八Pと!! 城ヶ崎 美嘉√    作:緑茶P

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それは、とあるカリスマJKと呼ばれる前の埼玉の女の子の始まり。


カリスマJKはアイドルに夢をみるのか

 電車に揺られる事40分。埼玉から華の東京までに掛かるこの時間を長いと思うか、短いと思うかは少々意見が分かれそうな所だ。まあ、命短し女子高生としては結構に痛恨なロスタイムではあるのだろうが私はこのぼんやりする時間が嫌いではない。新しい流行に店。たまに参加する読モの撮影は埼玉の片田舎には決して見つからない刺激的な時間。そこで自分がイイナと思ったモノを取り上げて貰える事を想像すれば、この待ち時間も思いのほかあっという間だ。

 

 だが、今日の私の手に握られているのは女子高生を騒がせるファッション誌では無く、ちっぽけな紙切れ一枚。書かれているのは可愛げのなさそうな男の名前と、誰でも一度は聞いたことがある様な大手プロダクションの部署名。何度見直してみたって変わらないその文面に小さく鼻を鳴らしてみる。

 

 前回、撮影で東京まで足を伸ばした帰りに呼び止められ渡されたこの名刺と伝えられた説明会の時間。まあ、もしドラマならばココから才能を開花させてステージを駆けあがって行くようなお涙ちょうだいの展開が始まるのだろうが、そんなご都合展開を期待するにはちょっと現実は厳しい事を知り過ぎている。

 

 定期的に参加している雑誌の撮影だって、カリスマだと銘を打って表紙を飾った事があってもそんなのは一瞬の栄光だ。ちょっと何かの歯車がずれればあっという間にお役御免の儚い役柄。ソレに気がつかずに栄光におぼれて、自分の流行を忘れてた女の子が切られていくのを見送ったのも一度や二度ではない。

 

 自分が輝いていられるウチにやりきって引退。それくらいがせいぜいのポジションなのだ。だから、きっとこの良く分からない男の誘いもソレに準じたものである可能性は高い。良くて新しい雑誌のネームバリューの為の一時的な専属契約。悪くて、まあ、碌でもないお誘いといった所だろうか。妹が騒ぎはするが、自分なんてその程度の存在だという分は守らなきゃいけない。ソレを忘れるなんてちょっと痛すぎる。

 

 大体、渡された名刺と名前だってこの人の下の下の下の、子会社の事務所の社長を紹介するまでの餌でしかないかもしれない。そんな事に頭が回らないほど軽いと見くびられていた事にも腹が立つ。あんまり舐めた態度を取ってくるようなら一発かまして帰ってやろうと心に決めて小さくため息を吐く。

 

 吐きった息を吸い込むように顔を上げればだだっ広い埼玉の空は数多の魔天楼にめった刺しにされ窮屈そうにしているところだった。

 

 

 

 はて、心を弾ませていた東京がこんなにも窮屈に感じる事があるように感じたのは、いつからだったか。

 

 

 

 そんな独白を抱えて”城ヶ崎 美嘉”はもう一度小さくため息をついた。

 

 

――――――――――――――

 

 

「いやいやいや、冗談っしょ?」

 

 紙に書かれた住所を頼りにえっちらおっちらと、そびえ立つビル群を抜けてようやく鳴る携帯からの案内終了の音声。こんなに歩かせやがって、一体どんな所にある喫茶店なんだと強気に睨んでみた先に現れたのは―――お城だった。

 

 赤い煉瓦に包まれ、その頂点から見下ろす荘厳な時計は他のビル群を圧倒する華やかさ。そのダンスホールの様な玄関には多くの人が行きかい、その誰もが自分がなけなしのお小遣いで飾りつけた制服なんて比べるべくもない高価な身なりに身を包んでいる。馬鹿みたいに固まるしかなかった視線を何とか動かして住所と地図を確認してみれば無情にも間違いはなく。

 

 もう一度正面から見直したそのダンスホールの入口に金縁で彩られたその看板。

 

 

”346 プロダクション”

 

 

 その文字に、息を呑む。

 

 さっきまで考えていたような打ち合わせは、普通、本社でなんかやったりしない。事務所がちっちゃくてもあればいい方で、喫茶店でギャラや交通費の話をして、日程を確認するくらいのもんだ。そこまでが一介の読モの許容の範囲内の話だ。

 

 入り口に入ることすら戸惑っている自分が、こんなところで何の打ち合わせをさせられるっていうのか?

