崩落した空洞山脈の岩石は、見事なまでに第4師団を押し潰した。
それでも幾つかの車両は、他の車両の隙間で無事ではあったが。
「がぁ・・・いたい・・・」
鉄屑と化したトラックの1つから、怪我の無い兵士達がフラフラとした足取りで降りて来る。
「ちっ!一体どうなってんだ!」
「状況確認、隊の者は集まれ」
「おい、起きろ!」
「彼はもう死んでます!」
「クソ!」
這い出た兵士の中でも隊長と思われる男は、頭の打ち所が悪かったのか目立った外傷も無い兵士の亡骸をトラックの荷台に寝かせると、生き残りの隊員を数える。
「たったのこれだけか!?」
余りの少なさに驚いてしまう。
「取り敢えず我々は生き残りと合流しながら後方へ下がる。」
師団が実質壊滅し指示も仰げない以上、
各自判断で行動するしか無い。
兵士達は装備を纏めて後退しようとしたときであった。
パン!
近くにいた兵の頭が爆ぜる。
「スナイパー!!」
誰かが叫ぶと同時に皆がトラックの影に隠れる。
網目の如く岩が張り巡らしている空洞山脈だ、敵が潜んでいてもおかしくは無い。
それに敵の規模はどれくらいなのかも見当が付かない。
今までは一方的だっただけに急に攻守が逆転し、他の兵士達もパニックに陥っている。
「ここで易々と死ねるか!反撃だ!」
空洞山脈の至る所で残存部隊とムー兵士との撃ち合いが始まった。
◆◇◆◇
ドン!!
生き残っていた戦車がムー兵士に向け、榴弾と機銃を撃ち込み、数人のムー兵が吹き飛ぶ。
「なんとか持ち堪える事が・・・なんだあれは?!」
安堵したのも束の間、急に真っ白い煙幕が戦闘域を覆尽くす。
「なぁっ!?煙幕!?ーー!
驚いたと同時に、叫び声が木霊する。
「突撃ィィィ!!!!」
「「「ィィィイイヤアァァ!!!!」」」
濃い煙幕の中にサーベルを持った兵士と、着剣した兵士の影が数人の見えたと思った瞬間、隊長にムー兵士が体当たりをして銃剣をぶっ刺して来た。
「○%×$☆♭#▲!※!!!!」
奇声に近い叫びを上げながら、隊長の胸部を執拗に突き刺した。
その背後では戦車に接近し、覗き窓の隙間からピストルで執拗に撃ち込み、這い出た所を滅多刺しにした。
グ帝残存兵は総崩れとなり、バルクルス基地へ一目散に逃げていった。
◆◇◆◇◆
少し前
ボーグは指揮車の中で目を覚ました。
後方にいた事と、他の車に比べて装甲が厚かったのが幸いしたのだろう。
「・・いてて、おい!起きろ!生きているだろう?!」
ボーグが近くにいた搭乗員を叩き起こす。
「あ・・・ああ、痛い・・・一体何がどうなったのですか??」
「どうやら蛮族共が空洞山脈を吹っ飛ばしたようだ。無茶をしやがる」
その時であった。
ドン!!
