残虐で優しい聖女   作:オミズ

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第九話です。
お時間とご相談のうえ、音楽を聴きながらお読み下さい。


第九話 少女と教育

旅立ちの準備は面白いほどするすると進んみ、僅か一日で全ての準備が終わった。

元から、イリをファクトリア学園に行かせたかった事もあったのだろうが、それだけではないとイリは勘付いた。

おそらく、養母はイリの顔を見るのが辛いから急いだのだ。

結局、一週間とクロスが定めた期間を五日も前倒しにして旅立つ羽目になった。

 

ちなみに、バスターがイリの師匠になるという話だが、尋ねてみたところ

 

「あ?あの少年が教えてくれるだろうから、俺の師事なんていらん」

 

と、面倒事が減ったとばかりに、清々した笑みを浮かべて答えた。

思わずジト目でイリはバスターを見た。

あまりよくない行動だが、それを責めるような人はいないだろう。

 

現在、クロスがお前に足りないものを教えてやる、と息巻いてイリを外に引っ張って来たところである。

イリを引っ張っている最中、クロスがとても邪悪な笑みを浮かべていたのが、凄く気がかりだ。

 

「さて…イリ。お前に足りないものは何だと思う?」

 

肩慣らしとばかりに、クロスが飛ばした質問をイリは真剣に考える。

 

(足りないもの…心当たりはたくさんありますが、果たしてどれが正解なのでしょうか?)

 

そんなイリを見て、クロスが悦に入っている事を少女は気付かない。

 

「考える必要は無い。今、お前に必要なのは俺の話を理解することだけだ」

 

自分から質問したくせに、問答を交わす気は無い、とばかりに一刀両断。

クロスは今まで以上に一方的に話す。

そんなクロスの様子に、警戒心がMAXまで引き上げられたイリだが、逃げることは出来そうも無い。

観念して話しに付き合う。

一応、ためになる話らしいので…

 

「…分かりました。本題に入ってください」

 

「了解」

 

そう返事をすると、クロスは目を閉じて集中し始めた。

 

…大気が震える。

それに合わせて、イリの体が疼く。

体の内から突かれたような衝撃。

イリは体を硬くさせ、この異常な事態が過ぎ去るのを待つしか出来ない。

 

時間にして数秒。

体感にして数分。

今、景色が揺らぎ…ナニカが発生する。

 

それは、二対の【影】だった。

片方は筋肉質な体。

もう片方は凹凸の激しい体。

何故か、そんな風に見える。

 

(もしかして…男性と女性を模しているのでしょうか?)

 

イリが考察している間に【影】は動き、クロスの横に並んだ。

その光景は、クロスが悪の組織のリーダーかの様に見える。

 

「コレ…何だと思う?」

 

「魔法…ですか?」

 

クロスの質問にイリは間髪入れずに返答をする。

既に、いかに最速でこの話を終わらせるか、にイリの意識は向いていたからである。

最速で駆け抜ける為には、自分の精神的犠牲も許容するつもりでもある。

 

「そう、魔法だ。もっと具体的に言えるか?」

 

「はい。確か…私達の体内にある魔力の性質に応じて、世界中に蜘蛛の巣状に張り巡らされている霊脈に宿っている、様々な現象を発生させる事の総称…でしたよね?」

 

クロスに説明している間、何故か聞いたことがあった様な気がするフレーズが浮かんだ。

 

『魔法で世界は救えない。世界を救うのは一人一人の意思だ』

 

そのフレーズは頭の中で何度も反響して、イリに寂寥感を味あわせた。

身に覚えがないはずなのに…

 

イリの心情を知らずに、クロスは驚いた、とばかりにイリを見る。

 

「よく知ってるな。馬鹿だと思っていたが…もしかして、馬鹿じゃねえのか?」

 

イリを馬鹿にしている発言だったが、イリは別の事に気をとられていた為、無意識に頷くだけで済んだ。

もし、キチンと聞いていたならば喧嘩になっただろう。

そうなれば、お互い不毛な時間を過ごす事になる。

この忙しい時に、それを避けられたのは幸いだろう。

 

「…よし。今からコイツを使ってお前に教えてやる」

 

「何をですか?」

 

「男と女の営みについて」

 

それはすごくためになる話だったが、何が何でも止めるべきだった、と後にイリは語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで…理解したか?お前が初対面で俺にしたことが、どんな事を引き起こす可能性があるか」

 

ニヤニヤと意地悪く笑いながらクロスは問いかける。

対するイリは、耳まで真っ赤になった顔を覆って悶えていた。

 

「その様子だと理解したようだな。微妙に面倒臭い魔法を使った甲斐があった」

 

「ソーデスネ」

 

イリは顔を覆ったままテキトーに返事をする…が、手の隙間からクロスの下半身をチラチラと見ている。

かと思えば、自分の下半身を見ている。

そうして、一層と顔を赤くさせている。

 

「…興味あんのかエロ娘?」

 

その様子に目敏く気付いたクロスがからかう。

声をかけられたイリは、大きく跳ねてからブリキ人形のようにぎこちない動きで、視線をクロスの顔に持ってきた。

 

「…ええっと…ありますけどないです」

 

いまいち要領を得ない返答に、もう一回、とばかりにクロスは視線を飛ばす。

その視線に気付いたイリは、しきりに顔を擦りながら説明を付け足す。

 

「あ~う……あの…その行為が齎す結果には興味がありますが、その行為を体験したいわけではない…という事です」

 

それだけ言ったイリは、回れ右をして全速力で逃げた。

よっぽど恥ずかしかったらしい。

よくよく見れば地面が濡れていた。

 

「しょうがねえなぁ…」

 

そう呟いて、クロスは濡れた地面を辿っていった。




ご読了ありがとうございました。

いたいけな少女に何てものを教えているんだ!!
という建前は置いておきまして、これを教えておかないとR18展開になってBADENDになります。世知辛い世の中です。

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