今回からバンドリの小説を気まぐれながらも書くことにしました。
よろしくおねがいします。
俺は元々バンドに入っていた。パートはギターとボーカル。一番目立つポジションだ。
メンバーは俺の他にボーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラムがそれぞれ一人ずつ、計六人で活動していた。少し多いかもしれないが、軽音部で集まったメンバーということで少し余るのはしょうがないし、曲ごとに交代していたので、それほど文句はでなかった。…-ドラムの負担はさておき。
けれども、もう俺はそれに入っていない。つまりは退部した。理由らしき理由は、俺のわがままが生んだ結果、としか言いようがない。
文化祭や、スタジオのライブなんかにも出た事もあるけど、もう二度とその舞台に立つ事はない。
何故なら、そこで歌う事はもう嫌いだからだ。
ーーーーー
それは桜が散り、梅雨入り目前の春の終わり頃。
金曜日の放課後。空は赤く焼けたような夕焼け。
そんな時間に、俺はスマホを片手に駅の改札口を通る。ここは家にも、通っている高校にも近くない駅。なのに、俺はそこで電車から降りる。その方が都合が良いからだ。
家の最寄り駅は中学からの知り合いに出くわす可能性があるし、高校の近くは言わずもがな。とにかく、顔見知りとは出会いたくはなかった。
キョロキョロと周りを見渡し、スマホで調べた地図を確認しながら、目的の場所に向かう。
確かあそこは『Stand』という名前だったはず。ここの土地勘は無いけど、頑張って行くしか無い。
そう思い、
「うおっ!」
「っ!」
女の子とぶつかってしまう。
「わ、悪い!前ちゃんと見てなくて!」
焦りながら、早口で謝る。
「いや、あたしも前見てなかったし……」
ぶつかってしまった彼女も、無愛想ながら自身の非を認める。
よく見れば、この子かなり可愛い。いや、可愛いというよりカッコ可愛いかな?赤い瞳に合わせたかのような赤いメッシュを入れた彼女はなんというか、表面上はクールだが、内には熱い物を秘めている気がする。
「怪我とかは無いか?」
転んだ訳でもないが、一応聞いておく。
「別に……」
「そうか?なら、良かった。」
怪我をさせてしまえば、慰謝料うんぬんは無しにしても、後味が悪くなる。今回はそうならなくてよかった。
うん。歩きスマホはダメだな。今回で懲りておこう。
「じゃあ、俺行く所あるから。またな。」
「あ……うん、また。」
そう言って、今度こそ目的の場所に向かう。前をしっかりと見ながら。
……あ、なんで俺、
まあいいや。そんな事よりも、『Stand』っていうところだ。
地図によれば、あそこの路地を入って交差点を右で……あれ、左だったか?
という風に、三十分ほどうろうろしていると、
「ここどこ?」
迷子になりました。
あっるぇ〜?徒歩十分で着くはずなのに、訳がわからない場所についちゃった。やっぱ土地勘がないのに、一人で歩くもんじゃないな。それでも、今回は一人で行くしかないけれど。
そういえば、友達がスマホには現在位置情報がどうのこうのと言ってたな。けれども、俺にはちんぷんかんぷんだった。地図調べるのがやっとなんです。
仕方ない、地元の人に聞くか。
「あのー、すいませんー。」
俺はたまたま近くを通りがかった人に声をかける。
「はい、何かしら?」
振り向いたその人は、女の子であった。そう、間違えようのない美少女。色素の無い服を着ており、年は俺と同じくらい……少し上かな?
そして、何かとてつもない情熱を感じた。さっきの彼女と似ているようで違う。それは一筋に、必死に追いかける、とても純粋な情熱。
「ここら辺に住んでる人ですよね?」
「ええ、そうだけれど。」
「実はここに行きたいんだけど……」
彼女にスマホの画面を見せ、場所を聞く。すると、
「それなら、ここのビルの裏側よ。」
相手は、目の前にあるビルを指差す。
え?まじ?まさかの近くだった?
「そうだったのかーー!
……いや、すんません。ここを歩くのは初めてなんで。」
「別に気にしなくても良いわ。けど、あそこに行くなら、貴方もバンドをやっているのかしら?」
「……いいえ、あそこはカラオケボックスがあるって聞いただけなんで。」
咄嗟に嘘をついてしまう。図星を突かれたからか、間を置いてしまったので、気づかれたかもしれないけれど。
「そう。どこかで聞いた事がある声だから、もしかしてと思ったのだけれど。
ごめんなさい、余計な質問をだったわね。」
「こっちの質問に答えてくれたんで、それくらいはどうとも。」
まさかとは思うが、俺のライブを見に来た事があるのか?
