〈DIN〉局長のお仕事 作:Ringo
やっぱり無双バトルだけじゃなくて、デンドロは情報チート共も楽しいと思うんですよ。というわけで方針変えてリメイク
□■〈DIN〉グランバロア支部
「頼むよ、リア友がこの前UBM討伐したとかで自慢してくるんだよ……一匹で良いから教えてくれない?」
「駄目な物は駄目です。金銭もそうですが、その手の情報を買うならともかく売るには局長からの許可が必要です。あ、カルメリアさん」
「失礼します。SAR様はいらっしゃいますか?」
舌打ちを捨てて立ち去った巨漢と入れ替わりに、女性が訪れたそこは海上の船内とは思えないほど広々とした空間、そしてチカチカと不規則な明滅を繰り返す機械と数人の職員が詰められていた。しかし大したリアクションもなく、彼女は淡々と受付に足を運ぶ。
「ようこそ! 久しぶりだねぇ。次の進路の相談でしょ? もうちょーっと待っててね、今ちゃちゃっと視ちゃうから」
「いえ、お構いなく」
「悪いねぇ、人間の欲望なんて汚いモノ見せちゃったし……先輩にそういうのも好む
今回〈DIN〉を訪れたカルメリアは海賊のようなラフな服装ながら、グランバロア政府のれっきとした役人である。そんな彼女がわざわざ部下に頼まずにここを訪れるのは、それだけ機密性の高い用件だからだ。
グランバロア号及び船団の針路決定。それが彼女の主な業務。
いくらグランバロア号が戦艦として破格の強さを誇る兵器でもあるとしても、国民を下手に危険な目に合わせるわけにはいかない。ただでさえ海のモンスターは陸上のモンスターよりも強い傾向にあるのだ、他にも嵐や【海竜王 ドラグストリーム】を筆頭とした怪物など航海に障害は多い。
そんな重要役人であるカルメリアに臆することなくケラケラと笑う少年は、玉座とも言うべき豪奢な椅子に堂々と座し、目の前のモニターに目を走らせていた。
「ざっと俯瞰した感じ海上にいるのは【震海猿 フルナーラ】【妖溶海鼠 ピリスネラ】【天網鬼 イジンガン】……あと知ってると思うけど【海竜王】もちょっと近い。というか最近の行動パターンが不明瞭だ。何か教えられてない?」
「……特には」
「あっそ」
航海を続けるグランバロアにとって針路の選択とは国にとっての大動脈にも値する。それを外部の〈DIN〉に委託するのはどうかとは思うが……最高精度を誇るのだから仕方ない。なにせ単純な捜索範囲で考慮するならば、ここに派遣されているのは〈DIN〉でも屈指のマスターなのだから。
【
北欧神話において主神が腰掛け、九つの世界全てを見渡すといわれた玉座の名を継ぐエンブリオ。その性能はまさしく伝承の如し。
しかし現実に世界は一つだけだ。ならばどうしたか。【フリズスキャルヴ】は──
「《
強引に
玉座の前に映し出されていた映像が、通常の物から切り替わる。それはあたかも魚群探査機のようで。
「水中にいるのは【宝蝕珊瑚 エイバンデート】【戒光閃魚 ワットメック】。あと【エッジ・マンタ】の群れが北上してる。もう産卵シーズンだっけ?」
そう、【フリズスキャルヴ】は『世界』に対応した視点を持つ。
通常観測『ミズガルズ』
魔力観測『アルブヘイム』
スキル観測『ヴァナヘイム』
水中観測『ニブルヘイム』
地中観測『ニヴェダリール』
熱量観測『ムスプルヘイム』
モンスター観測『ヨトゥンヘイム』
そして情報の受信機たる玉座にして統括機『アースガルズ』。九番目が未だ不在なのは〈超級〉に至っていないからだろう。
それを差し引いても馬鹿げた性能。だからこそいくつかの欠陥がある。たとえば一度に一つの視界しか確保できなかったり。視界による情報しか得られなかったり。マスターが搭乗していなければ使用できなかったり。
まぁ現状でも困ることはないので、のんびりと九つ目の世界を待っている。
「はいこれ安全航路の提案ね。それにしてもやっぱりモンスターの個体数がいつもより多い……本当に何も知らない?」
