〈DIN〉局長のお仕事   作:Ringo

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リメイクしました。(2019/10/13)
ご了承下さい。




file.2 賭博街裏通り奇譚

 やあ、また読んでくれるとは嬉しいね。

 憶えているかい?私は【高位記……じゃなかった、危ない。この度【記者】系統派生超級職【報道王(キング・オブ・アナウンス)】になったハマチだ。改めてよろしく頼む。

 

 唐突だけど、少し謝らないといけないね。これ、私の持つもう一つの上級職【高位書記(ハイ・セクレタリー)】のスキルで書いているんだ。その名も《遠隔筆記(リモート・ライティング)》。文字通り離れた場所から書ける、軍の司令にも使われる便利なスキルなんだけど欠点があってね。書き直しが利かないんだ。前の話ってウチの書庫からそのまま持っ……、いやなんでもない聞かなかったことにしてくれ、責任問題とかになっても面倒くさい。

 まあそんなわけで、実は前回の取材の後には超級職になっていたんだけど書きそびれてしまってね。本当に申し訳ない。伝達ミスなんて【記者】としてはとんでもない恥だ。けどどうかな?自分が今超級職の手記を読んでると思うと、ちょっと優越感に浸れない? 読んで貰うのが私の仕事なんだけどね。

 さて、それじゃあ今日の話はっと──ん?参考までに超級職の条件を教えてくれって?普通は有料なんだけど……。いいよ、どうせ私が就いてしまったし。

 

①超級職5人以上に取材する。

②誤報、捏造を一度もしない。

 

 正直ここまでは当たり前だし、余裕だった。問題はこの後の条件だよ。

 

③計100万人に記事を読まれる。

④1000回以上記事を制作する。

 

 なかなかに厳しい条件だろう? 己惚れるわけじゃないけど、④とかネタに困らない私みたいな人間以外は無理だ。③にしても一体どうやってカウントしてるんだか不思議で仕方ない。

 けど、まあ大体こんな感じだったよ。要するに「ズルをしないで面白い記事を大量に書け」って事だね。インプットする量が多すぎて、アウトプットがしにくかった私には嬉しい超級職だよ。

 

目玉記事が無くなったのにどうやって条件をクリアするほどの記事を書いたのかって?簡単だよ。

 

 

 ここは“賭博都市(ヘルマイネ)”。そして目の前には何でも知ってる情報通がいる。そうなれば()()()()()()()()()()()ってのが実に『人間らしい』必然じゃないか。

 

 

 なんのために【遊神】からイカサマを教えてもらったと思ってた?

私がするため?

特集記事を書くため?

 

 

 違う違う、大外れ。答えは『いかにも重要そうに見せかけて新参者に売りつけるため』。

 

 どれだけこの国(カルディナ)がぼったくりやすいかは前に言ったよね。そのお手本みたいな例だよ。あ、カジノ側にも「これこれこういう手口を使いますよ」ってあらかじめ話を通しておいたから損はしてないよ? 後は一度きりの夢(ワンデイドリーム)を魅せてしまえばこっちのものさ。かつての栄光が忘れられずに、ひたすら金をつぎ込み続ける。いいねぇ、実に欲望に純粋で。

 

 おかげさまで私は笑いが止まらなかったよ。客とカジノに情報が売れる売れる。

 これが今回のタネ。そして、この記事によって私は超級職に就けた。イカサマ様々だね。

 

 人によっては私を悪人と見るかも知れない。だけど私はお客のニーズに応えただけで、責められる由縁はないね。むしろイカサマをしたお客さんの方を責めたらどうかな?

 まあ矢面に誰を立たせるかは置いておいて、超級職になった直後の話でもしようか。

 

 

 □■□■□■

 

 

 部屋の奥に備え付けられた椅子に座していつも通り待つ。メッセージを送ったのが三十分前だから、もう少しで来る頃かな。暇潰しに積み重ねられたノートをパラパラと弄んでいると、やがて上品なノックが来客を告げた。

 

「やぁレプロブス。急に呼んで申し訳ない」

「今日は何の用でしょうか。お茶なら昨日付き合ったはずですが?」

「そう勘繰ったって何もないですよ。連絡したはずですが? ボディーガードだと」

「恨まれる筋など」

「沢山ありますね」

 

 聖人様とは一生関係ないが、私にはあいにくと被害者の会が結成されるくらいは人の恨みもある。商売柄不可抗力なんだけど、一部の読者は理解してくれないんだよね。

 

「せっかく超級職なんて人の嫉妬羨望を痛いくらい刺激するモノが手に入ったので、この際だからその怨恨はぱーっと全部解消してもらうつもりです」

「いくらなんでも自殺の手助けはお断りですよ?」

「まさか」

 

 君は相変わらずのようだが、神父様の目の前で自殺宣言するほど私も豪気じゃあない。そもそも、おとなしく死んでやるならボディーガードに呼ばないね。勘違いしないでほしいけど、怨恨を『解消』するんだ。『晴らさせる』つもりなんてさらさらないさ。なんで彼らの自業自得の代価に私の命なんだ、厭に決まってる。