けど、どっちにしても、俺達のライブを覚えてても、俺の事は覚えていないだろう。
「とにかく、ありがとうございます。俺はもう行くんで、また。」
「ええ、分かったわ。また。」
そう言って俺たちは別れる。
またもや、
良いや。俺はあの人が言っていたビルの裏側に周りこむだけ。歩いて一分、ついに『Stand』へと到着する。
この『Stand』というところ、さっきもサラッと言ったが、カラオケボックスもある音楽スタジオだ。つまり、バンドをやっている人も来る。しかし、ここは高校からも家からも離れた場所。そんなところで、知り合いと出くわす訳がない。さて、それじゃあ今から一人で歌いますか。
「うわー!遅刻しちゃうー!」
「へっ?」
と、店に入ろうとした瞬間に、横から声が聞こえる。その方向へ振り返ると、
「どわっ⁉︎」
「きゃっ!」
見事なタックルが、俺のボディに入る。お陰で、二人とも地面に倒れてしまう。
「いったた……。」
尻からついたから、そこが痛え。明日は痔になってなきゃ良いが。
「うう……」
ぶつかって来た本人は、ぐるぐると目を回して、意識が遠のきそうになっている。
このままだと、俺は下敷き状態のままになってまうので、体を揺らしてさっさと起きてもらおう。
「おーい、大丈夫か?」
「目がーー目がーー」
バルs……じゃなくて、
「俺の声が聞こえるか?」
「うーー……はっ!えっとここは……」
「やっと目が覚めたか。とりあえず、起き上がってくれ。」
「……あ。ご、ごめんなさい!」
慌てん坊の女の子は慌てながら謝り、起き上がる。
「まったく、もう少し前を見ろよ。」
ブーメラン発言をしながらも、俺も彼女に続いて起き上がる。
「あの、怪我とかはありませんか?」
「大丈夫だ。」
尻が少し痛むぐらいだが、他に怪我らしい怪我もない。
「………。」
「どうかしましたか?やっぱり、どこか怪我でも⁉︎」
「いや、本当に大丈夫だから。」
まずい、少し見過ぎだったか。けれどしょうがないじゃないか。再三の美少女とか、ラッキーどころかちょっと不気味なんだから。
なんだここは?花咲川って美少女が生まれやすい場所なのか?
ピンクの髪をひっさげたこの子はさっきの人と比べて少し年下に見える。もし年上なら失礼かもしれないが、さっきの慌てぶりといい、雰囲気といい、とても頼れる年上には見えない。
ただ、応援したいような、応援されたいような、元気を分け与えてくれるような、そんなパワー溢れるような雰囲気もあった。
「ほ、本当に、本当ですか?」
「だから言っただろ、大丈夫だって。それよりも良いのか?お前、急いでるんじゃないか?」
「あ、そうでした!すみません、早く行かなきゃいけないので失礼します!」
「おう、またな。」
「はい!また、会いましょう!」
そうして彼女は、俺の言った『また』を信じながら、どこかへ去ってしまう。
あの子どっかで見た気がするな。直接見たって訳でもないんだが、例えばそう、芸能人だったような?
……はあ、今日はどこかおかしいな。美少女に何度も出会ったり、その度にまたっていうのを使ったり。
「……考えても仕方ないか。店に入ろう。」
あくまでも、今日はカラオケに来たんだ。ナンパをするつもりはない。あまり深くは考えないでおこう。
店の自動ドアを潜り抜けて、カウンターへと歩く。
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
「はい。」
「スタジオの予約はされていますか?」
「いや、今日はカラオケに来たんですけど。」
そんなやり取りを得て、部屋の番号札を受け取る。三〇二番……つまり、三階か。どうやらここは六階ある内の、スタジオが三階まであるらしい。しかし、三階だけは、半分のスペースを使っているらしく、他はカラオケボックスだ。
ようやく、一人の時間ができそうだ。部屋に入れば誰にも会わなくて済むだろう。
「ちょっ……待ちなさいってば!」
と思っていたら。
「やっほーい!」
親方!空からバク転する女の子が!
いや、冗談抜きでやばいって!突然、横から女の子が飛んでくるとか、急すぎるよ!
「うおお!」
状況は理解はできないが、体が勝手に動く。女の子の着地点に即座に動き、彼女の身体を滑り込みながらも、ギリギリ受け止める。
「……ふう、危なかった。」
安心して溜息が漏れる。あと少し判断が遅ければ、この子は大怪我を負っていただろう。
「おい、大丈夫か?」
「私はいつでも元気よ。」
「いや、そうじゃなくて……まあ、そんぐらいの事言えるなら大丈夫か。立てるか?」
なんだか不思議な娘だ、という感想を抱きながら、彼女をゆっくりと降ろす。
「ありがとう!貴方がいなかったら、着地に失敗してたところだったわ!」
いや失敗どころか、大怪我するよね?
