狭いスタジオの中で様々な音が入り乱れている。
歪んだギターの音や、重たげなバスドラムの音、リズム隊の先頭を突っ走る重くテンポの良いベースライン。それに乗ってボーカル2人の歌声が部屋中に行き渡る。
スタジオは完全防音仕様のため、扉を開ける以外には滅多な事では音漏れしないのだ。
やがて演奏が終わり、轟音の様な部屋から一変して静寂に変わる。
それは、綺麗に切りそろえられた赤髪の男によって切り捨てられた。
「いや、入りがワンテンポはええ。俺はいりづらいこれじゃ。ハク、イントロのギターリフもうちょいアレンジして早められない?あと、亮輔走りすぎ、ちょくちょくズレてんぞ。」
亮輔のバンドメンバーである大作、
彼はこのバンドの実質的リーダーで亮輔と最初に組んだ男で、冷静ながらも熱い想いを秘めていて、ライヴでは悪魔のような叫び声を放つ例えるならば包丁のような男。
「わりぃ、次治していくわ。てかさ、次の新しい曲のちょっと良いの考えたんだけどさ、こんなんどうよ?」
エフェクターボードのペダルを踏んで音を変え、歪んだ音からエッジの効いたメリハリのある音が流れる。
「りょーちゃん今は〜新曲って場合じゃあないと思うよ〜」
重たげな印象の髪型のリードギター
丸山はメンバーからはハクとかしろとか呼ばれていて、フランクな性格の陽気な男。
「ああ、何しろ次のライヴまでもう2週間しかないぞ。とりあえず合わせるだけ合わせねぇとな。誰かさんが引越しとかで忙しそうにして練習できなかったからな」
ベースのタケシは亮輔をジト目で見やる。
「うっ。それはまじでごめん。…よし!も1回合わせようや!」
「了解した」
先程まで自身のドラムの音を調整していたa crowd of rebellionのドラマー、ケイジが短く答える。
そう、亮輔が東京に越してきて三日目。ようやく今亮輔たちが組んでいるバンド、a crowd of rebellionのスタジオ練習の日。
彼らは後2週間後にライヴを控えていて、そのため音合わせをする必要があるのだ。
「つっても練習もほどほどにしとかないとノルマをクリアできるほどまだ客呼べてないし、そっちもやるべきじゃないか?」
大作が現状最大の問題に切り込む。
亮輔はニッと笑い
「客呼びはTwitterのバンドアカウントなり、メンバーアカウントなんなり使って随時告知していくしかないっしょ!」
「それが1番確実だな。後は交渉して引っ張ってくるしかない」
「とりあえずノルマ超えねぇと俺らも金やばいぞ」
「大ちゃん今回は何枚売ればいいんだっけ〜?」
「今回は40だな確か。ドリンク別500のチケ代2500¥」
「25で40はわりときちぃな」
そう。ライブハウスに出演する者にはノルマというものが付き纏う。
ノルマはライブハウスの売上にもなっていて、ドリンク代だけでは当然賄えるものでも無い。その為、チケット代のノルマを出演者側に課してライブハウスの運営を図っている。
余談だが、ライブハウスはドリンク代、チケット代に加えて出演者がわの支払う金によって回されている。
機材の維持費や光熱費、土地代、スタッフの給料等もそこから回される。
「とりあえず次のライヴのセットリストはもう決めてあるから、その曲たちを重点的にやっていこう!」
「さっすが大作ぅ!頼りになるリーダー!」
大作は仕事の早い男で抜け目ない性格だ。
「じゃあちゃっちゃと曲回すか!えーっと大作が作ったセトリは…初手Nexusね…結構えぐい仕上がりじゃん」
「当たり前だろ俺が作ったんだから。いいから合わせるぞ!ハク、亮輔、準備しとけよ?」
「おうよ!(うん!)」
静かな始まりのSEが長れる。
『Nexus』はa crowd of rebellionの持ち味、光を闇を存分に体現したココ最近で1番の傑作の曲。
SEの終わりちょっと前くらいから大作は息を吸い始めると、目を見開いて爆発させた。
「ぃやァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!」
大作の強烈なシャウトがスタジオを揺らす。
それを皮切りに豪快でリズムの良いギターリフが炸裂し、テンポのすごく早いバスドラムの音が曲を彩っていく。
『色彩は掠れて夢の島ゴミと化した。たったこれっぽっちの棄てられた僕達焼却炉』
『痛みよ、痛みよ〜』
亮輔の綺麗な声で曲に肉を付けていくと、
大作の
『
ハク・タケシ・亮輔のコーラスは完璧に合わさりa crowd of rebellionらしさを前面に押し出すAメロ。
『あれは遠い夏の夢〜』
『alone this life 』
『消し去る』
『あゞ〜窓のない空間で突き刺せよ僕を
(いつだって歪んで泣いて)』
『あゞ〜忘れないんだ〜I wan't forget
