グラ・バルカス帝国の入植民が着の身着のままで原野を逃げ回る。
「助けて!」
「お母ちゃん!足が痛いよ!」
「もうすぐ兵隊さんの所につくから頑張って!」
入植民の親子はグラ・バルカスの支配地域まで急ぐが、後方から無数の蹄の音が木霊する。
「追え!帝国人は皆殺しにしろ!」
彼らは元レイフォル軍人であり、今はドイツから武器の供与を受け入植民を襲うゲリラとして活動していた。
銃声が木霊し母親が倒れ込むや、子供達を囲い込むと首に縄を引っ掛けてどこかへ連れて行ってしまった。
「行ったか」
一部始終見ていたダラスは藪の中から顔を出し辺りを見渡し、こそこそと駆け出す。
ヒノマワリ王国から逃げてきたダラスは徒歩で帝国領まで逃げている途中であった。
(どのくらい歩いただろうか、足が痛い)
道中幾つかの部隊と会ったが、そのいずれもが空襲を受け壊滅しており、唯一無事だった荷台のチャリンコをパクったが未舗装の道路で直ぐイかれてしまった。
数日さまよい続け意識が朦朧としてきた時、遠くにグ帝軍の戦車が止まっている村落を発見しダラスは矢も楯もたまらず走り出した。
「はぁ…はぁ…はぁ…おおぉぉぉーーーい!!!」
ダラスは力の限り叫ぶ、すると歩哨が気付いたのかこちらに近寄って来た。
「それ以上動くな!手を後ろに組み…」
「何!?貴様俺の事を知らんのか!」
そのまま歓迎されるところか銃を向けられたダラスは憤慨し、外交官を示すバッチを見せようとするが逃避行の際に落としたのを気付く。
それどころか服はぼろぼろに擦り切れ、体は垢まみれ、髭も髪も伸び放題で戦火から逃げてきた入植民といった風貌であった。
ダラスは胸ポケットに外交官の証明書があったのを思い出しそれを見せた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「はっはっはっそいつは大変でしたな」
その村にいた戦車部隊の隊長は笑いながらダラスにコーヒーを渡した。
飲まず食わずのダラスの体にコーヒーの旨味と苦みが五臓六腑に染み渡る。
「しかし…道中の戦車部隊は壊滅していましたか…」
「ああ…アンタレスの姿も見えん、航空隊は何をしているのだ」
ぼやく様にコーヒーをすするダラスは外に目を向けると、戦車兵がハウンドI、Ⅱ戦車を灰色に塗りなおしており、おまけに箱を付けてシルエットが角ばる様にしてもいた。
「なんだあれは?新型迷彩なのか?」
「まぁ欺くという点ではそうではありますな、現在我が隊では偽旗作戦を任されているんですよ。」
(あまり公には言えませんがね)と隊長は柔らかい笑顔ではにかんだ。
対照的にダラスの顔が強張る。
「……貴様、自分が何をしているのかわかっているのか?!
恐れ多くも皇帝陛下から預かった戦車に敵国の塗装を施すなど!恥を知れ!」
まだ熱いコーヒーをぐいと飲み干すとテーブルに叩き付ける。
(やはりこういう堅物か)と言わんばかりに隊長は肩を竦める。
「お言葉ですがねダラス外交官、この作戦は帝王府でも承認済みの作戦なのですよ。
最早帝国はこのような作戦を取らねばならぬ程に追い込まれているのです。」
「なっなんだとぉ!帝王府が!?」
隊長はダラスの目を見つめ、「そのような状況を作ったのは、貴方達外交官なのですよ」と目で訴えかけた。
「隊長、全部隊準備出来ました。何時でも出発出来ます」
「うむ、ご苦労。では今から五分後にここを出るぞ」
ダラスが振り向くと其処には正規装備ではない民生用の後頭部にひさしの付いたヘルメットを被り、灰色の軍服を着た兵士がいた。
ダラスは震えが止まらず隊長に詰め寄る。
「き…貴様…栄光ある皇軍兵にこんな格好を…」
「ダラス殿。説教なら地獄で聞きます。
……どうしても生きている内に叱りたいなら国に帰って戦争をやめさせる事だ、そうしたなら説教なぞ何時間でも何日でも聞いてやる。
…いいか!貴様は早く帰ってこの馬鹿げた戦争を終わらせろ!これは命令だ!分かったか!?」
「貴様…なんだ!命令とは、上司でもない癖に…ふざけるんじゃない…」
「私の部隊はこれよりドイツ軍に対し攻撃を開始する。外交官は足手纏いなので至急帰ってもらいたい」
その言葉を最後に隊長は小屋を出て戦車に乗り込み出て行ってしまった、ドイツ軍の戦車兵の帽子に被り替えて…
「…何なんだよ…」
ダラスはよたよたと小屋のわきに置いてあった背嚢を見つける、中身には肉の缶詰めやチョコレート、機関短銃、近隣のさらに大きい帝国軍基地までの道のりが書いてある地図が入っていた。
そして地図の端に一言。
【幸運を】
「…ほんとうになんなんだよ…あいつらは…」
ダラスは涙を流しながら、再び歩き出した。