お時間とご相談の上、ゆっくり読んでいってください。
[追記]物語の進行に影響の無い部分を修正しました。
慣れ親しんだ天井が見える。
それだけを確認して彼女は、何故見えるのかを考えることなく目を閉じた。
「イリッ!寝なおすな!」
目を閉じた矢先の怒声に、イリは億劫そうに目を開く。
そしてトローンとした目で不機嫌そうに、怒声を上げた人物を見る。
「…なんふぇすか?いまねむいんれふ。くまひゃんはとうみんのじゅんひてもしててくらはい(何ですか?今眠いんです。熊さんは冬眠の準備でもしてて下さい)」
イリの一言は、養母とバスターを固まらせるには十分だった。
場の空気を完全に乱した少女は、今にも寝そうなくらいトローンとした目付きをしている。
フラフラと、頭を揺らすたびに枝毛がピョコピョコはねる。
寝起きで頭が回っていないのか、肩に巻かれた包帯に気付いていない。
そんなイリを見かねた養母は、額を押さえて溜め息を吐いてからイリを起こした。
「イリ!起きな!」
「は、はい!起きました!寝てなどいません!」
養母という、家主兼家族の命令には敏感なイリは、目を、くわっ!と見開いて返事を返した。
その反応速度は、野生の動物並であった。
そして、直ぐに後悔した。
イリを見る二人の目が据わっているのである。
「な、何ですか?確かに寝ぼけていたのは悪かったですが、それ以上の事は無かったと思うんですけど…」
たじろきながら言葉を紡ぐイリを、責める様な眼差しで見つめる二人。
どうやら相当に不味い事をやらかしたようだ、と判断したイリは思い出したいようで思い出したくない気分に襲われる。
だが、思い出さないと後が怖いと思い、素直に思い出そうとする。
(昨日…バスターさん…モンスター…!!)
「あ…そういえば、私、森の方に行っちゃたんですね。そして、モンスターに肩を…」
思い出した瞬間、にぶい痛みが胸の中を襲う。
自分はあのモンスターが死ぬことで助かったのだ…
その事が唾棄すべきであるものだと、心が訴えかける。
「いっ。…あはは。…自業自得ですね。村の皆様に入っていけないと言われた所に入ったんですから」
肩から痛みが走ったおかげで、心の訴えから一時気が逸れた。
だが、その事を嬉しく思う自分を軽蔑したせいで、結局は心の訴えが酷くなっただけだった。
「イリ。アンタは確かにアタシらが禁じていた場所に踏み入った。けどね………アタシらは知っていたさ。いつかはこうなるって」
全てに疲れ果てたかのような枯れた顔で、養母は呟くように話す。
その様子に戸惑いを覚えつつ、疑問を口にする。
「それは、私がモンスターのいる場所に行く事が分かりきっていた…という事ですか?」
半ば冗談みたいな疑問だったが、返答はまさかの肯定だった。
「…そうだよ、イリ。まさか、私らが引き金を引くことになるとは思わなかったけどね」
疑問は増えていくばかりで、確信には触れることさえ出来ない。
養母は、あえてそういう風に話しているのだろうとは見当は付く。
それがもの凄くもどかしい。
自分がそんなに信用ならないのか?
そんな暴風の様な感情が脳を埋め尽くす。
だけど、だからこそ、あえて触れない。
確信に触れたい気持ちは強い。
だが、イリの優先順位は基本的には自分の事より家族の方が高い。
故に、家族が話さないと言うのなら、それにイリは従う。
盲目的だろうが何だろうが、これがイリの生き方。
昔、家族に従わなかった事で後悔したような気がしたから…
だから、作り物の笑顔と共にこの空気を壊す一言を宣言する。
「おばさま。バスターさん。お腹、空きました。何か食べたいです」
はあ。
と、盛大に溜め息を吐く二人。
そんな幸せな日常が戻ってきたように思えて、少しだけ心から笑えた気がした。
「分かった分かった。飯にしようぜ」
「イリ、食事を終えたら説教だからね」
これでいい。
そう思ったが、どこか、そんな関係は寂しいとも思いながら返事をする。
「……はい!」
心の声に向き合う覚悟は出来ない。
心の声に耳は貸せない。
だからやめてよ…
お前がコロシタおお前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタ前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタお前がコロシタ
そんなに叫ぶのは…
怖いよ。
でもね…誰にも話せない。
モンスターが死んだことにショックを受けているなんて。
話したら、悪い事だって言われる。
オカシイって言われる。
ねえ…なんで?
なんであなたたちが正しくて、わたしが悪なの?
生き物の【死】を悼むことはイケナイことなの?
私には分からない。
ずっとずっと蓋をして、考えないようにしていたけど…これからはキチンと考えないといけない。
それが…私に出来る唯一の追悼。
名も知らない生き物への―――――
ご読了ありがとうございました。
第2話にて、少女フルボッコです。
合計3話から、ここまで虐める小説は珍しくも無い気がしますが、実際どうなんでしょうか?