それから数週間が経過した。
ゲゲゲの森を出て妖怪が管理するアパートへと身を置いたアニエスは昼夜問わずアルカナの指輪を探し回っており、東京近辺は勿論だが、果ては九州にまで飛んでいったらしい。
「ハッ。毎度のこと、ご苦労な事だな」
そんな情報を境港のとある飲食店にて、カニを頬張りながら聞いていた龍崎は笑みを浮かべる。
「手伝ってやったら?そうなれば、アンタのナワバリも落ち着くんじゃないの?」
そんな彼を目の前からビールを口にする大柄な女性妖怪『八尺様』が龍崎に提言するが、それに対して龍崎は首を横に振った。
「なぜ俺が?他所の都合は他所の都合だ。それにこれ以上騒ぎを起こせば魔女もろとも西洋妖怪共を絶滅させればいいだけだしな」
「アンタが言うと冗談に聞こえないのよ…」
「別に俺は冗談を言ったつもりもないけどな…奴らを追い返してからまだ全然経ってねぇ。相当な力を蓄える必要があるからしばらくは大丈夫だろ。おかげでこうして旅行も出来るんだからな」
そう言い龍崎は2本目のカニに手を伸ばし齧り付いていった。
その時であった。
___!!!!!
東の方角からとてつもない魔力が感じ取れた。しかもそれは感じられたその瞬間から益々巨大化していく。
「龍崎…これって…」
八尺が冷や汗を流しながら龍崎へと目を向けると_____
「…来やがったか。しかも俺の留守を狙ったか…!!」
____その龍崎の表情は“憤怒”に満ちていた。それと共に全身からは青い妖気が溢れ出し、カニを握り締めるその腕には筋が湧き上がっていく。
「ちょ…店の中よ!!」
「分かってる」
八尺が落ち着く様に声を掛けると、龍崎は頷きながらその場に金銭を置いた。
「俺は先に帰る…じゃあな」
龍崎はすぐさま店を出ると一気に駆け出し、東京へと向かって行ったのであった。
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そして、龍崎は驚異的な速度で空を駆け抜けていき、たった数分という時間で東京____
_______否、バックベアードの前へと到着したのであった。
「ふん…ッ!!!」
「うぉ!?」
「な…!?」
空に浮かび上がる不気味な一つ目の妖怪『バックベアード』と、アニエスの箒に乗りながらバックベアードと共に対峙していた鬼太郎の間に突如として龍崎が飛来したことで両者は驚き、戦闘体制を解除した。
「き…貴様は!?」
「龍崎!」
「おいおい。随分と荒らしてくれたじゃねぇか」
両者が驚きの声を上げる中、到着した龍崎は髪をまとめ上げ、オールバックにしながら周囲の状況へと目を向ける。
東京の周囲には所々に消滅した建物や、何人もの人間が倒れており、パニック状態へと陥っていたのだ。
そして、龍崎の鋭い目がバックベアードへと向けられる。
「よぅバックベアード。崇高なる西洋妖怪の親玉が俺のような若造の留守を付け狙ってくるなんざ、随分と小せぇじゃねぇか」
「くだらぬ。私が来た時に貴様がいなかっただけの事だろう?」
「それはそれは。妖気を感じ取れるくせに随分な言い訳だな」
「ほざけ」
龍崎の言葉にバックベアードは目を光らせると、その黒い球体から生えている針のような触覚を唸らせた。
「貴様が六将だろうと…恐るに足らず…!!!」
その瞬間
「がぁ!?」
「きゃ!?」
鬼太郎と箒に乗っているアニエスを黒い妖気が覆った。
「な…こ…これはアイツの…!?」
黒い妖気が全身を覆う中、アニエスは四肢へと力を入れようとしたが、何度やっても動かすことは叶わなかった。それは鬼太郎も例外ではない。
その一方で
「…ほぅ?」
2人と同じくその拘束を受けていた龍崎は笑みを浮かべながら身体を巡る妖気へと目を向ける。
「妖気…いや、魔力で固めやがったか。妖気を撒き散らすだけの三流じゃ使いこなせねぇ技だ。なかなかだな」
何度も見ているのか、その技に対して賞賛の言葉をのべる、
だが、その笑みも一瞬にして消え、憤怒に染まる。
「…でも俺よりも弱ぇ…ッ!!!!」
その瞬間
「ぐぅ!?」
龍崎を覆っていた黒い魔力が消え失せると、今度は龍崎の全身から発せられる青い妖気がバックベアードを包み込み、その巨大な身体を硬直させたのだ。
「な…ベアード様!」