「ええ」
「苦手なら嘘は吐かない方がいいよ。基本的に僕らは全員《真偽判定》持ちだから」
「……実は最近《モンスターベイト》が買い占められていたらしく、誰かがモンスターを誘導している可能性があると」
《モンスターベイト》はその名の通り、モンスターたちのエサ。それも純粋な
「なるほどなるほど。国家ならぬグランバロア号転覆でも企んでるのかねぇ……これだけのモンスターが大挙して襲撃してきたらこちらも無傷とはいかないだろうし。場合によっては大怪我だ。しっかしその犯人は凄いよ。自力でこれだけのモンスター、しかもUBMまで見つけてくるなんて」
「あなた方に頼ればすぐなのでは?」
「まあね。
「どういう……?」
「だって僕、
「相手は犯罪者ですよ?」
胡乱げな視線に刺されても我関せずと呵々大笑。少年の
「関係ないさ! ラフィルの馬鹿や先輩方に比べればかわいいもの。ところでカルメリアさん」
「はい」
「
「上司に渡しましたが」
「その前だよ」
SARはUBMの情報を売り渡した、唯一の例外。グランバロアという国、もっと細かく言えばその役人たるカルメリア。彼女にだけは毎月高額の報酬と共に、律儀に精密な情報を渡していた。
「まさかその情報元手にモンスター掻き集めたりなんてしてないよねぇ?」
「……、」
「うーん、学んじゃったかー。どれだけあからさまでも沈黙は金、推定は無罪だ」
もしも推定で終われば、だが。
カルメリアの額を一滴の汗が流れ、肩には一匹の羽虫が止まるが彼女に気にした様子は無く、気にする余裕もない。
「じゃあ話題を替えよう。【測量士】ってどんなジョブだか知ってる?」
「……土地を調査する為のジョブとだけは」
【測量士】とはマスターにしてみれば、ぶっちゃけ産廃も良いところのジョブである。何せ目玉の《マッピング》の利点の大半は管理AIによって潰されてしまったのだから。もちろんそれ以外にもスキルはあるが、【採掘師】や【採集師】の下位互換に甘んじざるを得ない。現地へ行って現物と触れることによって多くの情報を得る後者と、視界に収めるだけで少ない情報を得る【測量士】。ティアンであるならば過程にさほどの差はなく、結果のみが異なる。
だが、もしも尋常ならざる視界を有する
「部分的に正解。『土地』じゃない、『座標』だよ。実はずっと前から続けてたんだよね、《マッピング》」
モニターが切り替わる。表示されたのは周辺の地図、否、その推移。特別な奥義でも何でも無い、最高レベルの
「さて、この時間この座標から海に《モンスターベイト》が流れ出しているんだけど、カルメリアさんはどこにいた?」
「私は少なくともそこにはいませんね。そもそも私には動機がない」
冷汗は渇き、羽虫もどこかに消えていた。
「共犯かぁ……ま、役人がモンスターの前に出るなんて危険な事しないか。動機? 僕は【探偵】でもないし、そんなことはどうでもいいよ。興味半分で首突っ込んでるだけ。問い質すのは僕の仕事じゃないしね」
「なら国に直接『彼女はテロを計画したか』などと尋ねるのですか?」
「始めはそのつもり。どうせそっちは貴女に握り潰されるだろうから、次の手もあるけど」
「ほう」
「ブン屋として一面トップに飾る」
「………………ハッ」
警戒をして損した。彼女は、そんな安堵と嘲笑を同時に感じさせる器用な表情を浮かべる。
「過去に
「ああ、まだ覚えてたの。アレは酷かったねぇ……」
「他人事ですか?」
「一つサービスで教えてあげるよ」
【フリズスキャルヴ】の高い座面から飛び降り、勝ち誇るカルメリアの前でにっこりと年相応の風体でこう宣った。
「あれは嘘なんかじゃなかった。
「何を」
「世の中怖いものでね。同じ立場にいるはずの僕でも名前すら知らない奴がいる。あったはずの過去を改竄する奴がいる。なんならこの世界の法則を書き換えるような奴だっているんだ」
