『ナルガ戦線未だ敗北知らず』
『各地兵力、レイフォル防衛の為に転進。同盟軍の決戦に備える構えか』
『先週だけでもドイツ巡洋艦8隻、ミリシアル戦艦4隻、パーパルディアフリゲート艦103隻、ムー空母9隻を撃沈』
『今朝、ドイツ爆撃機の撃墜機の調査、我が爆撃機と比較しても旧式化しており優劣の差は歴然』
相変わらず言葉だけは勇ましい帝国の夕刊を読み終えたシエリアは自分のデスクに放り投げると、掛けていたコートを羽織り外に出る。
「やはり外の空気だけはレイフォルの方が良いな」
入り口に用意されていた自動車に乗り込み夕暮れ時の街を走る。
街は防空の為に明かりがついておらず、防空壕への案内板だけが蓄光塗料でほのかに光っている。
暫く走るとにわかに活気づいてくる、グ帝将兵向けの歓楽街だ。
その中でも、とりわけ立派な建物*1の前で止まり、シエリアは中に入っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
シエリアがここに来たのはシオメル・カルタスと食事をする為であった。
旧知の仲である彼女らは久しぶりの再会に会話が弾んだ。
「貴女と最後に一緒に食事したのはいつだったかしら」
「確か、女学院の同窓会を抜け出した時以来ですわ」
「そうだったわね、なんだかんだ貴女変わってないわよね」
「……ねぇシエリア」
「ん? どうしたの?」
「この戦争、あとどれ程続くのかしら……」
「……それは」
現時点のナルガ戦線は膠着状態に陥っていた。
ドイツはムーまで遠方から輸送船でやって来るが部品の補給が思うようにいかず、道中のグ帝潜水艦の攻撃に苦しめられており、戦車戦では敵なしだが航空戦では苦戦している。さしものドイツ自慢のジェット戦闘機ですらパーツ不足の整備不良には泣き寝入りするしかない。
グラ・バルカスも間抜けではないので、特殊部隊の夜襲やベガによる夜間爆撃を繰り返し行っている。
それにしても国土が広すぎて両軍ともにこれ以上攻勢をかけるだけの軍勢を抽出できずに攻めあぐねていた。
現時点でドイツ軍はレイリング攻略後は周辺のゲリラ掃討をするのみで目立った動きは無い。
「……そうね、 でも、絶対に我が帝国が勝つわよ、安心して」
「貴女も同じことをおっしゃるのね……」
「……」
ウゥ──ーウゥ──ーウゥ──ー
シエリアの思考を遮るようにサイレンが鳴り響く。
「空襲警報だ!」
「お客様、防空壕はこちらです! お早く!」
「シオメル! こっち!」
「あッ!」
シエリアはシオメルの手を掴んで誘導された方に駆ける。
空にはHE111が隊列を組んで飛んでいる所に向かってグ帝の双発戦闘機が迫っていた。
【グラ・バルカス帝国人専用防空壕】
「こちらです! 早く早く!」
堅牢なコンクリート造りの防空壕は既に多数の兵士が座っていた。
その中を二人は身を寄せ合うように座って、お互い手を握りながら敵機が去るのを静かに待った。
遠くで爆発が起こるたびに、握る彼女の手が震えていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
空襲警報が止み、兵士たちはぞろぞろと防空壕から出てくる。
「あ~あ、せっかく貴女とのお食事でしたのにドイツ野郎のせいでパーですわ」
シオメルは残念そうに腕時計を見る、彼女とて忙しいのだ。
「そんなこといわないで、また予定を合わせて会いましょう、今度は皇都で逢うのもいいかも」
「確かに、そっちの方が邪魔が入りませんわね!」
こうしてシオメルは迎えの車に乗り込み出発する、遠くなっていく彼女の車をシエリアは見えなくなるまでずっと手を振り続け見送った。
明けましておめでとうございます~
ダメだ死ぬ