 固まる身体に、から回る思考。それでも、周りの視線は嫌というほど感じる。それが悪意ばかりでない事は分かっていても、被害妄想が勝手に追いすがり空回りと羞恥に拍車をかける。それが切っ掛けだったとは思うが、良くは分からない。そんな冷静な自己分析とかそんなん脇に捨てて、今すぐこの場を逃げたかった。それだけを考えて咄嗟に振り返り駆け出そうとし―――

「ぐっ!!」

 

「きゃ!!ご、ごめんなさい!!」

 

 思い切り人に突っ込んでしまった。結構な勢いでぶつかり相手も自分も倒れ込んでしまったが、咄嗟に相手の安否を確認する。すらりとした手足と黒い髪に特徴的なアホ毛が一本。そこそこ悪くない容姿の筈なのに胡乱気にこちらに向けられたその目の濁り具合に一瞬息を呑んでしまう。その間を、なんと取ったのかその人はなんて事のないように立ち上がり手を伸ばしてくれる。

 

「…急に走るとあぶねぇぞ」

 

「あ、はい、ホントに、済みませんでした。…あの、怪我ってありませんか?」

 

「いや、そっちこそ大丈…」

 

「?」

 

 伸ばされた手と存外に柔らかい声音に詰めていた息を吐きながら、その手を取ってもう一度怪我の確認をすると彼が中途半端な所で言葉を留めた。やっぱり何処かを怪我したのかと彼の目線を追えば、あの名刺が落ちているのに気がつく。ぶつかった表紙に落としたのだろうが、ちょっと拾う気にはなれない気分だ。

 

「ああ、ごめんなさい。落としてたみたいですね。まあ、悪戯だったみたいなんでいらないっちゃいらないんですけど…」

 

「ん、悪戯?良く分からんけど、お前が最後の参加者みたいだな。着いてきてくれ」

 

「は?」

 

「いや、時間もギリギリだしさっさと行くぞ。ウチの事務員わりかし時間に厳しいしな…」

 

 ドンドンと進む彼に手を繋いだままの私も引っ張られ、あれだけ萎縮していた玄関ホールもあっさり横切って奥へ奥へと連れて行かれる。様々な疑問と周りの奇異の視線、急な展開に頭も口も上手く動いてくれない。たまに洩らす言葉は彼の見当違いの解答に遮られ、結局なにも分からぬまま引きずられてある扉の前で彼はようやく止まった。

 

 そこで彼は私の手を握ったままだった事に気がついたのか罰が悪そうに”悪い”と呟くように詫びて、扉に向き直った。

 

「比企谷っす。最後の参加者を連れてきました」

 

「どうぞ、入ってください」

 

 軽いノックと問答の末に開かれた扉。その先にいた八人が―――

 生涯、ずっと隣を駆け抜ける戦友になる事を、私はまだ、知らなかった。

 

―――――――――――

 

「ああ、良かったです。何か事故にでもあったのかと心配していましたので。どうぞ、おかけください」

 

「あ、その、遅れてすみませんでし、た」

 

 開かれた扉の向こうに以前、名刺を手渡して来たあの男がいた。そして、見た目と違って低く囁くような声なのに不思議と耳に残るその声に言われて初めて気がついた。そうか、勝手に欠席していたらバックレを疑うものかと思っていたが、この人は、いや、もしかしたら普通の人は最初にそういう心配をするものなのか。そんな当たり前のことに気が回らなかった事が恥ずかしくなり、バックれようと思っていた後ろめたさから素直に頭を下げたくなった。

 

 ソレを見た強面の彼が微かに頷き、もう一度席を勧めてくれたので素直にそれに従って同じくソファに腰を下ろす集まった彼女達をそれとなく眺める。

 

 年齢を感じさせない美女、朝のニュースで見た事のあるオネーさん、目元を髪で隠している寡黙な少女、興味深げに部屋を見回す溌剌とした子、緊張に手を握り締める可愛い子、ふんわりしてるのに何処か儚さを感じる少女、なぜか自信ありげに腕を組んでる変な子、それとオマケに何にもない空間に微笑むヤバい子。

 

 ……いや、マジで何の集まりだコレ?

 ついでに言えば、ヤクザ顔負けの強面の偉丈夫。完全に淀み切った目玉の根暗系のアホ毛さん。能面のように笑顔を崩さない事務員っぽいお姉さん。ココにいる業界側の人も明らかに堅気じゃない雰囲気がプンプンする。え、うっそ、結構マジでヤバ気な打ち合わせだったりする?え、こんなおっきな会社だと逆に揉み消されちゃいそうで怖くなって来た。えー、マジ大丈夫かこれ?