遠くから戦車の砲撃音が響く。
「な!何が起きた!」
すると、天井の装甲ハッチが乱暴に開けられる。
そこには自軍の兵士の姿があった。
「ボーグ閣下!ご無事でしたか!たった今ムーが奇襲を仕掛けて来ました!今すぐお逃げ下さい!!」
そう言うと、兵士は些か乱暴にボーグを引っ張り上げる。
「いだだだだぁだだだ!!!!!」
無理に引っ張り上げられたボーグは足を抑えた。
ボーグの足は岩石が落下した衝撃で足が椅子に挟まれ、歪な方向に曲がっていた。
「閣下!足が・・・!なんてこった!」
「ぼやぼやしている暇は無い!無理やりでも引っ張り上げるぞ!!!」
そこら辺にあった工具で無理にこじって椅子の隙間を開け足を引っ張りだすと、ボーグを担いで元来た方に一目散に駆けて行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
空洞山脈 グラ・バルカス側
つい先程爆音が鳴り響いたと同時に、侵攻部隊からの通信が途絶えた。
第2砲兵師団は、第4師団が空洞山脈を
抜けて制圧してから山脈に突入しようと、入り口で待機していた所であった。
「一体何があったのか?」
コーリーはテントの下で紅茶を飲みながら部下に問いかけた。
「どうやらムーが空洞山脈の内部を爆破して第4師団を生き埋めにした様ですな」
すると、通信兵が飛び込んできた。
「何事か」
「ボーグ少将が負傷し、指揮が不可能になった事により、1番近いコーリー少将に指揮権が移されました!」
「なんと!」
「第4師団は現在此方に向かっているとのことです」
「うーむ、わかった。入り口に歩兵とトラックを用意し、第4師団が到着次第載せてバルクルス基地へ帰還する。砲兵隊は使えないから基地へ帰還するように伝えてくれ」
「了解致しました」
「少しばかり舐めてかかりすぎた様だな。この作戦は失敗だ」
何とか逃げ切れた第4師団の生き残りはトラックに載せられ、速やかに基地へ帰還しボーグはレイフォルに置いた病院へと移された。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
時間は少し前に遡る。
グラ・バルカス帝国
キールセキ第1次攻撃隊
大山脈の上空を、85機にも及ぶキールセキ第1次攻撃隊が悠々と飛んでいた。機体の発する重厚な音は、付近に響き渡り、不気味な雰囲気を醸し出す。
○アンタレス型戦闘機19機
○シリウス型爆撃機41機
○ベガ型双発爆撃機25機
の大編隊で構成された爆撃隊は、順調にキールセキに向け進路をとっていた。
眼下には空洞山脈に引っかかった雲が、雲海を形成していた。
アンタレス型戦闘機、小隊長のスペースは、周囲を監視する。
相手は世界第2位の列強だの、文明圏だの言っているが、はっきり言って弱い。
その為軍全体がこの世界に対して舐めており、この作戦でも前世界では考えられないぐらい低高度で飛んでいる。
が、おそらくは問題なく爆撃し、問題なく基地に帰還する事が出来るだろう。
敵戦闘機は脅威ではない為、下の対空砲火に注意を向けていた。
「む?!」
キールセキの飛行場から来たと思われる複葉機が見えて来る。
(前に交戦したのよりも速い!?陸軍機?まさかムーの新型か?!)
徐々に機影がハッキリしてくる。
「来るぞ!」
520キロの全速力で飛んで来たマリン改は、アンタレスとの正面を切っての撃ち合いが始まり、すぐに巴戦となる。
単翼機のアンタレスより、複葉機のマリン改の方が旋回性能は高く、機銃を増加したのもあり、互角以上に戦えていた。
「くそ!思ったより速いな!」
『つ!付かれた!助けてくr・・・』
『敵戦闘機が爆撃機の方に向かって行くぞ!』
『させるか!』
マリン改の数機がベガに向かって行く。
アンタレスはそちらに行こうとするが、残っているマリン改が邪魔をしてくる。
◆◇◆◇
「ちくしょう!アンタレスは何してるんだ!」
ベガの機銃主であるオリトは、アンタレス隊に悪態をつきながら機銃を構える。
「上、3時方向に敵機!」
「うらぁぁぁぁぁ喰らえ!!!!」
上方から迫るマリン改に機銃を叩き込むが、何も当たらず隣の僚機に機銃が叩き込まれる。
落ちはしなかったが、エンジンからは白い煙が吐いている。
『編隊を崩すな!そのまま機体を上げろ!!』
隊長の無線が聞こえる中、シリウスがエンジンから火を吹きながら落ちて行く。
「上昇!上昇!」
機長が焦りながら操縦桿を引く。
隣で飛んでいた僚機が再度攻撃を受け、エンジンから火を吹き出しながら落ちて行くのを横目に高度を上げて行く。
この攻撃で残った爆撃機はシリウス35機、ベガ18機と大損害を被ったが、此処まで来ておめおめと引き下がるわけには行かなかった。
◆◇◆◇◆◇
キールセキ駐屯地
ウゥゥ〜〜
ウゥゥ〜〜
街中や、駐屯地内にはサイレンが鳴り響き、市民達は山をくり抜いた防空壕へと避難を開始していた。
駐屯地内では、基地に5つある装甲飛行船用の対空砲を空に向け、迫り来る敵機に備えていた。
砲座には下士官が座り照準から空を睨む。
その時、誰かが「敵機!」と叫ぶのが聞こえた。
まるで黒いインクでスプレーしたかのように無数の黒点が覆い尽くしている 。
それは下士官がこれまで見たこともないほどの、凄まじい数の航空機集団だった。
ーーードン!
