デュロ海軍基地
基地は早朝から大騒ぎであった、なんでも命令も無しに三隻の戦列艦が出航したのだから。
◆◇◆
予想だにしない事態に港湾内や付近の海域は大混乱となっており、水先案内人や水兵が事故が起こらないように奔走していた。
「貴官らは何をしておるのか!直ちに停船せよ!繰り返す、直ちに停船せよ!」
通信兵が出港していく戦列艦に警告するが、
「列強の誇りを忘れた軟弱者に答えはしない。」
とだけしか言わなかった。
「生意気なアルタラスの船を我々皇軍の圧倒的な力で沈めれば、皇帝陛下も考えを改めるだろう」
ボルネオは本気でこのように考えていた。
◆◇◆
「ルトス司令が通るぞ!道を開けろ!」
慌てていた水兵は司令が通ると聞くや、
サッと道を開ける。
「いったいどうなっているのですか?!」
ルトスは落ち着いて、しかし怒りを込めた声で将校達に尋ねる。
「ハッ、無断で出港した「ムサラ」のボルネオ艦長はどうやら、国賊カストが文明圏国のアルタラスに引き渡されるのが気に入らないと言う話を少し前に同僚に話していたとのことです。」
「それで他2隻の艦長を言いくるめて
アルタラスを攻撃する為に向かったと言うのですか?まったくバカバカしいことですね。」
「いえ、恐らく引き渡しに来るアルタラスの船を狙ってのものと思われます」
「どちらにしろバカという他ありません、何にせよ彼らを何とか説得しなければなりませんね」
◆◇◆◇
アルタラス海軍
新型装甲艦 タス1世
創世王の名が付けられた装甲艦はドイツがアルタラス用に建造し、購入したものだ。
「この船があれば王国海軍が壊滅することも、ボルド司令が戦死なされることも無かったというのに。」
タス1世の艦長であるシャラザムは艦橋に並ぶ26㎝ライフル砲を見る。
「しかし、今回はあくまでも罪人カストの引き渡しの為に皇国へ向かうのです。
仇討ちをしようとは思わないように」
副官のクエスは感情が無いんじゃないか、と思えるほど抑揚の無い声で話しかけてきた。
「わかってるさ、それで皇国まであとどれくらいかな?」
「後、1時間で港が見えてきます」
「そうか」
◆◇◆◇◆◇
パーパルディア皇国
皇都エストシラント沖
後もう少しという所でレーダー員から報告が上がる。
「魔信レーダーに感あり!」
「何だと?」
「数は三隻、距離は北東!」
「戦列艦が三隻、パーパルディア皇国海軍旗を掲げている!」
監視兵が双眼鏡で確認して叫ぶ。
◇◆◇◆◇
「生意気にも黒煙なんぞ吐きおって、風神の涙最大限に解放しろ!」
ボルネオは全艦に向け、右舷をタス1世の方に回頭するように指示を出す。
◇◆◇◆
一方でタス1世の方は軽くパニックになっていた。
「おい、アイツらこっちに砲を向けてきてないか?」
「そろそろ向こうの射程圏内にはいるぞ?!」
「警告しろ!警告!」
「それが何度しても反応が無いんです!」
「無視してんのかあいつらぁ!」
怒鳴りが行き交い、水兵たちは戦列艦の動向を伺いつつ、いつでも撃てるように
配置についた。
ズドドーーン!!