「皆さんが揃いましたので、説明会を始めさせて頂こうと思います。まずは、皆さんにお声掛けさせて頂いたプロデューサーの武内と申します。今日はよろしくお願いいたします」

 

 その声に、そぞろだった彼女達の意識が彼に、武内Pに向けられた。その鋭い視線はその圧を受けても微塵もたじろぐ事もなく、言葉は紡がれていく。

 

武P「まずは、お手元の資料をご覧いただく前に簡単な説明をさせて頂きます。あなた方は346プロが新たに立ち上げる”アイドル部門”の先駆けとなる”シンデレラプロジェクト”の創設メンバーになって頂きたいと思いお誘いさせていただきました」

 

 そのあまりに堂々とした語りに聞き逃しそうになるが、その声には多くの疑問が残る。当然、その疑問はココにいる全員が聞き逃すほど甘くはない。みた事のあるお天気お姉さんが苦笑をかみ殺したように挙手して、発言の意志を示す。

 

武P「どうぞ、瑞樹さん」

 

「あー、まあ、自分で言うのもアレだけど、私や楓ちゃんが"アイドル"ってのを名乗るにはちょっと無理があるんじゃない?おばさん、って程じゃないにしてもお客さんだってみるなら若いこの方がいいでしょ。ましてや、レギュラー番組落とされたオチ目なんか使ったらそれこそ先駆けの汚点になっちゃうわ―――それとも、そういう話題つくりなのかしら?」

 

 上品に笑ってネタとして処理しようとしてくれているのだが、最後のその一言だけは隠しようのないほどに怒りが滲んでいて、部屋の温度が数度下がった気がする。その目は真っ直ぐに武内Pをつら抜かんと向けられるが、彼はソレを真っ直ぐ受け止めて口を開かんとする。

 

「……そもそも、私にも向いていないでしょう。見た目通りの、性格ですから」

 

 開きかけた言葉を紡ぐ前に、ぞっとするような小さな声が部屋に響いた。囁くような声で耳に響くのも武内Pと変らぬのに、ここまで発する人で印象が変るものかと思い知らされる声。

 

「むむ、なんだか難しい話になってますね。良く分かりません!!」

 

「わ、私は!アイドルになれるなら、全力で頑張ります!!」

 

「まあ、僕一人いればそれだけで事足りそうですけどね」

 

 そんな思い思いに発される言葉に、部屋の統制はすぐに無くなってそれぞれが勝手に話しだす。まあ、言ってしまえば”学級崩壊”って奴である。こうなったら、立てなおす事なんてほぼほぼ不可能だ。懸命に語りかける糸口を見つけようとするプロデューサーの熱意は認めるが、ソレだって効果があるかは分からない。

 

 意志が、目的が固まっているからこそ集団は纏まる。それ以外にだって、共通点や話題、性質の近しいモノでなければいつかは必ず分裂する。ましてや、こんなに個性が尖り過ぎている様な連中にあんな言葉を投げかけたならばこうなるのは当然だ。張っていた肩ひじは倦怠感と疲労で緩くおちていく。こんな後味の悪い、良く分からない事の為にココまで来たのか、という感覚がもっとソレを強めるなかでなんとなく考える。

 

 ココまでグチャグチャになった集団を纏める方法なんてたった一つ―――――

 

 

「紅茶の入れ方って、こうちゃう?ふふ、いい出来です。紅茶もダジャレも」

 

 

 圧倒的な支配力を持ったトップ以外、ありはしないだろう、と。

 

 

 浅草色の髪の彼女はいつの間に席を立っていたのか、ふんわりと室内に漂う紅茶の柔らかい薫り。ソレに付随して聞こえて来たギリギリのギャグセンスに喧騒に包まれていた部屋が静まり返った。その呆気にとられているウチに、紅茶がそれぞれの前に手際よくおかれていく。

 

武P「高垣、さん」

 

楓「まあまあ、皆さん初対面でココまで話がはずむのも結構ですけど、プロデューサーのお話を聞いてからでもいいじゃないですか?それから、やるかやらないか決めたって言いわけですし」

 

 けらけらと笑う彼女と紅茶に好き勝手に話していた彼女達がちょっと気まずげに席に着いて、小さくプロデューサーに詫びる事によって、この会議は首の皮一枚で繋がった。その事に戦慄を覚える。

 

楓「あ、そうそう。それと、一番最初の瑞樹ちゃんの質問に対しては大丈夫みたいですよ?この前から、私もこの部署で歌わせてもらってますから!なんでも、年齢とか売れない元モデルとかは関係ないそうで」

 

瑞樹「え、っちょ!?そんなの聞いてないわよ!!てか、騙されてない楓ちゃん!?」

 

