クラナド紅の桜 作:ゼロ
(かなり残ってるな。どうするんだろ、これ…)
レックスそうつぶやく。
こんなに遅い時間だというのに、トレイには大量のパンが並べられていた。
見た目はうまそうだ。がなにか嫌な予感したから味見は止めた。
「こんばんはっ」
ふいに声が後ろからしたから驚き咄嗟に一歩後ろに下がった。
振り返ると、ひとりの女性がすぐ近くに立っていた。
エプロンをしているところを見ると、きっと店員なのだろう。
古河の母親なのだろうか。にしては、若く見えた。
「それ、今週の新商品なんです。食べてみてください」
「代金払わなくていいんですか?」
レックスが問う。
「結構ですよ。余り物ですから」
「はあ」
「それ、コンセプトは『なごみ』です」
「これ食うと、なごむのですの?」
レックスは頭から?マークでそうな顔して首曲げて訊く。
「はい。とってもなごむと思いますよっ」
微笑みながら言う。
「……」
よくわからなかったが、たべることにした。
一口パンを噛むとふんりとしたパン生地に何故かせんべいの固さが感じて食った。
ばきっ!…ボリボリ。
「おせんべいが入ってるんですよ。すごいですよね。アイデアの勝利ですよね」
敗北していた。
「名付けて……おせんべいパンです」
まんまだった。
「お子さまから、ご年輩の方まで幅広く愛されそうですよね」
幅広く嫌がれそうだった。
「……」
レックスが黙っていることに、不安を覚えたのだろう。
「あの…ダメでしょうか?」
恐る恐るそう訊いた。
「不味い」
渚の母親が泣きそうになった。
「……」
ぶわっと目に涙を浮かべた後……だっ!
背中を向けて、走り去った。
……。
誰もいなくなった店内。
レックスがひとり、唖然と立ち尽くす。
(この親にして、この子あり、かよ…)
そんな言葉を思い出さずにはいられない。
一体どんな家庭環境なのだろう、この家は。
…徐々に不安になってくる。
せめて、父親だけはまともであってほしいと願う。
「おいおい、なんてことしてくれんだよ、てめぇ」
殺気だった声がした。
振り返ると、今度は目つきの悪い男が立っていて、タバコ吸っている。
(まさか…こいつが古河の父親なのだろうか)
母親と同じで若い。まるで更生しそこなったまま大人になった不良、という感じだ。
「おめぇなぁ、うまいうまいって食ってりゃいいんだよ」
「それが義理だろ、人情だろ」
初対面で、そんなものない。
「真実ってのはいつも過酷なもんだからなぁ」
「てめぇ、それをまんま突きつけちゃあ、可哀想だろ」
「おまえだって、突然自分の親から、実はあなたは橋の下で拾った子供なの、なんて告白されてみろ」
「ちったぁ、ブルーになるだろ。な」
「その方がマシだまだ家族が殺し屋だからな
はっははは」
「なんかすまん」
渚の父親に同情された。
「そういえばその制服、ウチの子と同じ学校のじゃねぇか?」
話そらされてた。
「てめぇ、渚の友達か?」
渚の父親に聞かれた。
「ああ。文句あのか」
喧嘩ごしで言う。
「ちっ……それを早く言えっ」
「おい、早苗っ! 今夜は盛大にいくぜっ!」
「すみません。渚のお友達だったなんて」
「あは…恥ずかしいです。そうとわかってたら、あんな姿、見せなかったんですけど…」
客にはみせまくっているらしい。
「はっは!気にすんな、早苗。こいつは少しイカれてるんだ」
渚の父親は笑いながら言う。
「お客さんにそんなこと言ってはいけません」
早苗は渚の父親を注意する。
まったくだ。