〈DIN〉局長のお仕事 作:Ringo
書きたくなったんだから仕方ない
作者のガバ理論&捏造設定にしばしお付き合い下さい(二部構成)
お許しを
□ バチカン 聖ペトロ大聖堂
「ミケーレ司教枢機卿。本日はご足労頂き、ありがとうございました」
「なに、我々は会議が仕事だからね。それに、教皇から呼ばれてしまえば断る道理もないだろう?悲しいかな、君も私もあの人の部下という事は変わらないのだよ」
「はあ」
コミカルに嘆いてみせる老人だが、相対する若い司教はまったく表情筋を緩めない。この場に居られる時点でこの司教もかなりの地位だが、老人はその上を行く。何しろ司教枢機卿といえば上から数えた方が早い、というか教皇に次ぐナンバー2である。そんな相手に軽々しく話をできる人間などそうそういない。少なくとも
「君もそこまで肩肘を張る必要は無いと思うが。『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず』とは東洋の文豪の言葉らしいが、我々の教えに通ずる物もあるとは思わないかね?個人的には聖書の傍らに置きたいほどの格言だ」
「……何故突然東洋の格言などを話すのですか?」
「今日の議題がニホンの信徒からの苦情だったから、つい思い出してしまった。聞くかね?」
「いえ、遠慮します」
「そうか」
職業意欲が旺盛なのかそうでないのかよく分からないなと、心中で溜め息を吐く老人。彼が教皇に呼ばれたのは日本の信徒からの上申があったからだ。いわく『新興宗教からの勧誘が迷惑だ』と。その新興宗教の本部に文句を言おうと思っても、どうやら常に不在らしい。だがミケーレには心当たりがあった。〈
そうなってしまえば他に手がかりのある人間も居らず、なし崩し的にミケーレが交渉役を任されたのだ。本人に伝手があるわけでも無いのに。
(まあ人脈の広い“彼”なら何かしら伝手もあるだろう。それにしても、仕事に苦を思えた事はないが、ゲームをやらされた事は無いな)
「さて、私は依頼を何とかせねばな」
「成功をお祈りしています」
若い司教と分かれると、老人は
□ カルディナ・ヘルマイネ 【
いつも通りのセーブ地点からログインする。そろそろ同じ景色にも見飽きた事だし、たまには足を伸ばして別の場所に行ってみても良いかもしれない。
「まずはハマチに会いますか」
とりあえずいつも隣人が白亜の門を構える場所に赴くと、空き地になっていた。カレがログインしていないとは中々珍しいと思いつつフレンドリストを見ると、どうやらログインはしているらしい。
「すいません、そこのアナタ」
「アタシ?」
一人で悩んでも仕方ないと、通りがかった通行人の女性に声を掛ける。
「ええ。ここにあった建物の主が、何処に行ったかは知りませんか?」
「それはアタシも知りたいよ。ファトゥムからオススメされて来たのにさー」
「ファトゥム?」
おや、ハマチからそんな名前を聞いた覚えが。
「あれ、知ってる?じゃあアタシの事は?」
「……すいません。浅学なもので」
悪いが、紅白のツートンカラーのパイロットスーツを着た女性なんてハマチからも聞いた事がない。そしてこの街の顔役の一人に名を連ねるワタシも見たことがなかった。って事はこの街の人間じゃない?
「なら教えてあげよう!アタシは【
その名には聞き覚えがあった。ハマチに聞かされた〈超級〉の中にそんな名前があった気がする。
「ああ、確か……“蒼穹歌姫”?」
「なんだよもー。知ってるじゃん。で、おたくは?」
明らかに自分よりも高齢者に、よくここまで気安く話せるとは思うが、自己紹介されたのだ。ワタシもしなければ不敬だろう。
「ワタシはR•レプロブス。この街で寄り合いの纏め役を押しつけられる、しがない神父ですよ」
【遊神】になってからしばらくは何も無かったが、人の口に戸は立てられないようで、結局は
「へえー………。じゃあさ、この街のコト、詳しかったりする?」
なぜだろう。カノジョからは厄介事のオーラしか漂ってこない。そんな長年賭博で頼りにしてきた勘だが、今は裏切らなければならない。カノジョを、
「まあ、人並みには」
「ちょうどいいね! なら、アタシにイロんなコト教えてくれない? 場所を変えてさ」
…………身の危険を感じるのは何故か。
□ 私営カジノ〈イコール・イコル〉
「先生、来てたんですか!」
「ライモンド君、ワタシの事は後でいいからこちらのカノジョにお茶を」
「はい」
ワタシが持っている店に帰ると、たまたまいたのか【高位賭博師】のライモンド君が駆け寄ってくる。
「〈
「同じように救いがもたらされるなら、神の名の違い程度は些細な物だと思いますよ。
もし現実の教義を考慮するなら、ワタシは賭け事に手を染めている時点でアウトだろう。
