『虎』
現世に生きる地上最強の肉食獣の一体であり、種によっては熊をも常食すると言われている。さらに虎とは元々は神獣の一角であり、その力は神話において神に等しい存在とされていた龍と対をなすといわれていた。
その神獣としての虎の名は『天虎』
かの武神『毘沙門天』と死闘を繰り広げ、彼を認めその背に乗せて世界を駆け巡ったとされている虎である。
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目の前に立つその存在に眉間に皺を寄せる。
「俺の父親である初代天龍と互角に渡り合った虎がいるって聞いていたが、まさかテメェがその血筋とはな」
目の前に立つその存在こそ、自身の父親を苦戦させた最強の虎の末裔であったのだ。
猫娘からはかつての面影はない。結ばれたリボンが解け、四肢の筋肉が発達し、更にその鋭い眼光はさらに鋭さを増していた。
「ゴルル…!!!」
すると、喉を唸らせながら猫娘はゆっくりと態勢を前のめりにさせる。
「お?まさか突進か?」
動物の半妖によく見られる突進に対して、龍崎は構える。
その瞬間______
_____猫娘の姿が一瞬にして目の前に現れた
「なに…!?」
その速度に動揺しながらも咄嗟にガードをするが既に遅い。
「グァアォオ!!!」
「がはぁ…!」
迫った猫娘の握り締められた拳が腹に目掛けて突き刺さったのだ。
それによって、龍崎の身体は次々と岩場の岩石を貫きながら吹き飛ばされていった。
「く!?」
吹き飛ばされる中、咄嗟に妖気を発動しその推進力で威力を軽減させて着地するが、その一撃の痛みはまだ残っていたのか、その場に膝をつく。
「ぐ!?…」
全身に巡るのは今まで感じた事がない程の明確な痛み。当たりどころが悪ければ確実に意識を持っていかれただろう。
「まさか…暴走してこれほどとはな…」
そう言い、ゆっくりと立ち上がる龍崎の目の前には、いつの間にか追いついた猫娘の姿があった。
「ゴルル…!!」
その顔からは理性は感じられない。真っ白い獣の如き目は立ち上がった自身を捉えると、すぐさま次の一撃を放つ用意をしていた。
「グラァァァッ!!!!」
「まぁ俺もやられっぱなしじゃいられないんでな…!!」
猫娘の拳が迫り来る中、龍崎は全身に妖力を流し表面から放出させる。
すると、髪がゆらめくとともに龍崎の瞳が青く輝き、全身から水色のオーラが現れ黒い稲妻が迸り始める。
「ここまでさせたんだ。少しは楽しませてくれよ…?」
そして、龍崎は構える。
「グァアアア!!!!」
肉食獣の如き雄叫びと共に、猫娘の拳が迫る。
対して、龍崎は構えた腕を迫り来る拳目掛けて変化させた。
その瞬間
___【地獄武闘】『三途の川』
「ふん…!!!」
龍崎の手が動き出し、迫り来る猫娘の拳をまるで川に物を流すかの様に滑らかに受け流した。
「やっぱりな。暴走した分、動きも単純すぎる」
「ゴルル…ッ!!!」
その一撃を捌かれた事で、喉を唸らせた猫娘はその体制から今度はこちらに向けて長い脚を振り回す。
「お!?」
咄嗟に龍崎は先程と同様にその蹴りを捌く形で避ける。
「危ねえ…直撃してりゃ肋骨は折れてたな…!!」
冷や汗を流しながらもその蹴りを躱した龍崎はすぐさま猫娘の背後へと移動した。
「だが、それも背後を取られちまえばおしまいだ」
その瞬間
___【地獄武闘】『針の山』
「ガハァ!?」
猫娘の全身へと6つの連撃が放たれた。それによって、猫娘は息を吐き出すと共に、龍崎に反撃する事も出来ず、その場から地面へと倒れたのであった。