 

「既に種は蒔きました。どんな風に芽吹くか楽しみで堪らないですね」

「種とは先週の号外のことですか」

「はい」

 

 先週、【報道王】を手に入れて次の日。早速スキルの使い勝手でも確かめようと近隣の町、それとちょうどドラグノマドが近かったからそちらも含めて大規模な情報公開をした。生放送だよ生放送。いやあ、こちらから向こうの様子は分からないけど、注目されてると思うとゾクゾクしたね。内容? マスター・ティアン問わずに未確認犯罪の暴露さ。詐欺等の軽犯罪からティアン殺しの重罪まで。半数は指名手配されたんじゃないかな。

 余談だけど、その翌日には【犯罪王】から大量の自白(リクエスト)が来てたにのは笑うしかない。『この私の悪事を白日の下に全て曝してください』って……。

 

「その指名手配食らった数人が結託してこの街に来ているようで。おそらく今日あたりお礼参りに来るだろうから守って貰おうか、と」

「何故今日なのか聞いても?」

「さあ? 何分向こうの都合ですので。私のログインするパターンを調べていた以上、同時にあっちのパターンも必然分かるのに向こうは気づかなかったらしい」

 

 深淵を覗く時、深淵もまた覗いているのだ的な。自分で言うのもアレだけど、この街で私から隠れるなんて結構難儀。念には念を入れて同僚から“虫”も借りてたから、【絶影】でもなければ完全隠密行動なんて無理だろう。

 

 その時、不意に机上の紙面でペンが踊り出し、黒々としたインクを滲ませること無く徐々に白紙を埋めていく。

 

『残り五分』

「来た!」

 

 稀にふざける同僚を警戒して、一応自前の確認手段として手元のページをめくる。あの黒幕気取りは油断ならないからな……うんうん、本当に来てる。通信機で急いで連絡を入れるが、間に合うかな。ふふふ、これでも客商売だからね。サービスは大切にしないと。

 

「気にはなっていたが、何故ワタシなのかね? ワタシよりももっと強者に頼めただろう」

「防衛戦力としてはレプロブスで十分なんですが……ぶっちゃけると権力面の強さも加味して。事無きで済むならそれに越したことはないので」

「なるほど」

 

 ドタバタと階下を荒らす訪問者のために扉を開け放って待つのは優しさなんかじゃない。資料紛失したらどうしてくれるんだ、二度とログインできないようにしてやる。

 

「いたぞ、お前がハマチか!」

「はい。私がハマチですが、本日は如何な御用件でしょうか。情報の売買? それとも情報規制……は手遅れでしたね」

「ふざけんな! よくも公開処刑してくれたな!」

「私は事前に通達しましたが? 現に四割のお客様は規制のお知らせに応じてくれました」

 

 無許可でやらないだけ有情だろうに。どうせ自由の謳い文句を自分勝手が許されると解釈したキッズだ。自分だけが特別で他人よりも優遇される、そんなベッタベタに甘い考えに違いない……ああ、私は受け入れるよ。それもまた『人間』だ。だから私は平等に接しよう。公平無私、情報屋としては理想的だろう?

 

「このぼったくりめ……」

「であるならば、あなた方の置かれた苦境はその程度の価値ということですね」

 

 レプロブスみたいな聖人もいれば、こんな屑もいる。本当に見てて飽きないねぇ……。

 

「こんのッ……《クリムゾン・スフィア》!」

 

 ついに、というほど長くもない導火線が切れたのか抗議集団の先頭から肌を焦がす火球が撃ち出される。普通こういう所って火気厳禁なんだけど、常識がないのだろうか。顔は覚えた、余罪追及決定ね。

 迫り来るのは非戦闘員の私など即死であろう殺意と熱量の塊。まぁ当たらないから大丈夫。

 

「《紅黒大回転(スピン・ルーレット)》」

 

 傘を開くように展開されたルーレット盤が火球を押し止め、同時に球を投げたように回転を始める。

 ルーレットの結果は、黒。

 

「おわっ!」

 

 回転が止まるのと同時に火球が逆再生のように勢いよく飛び、術者を巻き込んで盛大に爆ぜた。

 あのカウンタールーレット、やっぱり悪質だよ。

 

「邪魔だジジイ、退け!」

「こちらのレプロブスさんはこの街のカジノを取り仕切っておられる方なのですが……」

「知るかよ、俺らはテメエが死ねばそれでいいんだ! 他の奴なんざ興味ないわ!」

 

 社会的圧力作戦は失敗か……。仕方ない、セカンドプラン。窓の外をチラッと確認すれば配置も終わっているようだし。

 

「そうそう、ここが何階か知っていますか?」

「何?」

 

 答えは3階。だからどうしたって?

 

「レプロブス」

「はい?」

「着地は頼みます」

 

 人間、落ちる時には高さが予測できないと恐いだろう?