ライモンド君が持ってきたティーカップを渡して、同じテーブルにつく。
「それで教えて欲しい事とは?」
「うーん、機密事項なんだけど」
「それを聞かない事には教えようがありません」
乗りかかった船だ。泥舟だろうがタイタニックだろうが最後まで付き合わなければ気が済まない。
「ま、いっか。聞いた後は自己責任でお願いね」
「もちろん」
余所のことは知らないが、この街に限って言えばワタシを害せるヒトは居ないだろう。害しようとするヒトは居たが。
「アタシが探してる物は、お隣の黄河の宝物殿の奥から持ち出された、いや盗み出されたお宝」
何やら不穏だが、この国にとっては盗品騒動は日常茶飯事だ。あまり気にしない。国宝級は中々無いが。
「かつての【龍帝】が数多くの
“火薬庫”の話は黄河系のカジノ場から良く聞くが、中身がこの街にあるとは。
「質問しても?」
「いいよ」
「それは、持っていることが知られた場合弱みと成り得ますか?」
「細かいことはよく分かんないけどなるんじゃない?一応は盗品な訳だし」
「なるほど」
ならハマチから送られてきた情報の中にあるかもしれない。「人の上に立つならば、部下の致命的な弱点を把握しておくのは反逆を抑制するのに適した手段です」とか言いながら毎月渡してくる各賭博場の弱みをファイリングした中に。
あれはどの棚にいれたか。
「ああ、あった。この中に探し物ってあります?」
見せてはいけないのかもしれないが、カレのことだ。ワタシの性格まで見通した上で渡しているはず。
「んー……何これ?! 【アムニールの葉】とかマジンギアの純正パーツとか置いてある。あとでとってこようかな」
「ご自由にどうぞ。それで、お探しの品は?」
「見つかった。黄河マフィアの〈蜃気楼〉って所らしいね。まだここには無いらしいけどさ。ちなみにお店って何処?」
「表に出て左にずっとです。装いが黄河風なのですぐに解りますね」
「ありがとー。手間が──「おおっ、見ろよこれ!宝石の掴み取りUFOキャッチャーだってよ!」「バッカ、ニセモノに決まってるだろ」───このゲームセンター賑わってるね」
店内でテンションの上がった2人組〈マスター〉が騒ぐが、誰も注目しない。マナーに厳しい厳粛な賭博場なら摘まみ出されても不思議ではないが、ここはそういう場ではない。それからその宝石の大部分はイミテートだが、稀に本物も混じっています。
「ありがたいことですよ。それにしても【龍帝】の封印珠ですか……」
「何か知ってるの?」
「前にハマチから聞かされた話がありましてね。聞きますか?」
「じゃ、聞かせてもらおうかな」
ワタシの所の司教とは違って好奇心旺盛で結構。あれは、何時の話だったか──
♢♢♢♢♢
「レプロブス、黄河の【龍帝】について貴方はどれくらい知っていますか?」
右手でチェスのナイトを、左手で将棋の金将をつまみ上げながら尋ねてきた。何故そんなことをしていたのかは疑問だったが。カレなりのルールがあったのだろう。
「一体急になんですか」
「いえ、先ほど黄河の奴から連絡が入りまして。近々ここヘルマイネで“小火騒ぎ”が起こるから注意しろと。そのための予習です。それで、答えは?」
「言われてみればほとんど知りませんね。黄河マフィアの方々からこぼれ聞く話程度です」
「……これからは出来るだけ距離をとってください。間違いなく崩壊しますので」
「分かりました」
断言していたが、この分野に関してはカレを信頼していいだろう。全知まではいかずとも、大抵は知っていそうだ。
「今の【龍帝】が蒼龍人越、先代が紅龍人超、それからよく称えられる黄龍人外というのも居ましたか」
「それだけですか?」
「そうですね……はい」
返答を聞くと、カレは安堵の表情を浮かべた。
「はあ、よかったです。もしも知っていたら興醒めでしたから」
見くびられたようで心外だが、事実知らないから文句も出ようがない。
「何故貴方が知らないのか、教えましょう。
「数百年前なら当然では?」
「古文書まで遺っているのに?」
そういえば、時々この街にも少ないながら先々期文明や先期文明の記録も流れてくる。
「まさか誰かが意図的に……」
「正解」
なら、誰がやったのかという疑問も出てくる。そんな大規模な魔法にしろスキルにしろ出来るのはごく少数だろう。
「行ったのはおそらく、黄龍人外。原因は自作の秘術でしょう。国民全員に洗脳を掛けるなど、彼にしかできない。原因はおそらく、彼が編み出したという魔法の中には〈UBM〉を珠に封じ込めるという物があったので、それでしょう」
それはワタシも聞いたことがある。なんでも、百体近い〈UBM〉が閉じ込められているとか。それの何が原因になるのだろうか?
