メガネ端正(転生) 作:飯妃旅立
早い物で、ウィンドル国に来てから既に三週間の月日が経った。
イライザは初めの一週間で帰り、俺は毎日研究の日々。
別段人間関係に何か進展があったと言う事も、研究において大発見があったということもない。想像通り、
グレルサイドに行ってもめぼしい物は無かったし、ラントに行く理由も無い。
一昨日はオーレン村にも行ってみたのだが、収穫は無し。
さて困ったな、というのが現状である。
風機遺跡は行ってみたいが、敵が強すぎる事は分かりきっているので却下。
海辺の洞窟はラント領に近すぎるので却下。フェンデルにも近いしな。
王都地下なんてもっての外だ。国際問題になりかねん。
ウォールブリッジ地下遺跡は……個人的には行きたい、が……護衛の奴らを撒くのも面倒な上に、余り何度も行くとウィンドル兵に顔を覚えられてしまうだろう。
さて困ったな。本当に困ったな。
「という事だ。何か外部で変わった動きは無いか?」
「全く意味がわかりませんが、変わった動きはありましたよ。フェンデルから、亡命者が幾人か出たそうです。ライオットピークで見かけたとの事」
「……それを聞かせて、俺にどうしろと?」
「さぁ? 変わった事はあったか、と聞かれましたから答えたまでですし……強いて言えば、アドルフ・ラントのようにヘッドハンティングに行かれるのでは、と」
「あれは偶然だ。狙ったわけじゃない。
あぁ、だが……その亡命者、身体的特徴は何か聞いていないか?」
「おぉ、流石ですライモン様。貪欲ここに極まれり。ああっと矢を番えないでくださいここ室内ですので。
ええと、ローブを深くかぶっていたようなので顔はわかりませんが、身長が高くガタイの良さそうな男だった、と。声色からの判断なので、ベアのような女の可能性は捨てきれませんが」
「何故そんな限りなく低い可能性を……あぁいや、もういい。お前がツッコミ待ちなのはわかったし、俺で遊んでいるのも分かっている。
それで、他にはないのか。俺はその亡命者に興味は無いぞ」
誰か大体わかったし。
「ふむ、流石道楽息子、我儘だ。
……あれ、怒らないのですか?」
「あぁ。
どうした、もうお前に引き出しは無いのか」
「……では、明日の朝にはライモン様が嫌になる程情報をかき集めて参りますので」
「この平和な国で、そんなに事件が起こるもんかね……」
つまり変わった事はもうないと。
……どうするか。何にもする事が無いぞあと一ヶ月と一週間。
「……果報は寝て待てというが……」
「一応、護衛の方々はライモン様の行動を報告する義務がありますので、報告書には三週間を過ぎた辺りから宿屋でダラダラし始める、と書かれてしまう事になりますね」
「……とりあえず散歩でも行くか。歩いていれば何かしら見つかるだろう」
「それが最善かと」
街中でダークボトルでも被っていれば厄介事が……あ、いや、流石に迷惑になりそうだからやめておこう。
その代り、と言っては何だが。
「何突っ立ってる。お前も来い」
「えぇ……」
嫌そうな顔のコイツも、巻き込もう。
宿屋を出てすぐの左手。
そこに、重厚に居を構える騎士学校がある。ちなみにまだ例の銅像は無い。
「騎士学校、か……。一ストラタ国民としては、少々古臭いイメージが捨てきれんな。騎士など、物語に出てくる存在だろう?」
「そうですね。ストラタにあるのは軍事学校くらいですし……かつて栄えた、とライモン様が言っている王国にはあったのかもしれませんが」
「だが、ウィンドルでは実際にそれが続いていて、尚且つ
なんともまぁ非効率極まりないと言うか、だからこそ個人個人の力が異様というか……」
ストラタは軍を育てる事に重きを置いている。群れでの狩り、群れでの生活。人口面において他二国を圧倒し、且つ住める場所が少ないが故の連携。だが、いくつもの国が集まった共和国であるから、心休まる場所は少ない。
対してウィンドルは個を育てる事に重きを置いている。騎士一人一人が一騎当千の働きをし、そこに至れなかった者が穴を埋めるように走り回る。王を崇め、王に従う、まさに理想の騎士像か。
もっとも、
フェンデルは個人も軍も捨て、機械と兵装を揃えて底上げを図った国だ。
誰もが持つ事の出来る強力な武器、強力な機械を従え、個も軍も無視するが故に痛快痛快。陰謀も策略も無い。ただ、仄暗い憎しみが、行き場の無いそれが国全体に広がっている。
松明では足元は照らせない、ということかね。
「……ん?」
と、こちら二人をじーっと見つめてくる視線に気が付いた。
金髪の少女。吊目美人。これは将来有望。
「あの……私達に何か……?」
「……貴方、そこそこやるわね。私と勝負しないかしら?」
……これは馬鹿にされているのか? それとも認められているのか?
