1643年10月1日
グラ・バルカス帝国
ルッグン
港湾作業員のタンジンは石油貯蔵所で作業をしており、同僚とぼやいていた。
「最近はタンクがいつも半分以下だ。これじゃ商売あがったりだね」
「戦略物資なんだ、しょうがないさ」
「しかし最近じゃ帝都沖にも敵潜水艦が来てるって噂が…」
「不用意な事は言わない方が良いぞ。何処に警察の目があるか分からないんだから」
その時タンジンは沖の方で何やら船を見つけた。
「ん?何か変な船だな?」
「漁船じゃないのか」
「いやエンジン音なんか聞こえなかったが…」
「聞こえなかっただけだろ、近くで工事やってるし」
「そうかな…そうかm」
◇◆◇◆
Uボート
浮上したU-47の艦砲の88㎜砲が装填される。
「撃てッ!」
号令と共に88㎜砲が火を噴き、ルッグンの石油貯蔵庫が大爆発を起こし、作業員達が逃げ回る中にも容赦なく弾が降り注ぐ。
停泊中の輸送船が次々に着底し、街が黒煙に包まれる中サイレンが鳴り響く様子をプリーン艦長は双眼鏡で確認し、指示を出す。
「警報も喧しくなってきた。そろそろ撤退するぞ。」
Uボートは喧噪をよそに悠々と離れていった。
ムーにおける反攻作戦を機に、デーニッツは輸送船のみならずグ帝本土の港湾都市を砲撃によって攻撃せよとの指令を出した。
これによりグ帝海軍は潜水艦の警戒の為これまでよりもさらに多くの駆逐艦を投入せねばならず、別海域における作戦に支障をきたし、石油の消費も無視できなくなっていた。
グラ・バルカス帝国
首都ラグナ 国会議事堂
議員達は非常に悲痛な面持ちでまるで通夜の様だ。
「ムーにおける帝国軍の撤退ッ!! そして侵攻軍総戦力4割の喪失。この未曾有の大損害をどう補うのか?!」
「内閣総辞職しろ!帝国の三将による連立政権を組閣だ!」
「そうだそうだ‼」
「弱虫を国会から追い出せ!」
ギーニ・マリクス議員は総理大臣を睨みつけ、同党の議員はヤジを飛ばす。
堪りかねた対立派の議員が立ち上がり反論する。
「そんなことを言うが、イシュタムはニグラートで壊滅したそうじゃないか」
「ぐ…私は現在の石油の備蓄を海軍に回して懲罰艦隊を編成し、ムーを再度焦土にすべしと考えている!」
ギーニは蛮族の卑劣な奇襲によって敗北したイシュタムの仇を討とうと躍起になっている。
「海軍は既にレイフォル=本土間の護衛で既に手一杯だろう!そこから懲罰艦隊で船を引いてみろ!ドイツの潜水艦に更に好き放題にされるぞ」
転移前グラ・バルカスの石油の大部分は植民地から得ていたが、転移後は膨れ上がった艦艇に航空機、戦車ととてもじゃないが本土から産出される石油では補いきれなかった。
その後レイフォルを手に入れギリギリ賄える分の石油を手に入れたが、肝心のタンカーがUボートの餌食となり護衛艦隊をつけなくてはならず余計に石油を消費してしまう。
しかも前世界では潜水艦を保有していたのはグラ・バルカスだけなので対潜戦闘のノウハウが皆無という有様であった。
「かくなる上はグテイマウンを…!」
「飛ばしたとして何処に攻撃するのかね⁈ムーかミリシアルか!はたまたドイツか!それに報復でバルチスタ沖海戦で現れた空中戦艦が来たらどうするのか!あの超威力爆弾が帝都に落とされれば…!」
「貴様ァ!敗北主義者かァ!!!」
会議は紛糾し怒号が飛び交うのを見てコハマは眼を背けたくなった。
少なくとも現在のナルガ戦線の戦況は圧倒的に不利だ。レイフォルはまだ無事だが、いつ同盟軍の総攻撃が始まるのか気が気でなかった。
「現時点で石油、鋼鉄、食料等の戦略物資はほぼ全てをレイフォル地区から補っております。
しかし現在ドイツの潜水艦作戦により物資の補給が滞っているのが現状です。
本土にも植民地にも物資が届かず国民は配給で飢えをしのいでいます。」
「その状況を打破するために会議をしているのだろうが!」
「ええ、その為にもドイツに対し講和を申し込み、潜水艦を引上げさせるのです」
「正気かね!蛮族に対しそのような対応をするとは!」
「勿論最後に敵に大打撃を与えて講和に持ち込む考えでありますが、彼らはレイフォルやパガンダの様な時代遅れの国家ではなく文明的に対等な国家であり、もはや戦況は一刻を争うのです。」
荒れに荒れた国会であったが最終的に同盟軍の主要構成国を大打撃を与え、脅迫の意を込めて講和をするという事になった。
◇◆◇◆
グラ・バルカス帝国
ニヴルズ城 御前会議
これまでの話題はナルガ戦線の戦況についてであったが、今回は総理自ら立案した講和案について討議する事となった。
「して…コハマよ、お主が立案した講和案は実現の可能性はあるのかね」
「はっ…私が立案した作戦は、同盟軍の名目上とは言え盟主であるミリシアル首都を焼き払うのでありますから、苛烈な迎撃態勢が整っているでしょう。ですから最初は高々度から侵入し…」
◇◆◇◆
レイフォル領 ルブ基地
「…ルーンポリスを焼き払うというわけだ。この作戦は総理大臣閣下直々の発案である」
作戦前のミーティングで今回の作戦の詳細が特殊殲滅作戦部作戦部長であるアーリ・トリガーによって伝えられる。
ルブ基地から出発した200機のグテイマウンはオタハイト上空を突っ切り、ルーンポリスを爆撃するという作戦であった。
「前世界でも我々は無敵だった、そしてこの世界でも我々は無敵だ」
こうしてルーンポリス爆撃の口火が切って落とされたのである。