真に迫り、そして憂いと諦めを悟った声音はとても外見通りにとは受け取れない。中身は死ぬ間際まで老成した狸爺と言われた方がまだ納得できる。
「事の顛末も知らないで、無知を晒すのは恥ずかしいよ? それに、ちょっと腹も立つ。せっかくだからその化け物の一端でもご覧ずる?」
「オイオイ同僚を化け物扱いたぁ酷いぜ」
「減点方式にするより、先輩を立てた僕を評価してもらいたいね」
いつの間にかカルメリアの背後に現れた、船乗りのような逞しい白人。豪快に白い歯を見せてSARと談笑しているが、こいつの中身も決して見た目と一致していないのだろう。
「オルフィさんのステータス、見えた?」
「オルフィってのも偽名だかな」
見えない。役人として完璧なはずの《看破》が徹らない。ステータスは愚か、名前すら分からない。まるで未知の生命体。内なる焦燥を秘めた彼女に、オルフィはその巨軀をずずいと詰め寄せる。
「嬢ちゃん、結構あくどい事してんなぁ。下手に賢い分タチが悪ィ。生産クラン〈ヒドラ・タング〉に依頼するまで〈魔女の土鍋〉、〈カラリア薬局〉、〈エズタニア商会〉……一体何回足跡消しながら調達してんだよ」
彼の口からスラスラと出てくるのは間違いなく彼女が利用した組織の数々。一流のハッカーが数多のサーバーを経由して追跡を躱すように、彼女も多くの道筋を経た上で計画を実行した。それなのに、何故目の前のこいつには筒抜けなのか?
「それでも、彼より私の方が信頼されているのに代わりはないッ!」
「つーかそうなるように俺らが仕向けたわけだしな」
「ホントあの時は僕も悪かったけどさぁ……」
「ハハッ、反省までできりゃ上等上等。ああ、嬢ちゃん。SARが出すから信用されないんだろ? なら簡単だ。俺が広めてやるよ」
「……は?」
「これでも俺はコイツと同じ〈DIN〉の局長だ。俺が不服ってなら【報道王】に掛け合ってやってもいいが、どうする? 盛大なアナウンスは期待できるぞ?」
ニヤニヤと下賤に問うオルフィは、絶対に粗野な船乗りではないと断言できるほどに緻密にいやらしくカルメリアの逃げ道を塞いでいく。〈DIN〉の局長だと告げられた時、ようやく腑に落ちた。現実とズレていた妄想のギャップが埋まる。
「本当に化け物か……」
「オイオイ嬢ちゃんまで俺を化け物扱いするのか。こんなナリでも心は傷つくんだぜ? それに、俺はお高い《ベイト》なんざいらん。薄っぺらい紙切れ一枚で満足さ」
胸に突きつけられたのは一枚の【契約書】。
「カルメリアさんがまだ計画を続けるってなら、僕は止めるよ。こんな居心地良い場所を捨てたくないし、【フリズスキャルヴ】って精密機械だから潮風にあてるとすーぐ【劣化】しちゃうし……。だけどここで計画を中止するなら、僕は何も言わない。別に渡された仕事をしただけにしておく」
「ならこの【契約書】は?」
「それはオルフィさんのだね」
「おうよ。手間賃くらいは貰いたくてな」
【契約書】の内容は、予想に反して彼女を罰するものや貶めるものではなかった。
「海賊奴隷の引き渡し……?」
「ウチの同僚にヤベェ奴が一人居てよぅ。詳細は聞かないでくれ」
「ラフィル、今は大丈夫なの?」
「リアルの都合で数日はインしないらしい」
「それはよかった」
カルメリアだけが恐々としているのが馬鹿らしく思える和やかな空気だが、今逃げてしまえば最期なのだろう。彼らに彼女を看取るだけの力はあると、実証されてしまっている。故に苦汁を飲んで出す返答は一つだけ。
「……全て、了承しました」
「賢明な選択に感謝だね」
「それじゃあ用意が出来たらSARに伝えてくれや。俺はまだ仕事があるんでな」
悪事を働くとそれ以上の悪魔が現れるなど、一体誰が予想しただろうか。彼女の頭の中には空漠とした敗北感と共に、そのくだらない疑問だけがずっと残っていた。
オルフィ(偽名)
【■■】の奥義を略したモノだったりする。
フリズスキャルヴのTYPEを改定(10/22)