ですぐに見つかったよ」
「ッ…面白くない。けど…いいわ。相手になってあげる」
アッサリと潜伏場所を暴かれたカミーラは舌打ちをするものの、すぐに立ち上がると龍崎に向けて鋭い目を向ける。
すると、カミーラの身体が次々と分裂し無数の蝙蝠と化していった。
「勝てるかしら?私達崇高な“西洋妖怪”に貴方のような“妖力のない日本妖怪の雑魚”が」
そして、その言葉が言い終える頃には、龍崎の周囲を無数の蝙蝠が覆っていった。
そんな中である。
「いやそりゃそうだろ。普段から妖力なんざ使わねぇんだから」
「え…?」
龍崎がその一言を放つと共に髪を全て後頭部に纏め、上着を脱ぎ捨ててタンクトップとなる。
その瞬間
龍崎の全身が蒼く光ると共に蒼い炎が溢れ出した。
「な!?なんなのよ…この妖力の量は!?」
「お前に一つ教えておいてやる。妖力ってもんは制御すればいくらでも応用が効く。威嚇にも攻撃にもな」
溢れ出したその炎は空間全域へと伝わっていき、龍崎を取り囲んでいた蝙蝠を次々と焼き払っていった。
「分かってるだが、それは無限って訳じゃねぇ。バッテリーみたいに使い終わったら寝るなり食うなりして充電しなきゃいけねぇのさ。だから俺はそれを防ぐために普段は妖力を消してるんだよ」
「クソが!!」
その威力にカミーラ自身も耐え切れないのか、すぐさま分裂体である蝙蝠を収集し、本体へと戻る。
だが、それが彼女の敗因となった。
彼女が本体へと戻った時にはすでに、炎を纏った拳を振りかぶっている龍崎の姿があったのだ。
「ふん」
「ガハァ!?」
その拳は見事にカミーラの顔面へと深く突き刺さると彼女の顔を歪めながら吹き飛ばした。
「に…日本妖怪の分際で___ぐふぉ!?」
「血筋だけが取り柄のゴミが何いってんだよ」
壁へと叩きつけられ、その場に膝をついたカミーラが顔を上げるよりも早く。接近した龍崎は彼女の顔を蹴り上げた。
「ぐ…うぅ!?」
「おいおいたった2発で終わりか?もっと楽しませろよ。俺を雑魚呼ばわりしたんだからよぅ」
そう言い龍崎はその場に倒れたカミーラに向けて腰を下ろすと彼女の髪を無理やり掴み上げた。
「お前らから喧嘩ふっかけて来たんだぞ?なのに先にのびちまうなんざ、カッコつかないだろ」
「く!?ふざけんじゃねぇ!!!」
カミーラは激昂の叫び声を上げると、鋭い爪が生える強靭な腕を龍崎に目掛けて突き出した。
だが
「その程度の突きで俺が殺せるとでも?」
「ぐぁあああ!!!!」
龍崎にはその攻撃など蠅が止まる程度のものであり、アッサリと掴むとその腕を握り潰した。
それによって、その場に彼女の苦痛に悶える叫び声が響き渡る。
「お前らのボスに伝えておけ。もしまた日本で勝手な真似をすれば俺が直々に出向いて殺すとな。ま、___
_____生きて帰れればの話だが」
その一言と共に龍崎はカミーラの髪から手を離し、倒れ伏す彼女に手を向けた。すると、ビクターの時と同じく、龍崎の腕に蒼い炎の玉が作り出された。
「わ…私は…崇高な吸血鬼……」
「分かった分かった。あの世で好きに自画自賛しな」
その時であった。
龍崎を結界が覆う。それは映画館を覆っていた魔力と同じものであった。
「…!!!」
咄嗟に龍崎は生成した妖気の玉を目の前の結界に目掛けて叩きつける。
_______ッ!!!!!
叩きつけられた妖気の玉はその衝撃によってその場で大爆発を起こし、巨大な結界をガラスが壊れる音と共に粉々に破壊して周囲を黒煙へと包み込んだ。
そして、龍崎は咄嗟に腕を振り払い、カミーラがいた場所へと目を向ける。
だが、そこには既に彼女の姿はなかった。
「逃げられたか」
ビクターの時と同じである。龍崎は再び獲物を逃してしまったのであった。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
その後、カミーラを撃破した龍崎は鏡から元の世界へと戻ると、そこにはまだ猫娘の姿があった。
「犬山は?」
「鬼太郎と一緒に帰ったわ…」
「そうか。俺は恥ずかしながらあのババアを仕留め損なった」
カミーラを取り逃したことを伝えると龍崎は背負っていた服を再び着用して髪を解く。
「俺は帰る。じゃあな」
「待ちなさい!」
龍崎が入り口へと向かおうとすると、猫娘は大声で叫びながらそれを止めた。
「何だ?」
「良い加減教えなさいよ…アンタの目的は一体何なの!!私達の抹殺!?西洋妖怪の撃退!?遭う度にアンタは私達の敵を追い払うわ私達に敵意を向けるわ…本当に訳がわかんないのよ!!」
その叫び声はその場に響き渡り周囲を沈黙に包み込む。
だが、猫娘のその叫びに対して龍崎は何の感慨も浮かぶ事がないのか、淡々と答えた。
「そうだな。今回は普通に俺のナワバリで勝手な真似をしたから…だな。別にお前らと西洋妖怪のイザコザなんてどうでも良い。日本を荒らすなら俺“達”が相手をする。ただそれだけで、それ以外の何でもない」
「……」
その言葉に猫娘は何も答えることはなく、ただ彼の青い瞳を睨む。
「何だ?疑ってるようだな」
「えぇ…何か“別の目的”があるように思えるわ…」
「あははは!ご名答!」
猫娘の答えを聞いた龍崎はこれまで見せた事が無いほどの高笑いをすると猫娘へと目を向ける。
「そうさ。さっき言ったのは理由の半分に過ぎん。もう一つあるのさ。“俺達”新世代に課された任務がな」
「新世代…?」
「あぁ。俺達の目的は鳳凰を_____」
龍崎は猫娘へと話そうとした。己の真の目的を_______
その時であった。
〜♪
「ん?」
突如として龍崎の携帯が鳴り出した。その音に龍崎は答えようとした口を止めて携帯を取り出す。
「もしもし?あぁお前か“狐鈴”……ほぅ?また西洋妖怪か……分かった」
通話を終え、電源を切ると龍崎は入り口へと向かう。
「な…待ちなさい!!」
「悪いな。急用が出来たからまた今度話してやるよ。その時は鬼太郎と『霊壱』も一緒にな」
「え…!?」
その言葉と共に龍崎は部屋を出ていき、後から猫娘が追いかけた時には既に彼の姿は消えていたのであった。