そこそこってなんだよそこそこって。
「ええと……あ、私はライモンという者です。お嬢さんは……?」
「私はヴィクトリア。このウィンドルを守る剣……の、見習いよ」
……な、なんだってー!?
この少女が、あの?
あ、いやでもそうか……八年後において彼らがバロニアに来た時、彼女は学生だったんだ。そう考えれば、俺と同い年か少し上くらいでも不思議はない……。
守る剣が騎士だとすれば、騎士見習い。つまり騎士学校に入ってすらいない時期か。
強いのか弱いのかよくわからんが、正直トラウマというか、あの秘奥義は、その。
「ライモン、相手をしてやりなさい」
「……わかりました」
部下には人前では俺を呼び捨てるように言いつけてある。小さな子供を様付けしていると、それだけで勘繰られてしまうからな。
だが、今回はそれを良い事に、良い様に使われたらしい。
そんないかにも「
後で覚えておけよ。
「話の分かる指導者じゃない。見た所ストラタ人みたいだけど……ストラタ人にも、騎士道を弁えている人がいるのね」
そんなワケあるか。
コイツが持ち合わせているのは主人を弄る外道だけだ。
「ヴィクトリアさん、場所を移しませんか? 流石に街中では互いに本気も出し難いでしょうし……」
「いいわね、ノリ気じゃない。じゃあ付いてきて。北バロニア街道のちょっと逸れた所に、良い広場があるのよ」
ヴィクトリア嬢はニヤりと口角を上げて言う。
今でこそメガネをかけてはいないが、未来に置いて彼女もメガネをかけし者の一人。
同じメガニストとしては、負けられない。
――駆け出しメガニストの称号を入手。
そういう習得の仕方もあるのか……。
連れられてきた場所は、彼女が言っていた通り開けた場所。
周りには砕かれた岩が転がり、地面は良く踏み慣らされている。
「……まさかとは思いますけど、ここはヴィクトリアさんの修行場、だったり……」
「へぇ、よくわかったわね。そう、ここは私の修行場。周りの岩は、私の槍で粉々にした残骸よ。
どう、怖気づいた?」
背負っていた槍をグルグルと回しながら、ヴィクトリア嬢は蠱惑的に笑う。
教官、早く貰って上げて下さい。
「……まさか。
同年代と闘う、というのは……(あの獣を除いて)中々ない経験ですからね。少々、ワクワクしていますよ」
俺も弓を抜く。
子供用の弓ではない。折り畳み式の複合弓だ。
「! 流石ストラタ、わけのわからない武器を……」
「いえいえ、これは折り畳む事が出来ると言う以外、何の変哲もない弓ですよ。
両刃剣に変形したり、銃に変形したりしませんから」
「よくわからないけど、隠し玉は無いっていいたいのね? ええ、わかったわ! 槍と弓、尋常なる勝負を行いましょう!」
「あ、では審判は私が。流石に危険と判断したら止めますので、全力でどうぞ」
部下がちゃっかりと審判ポジションに入っている。
まぁ、コイツなら問題はないだろう。しかし全力か。
光子は使わないとしても……バースト技はガンガンに使って行きますかね。
「それでは、両者構え……始め! と言ったら始めて」
「凍牙ァ!」
「ストライダースピア!」
「……しくしく」
お前のボケに付き合うほど暇じゃないんだ。
まずは小手調べと、俺の放った凍牙。矢を使っていないただの氷の礫がヴィクトリア嬢の腹目がけて飛来するが、ヴィクトリア嬢は槍の一突きでこれを相殺。どころか、その勢いを保ったまま肉薄してくる。
「ウィンドスピア!」
「
風の
が、俺も風の
ヴィクトリア嬢は間合いを詰めたい。俺は間合いを開けたい。
このままだといたちごっこになる未来は簡単に予想できるので、少々トリッキーに行かせてもらう。
「
「馬鹿にしているの!?」
直上に放つ矢、計五本。
無論そんな隙を逃すはずも無く、ヴィクトリア嬢が高速の突きを放ってくる。
避ける事は出来ない。だから、甘んじて受ける。
「ぐっ……恵み雨!」
もろに槍を食らいながら、さらに一本
その矢はすぐに落ちてきて、俺の頭頂部に突き刺さった。
「何をッ!?」
「何、ただの神聖術ですよ……奇抜な、ね!」
全ての生物は
結合の弱くなった
それを癒すのが神聖術だ。
神聖術……回復術と言った方がわかりやすいか?