楓「むー、信用がありませんねー。あ、あと、挙手しないで勝手にしゃべる悪い子は罰ゲームですからね?ダジャレ三つ発表してもらいますからねー。ではでは、どぞー」

 

 あんまりに軽く閉められたその言葉から、渡されたバトン。小さく、だが、しっかりと頷く彼の目に先ほどのとまどいはない。その目に、各自は言いたい事を一旦ひっこめて聞く体制になる。ソレを確認した彼は再びゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

 

「まず、始めに、自分の説明不足から混乱を招いてしまい申し訳ありませんでした。しかし、自分がここに集まって頂いた皆さんを集めたのは奇をてらってや、酔狂などでは決してありません。私は、本気で、アナタ達に”アイドル”の輝きを見たのです」

 

 

 声量も、口調も、何一つ変わらない。それでも、その声に含まれた焦がれてしまうほどの熱量と意志の固さに全員が息を呑んだ。そんな私達を彼は順番に名を呼んでいく。

 

 

「小日向 美穂さん」

 

「は、はい!!」

 

「オーディションでは緊張して聞く事が出来なかったアナタの歌声を高架下で一人歌っているのをお聞きした時、自分は確かに心を魅かれたのです。優秀ながらも、挫折を何度も知っている貴方の優しい歌声だからこそ人に寄り添うのです」

 

 

「日野 茜さん」

 

「ハイ!!」

 

「階段を踏み外した少年を迷うことなく助けて、泥だらけなのに笑って去って行くアナタに眩さを感じました。アナタのその輝きがステージで爆発する所が、見てみたいのです」

 

 

「鷺沢 文香さん」

 

「…はい」

 

「比企谷君と本の話をするアナタはとても輝いていた様に見えました。あの輝きをステージで新しい物語にしてみませんか?アナタには十分にヒロインになる資格がある」

 

 

「白坂 小梅さん」

 

「はーい」

 

「早朝の霧深い暁に彷徨うアナタを見たとき、思わず目を見張りました。たった一人、ビル街で踊るステップはまるで誰かとロンドを踊っているように軽やかで、見た事もないそのテンポに可能性を感じました」

 

 

「佐久間 まゆさん」

 

「はぁい」

 

「撮影現場でお話しした時、アナタの柔らかい人柄からは想像ができないほど何か飢えているように感じました。きっと、ソレを埋められた時にアナタは誰にも負けない輝きを放つと確信しています。それがきっとステージにはあると思うのです」

 

 

「輿水 幸子さん」

 

「ふふーん、ようやく僕の番ですかまったく「とても可愛らしいです。そのリアクションはきっと世界に届きます」ちょっとぉ!!

 

「川島 瑞樹さん」

 

「はい」

 

「アナタのアナウンサーとしての実力、気遣い、全てがたゆまぬ努力の上に成り立つものだとお察しします。そして、それが年齢などという小さな問題ですげ変えられるのが自分は堪らなく残念です。しかし、おかげでアナタをこうしてお誘いすることができました。その真摯な姿勢と高い実力で、メンバーをどこまでも導いて貰えないでしょうか?」

 

 

 一人一人に語りかける様なその口調で、彼はゆっくりと選んだ理由を語って行く。その一つ一つは決して特殊な事ではない。だが、間違いなく彼女達の核心に触れるものだった事は問いかけられた後の彼女達の顔を見れば分かる。そんな中で、遂に私の名前が呼ばれる。

 

 

「城ヶ崎 美嘉さん」

 

「…はい」

 

「撮影現場でアナタを見たとき、とても窮屈そうにしていた事を覚えています。人に、流行に、周りの全てに気を使ってファッションを使いこなすアナタは、きっと本当の自分を押し込めているのではないでしょうか?気遣ってあれだけの輝きを見せるアナタが、本当に全力を出したらどれだけ輝くのか、私は見てみたいのです」

 

「―――っつ!!!」

 

 言われた言葉に頭が真っ白になるくらいの怒りが燃え上がった。頭の奥で、ずっと歯がみしていた事をあまりに簡単に見抜かれた羞恥と、ソレが出来ないからそんな思いをしているのだと言う鬱屈していた怒りが目の前の男を睨みつけさせる。言葉を飲み込んだのはほとんど奇跡だ。

 

 睨んだ先のその瞳は一切揺らがずにずっとこちらを見つめて、さらに言葉を重ねる。

 

「私は真剣にアナタ達の”輝き”に惚れこんでお声を掛けさせて頂きました。既存の安っぽい先入観など必要ありません。”アイドル”と言えば誰もがアナタ達を思い浮かべる、そんな概念を創りましょう。それが”シンデレラプロジェクト”なんです」

