残虐で優しい聖女   作:オミズ

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第七話です。
お時間とご相談のうえ、手首をほぐしてからお読み下さい。


第七話 少女と村の秘密

[part:???]

 

俺の答えを反芻しているのか、イリは黙って目を閉じていた。

 

【嫌い】という感情。

【恐怖】という感情。

 

穢れを知らない少女には、どう映ったのだろうか?

 

醜く映ったのか、それとも尊く映ったのか…

俺には、少女の世界を知る術は無い。

それでも微かに思う。

 

 

どうか…尊く映っていてほしい、と。

 

 

[part:???:end]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリは、たくさんの思いを胸に抱いて目を開く。

眼前に広がるのは、死と暴力の気配に満ちる森を背に、真っ直ぐと立っている少年の姿。

その景色は綺麗だった。

どれもこれも、イリが悪感情を持っているものに満ちているのに、それでもなお、世界は綺麗だった。

 

「考え事は終わったか?」

 

少年の声が静かに響く。

何故かその声に、今までのような不快感を感じず、イリは少年に初めてまっさらな感情を抱いた。

 

「…はい。ありがとうございました」

 

そう告げる自分の声が、どうも新鮮な気がしてくすぐったかった。

少年も新鮮さを感じたのか、意外そうな顔でイリを見つめる。

 

「へぇ…良い変化じゃねえか」

 

「えっと…ありがとうございます?」

 

少し意外だった。

少年がイリを褒めるなんて。

てっきり彼は人を褒める事が無いと思っていたから、少しだけ胸が温かくなった。

思えば初めてかもしれない。

イリの事をキチンと見てくれる人は。

 

村の皆は甘いだけで、優しいわけではない。

彼らはよっぽど危険でなければ、本気でイリの行動を否定したりしなかった。

その甘さに浸っていた自分が否定できるわけではないが、本当の優しさというものは、彼らから与えられていないもの。

 

これはイリの自論だが、優しさというものは嫌いな相手に接するときほど見えるものだ。

好きな相手だったら、優しくしようと誰もが考えるだろう。

逆に嫌いな相手だったらどうだろうか?

優しくしようとは、なかなか考えられないだろう。

 

この少年はイリのことが嫌いと言った。

だけど、イリの質問にはしっかり答えてくれた。

だから、この少年は真に優しい人だと思う。

それを告げたら少年は、馬鹿だろお前、って言うだろうから口には出さない。

その代わり、一つだけイリは問いを投げた。

 

「あの…今更ですが、あなたのお名前は何ですか?」

 

「…クロス。よろしく」

 

少年は短く名乗った。

しかし、不機嫌なわけではなく。

その瞳は、面白い奴だ、と告げていた。

 

「はい。クロスさんですね!よろしくお願いします!!」

 

少女は綺麗な瞳でクロスを見た。

少年はその時に実感した。

 

(ああ、コイツなら綺麗なものも汚いものも、全てを尊いものだと受け入れてくれそうだ)

 

穢れを見ずに、綺麗なものだけを見続ける。

イリは、クロスが想像していたそんな少女では無かった。

 

(コイツの護衛…今ならやってもいい気分だな)

 

隠れ里で育てられている『聖女』を守り抜く…それは上司に命令された事。

どうせ『聖女』とやらは、死と暴力の匂いが染み付いている者を遠ざける様な人物だと思っていた。

 

でも…違った。

イリはこんな自分に近づき、あまつさえ親交を深めようとしてきた。

だから、苛立ちと少しの困惑があって、一度は拒絶した。

それでも彼女はクロスに歩み寄った。

最低限の親交しか深めたことのなかったクロスにとって、その行動は驚くべきものだった。

 

「…あの、クロスさん。一つ、言っておきます」

 

そんな少女はクロスを真っ直ぐ見据えて言った。

何故そんなに真面目そうなのかは分からないが、クロスは続きを促す。

 