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「ふぅ…まさかここまでとはな。流石に驚かされたぞ」
龍崎は猫娘の元へと降りると、彼女に近づいていく。今の彼女は意識を失っており、先程まで身体に浮かび上がっていた模様が消え失せていた。
「鬼太郎だけに望みを掛けてたが、鬼太郎よりもお前の方が良さそうだな」
先程の猫娘の強さはまさに規格外であり、自身に血を流させる程である。以前の彼女とは比べ物にならない変化と言えよう。
故に、龍崎は猫娘に手を伸ばす。
「先にお前を鍛え上げて戦力にするか」
その時であった。
「髪の毛針!!!」
「ん?」
森の奥から無数の髪の毛針が飛び出してきた。それに対して龍崎は猫娘から離れる形で後退し、地面に突き刺さった髪の毛針を避ける。
「ほう?妖気の練り込み具合が良くなっている…」
その言葉と共に龍崎は倒れる猫娘の前に立った鬼太郎へと目を向ける。
「そこをどけ。ソイツはそのままにしておくのは惜しい」
「ダメだ!猫娘は絶対に渡さない!」
そう言い鬼太郎は猫娘の前に立ちはだかる。
「は?何言ってんだ。お前も見てただろ?ソイツの本来の力を。ソイツは猫でありながら『虎』の力を宿す貴重な存在。その力を使いこなさずにいるなんて勿体ねぇだろ?」
「だからお前に渡せと言うのか?絶対に断る…ッ!!」
「ハッ。さすがだ。仲間のためなら命もはる…か。だがな…」
鬼太郎が言い掛けたその瞬間_____
______龍崎の全身から再び妖気が溢れ出し、鬼太郎へと向けられた。
「バックベアードごときに手こずってたお前に俺が止められると思うか…?」
「ぐ…!?」
その妖気の量に鬼太郎は全身が震え上がった。先程まで猫娘と戦っていた時とは明らかに質も量も違っていたのだ。
だが、それでも鬼太郎は猫娘の前からは動かなかった。
「…」
一方で、龍崎は鬼太郎が怯んだと見るや否や、放出させた妖気を潜めた。
「……まぁいいか」
龍崎は妖気の放出を止めると、両手を叩く。すると、周囲の景色がモヤの様に消えていき、元の広場へと景色が変わった。
「景色が…」
「異ノ世界を消した。まぁお前は別として、猫はどう思うだろうな。自分の中に俺に匹敵する力があると知ったら」
その言葉と共に龍崎は鬼太郎へ背を向けて去ろうとした。
「……ん?」
だが、その行く手を遮る者達がいた。砂かけババアやぬりかべ、子泣き爺など、既に目を覚ました皆が龍崎を包囲していたのだ。
「…へぇ。こりゃ、危ないな」
「帰る前に、いい加減話してもらうぞ…お前の目的を…」
「……」
その問い掛けについて、先程まで笑みを浮かべていた龍崎は鬼太郎や皆のその鋭い目を見ると笑みを消して頷く。
「…もういいか。ナワバリ荒らした連中は後にして、お前らとの敵さんごっこは仕舞いだ」
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わからない。何が起こったのか。目を覚ますと、そこには鬼太郎達の顔があった。
「あ…れ…ここは…?」
「ゲゲゲの森だよ。意識は大丈夫かい?」
「うん…」
鬼太郎に答えながらゆっくりと起き上がる。何故か酷く頭痛がする上に全身が鉛のように重い。見れば自身の身体には包帯が巻かれていた。
その時であった。
__!?
起き上がった瞬間 猫娘は驚きのあまり硬直してしまう。
「な…何でアンタがここにいんのよ…!?」
そう言う猫娘の前には、同じくちゃぶ台に座る龍崎の姿があったのだ。
「よぅ。虎猫」
「と…虎猫…!?」
猫娘が驚く中、龍崎は一息つくと答えた。
「さて、コイツも起きたんで話そうか」