帝都ラグナ
帝都周辺の工業地帯から頻繁に出入りする機関車やトラック、軍港から流れてくる煙で空を黒く染め上げていた。
既に帝都内でも僅かながら公害による健康被害が見え始めていたが、多くの人々はこの空を「機械文明、豊かさの象徴」として誇ってしまっており、公害の被害者を「科学の時代に適応できない軟弱者」等と心にもない言葉を浴びせていた。
そんな帝都の中央にそびえる官邸の一室で二人の男が話していた。
「ナルガ戦線における戦闘は順調に進んでいる様だな。第4機甲師団が潰されたときはどうなると思ったが。」
「ええ、陸軍は開戦から負けなし。どうやら杞憂の様だった様ですな」
上座に座っているのはグラ・バルカス帝国宰相のコハマ。もう一人が陸軍大臣のシーダンであった。
皇帝が絶対的権力を持ち、帝国の三将と言う発言力の強い海軍軍人が三人中二人いるグラ・バルカスにとってコハマ内閣はお飾りでしかなく、フリッグデイに「ボタ山内閣」*1と書かれる始末である。
「しかし海軍は酷いものだな、パガンダから本土に送る航路がドイツの潜水艦に荒らされているそうじゃないか。も少し海軍も頑張ってほしいね。」
「まったくマリクスのような過激派は少し身の程を弁えればいいのですよ」
「今後は配給制になるかもしれん、小麦も石炭もだ。軍はほんと金食い虫だな、燃料も飯も全てかっさらっていく」
◆◇◆◆◇◆
翌日
「では閣下、行ってらっしゃいませ」
コハマは車に乗り込み工業地帯へ向かう道中、世界統一を掲げるポスターや標語が街中に貼られていた。
(最近はめっきり個人所有の車を見なくなったな・・)
大通りでも走っているのは路面電車かバス、トラックぐらいのもので、しかもそのバスでさえ木炭車だ。
そうしているうちに車は工場へ到着した。
ガコン!!ガコン!!!
工場内は騒音をたててハウンド戦車が作られていた。
「機械の調子はどうかね」
「はっ!機械の調子はすこぶる快調であります!閣下!」
「テティス重戦車の方は?」
「重戦車はハウンドに比べると数は少ないですが、こちらです。」
向かう先には九五式重戦車に酷似した重戦車が並んでいた。
「まさに陸上戦艦だな。立派だ」
軍は金喰い虫と言っておきながら、テティスに見惚れてしまう。
「ドイツはとんでもない巨大戦車を作ってくれた。しかしこいつがあれば・・」
そう言いコハマは写真を取り出し見たのは、諜報部が撮って来たNbFzの写真だった。
◇◆◇◆
高級料亭 ミルトコウモ
「オルダイカ様、アンタレス戦闘機の後継機のコンペティションの件・・なにとそ宜しくお願い致します」
「心配するでないエルチルゴ、お前のお菓子の味は格別だ。確実にカルスラインを選んでやろう」
「はっ、ありがとうございます。これはお礼では無いのですが、オルダイカ様の大好きなお菓子でございます。お納め下さい」
盆にのせられ、紙がかけられたものがオルダイカにの前に出る。
盆に乗せられた紙をめくると、グラ・バルカス帝国で流通している最高通貨の札束が重ねられていた。
「ゲールズが何やら高性能機を開発していると聞きますが、まだまだアンタレス神話が続かなければ困りますからな」
アヴィオール双発機やシリウス型を作っているゲールズ社が革新的な新型機を開発している中、カルスラインはアンタレスを少し改良しただけの物を採用させようというのだ。
「どんな高性能機を作ろうと、コストも安く信頼性・汎用性が高いアンタレスの方が良いと言えば良いのだからな。」
「たくさん落とされれば落ちた分作って儲けられますからな。性能は少々落とすぐらいが良いのです。」
「成程……ほっほっほ……しかしエルチルゴや、中々にお主も悪よのう」
「オルダイカ様ほどではございません」
『ハッハッハッハッハ』
憂国のコハマと獅子身中の虫のオルダイカ。それぞれの思惑を胸に戦争は行われていった。
コハマ内閣
モデルは小磯内閣です。お飾りならこれぐらいがちょうどいいかなという感じで。
テティス重戦車
漫画『シェイファー・ハウンド』の作画・かたやままこと氏の作品の『戦海のテティス』から。
テティスはギリシア神話に登場する海の女神であり、陸上“戦艦”という事で無理やり付けました。
NbFz
コハマさん見事に騙されました。予備役の陸軍大将のコハマが計画を後押ししたという事にしてます。