バックベアードの真下にあるタワーの屋上にて、同じく現れていたヴォルフガングが声を上げる中、バックベアードを包み込む青い妖気は更に輝きを増していった。
「言い忘れだが、俺はそこらの三流とは違ってちゃんと妖気のコントロールをマスターしてるからな。んなもん朝飯前だ」
「ぐぎ…きさ…ま…!!!」
「どうした?西洋妖怪のトップがこのザマか?」
「舐めるなぁ…!!!」
対するバックベアードは眼力を更に強める。すると、先ほどよりも更に濃密な魔力が内側から溢れ出し、全身を覆っていた妖気をかき消した。
そして
「ヴァアアア!!!!!」
巨大な雄叫びと共に目玉の先から黒い光線を発射した。それに対して龍崎は拳を握りしめる。
「危ないぞ!!!」
「黙ってろ鬼太郎。ハッ。魔力の放出か?んなもんテンプレすぎて面白くねぇ。そういうのはなぁ…こう使うんだよ…!!!」
その言葉と共に、龍崎の足元が大爆発を起こし、それを推進力に龍崎の身体が一瞬にして、光線へと向かっていく。
「そして光線自体も妖力を集中させれば案外脆いものなんだなぁ…!!!」
飛び込む中、握り締められた拳が光出すと青い炎へと包み込まれていき、それはやがて龍崎の全身を包み込んだ。
その瞬間
「死ね」
龍崎の身体が青く発行すると共に一筋の光となり、一瞬にして光線もろとも、バックベアードの目玉の中心、もとい胴体を貫いた。
それによってバックベアードの貫かれた部分が青く燃え始めると同時にその超巨大な身体を青い炎が侵食し始めていった。
「がぁぁぁあ!!!!!き…ぎぃぁあああ!!!」
青い炎によって身体を焼き尽くされていく中、バックベアードの悲痛な叫び声が響き渡る。
「どうなってるの…!?」
「龍の炎だよ」
その光景を鬼太郎と共にアニエスが見つめていると、バックベアードを貫いた龍崎が降りてきた。
「龍の炎…!?」
「俺の龍としての妖力と妖怪としての妖力の応用でな。生み出した妖力を掛け合わせて炎に変えて奴に放った。くらっちまえば最後、死ぬまで消えねぇ」
「嘘…!?」
その言葉にアニエスは再びバックベアードへと目を向けるが、その身体を包み込む炎は消えるどころか更に激しさを増していった。
「き…お…おのれ六将ぉおおおおおお!!!!」
「ハッ。まだ声が出せんのか。普通のやつなら数秒で消滅だが、その点はさすが西洋妖怪のトップって言ったとこだな。まぁ俺のナワバリに攻めてきた自分を恨め」
「くぅ!?こんなものぉおおおお!!!!」
「…お?」
すると
「ぐぁ!!!」
燃え盛る炎の中、数メートル程度の小粒の黒い塊が飛び出してきた。
その黒い塊はやがて形を変えていくと、一つ目を形成し、小型のバックベアードとなる。
「なるほど分身か。利口なやつだな」
「分身だと…!?」
「妖力の応用だ。自分の身体をイメージして妖力の半分を犠牲に作り出す技でな。まぁ泥田坊とか実態のないやつは任意で作れるが、俺たちのような実態がある場合は相当の技術が必要になる」
龍崎が説明する中、小さくなったバックベアードは背後にある空間へと穴を開ける。
「ぐぎ…!!この借りは必ず返すぞぉ…!!六将ぉお…!!!」
そしてバックベアードは最後の捨て台詞と共にその空間の中へと消えていったのであった。
それと同時に近くのビルの屋上で待機していた西洋妖怪達も現れたアデルと共に姿を消した。
「ハッ。また逃げやがったか」
バックベアードや西洋妖怪が去っていき、再び周囲の空気が戻ると龍崎は舌打ちをする。
その一方で、鬼太郎は下へと降りていき、バックベアードに操られていた猫娘や砂かけ婆達の元へと駆け寄っていった。
「皆…よかった…」
その姿を目にしたアニエスは以前とは異なり、胸を撫で下ろす。以前の彼女ならばすぐさま指輪のためにその場から立ち去っていたが、彼らの優しさにふれて少しは気にかけるようになったのだろう。
「…助けてくれてありがとね…龍崎…龍崎?」
そんな中、アニエスはバックベアードを撃退した龍崎へとお礼の言葉と共に目を向けると、そこにはアニエスに目を向ける龍崎の姿があった。
「どうしたの?」
「いや、まだ何も終わってねぇからさ」
すると 龍崎は彼女に向けて人差し指を向けた。
「次はテメェだ」
「…え?」
その瞬間 龍崎の腕から青い炎が溢れ出し、アニエス目掛けて放たれた。