回復術は、対象が失った
今回俺が使った恵み雨は、本来であれば味方全員のHPを30%回復するというもの。だが、これを行うには味方全員の基礎
回復するのが己だけならば、自身が失った
失った
「頭上注意です……
「フェイクッ……違う、どっちも!?」
地を這い縋る三叉槍。高速で移動しながら二つを避けるのは流石と言うほかないが、空より飛来した鷲羽は避けられなかったようで、二射、被弾するヴィクトリア嬢。
さらに三叉槍の最後の一撃が突き刺さり、そこへ――。
「言ったでしょう? 頭上注意、ですよ」
高速で落下してきた巨大な岩石が、ヴィクトリア嬢を押し潰、
「そこまで」
さずに、パカッと二つに割れた。
……コイツ、短剣で切ったのか。
「ライモン。やり過ぎです。女性の顔に傷をつける所でしたよ?」
「……騎士に対して、そのような気遣いは無礼と判断したのですが……」
「彼女は騎士見習い。騎士ではありません。まだ騎士になる道を選ばない可能性だってあるのですから……おや?」
つい先ほどまでは俯いていたヴィクトリア嬢だったが、部下が「騎士ではありません」と言った辺りから震え始め、部下の言葉が終わるころには「ふ、ふふ……ふふふふ」という恐ろしい笑いが漏れていた。
「……ええ、わかったわ。よくわかった。人間は自然には逆らえない……ええ、いい経験をしたわ。
私が騎士じゃない? 騎士にならない可能性がある? ですって……?
ふふふ……見てなさい、次会った時は立派な騎士になって……倍返ししてやるんだから……!」
部下に「おい、お前の責任だろ。宥めろよ」という視線を送る。
「元々はライモン様がやり過ぎたのが原因です。ライモン様が宥めてください」という抗議が帰ってきた。
「ええと、ヴィクトリアさん?」
「何よ」
「すみません、私は幼少から訓練をしているもので……いえ、だからこそ手加減というものを磨かなければいけませんね。本当に申し訳ありません」
「へ、へぇ……どこまでも馬鹿にするのね。いいわ、もう、もういいわ。
その慇懃無礼な態度、最初から気にくわなかったのよ……ふふ、ふふふ……」
「火の
「えっと……アイスキャンディー、奢りましょうか?」
ブツン、と何かが切れた音がした。
気がした。
ヴィクトリア嬢はフラフラと立ち上がる。
「……手合せ、感謝するわ。
ただし、次死合う時は……ぜっっっったい後悔させるから」
なんか字が違わなかったですかねぇ!
なんてツッコミを入れる暇なく、ヴィクトリア嬢は林の向こう……バロニアの方へ消えて行った。
溜息。
「……残り一か月と一週間。彼女に見つかったら大岩でも落とされそうですね」
「言うな。言うと現実になるぞ。あと、彼女の仕返し対象には多分お前も入っているからな」
「わぁ」
間の抜けた声を出す部下に、もう一度溜息を吐く。
……ほーら、散歩したら厄介事だよ。
ちなみにレイモンの術技ですが、基本的にテレジアのディセンダー(狩人)が使う術技を漢字にしたり、そのまま使っていたりするものになっております。
例:三叉槍→トライデント。 恵み雨→ハーベストレイン。 etc.1
特にテレジアのディセンダーと関わりがあったりすることはnothingなので、そこの釈明だけはしておきますね。