「ファクトリア学園なんて、絶ッ対に行きませんから!!!」

 

そう言い放ってイリは、クロスに背を向けて駆け出していった。

一人残されたクロスは溜め息を吐く。

 

(面白そうなのはいいんだが、もうちょい聞き分けが良くならなかったのか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファクトリア学園なんて、絶ッ対に行きませんから!!!」

 

あの後家に帰ったイリは、ドアを開けると同時に養母とバスターに、クロスに言った事を一字一句違えずに言い放った。

 

二人はいきなり言われたので面を食らったが、イリの真剣な顔からして本気なのだと実感した。

これは面倒な事になった、と思いながらも、イリの言葉を覆す為の情報を集める。

 

「何故だい?」

 

養母がイリに尋ねる。

その声色は全てを見透かしているようで、イリの身は強張る。

ゆっくり息を吐く。

それだけで震えは止まった。

言葉にしないと何も伝わらないから口を動かす。

この際全て話してしまおう、と。

 

「…別れたくないんです。甘くて…罪深いあなたたちと」

 

「「…罪深い?」」

 

養母とバスターの声が重なった。

たったそれだけの事が、これから話す事を考えると、彼らも【共犯者】だと感じてイラついた。

 

「はい。あなた方は…いえ私も含めて、罪深い」

 

イリはそこで一旦言葉を切ると、後ろを向いて泣きそうな顔で微笑んだ。

 

「…どうか聞いて下さい。私達の罪深い在り方を」

 

扉を開けて真っ直ぐにクロスが入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が、村の秘密を掴んだのは、夏祭りが終わる直前。

そろそろ帰ろうかと、踵を返したときに話し声が聞こえたので、普段は近づかないような村の隅に行った時です。

そこは、祭りの明るさが嘘のように暗くて、少し不気味な場所に思えました。

体をさすりながら歩を進めると、やがて人影が見えました。

 

人影は、見かけない子供と、大勢の村の皆さん。

村の皆さんは感情を感じない目で子供を取り囲み、子供は酷く怯えていました。

そこは、異様な空気を醸し出していたので、思わず声を掛けずに身を潜めました。

 

「おい…お前、どこから入った?」

 

いつも土いじりをしながら元気に話してくれるフォースさんが、今まで聞いた事もなかった、感情の起伏を感じられない声色で子供を問い詰めます。

 

「ぼ、僕は、ただ迷って………気付いたらココだったんだ」

 

子供は、足を震わせながらも気丈に話しました。

それなのに、子供に向ける瞳は冷たいまま。

ざわざわと木々のざわめきが強く、私の本能がこのままだと悪いことが起こる、と警鐘を鳴らしていました。

 

(前に出なければいけない)

 

そう思うのに、足は一向に動きません。

 

(なら、声をかけなければいけない)

 

そう思うのに、喉は痙攣するだけで、如何なる音も発しません。

 

「そうかい………なら、コッチに来なさい」

 

私が自分の不調に手をこまねいている間に、テンさんが落ち着いた声を出して、子供を手招きします。

子供は一瞬だけ躊躇いました。

ですが、意を決してテンさんに着いて行きました。

 

それが、決して良い行動ではないと気付いているのは私だけなのに…何も出来ませんでした。

 

それを

それを

それを

見送る

見送る

見送る

足は動かず、声は出ない。

何故?

何故?

何故?

 

分からない。分からない。分からない。分かりたくない。

知りたくない。知りたくない。知りたくない。私は知りたくない。

 

 

だけど

 

 

都合良く呪縛が解けた足は、暗い森に消える彼らを追っています。

映像を眺めていた目は、自らの意思で彼らを見据えています。

 

 

だから

 

 

私は、醜いのでしょう。

 

 




ご読了ありがとうございました。

やっと?ついに?少年の名前が明らかになりました。
準主人公でもあるクロスを、どうかよろしくお願いします。
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