「いや失敗どこらか、下手したら大怪我だから!」
ありがとう。心の声を代弁してくれた人よ。
「いくら、身体能力がいいからって、通路の壁を使って三角飛びからのバク転は危ないし、そもそも店の人に迷惑だから!」
……へ?三角……なんだって?
「今、何をどうしたって?」
「気にしないでください。この子はだいぶ特殊ですから。」
特殊って……。
「だって、楽しい事を思いついたら、すぐにやってみなきゃ!」
「いやいや、だからって無茶な事をするもんじゃないよ。」
「さあ、楽しい事を見つけに行くわよ!」
あ、不思議ちゃんがどっかへ……
「そういえばだけど、」
行くと見せかけて、俺の方に向き直り、近づいてくる。
「貴方とはまた会う気がするわ!その時はもっと楽しい事をしましょう!」
そう言い残して、今度こそ嵐のような子は去っていく。
「名前も知らないのに、なんでまた会えるって思うの……。
ごめんなさい、お騒がせして。」
「あ、うん。別に君が悪いわけでもないし。それよりもあの子について行った方が良いんじゃないか?」
「ありがとうございます。そうですね。あの子、放っておくと何するか分からないんで。」
そしてもう一人の子も、別れの挨拶をしながら、不思議ちゃんの後を追う。
……もう突っ込まんぞ。また可愛い子が来たとか突っ込まんぞ。世界を笑顔にできそうな子だとか、そういう説明はしないぞ。
「失礼。」
と思っていたら、何故か黒服の人達に止められる。
「はい。何かご用件でも?」
まさかヤのつく人じゃあるまいな。全員女性だし、
「先ほどはお嬢様を助けていただき、ありがとうごさいます。」
「は、はあ。」
「謝礼と言ってはなんですが、こちらをお受け取りください。」
「あ、ありがとうございます?」
黒服の女性から、封筒を渡される。
形としては箱が入ってそうたが、それにしてはしなる。何だろうと思い、失礼ながらも中身をチラ見する。
「……お返しします。」
「遠慮しないでください。」
「いいや、全力でお返しします!」
俺は強引に封筒を返して、階段を登る。
あんな福沢さん百人なんて貰ったらどんな事されるか分かんねえよ!もしかしたら、ヤのつく人達よりも怖いかも知れん!
「ぜぇ……はぁ……」
階段を一気に登っていたら、いつのまにか三階まで移動していた。
「はあー……。今日は色んな事があるなあ。」
店の中でもイベントとか、流石に疲れる。歌う気力すらも減らされそうだ。そうなる前にさっさと部屋に行こう。
番号は三〇二だから、きっと階段の近くだろう。と予想していたら、目の前の部屋はスタジオだった。カラオケの部屋はもう少し奥か。
本来ならば、そこへ向かうために足を進めるのだろう。しかし、俺は足を止めていた。スタジオから聞こえる、音がそうさせていた。
きっとどこかのバンドが練習をしているのだろう。
「……楽しそうだな。」
それが、俺の感想だった。
まだまだ実力不足だが、何か動かされるものがあった。技術じゃない別の物を、このバンドは持っている。だからか、俺は聴き惚れてしまう。
「どうせなら、俺もそういうのであって欲しかったな。」
……行こう。もうあれは過ぎた事なんだ。過去をいくら振り返っても意味は無い。
少し惜しい気もするけど、手元にある番号の部屋を探すために、俺はその場を立ち去る。
通路を少し進み、三〇一の番号の部屋が見え、ならばと思い隣の部屋を見る。それは三〇三だった。
なんだよ。通路を挟んで並べているのかよ。であればだ。振り返って再度番号を見る。そこには、三〇二の数字が書かれてある。
「ここか。よし、入ろう。」
ドアノブに手をかけて、捻り、中へと入る。ここなら誰にも聞かれずに、思いっきり歌える。もうあんな気持ちにはならなくて良い。
専用の機会に最初の曲を入れて、マイクの電源を入れる。そして、歌いながらも、器用に次の曲も入れる。今日はノンストップで歌いたい気分なのだ。
それが三曲続いた時、少し休憩を挟む。喉がガラガラになりそうだったからだ。
やっば、調子に乗り過ぎたか。久しぶりに歌ったブランクを全く考えてなかった。そういえばここ、ドリンクがお代わり自由だったな。なんか飲み物を入れてくるかな。と思い立ち上がった瞬間に
「うおっ⁉︎」
ドアが大きな音をたてながら開く。
ビビビッビックリした!誰や!誰が入ってきたんや!女の子や、女の子が入ってきよった!
……失礼。部屋に入ってきた女の子は、肩を上下させながらも、次には、大きく声を出す。
「あのっ!私達と一緒に歌ってくれませんか!」
それが、俺の運命を変えた最初の一言だった。
全てが過ぎた今に思えば、その日の放課後には、俺にとっての運命が詰まっていたのかも知れない。