バルチスタ海戦 ⓪
パーパルディア皇国
工業都市デュロ
現在皇国では数カ所に集中している基地を分散化させている為、軍用馬車が引っ切り無しに行き来している。
そんななか1人の男が、工業地区へ向かう。
先進兵器開発研究所(兵研)の職員であるソレノイドは、陸軍の新兵器開発研究部に赴いた。
「やぁソレノイドさん、お待ちしておりました、例のモノはこちらにあります」
出迎えてくれた職員の案内の元、研究部の中でも特に守秘義務の強いところへ通される。
「現在、神聖ミリシアル帝国から持って来た対空魔導砲を解析しているのですが、回路が複雑でなかなか難儀していましてね。ドイツの対空兵器も研究に回されたのですが、どうも魔法を使ってないみたいで恥ずかしい事に、機械系は我々魔導系にはどうもサッパリでしてね」
そうしているうちに例の兵器がある場所に来た。
砲身にしては巨大すぎる筒の先に小さい筒がくっついており、その上には対空サイト、銃床はなく引き金も自分達の見知った物ではなく、まるで扉の取っ手の様だ。
そうMG08である。
「しかし、これは凄い兵器です。
なんでもこれは弾を装填して引き金を引くだけで途轍もない勢いで弾が発射されるのですから」
職員が機関銃の如く話しているのを尻目にソレノイドはドイツの対空兵器を見る。
対空魔光砲は撃つのにやたら時間がかかり魔法陣が展開する為目立つ、そして魔導エンジンが未熟な皇国では撃てる時間も短い。
それに比べて此方は魔法は使わず、弾の装填も対して時間がかからない、どうやらこの砲身が焼けつかない様に水タンクの水を交換する必要があるらしいが、魔光砲の前には些細な事だ。
「ふーむ、コイツから魔法を使っている気配はかんじないな」
少し見るだけで精巧な部品をたくさん使っていることが分かる。
(コイツは皇国の技術で再現出来るか厳しいぞ・・・)
一応皇国にも旋盤などの工作機械はある。
しかしその殆どはミシンの様に足で回したり、後ろにあるデカイ車輪を弟子が回して旋盤を回すタイプのものが殆どだ。
(これは工作機械もドイツから買わないとダメだな)
一応兵研でミニエー銃を解析した際や、リーム王国戦でドイツ軍の金属薬莢を回収したのを参考に、ガトリングガンが試作されていたが、当分皇国が作れる技術ではそれが一番連射のきく銃になるだろうと、ソレノイドは考えた。
(今出来るのは、出来る限りドイツの技術を得てコピーして学ぶ事、やる事は沢山あるぞ)
より詳しく調べる為、馬車にMG08を載せてソレノイドは兵研に戻っていった。
◆◇◆◇◆
ドイツ兵器局
現在此処では、グ帝戦における戦力増強のためにパーパルディア皇国に輸出する型落ち兵器の設計を行っていた。
目標としては、
[ドイツよりは劣るが、皇国で生産できて、それなりに使えるやつ]
となんとも大雑把なやつであった。
そんな条件の中、兵器局が拵えたのは
AE98(Abhängig属領、Einfach簡素 )
という単発ボルトアクションライフルだ。
銃床は向こうでも作れるだろうし、
銃身のライフリングもミニエー銃を調べているだろうから作れるはず。
薬室等は頑張って貰うとして、兎に角そこら辺の町工場でも作れる事を考えて設計された。
そんなヤケクソ仕様の銃でも悲しいかな、皇国軍が使っているマスケットに比べたら遥かに高性能なのであった。
◆◇◆◇
皇都エストシラント
郊外
国営農場
新しく作られた此処では、奴隷やホームレスなどを連れて来て芋類の栽培を行っていた。
奴隷もホームレスもみんな蛸部屋みたいな所に押し込まれるが、休憩三食あって寝る所もある分、3K鉱山で働くよかマシだろう。
「しかしルディアス様が皇都の近くにこんな物を作る農場を作るなんてなぁ」