照準に入ったベガに向けて対空砲は火を噴くも、時限式でも無いただの徹甲弾は虚しく空を切る。
「榴弾にして再装填!」
尾栓部の兵が榴弾を込める。
その間にも航空機用の対空砲が次々と空で黒い花を咲かせている。
ーードン!
下士官の撃った榴弾はベガを通り抜け、また空を飛んで行った。
「畜生!再装填!」
すると、空を飛ぶ敵機の1つが別の飛行船用の対空砲に当たったらしく爆散した。
◆◇◆◇◆
『3番機がやられた!』
目の前でくるくると舞う様に落ちて行く僚機の残骸を見ながら操縦士のアレンは、進路がずれぬ様に操縦桿を握りしめていた。
「進路そのまま!よーそろ!ようそろ・・・投下!」
爆撃手はスイッチを押し爆弾を投下した。
爆弾は住宅地に落とされ、防空壕に向かっていた住民を木っ端微塵に吹き飛ばす。
「爆弾は落とした!あとは帰るだけだ!!」
アレンはそう叫ぶと、操縦桿を思い切り引き上げた。
◆◇◆◇
アレン達は何とかバルクルス基地へ帰路に着くことが出来た。
アレンは隣で一緒に飛んでいる僚機を見て無線で語りかける。
『お互い何とか生き延びる事ができた様だな』
『ああ、全くだ。』
『帰ったら酒でも・・・おい!あれ何だ!?』
ベガの上空から1つの機影が現れた。
『まさか!ムーの新型か!!』
突如上空から現れたのは、今まで見たムーのマリンとは違い、全金属製の単翼機で、機首もスラリとした液冷エンジンであった。
それはマリンでは到底できない様な急降下を行い、僚機に向け両翼から20ミリ機関砲を叩き込んだ。
エンジン部をやられた僚機はたちまち煙を吹きながら落ちて行く。
何個か落下傘が見えたが、搭乗人数分の数は見られなかった。
「やばい!クソ!」
アレンは大焦りで速度を上げ逃げる。
・・が、何故か新型機は僚機を撃墜すると急に速度を落として戻って行ってしまった。
「危なかった・・・、エンジンでも壊れたのか・・?」
アレンはどっと疲れが押し寄せ椅子にもたれた。
◆◇◆◇◆◇
「くそ、エンジンがイカれやがった」
パイロットが悪態をつきながら基地へ帰還する機体はhe100。
この機体は本来はドイツ空軍に向けてハインケル社が作ったものだが、採用が見送られてしまう。
それでも試作機を12機程製作していたハインケル社は、クワ・トイネ、パーパルディア等の技術後進国ではなく、ムーという機械文明国と国交を結んだと聞き、
早速売り込みをかけた。
この機体はbf109と比べ、生産性・整備性が悪くそれで採用が見送られたが、ムーからしてみたら化け物性能を持つこの機体を買わない手は無く、技術を調べる為五機程購入した。
そして空洞山脈で巧妙に偽装された飛行場で運用試験をしていたhe100は、キールセキから帰るグラ・バルカスの爆撃機を発見し攻撃を行ったのだが、1機は落とし2機目を攻撃しようとしたところでエンジンに異常が発生してしまい、帰還せざるを得なくなってしまったのだった。
◆◇◆◇◆
キールセキを巡って行われた攻防戦。
しかしこの戦いも、第二文明圏全土を戦火に包む戦いのほんの序章に過ぎなかった。
ムー兵の煙幕は手の魔法陣から出したものです。
ロウリア王国のランドが出してた魔法ですね。
ムーも魔法が全く無いわけでは無いから使える人もいると思うんです。