パーパルディアの戦列艦が発砲し、タス1世のすぐ近くで水飛沫が上がり、甲板を濡らす。
「直ちにあの戦列艦を攻撃せよ!これは正当防衛である!総員準備!!」
艦内に配置されているスピーカーから
の命令に、砲兵はライフル砲に弾を込める。
◆◇◆◇◆
パーパルディア皇国
皇都エストシラント
皇都の沖に面する港に臣民達が集まり、沖の方を眺めていた。
その様子を見ていた一人の男が、群衆の一人を捕まえ何の騒ぎか尋ねる。
「これは一体何の騒ぎなんです?」
「え、いや、なんでも今朝方からドイツの支援を受けたアルタラスの船が来るというから見にきてたんですよ」
「ほう」
「したらね、皇国の戦列艦も三隻やって来たもんだからどうしたんだと思ったら、戦列艦がやって来たアルタラスの船に向けて撃ったんだよ!」
と、男は興奮した様子でまくしたてるように話した。
「へぇ・・・そりゃ物騒なこって・・・」
そう呟いた瞬間沖から轟音が聞こえた。
ーードオォォーーーン・・・
「うぉ!!」
「うわぁ!スゲェ!」
「なんてこった!」
アルタラスの装甲艦が撃った砲弾が戦列艦の一つに命中し、それから誘爆して派手に爆発した。
◆◇◆◇
「戦列艦トワキ轟沈!」
「なんだあのデタラメな命中精度は!次弾射撃急げ!」
「よしっ!撃てっーー!」
ドドドドバーーーン!!!
右舷の魔導砲から沢山の白煙が噴き出す。
「敵艦発砲ォー!」
タス1世の周辺に巨大な水柱が立ち、その直後にタス1世が被弾し、巨大な揺れが襲いシャラザムが甲板に尻餅をついてしまう。
「流石ドイツの船だな、砲弾に当たったというのにビクともしない」
「艦長、感心して座っている暇はありませんよ、直ちに反撃しましょう」
クエスはシャラザムを引っ張り起こしながら言う。
「よし、回避運動を取りながらの砲撃を始めろ! 」
魔信にシャラザムは叫ぶ。
「臆するな!奴らの弾はさしたる脅威ではない!」
「装填完了!」
「テッーー!!」
タス1世の砲弾は戦列艦の船首の喫水線ギリギリの所に命中し、そのまま水を飲む様に沈んでいく。
これで残ったのは「ムサラ」だけとなった。
◇◆◇◆◇◆
「蛮族の船に皇国の戦列艦が2隻も沈められるとは・・・!ギギギ・・・」
ボルネオは掌から血が滴り落ちんばかりに握り締めていた。
「これより我が艦は敵艦に対し、衝角による攻撃の後、敵艦に切り込み隊を突入させる!」
ボルネオはそう叫ぶと魔信に向かい、
敵艦に向けて全速前進する様に命令した。
◆◇◆◇◆
《敵戦列艦 こちらに向かって来ています!》
「奴らめ!ぶつける気だな?!」
ムサラとタス1世の距離はみるみるうちに縮まって行く、砲撃も焦りによるものなのか段々と精度に欠け始める、もはやムサラがぶつかるのも時間の問題だ。
「来るぞー!!!」
「総員衝撃に備えろ!!」
◆◇◆◇
「衝角攻撃の後、直ぐにマスケット 隊による制圧射撃の後に切り込み隊を突入させるぞ!」
「艦長!ショックに備えて下さい!」
《総員 ショックに備え!》
メシャリ!!!
両艦共に凄まじい衝撃が襲う。
そして・・・
「大変です!艦首底が大破、浸水しています」
「敵艦に被害が見られません!あっ!?」
ムサラはタス1世に衝角攻撃を行うが、金属製のタス1世にはビクともしなかった。
それどころか衝角の衝撃で艦首が大破し浸水し始め、そのムサラの艦首がタス1世の右舷に引っかかり、艦首が嫌な音を立てて引きちぎられる様に持っていかれた。
船内に一気に水が入り、ムサラはものの数分で海中に沈んでいった。
◇◆◇◆◇
皇都の目と鼻の先で行われたこの海戦は、これまで第三文明圏の頂点に君臨していた皇国の絶対的支配が揺らぎ始める発端となった海戦として、歴史に語り継がれることとなる。
前回のコメントなどで。「他作品ではドイツよりも技術を持っていながらパ皇に舐められたまま戦争に突入したが、今作は力の差を認識させた」という様なのがありましたが、他作品様のは平和的に解決させようとするんですよね、勿論砲艦外交などもってのほかと考えてる国々だから当然のことです。
レミールも三巻で「日本が力を見せていたらまた結果も変わっていたかもしれない」みたいな事を言ってましたしね。