芋を洗いながら奴隷とホームレスが話し合っていた。
「こんな石みたいなのが野菜とか信じられねぇよ」
と言いながらジャガイモを手にとってまじまじと見る。
「しかし蒸して食うと美味いんだから不思議ですよねぇ」
因みに皇都の住民達も最初はその石みたいな見た目に忌憚していたが、農務局のキャンペーンによって徐々に受け入れられて来ている。
◇◆◇◆◇
デュロ海軍基地
折角だからとソレノイドは、新型艦のヨング・ミラーとテチ・タを見に来た。
どちらもドイツの助言によって建造された防空艦と呼ばれる新ジャンル艦だ。
船体は量産型装甲艦だが、船体の至る所に四連装MG08、主砲がある所には2㎝Flak38が、そして試験的に魔導モーターを搭載した対空ガトリングが搭載されている。
「うーむ、コレはまるでハリネズミだな」
出来る事ならこの中に対空魔光砲も搭載したいが、それは今はまだ叶わない。
◇◆◇◆◇
パラディス城
執務室
ここでは今、アルデ、エルト、バルス等々皇国の重鎮が集まっていた。
「ルディアス様、先日神聖ミリシアル帝国より『中央世界と第二文明圏で連合艦隊を作り、レイフォル沖に居座るグラ・バルカスを駆逐したい。尚、パーパルディア皇国は第三文明圏であり地理的にも遠い為、この作戦で出なかったからといって不利益を被ることは無い』との事です」
「ふむ、そうか」
ルディアスは短く答える。
「確かに皇国は戦場からはかなりの距離がある。ミリシアルの配慮は有難い。
しかし、先進11カ国会議での狼藉はとても許されるものではない。
我が皇国も列強として指を咥えて見ているだけは駄目だろう。 アルデ!」
「ハッ!」
「ヴェロニア竜母艦隊を投入する事は可能か?!」
「ヴェロニアで御座いますか!?」
「可能かと聞いておる!」
「ハッ!問題ございません!」
「よろしい、竜母打撃群を編成し連合艦隊と共に戦列に加われ。指揮はバルス、
貴様に命じる」
「はっ!このバルス全身全霊を賭けてグラ・バルカスを殲滅して見せましょう!」
バルスは感嘆の声を漏らしながら跪いた。
◇◆◇◆◇◆
その後・・・
「バルス、お前も分かるだろうが此度の戦いは決して楽なものではないだろう」
「は、それは存じております」
「ミリシアルやムー、ドイツが出るから恐らく我が国は後方に配置されると思うが・・・必ず生きて戻って来い」
アルデは、バルスの事もそうだが、ワイバーンオーバーロードを搭載した皇国最新鋭のヴェロニアが沈まないか不安でしょうがなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ドイツ
ベルリン
総統官邸
「総統閣下、先日神聖ミリシアル帝国から書簡が届きました。内容は『中央世界と第二文明圏で連合艦隊を作り、レイフォル沖に居座るグラ・バルカスを駆逐したい。各国との調整がある為、具体的に戦闘に入るのは6ヶ月後。ついてはドイツ国も参戦可能か?』との事です。」
「本格的に行動を起こす気か、グラーフ・ツェッペリンの慣熟訓練も終わった所だし、肩慣らしにはいい頃合いなのではないかな?」
ヒトラーの言葉に、ゲーリングとレーダーは苦い顔になる。
いくらフォーク海峡の仇を取ろうと思っていても、ドイツ海軍は圧倒的な戦力不足なのだ。
「ミリシアル帝国は、そのレイフォル沖の戦闘では、世界連合の他に別働隊としてドイツ艦隊はミリシアル艦隊と作戦を共にしたい。とも書いてあります」
「成る程世界連合は囮か、これなら勝機は見出せるな。
レーダー、シャルンホルストの仇を取るぞ。ドイツ艦隊はレイフォル沖に向かい、グラ・バルカスを撃滅する!」
ヒトラーは意気揚々と宣言した。
そしてその日からドイツ海軍はレイフォル沖に向けて、準備を進めることとなる。