あの日のまま〜Let me hear your voice』
亮輔と大作 光と闇の歌声が交差し矛盾のハーモニー。
矛盾こそが真骨頂。
文脈のない歌詞に隠された伝えたいことを声に乗せて歌っていく。
ライヴまで2週間
彼らのスタジオ練習はまだまだ続いていく。
ところ変わり、音ノ木坂学院。
女子校として地域にもよく知られている昔ながらの伝統ある高校。
本年度も新入生を新たに加えて始業式が始まった。
体育館に1年から3年までの生徒全員に加え、全職員がこのだだっ広い体育館に集まる。
壇上に薄グレーの少し若めの理事長である〝南 理事長〟が歩いてくる。
「みなさんこんにちは。本年度も新しく始まりました。みなさん春休みはいかが過ごされたでしょうか?勉強するもよし、遊ぶもよし、今しか出来ない青春を十分に謳歌してください。さて、ここで新入生にも在校生にも残念なお知らせをしなければいけません。
みなさんも知っての通り、年々この音ノ木坂学院の入学者数が減っています。1年生は良くわかると思いますが、今年は1年生が3クラスしかありません。このまま入学者が減少してしまうと、この伝統ある本校の運営にも関わってしまいます。
ですから、今年の学校見学会、つまり、オープンキャンパスにて入学希望者アンケートを取り、今年よりも同じくらい、もしくは下回ってしまった場合、残念ながら本校は来年度からの入学者の募集を取り下げ、近隣の学校と合併する事を決定しました。
新入生のみなさん入学早々、こんな話をしてしまってごめんなさい。ですが、皆さんのこれからの学校生活にもとても関わりのある事なので言うべきだと思い、この場で話しました。
残り少ない期間ではありますが、ここ音ノ木坂学院で良き思い出、良き友人を作り、音ノ木坂での学校生活をより良いものにして言ってください」
つまり話をまとめると、入学者少ないから来年から募集しないで、近くの高校と合併するよ。っていう話だ。
音ノ木坂学院は由緒ある伝統校だが、それだけなのだ。
部活動が強い、偏差値が高い、文化祭が毎年凄いなどの目を引かれる、〝目に見えた強み〟がないのだ。
悪くいえば普通の高校と言える。
最近では近くにUDX高校なる、最先端の学校が出来てしまいそちらの方に入学者が吸い寄せられてしまうと言う自体が起きてしまっている。
華々しい高校生活を夢見る受験生達はやはり、華があり、少しでも楽しめる所に行ってしまうのは仕方の無い事だろう。
そんな理事長の話は生徒に少なからずの動揺と落胆を与えているのは確かだった。
みな愛校心などは無くても、愛着はあるのだろう。それとも普段の生活が崩れてしまうのが嫌なのか、どちらかは推し量りかねるが、今まで過ごしてきた所がなくなってしまうと言うのは寂しさ等の感情を抱くのには十分すぎた。
「ええ!?廃校だって!?なくなっちゃうの!?音ノ木坂学院?!」
「穂乃果、少し落ち着いてください。気持ちはよく分かりますが…私たちにはどうする事も出来ませんよ…」
「でも!!でも!!!なくなっちゃうんだよ!?」
「それも大人の事情と言うやつでしょう。仕方の無いことです…」
先程の理事長の廃校についての話を受けて、騒いでいる穂乃果と、それを宥める海未。
穂乃果を戒める海未の光景は半ば様式美のようになっていた。
「うん…お母さんもここ数日すっごく悩んでたみたいなの…穂乃果ちゃん、お母さんを悪く言わないで欲しいなっ」
「うぅぅ、ことりちゃぁん…」
理事長の娘であることりが言う。
「そうだ!」
「どうしたのですか?」
突然、何か思いついたように項垂れていた頭をバッと上げた。
「私たちでどうにかして廃校を止めようよ!!!!」
突拍子もないことを言い出す穂乃果。
「穂乃果、いくら何でもそれは無理だと思いますよ?私たちはまだ学生ですし…」
実際問題、大人のあれこれを止めるには、高校生の彼女らには荷が重すぎる話だ。
よほどの奇跡が起きない限り、高校生である彼女が半ば決まっているような廃校の事実を覆すことは不可能であると、誰が見ても聞いても言うだろう。
だけど、それでも、高坂穂乃果と言う少女は諦めない。
「やってみなきゃわかんないじゃん!!やるだけやってみようよ!!」
その青色の瞳は諦めなど知らないかのように爛々と輝き、海未とことりを見つめる。
昔から穂乃果は決めたら、どういう結末になろうとやり切る子だと知っているのだろう。
海未はため息を深く吐いた。
「はぁ。まあ穂乃果は1度決めたらテコでも折れないですし、やるだけやってみましょう」
「海未ちゃん!?穂乃果ちゃんが頑張るならことりもがんばります!!」
高坂穂乃果と言う少女の諦めの悪さは幼馴染の彼女らはよく分かっているようで、止めても無駄だと付き合うことにしたのだ。
