残虐で優しい聖女   作:オミズ

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第五話です。
お時間とご相談のうえ、お菓子片手にお読み下さい。

[追記]タイトルと前書きを漢数字に修正しました。


第五話 少女と運命の怒り

「…何故ですか?」

 

少年の放った、【ここ】と別れる覚悟を決めとけ、という言葉。

その言葉が唐突過ぎてイリの思考は追いついていないが、今は否定して考える時間を延ばさないとマズイという直感が働いていた。

故に、駆け引きなどしたこともない頭で、時間を引き延ばす算段を立てる。

 

「……何故かって…分からないのか?」

 

イリの思惑を理解しているのか理解していないのか、少年は妙にゆっくりと話す。

その様子に警戒心が湧き上がる。

焦りを感じながらも、慎重に言葉を吟味して会話を重ねる。

 

「…ええ、分かりません。そもそも、会ったばかりのあなたに指図を受ける覚えもありません」

 

慣れない敵意を少年に向けながらも、イリは脳を酷使して二つの事を考える。

 

一つは、少年との会話の言葉。

どの言葉を選べば会話を長引かせることが出来るか、どの言葉を選べば少年の言葉を否定することが出来るか。

 

もう一つは、何故少年が【ここ】と別れる覚悟を決めとけ、などと言ってくるのか。

会話の中で情報を引き出して、バラバラのピースをつなぎ合わせることが出来るか。

 

「へえ、分かんねえのか。思った以上に温室育ちだな。まあ、いずれは知ることだしな。教えてやるから、足りない脳みそよ~く使って聞けよ」

 

ヘラヘラと笑う少年の声色に暗い色があることが気になったが、それを気にしていると最優先事項が疎かになるので、バッサリ思考から切り捨てる。

 

今が正念場だ。

ここで可能な限り情報を集めて、これからの分析に繋げないといけない。

イリは唇を真一文字に結んで、少年の言葉を待った。

 

「まず、過程を切り捨てて言おう。お前にはファクトリア学園に行ってもらう」

 

ファクトリア学園?

それは確か、王国の中心に近い位置にある学園の名前ではなかろうか?

学べる事は多岐にわたり、作物の仕入れの仕方から魔法の唱え方まで学べるだとか。

そんな高級そうな学園に何故行かねばならぬのか?

そも、そんな場所に行くほどの金などあるわけないだろうに。

 

イリは、あまりに現実味の無い言葉に先程までの警戒心を忘れ、必死で少年の話の現実感を得ようと頭を回していた。

そんなイリを尻目に少年は言葉を続ける。

 

「…んで、その理由だが…お前に教える道理が無いから教えん」

 

否、終わった。

 

「教える道理が無いって何ですかあぁぁぁぁぁ!!!」

 

あまりにぞんざいな少年の対応に、先程まで必死に頭を回していたイリの怒りが爆発して、肉体言語に移り変わった。

飛び掛ったイリを片手であしらいながら、少年は冷ややかな目を向ける。

 

「テメエのそういうところだよ。すぐ頭に血が上って、人様に襲い掛かるような奴には教えれんよ」

 

「む」

 

少年のイラついた言動から繰り出される正論に、思わずイリは動きを止めた。

冷静になって考えると、先程の行動は少し粗野だったかもしれない。

そう思ったイリは、目線を宙に彷徨わせてから、覚悟を決めて真っ直ぐ少年を見つめて頭を下げた。

 

「…すみませんでした」

 

「…殊勝な態度じゃないか」

 

心底意外そうな顔で少年は言った。

それほどまで意外なのか、と思い、イリは自分がどう見られているのか気になったが、今訊くのはマズイだろうと判断したので頬を膨らませるだけにしておいた。

 

「さて、話しは逸れたが何か訊きたい事はあるか?」

 

手を打って少年は視線を集める。

その場慣れした様子に驚きを覚えながらも、自分が未熟なだけかもしれないと思いなおし、結果的に気分が落ち込んだ。

 

「はあ……一つ、訊きたい事があります」

 

無愛想な少年は、イリを一瞥して続きを促す。

 

「私はファクトリア学園に行って、何を学ぶのですか?」

 

話を聞いたときからずっと疑問だった。

ただの村娘に高等な学園に行かせて、いったい何を学ばせたいのか?

 

真剣な顔の少女を見て、少年はニヤニヤと笑った。

そして、触れる。

少女の禁句に。

 

「戦う術だ」

 

「は?」

 

今までの一切の感情が抜け落ちた。

代わりに芽生えるのは、激しい怒り。

今すぐに口に蓋をしてやろうか、と思う暴風の様な気持ち。

 

イリの様子に気付いた村の人々は、驚愕に晒される。

今まで見せたことの無いレベルでの、怒り・嫌悪・敵意、を露わにしている。

見惚れるほどに綺麗に笑う顔は、一切の表情を削ぎ落としたかのように感情をうかがわせず、握り締めた両手からは血が垂れてきている。

 

イリが生き物を傷つけることを毛嫌いしていることは知っていた。

だからと言って、僅か12歳の少女がこれほどまでの感情の表し方をするだろうか?

 

【これ】が自分たちが育ててきた少女か、と思うと恐怖が湧いた。

 

その悪意をぶつけられた少年は、心底面白そうに笑う。

やっと、やっと【バケモノ】の本性が見えた、とばかりに。

 

「…なんだ、いい顔するじゃねえか。この言葉はお前の怒りに触れたか?」

 

「ええ…触れました。私が生き物を傷つける術を学びたいと思っている、と?」

 

イリの声は日常で聞かせる心地良さを失い、氷の様な冷たさに満ちている。

平坦なその声はイリを知るものであれば驚くくらい、イリの声とは乖離していた。

 

「いいや思わないさ。お前はそういう生き物だ」

 

その声を聞いてもなお、少年の態度に恐れはない。

むしろ先程よりも、会話を楽しんでいるかのように見える。

 

「それを知っているのに、何故わたしの怒りに触れたの?」

 

少年の発言のオカシサにも気付かずに、少女は質問を続ける。

その質問に少年は笑う様に、あるいは泣く様に、顔を歪ませて答えた。

 

「お前が嫌いだからだよ」

 




ご読了ありがとうございました。

イリと少年の仲は悪くなる一方!?
おかしいですね。ここまで仲悪くなる予定はなかったのですが…
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