 踏み締めていた白亜の堅牢な外見の巨大建造物──私のエンブリオ【古今統在 アッシュールバニパル】が、跡形も無く消失した。今は手の甲の紋章の中だね。

 

 当然その上に立っていた我々は。

 

「え」

 

 ふわりと停止した無重力感の後、地面に叩きつけられるように落下を開始する。落下ダメージでデスペナになってくればいいんだけど……まあダメだろう。戦闘職にとって3階からの落下なんて掠り傷がいいところだ。別にそっちが狙いではない。

 さてさて私とレプロブスを取り囲むようにルーレットが丁寧に展開されてから、満を持して叫ぶ。

 

「お願いします!!」

 

 

 返答は、地の底から。

 

 

「……ワーム?」

 

 間違いではない。ワームなんて安易な言葉で定義していいのか知らないけど。

 

 五匹のワーム……しかも額に《符》を貼り付け強化されたキョンシーがアッシュールバニパルの跡地から這い出る。それぞれ強さは純竜以上、超級職すらいないエンジョイ勢に勝てるかな?

 

「人使いが荒い上司は嫌われるぞ」

「ああ張さん、今回はどうも」

 

 【大霊道士】張葬奇、ヘルマイネに支部を持つ黄河マフィアの支部長さん。つまりは私と似たような立場の人間だね。そしてレプロブスと同じくボディーガードの依頼先でもある。

 表側の力だけで帰ってくれればよかったのに……自衛の為には致し方ない。何故人が反抗するか、いや反抗できるか分かるかい? それが反抗できる相手だからさ。そのまま当たり前のことだが、親しい友人に文句は言えてもヤクザには言えないだろう?

 彼らにとって私は「逆襲しても問題ない相手」だったんだ。事実腕力じゃ勝ち目はゼロだしね。もっとも、それは無力とイコールではない。

 

「こいつクソ強ぇ……!」

「何重のデバフ込みだよあれ……」

 

 現に蹂躙されてるのは彼らの方。うわ、あのブレス状態異常のオンパレードだ……。

 権力者とはいえマスターであるレプロブスだけなら敵に回してもいいと思ったんだろうが、残念。私を敵に回した時点でこの街全てが牙を剥く。口で言っても聞かなそうだから、突きつけてやった証拠がこの惨劇さ。高々1マスターだと侮るなよ。次はグランバロアの海賊団でも呼んであげようか?

 

「助かりましたよ本当に。危うく殺されるかと。よく私の依頼を受けてくれましたね」

「マスターなのだから死など軽いものだろうに。街の有力者たる【遊神】と我ら〈蜃気楼〉の野望を知るお前。名も知らない有象無象とどちらを採るか尋ねられれば答えは明白だ」

「約束の報酬は何がいいでしょう? 街での便宜、敵の情報、UBMの生息地に話せる事なら何でも教えますが……」

「何も話さなくていい。俺たちの計画の隠蔽度を上げろ。誰にも教えるな」

「了解しました」

 

 ビジネスライクな付き合いは大いに結構。彼らからすれば私なんて余計な不穏因子なのは間違いないのに、それでも対等に接してくれるのには感謝しなければ。

 情報の重要度的にはざっと50億かなぁ。これは相手がある程度把握してる場合。「特ダネ教えて」なら150億は固い。イベントの規模からすればこれでも安いよ。

 

 そうこうしてる内にデモ隊は全員デスペナになったのかワームが大人しくなっていた。話しながらキョンシー操作できる張さんは流石だよ。エンブリオ込みで成り上がるマスターとは質が違う。

 

「これでいいか?」

「ええ、もちろんです」

 

 これだけ盛大にやれば彼らももう来ないだろう。私は「情報を大量に持つただのマスター」から「黄河マフィアが背後にいる危険なマスター」にランクアップしたわけだ。ま、“監獄”に送られた彼らには関係ないけどね。

 

 次はこの情報を慎重に拡散させないと……マフィアとつるんでるって言いふらされたら多少イメージが悪くなる。表向きはそうなる前に正論を擦り込んで、陰謀説扱いにしないといけない。同僚含めた裏側は……いいや。あっちもこっちも大差ない。最近は■が歯止め掛けてるらしいが、それでもあの貴婦人よりマシだ。

 

「それでは、今後とも良きお付き合いを」

 

 皮肉でも何でも無く、この時は心からそう願っていたんだ。

 

 

 

 □■ヘルマイネ(after??)

 

「あーあーあー、こんな無残な姿になって……。レプロブスなら治せますか?」

「体力はまだしも、部位欠損は無理です」

「ならどうしましょう? とりあえず支部で応急処置だけして、だけどその後は面倒見られないな」

「やけに珍しく献身的ですね」

「私だってこうなりかねないのを、故意にとはいえ救われてる。遠因は私とも言えるし……。礼には礼を、無礼には無礼を。レプロブスは助けるのに反対ですか?」

「いえいえ、むしろ罪人こそが救いの対象。助力こそすれ、咎める道理がどこにありますか」

「助力と言ってもそっちに匿ってもらうのは危ない……ああそうだ、近くに【盗賊王】が来てたはずだ。彼女に引き取ってもらおう」

「確かにカレラの下ならば安全ですね」

「決まりだ。さて、連絡コードは何処行ったかな……」

 

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