「遠回しだとは思いませんか? 彼が実際に天才だったのは疑いません。なら尚更〈UBM〉をテイムする、屈服させるという芸当も出来たのではないでしょうか。わざわざ珠なんかに封印するよりもよっぽど考えやすいですし、〈UBM〉本来の力も十全に扱えます。ちなみに【覇王】は〈イレギュラー〉を屈服させて乗り物にしていましたから、拮抗していた【龍帝】に不可能と言い切れる理由もないでしょう。それに、今まで普通に〈UBM〉を倒していたのに、いきなり封印の方向に舵を切ったのも不自然ではあります。過去の【龍帝】同様の手法で国を守っていても問題なかったはず。なら何故封印珠なるものを造り出したか────────過去に前例が居たとしたら?」
前例、黄龍人外の更に前の【龍帝】。居たとしても不思議はないどころか、居ない方がおかしい。………そして、ティアンの誰も憶えていないのもおかしい。
「見て貰った方が早いですね。《第七共有書庫》解放」
将棋の駒を放り投げ、指を鳴らしたその手には
「これはかつてのある【龍帝】が書き記した手記のコピーです。流石に原本を持ち出したら黄河から物理的に炎上させられますので。これによれば、今から4代前の【龍帝】もまた、生涯を掛けて〈UBM〉の封印に成功したとあります」
4代前というと、黄龍人外の先代か。けど、その情報が抹消される理由が思いつかないが。
「ああ、理由は割と単純です。その【龍帝】が天才
もし天才だったならば、記憶は残されたままだった? 後世の事を考えて、先代に関する記憶を消した?訳が分からない。
悩むワタシに微笑んで、カレは説明を続けた。
「今、誰も宝物獣の珠を造ろうとしないのは何故か。造れないかどうかは別にして、チャレンジもしない」
黄龍人外が編み出した秘術なん───あ。
「『黄龍人外は天才だった故に出来たが、凡百な私たちに真似できるはずがない』。そう思いませんでした?」
それが狙いか。
「しかし天才
他にも挑戦する者が現れる。実際に秘術なのだから大抵の者は挫折するだろうが、もしも“生半可な”才能を持つ者が偶然にも成功してしまったら。
「珠はその特性上、特典武具とは違い譲渡が可能です。つまりは誰でも手に入れば使用できてしまう。“三強時代”と呼ばれ、豪傑の集った当時ならさしたる問題はないでしょうが、その後はどうなりますかね」
封印できる人材の奪い合い、封印珠の奪い合い。どれにしても凄絶な争いの予感しかない。
「だから黄龍人外はティアンから先代の記憶を消した。無駄な火種を生みださない為に。それこそかの天才らしい技術です。ついでにティアンが誰も知らないおかげで、我々のような〈マスター〉も話を聞く事が無くなった。私とてこの古文書を見つけなければ、ゲームの仕様で済ませてしまいましたし」
手を振ると古文書がひらひらと舞う。
……つい聞き入ってしまったが、もしかしてこの話はかなりの機密事項では?
「まあ今では〈マスター〉なんて規格外が量産されてるので、昔よりは重要度は下がりましたよ。それでもこの程度の世間話なら大丈夫でしょうが、余り公にはしないでほしいですね」
そして忘れられた【龍帝】の名は──
♢♢♢♢♢
「──
「そんな奴聞いたことなかったよ?」
ワタシも無かったが、局長界隈では常識らしい。
「おいこれモノホンの宝石じゃね?!」
「マジかよ! 俺のとか《鑑定眼》すら写らねえんだが。見た目は綺麗なのに。【エレメンタル】の卵とか?」
「んな訳あるか。ちょっと貸してみ」
どうやら先ほど店内にいた2人組〈マスター〉のうち片方は宝石がとれたらしい。おめでとう。
「じゃあその【龍帝】が作った珠も宝物殿にあるんだ」
「いえ、宝物殿にあるのは物は全て黄龍人外の珠だけだそうです」
「紫龍人非さんとやらの珠は野放しってこと? 危なくない?」
「そんなこともないようで。カレいわく紫龍人非は封印が精々で能力の利用まで至らず、砕かない限り普通の石だそうです。その点、やはり黄龍人外は天才だったようですね」
前例がいたとはいえ、既存の術を昇華させるとは天才と言わずしてなんなのだ。
「ふーん…………っ、伏せて!!」
ワタシの感心を余所に、気のない返事をしていた返事から一転、カノジョは緊迫した声を上げた。
その瞳に映ったのは、風前の灯火のような微かな淡い光を
「はい?」
何も動けずに立ち尽くすワタシを無視して、直後に凄まじい爆発音が轟いた。
煙の燻る中から出現したのは橙色に透過する巨大な獅子、の首から上だけ。
『Gururururu………GUWOOOOOOOOOOOO!!!!』
太古の【龍帝】により封印され、何の因果か偶然にもこの街で解き放たれた古代伝説級〈UBM〉【轟傑獅頭 マイエルン】が、歓喜を吼えた。
批判が来ることは覚悟の上!
なお作者のメンタルが死ぬとこの話は消されます
それではっ