「それで、穂乃果?何かに方法はあるのですか?」
「まだ無いよ!!これから考えるの!!」
「だと思いましたよ。今日の放課後、穂乃果の部屋に集まって廃校を止める方法考えましょう」
「賛成〜」
本日の放課後、作戦会議が決定した。
「お〜い。お前ら席つけ〜そろそろ1限目始めるぞ〜」
穂乃果たちのクラスの1限目である国語の教師が入ってきて、席に着くように促す。
やがて全員が席に着くと、クラス委員の号令で授業が始まった。
放課後、海未とことりは穂乃果の実家である和菓子屋『穂むら』の2階、穂乃果の部屋に集まっていた。
「まず、どうやって廃校を止めるのか考えましょう。それからです」
「どうやって人を増やせばいいのかな〜?」
「部活動とかで有名になるとか?」
「夏までにそれは無理でしょう却下です」
尤もである。夏まであと数ヶ月しかない。夏には運動部の大会が集中するが、数ヶ月で優秀な成績を収められる保証も無いし、よほどのミラクルがない限り部活動と言う方法は現実的でないと言える。
「たはは、だよね〜」
「穂乃果ちゃん!こ〜ゆ〜のはどうかなっ?」
先程までノートパソコンでアプローチを掛けていたことりが、穂乃果と海未に画面を向ける。
「何これ?スクール、アイドル、?」
「うんっ!最近有名になりつつあるらしいよ!」
それはある高校の〝スクールアイドル部〟のページだった。
スクールアイドルとは本業のアイドルとは違い、アイドル活動を部活動として活動しているアマチュアのアイドルだ。
その人気は今上がってきていて、人数も増えてきているらしい。
今年には、そんなスクールアイドルの甲子園、『ラブライブ』が開かれるらしい。
全く新しいタイプの部活だ。
そんなスクールアイドルに穂乃果はピンと来たようで、ハッとした顔をした。
「そうだ!!!スクールアイドルだ!!!ラブライブって大会に出られたらかなり入学したいって子増えると思う!!海未ちゃん!ことりちゃん!アイドルやろう!!?」
「あ、あ、アイドルですか!?あの、短いスカートを履いて歌ったり踊ったりする!?」
「そう!そのアイドルだよ!!私たち3人でスクールアイドルになればきっと入ってくれる子がきっと増えるよ!」
「お断りします!!大体、アイドルなんて破廉恥です!!」
元来、目立つことを嫌う海未は穂乃果の提案をバッサリ切り捨てた。
「えーー、なんでよ!?やろうよ!!」
「お断りします!!」
「ことりは賛成だよ〜可愛い衣装とかも着られるしね♪」
「全くことりは穂乃果には甘すぎます!」
「ことりちゃんはやるって言ってるよ!!海未ちゃんもやろうよ!!!」
「お断りします!」
「やろうったらやろうよ!!!」
穂乃果も海未の衝突。半ば穂乃果は駄々をこねている様にも見えるが、一向に曲げる気配はない。
その熱意に次第に海未は折れていって、スクールアイドルをやる事を了承した。
「はぁ…やると決まったからにはやりますが、曲はどうするんですか?作曲は?作詞は?」
「作詞は海未ちゃんでしょ!!中学校の時、なんだっけ、ポエム?みたいなの書いてたじゃん!」
「ななななななな、なんで穂乃果がそれを!?」
「なんでって、前海未ちゃんち行ったら机の上置いてあったんだもん」
「恥ずかしい…やりませんよ、作詞なんて…」
「えぇぇぇ〜お願いだよ海未ちゃん!」
「ことりからもおねがぁい」
ことりの援護射撃。ふわふわでタレ目のことりの上目遣い攻撃は海未に大ダメージを与えた。
「仕方ないですね…作詞はやりましょう。曲はどうするんですか??まさかプロの方に作ってもらわけにもいかないですし」
「それならいい人が居るよ!1年生の髪の赤い子!」
以前、入学式の日に何気なく音楽室からピアノの音が聞こえてきてつい覗いてしまった。
そこには楽しそうにピアノを弾きながら歌う赤い髪の少女の姿があったそうだ。
恐らくその子に頼むつもりなのだろう。
「それに、こないだあった亮輔君にも作ってもらえばいいじゃん!!」
「りょうすけならば頼みやすいですね。私から言ってみましょう」
亮輔には海未が、赤い髪の子には穂乃果がそれぞれ作曲をお願いしに行くことが決まった。
「よーし!!明日からスクールアイドルやるよ!!がんばろう!」
こうして、穂乃果達はスクールアイドルを結成した。現時点でメンバーは3人で、持ち曲も無い。全くゼロからのスタートだが、不思議となんかやれそうな気がする3人だった。
その後徐々にガールズトークにシフトしていき、夜になるまで話は続いたらしい。
こんばんは、くれないです。
ようやく筆が乗ってきました(どうでもいい)
次回から原作メンバーをちょくちょく出していこうと思います。
感想・評価等よろしくお願いします。
暖かい目で見守っていただけると嬉しいです( ¨̮ )