一つ目と違いシリアス多めなので、シリアス苦手な方はスルーしてください。
大丈夫な方は、時間の許す限りお付き合い下さい。
あるところに少女がいました。
その少女は髪も肌も心も、この世の醜さを一切受け付けないような【白】でした。
少女の名はイリ・ラ・ヒール。
醜さを知らぬが故に、染まりやすい少女。
これは彼女の物語。
イリが住んでいる村は王国の片隅にある農村。
住民は20人弱。その内半分を20代から30代の若者が占めている。
村の四方は森に囲まれていて、外界の干渉を否定している。
気候は温暖。一年を通して、凍えるほどの寒さにはならない。
土地は肥えており、採れた作物は村の若者たちが外に売りに出かける。
この村の生活は驚くほど平和で、日々の生活の心配はない。
だが、全ての人が同じように、豊かな生活をおくっているわけではないことを知っている。
例えば隣国の魔獣国。
魔獣国の平民の生活は苦しいらしく、餓死する平民の数が年々上昇しているのだとか。
そのことを知ってからイリは思っていた。
(何で世界は平等じゃないんでしょうか?)
イリは孤児だ。
だが、幸せだ。
家族のように温かく接してくれる、養父と養母に村の皆がいるから。
それに対し、魔獣国の平民たちは家族がいるのに、何故幸せになれないのだろう?
その疑問は、毎日考えているのに霧中の森のように答えの出口が見えない。
それなのに、今日もイリは疑問を浮かべる。
(何でこの世界は平等じゃないんでしょうか?)
(何で私は幸福なのに、魔獣国の平民のみなさんは幸福ではないんでしょうか?)
考えるのは失礼だと思いつつ、考える事をやめない脳は、毎日のようにその先も考えてしまう。
(私が幸福じゃなかったら…魔獣国の平民のみなさんは幸福になるんでしょうか?)
(なら――)
「あ~!やめです!」
そう叫ぶ事で、思考を無理矢理断つ。
その行為にも慣れを感じてしまっている。
だが、やらざるを得ない。
そうしないと更に、いけない事を考えてしまいそうだったから…
「イリ。こっちにきてくれないかね」
その翌日、イリが自室で本を読んでいると養母に呼ばれた。
「分かりました」
おばさまが私を呼ぶのは珍しいですね、などと思ったが淀みなく返事をする。
返事を遅らせると、養母が不安になることがわかっているからだ。
部屋を出る際に、何となく部屋を一瞥する。
必要最低限の家具類と、申し訳程度にある本棚。
そんな、中身の無いような部屋に物悲しさを覚える。
こうなったのは、イリが養母と養父に養われる事になって、部屋を貰ったときに望んだ事だ。
(私には必要最低限のお金しかかけないで下さい)
それであの頃は良いと思っていた。
むしろそうすべきだという確信があった。
幼いなりに、家計のことを考えたからだ。
だけど、今は少しそう言ったのを後悔している。
今年で12歳になるイリは、オシャレというものに少し憧れている。
だが、イリの持っている服といえば、2着の白い簡素なワンピースのみだ。
それは少し寂しい事のように思えたが、捉えどころの無い幻のように想いは消える。
「イリ…まだかい?」
イリを呼ぶ不安そうな声に、はっとなる。
「今、行きます!」
身を翻して部屋から目を逸らした。
いつも見ているのに、今はこれ以上見たくなかった。
デッカイ。
養母のもとに行って、イリが最初に思ったのがこれだ。
正確に言うと、養母の隣にいた男に思った。
筋肉質で、高身長で、髭がもっさり生えていて、村では見たことのない、まるで熊さんみたいな男の人だと。
その熊さんは、イリを見ると二カッと笑って自己紹介をしてくれた。
「俺は、【メンバー】のバスターだ。偽名だが気にすんな」
「私はイリ・ラ・ヒールです。バスターさん、よろしくおねがいします」
偽名ですか、などと思いつつイリも自己紹介をすると、熊さん改め、バスターは困った顔をして養母に耳打ちした。
「お前さんの娘さんは、警戒の字すらしらねえのか?素直なのはいいが…このままじゃ騙されるのがオチだぞ」
イリの常人より優れた耳は、その内容を一字一句違えずに聞き取る。
イリの身体能力が常人を遥かに凌いでいる事を、養母は気付いてはいないだろう。
この家に貰われたときから、過去に誰かに言われた気がするので隠しているから。
「…ああ分かってるよ。イリは今の世の中には似合わないくらい優しいってことは。…だから、アンタを呼んだんだよ」
会話の意味する所は分からなかったが、イリの為を思っての行為だという事は分かった。
それを確認できたら、いつも通りの笑みと態度を保てる。
そう思うこと自体が不信感を感じている証拠なのだが、イリは気付かないフリをする。
(気付いたら破綻してしまうから…)
気持ちを切り替えて養母とバスターを交互に見る。
そして、不審に思われないうちに養母に声をかける。
「おばさま、何を話していらっしゃるんですか?」
「………世間話さ。待たせて悪かったね」
これから何を話すのかは分からないが、あまり良い内容ではないことを察したイリは黙る事にした。
その直感は正しかった。
この出来事がきっかけで、イリの人生はトクベツなモノになる。
これが、後に『残虐で優しい聖女』と呼ばれることになる、イリ・ラ・ヒールの始まり。
彼女はこれから何を為して『残虐で優しい聖女』と呼ばれることになるのかを追っていく。
これはそんな話。
ご読了、ありがとうございました。
主人公イリの成長(?)の物語に、どうか末永くお付き合い下さい。