 

 あまりに大真面目な顔で、目の前の男はそういうのだ。

 

 聞いた人が思わず失笑してしまうような”恥ずかしい理想”をなんの衒いもなく言い切って見せるのだ。

 

 その自分にはない強い意志と、無謀さが、心の奥底に押し込めていたガキっぽい好奇心を、無情な世界に尻込みしていた夢を引きずり出す。流行を先読みし与えられた”仮初のカリスマ”なんてモノではなく、自分こそがその流れなのだと気ままに歩いていく“本物のカリスマ”。改めて考えてみても、あまりに馬鹿らしい理想。妄想と言ってもいい。

 

 だが、この男は、その先を見せてくれと言ってくれるのだ。

 

 ふと、周りを見回してみれば、他のメンバーも迷いながらも、まんざらでもない表情。どうにも自分たちはこの人たらしに乗せられつつあるらしい。

 

 

 だが、自分はそれでもいいかと思ってしまっている。

 

 

 どうせ、枯れると分かっている花を惜しんで萎ませるならば、ぱっと散らしてみるのも悪くないとその瞳を見ていると思ってしまったのだ。

 

 

 あとは、野となれ山となれ。そう思ってちょっとやけっぱちになって口を開く。

 

 

「”城ヶ崎 美嘉”。一応、カリスマJKって事で雑誌にもでてる。何人が残るか分かんないけど―――よろしく」

 

――――――――――――

 

 結局、その場にいる全員が参加を表明し、本来の契約内容や、レッスンスケジュールなどの話しあいが終わった頃には陽は傾いてビルの隙間から眩く差してくるような時間になっていた。ゾロゾロと連れだって出口へ向かって歩いている私たちの先頭を案内役として歩いているアホ毛の人になんとなく歩調を合わせて問いかける。

 

「プロデューサーっていっつもあんな感じなの?」

 

「…困った事にな。まあ、でも」

 

「でも?」

 

「あの人が口に出して実行しなかった所はまだ見た事がねぇなぁ」

 

「…ふーん」

 

 溜息をつきながら苦笑する彼が力なくそういうのを聞いて、こっちも気のない返事しか浮かばない。

 

 きっと、言うほど楽じゃないのは分かってる。

 

 それでも、鬱屈して大好きだったファッションにも諦観をもっていた数時間前よりかはマシな気分だった。

 

 玄関に出たところで、空を見上げれば相変わらず並び立つ魔天楼に押し上げられた空は窮屈そうにしている。でも、きっとコレは自分が地べたで蹲っていじけていたからそう感じるのだろう。

 

 埼玉の様に、明るく、吹き抜けた空をこの都市で見たいのならば、どこまでだって高みに登って一番高い場所に上るしかないのだ。

 

 そう考えると、さっきの選択も悪くはない。

 

 トップアイドルになって、カリスマJK。

 

 そこまで上り詰めたなら、きっと思い切り好きなファッションをしてやろう。

 

 そんな野望を胸に小さく手を空に伸ばし、私”城ヶ崎 美嘉”は小さく笑う。

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 城ヶ崎 美嘉   性別:女   年齢:16歳

 

 埼玉片田舎のなんちゃってカリスマGAL(田舎に一人二人いる感じのおしゃれさん。超一般家庭に生まれ育ったため見た目に反して考え方や思考は常識人でかなり古風。そのため、読モなどに抜擢されてチヤホヤされてもそれが一瞬の事であるとかなり冷めていた(超根暗。しかし、ファッションには強い興味があったため取り上げられるのはやはり嬉しく(ちょろい)せっせと東京に通っていたところを武Pに捕獲されて本編に。処女である。

 

 彼女は、カリスマへの道をいま歩み出したのだ。

 

 

 

 武内P      性別:男    年齢:30前半?

 346の有望な若手プロデューサー。しかし、陰謀渦巻く策略によって大型企画”アイドル部門立ち上げ”という企画を丸投げされた苦労人でもある。ただ、持ち前の生真面目さで仕事に取り組む紳士で情熱の人である。

 ある事情によってちょっといざこざを起こしてしまって以来、社内では”変人”と名高い。

 

 

 

 比企谷君     性別:男   年齢:19歳

 

 大学の先輩に美味しいバイトだと唆され着いてった先が346プロだった。逃げようとするが時給の良さとチッヒの甘言に唆され隷属された。ちょろい。丁度、シンデレラプロジェクトによるアイドル部門立ち上げの事務処理などをしている時に武内Pに効率の良さを認められ、引き抜かれ今に至る。

 


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