メガネ端正(転生) 作:飯妃旅立
十三歳になった。
この歳はそこまで多くのイベントは無かったのだが、粒の一つ一つが大きい。
まず、魔導書が完成した。
俺とイマスタの読み通り、セイブル・イゾレの研究施設横の通称”お硬い本”は魔導書の設計図と言っても過言ではないものだった。正確に言うと、”魔導”なるものがアンマルチア由来っぽい文字で幾頁にも渡って書かれた教本のようなものだった。
魔導の使用方法こそ書かれてはいなかったが、これを記述した紙面を綴じた”仮称
もっとも、
とにかく、アドルフの発想通りこの本こそが設計図である事はわかった。
復元が難しいので慎重な作業になるものの、既に俺が
これにより、量産……にまではまだありつけていないが、装置の方が完成すればすぐにでも現エレスポット所持者に魔導書を渡せるように……。
いや。
世界のどこかにある、という事にして、隠しておいた方がいいか?
俺達がこういうものを造り出せる、というのは……そうだな……エレスポットの仲介業者もかめにんにして、かめにん達に自身の思うここぞという”隠し場所”へ、魔導書を隠してもらって……。
魔導書は料理よりも効果がピーキーなので、有体に言えば弱い奴が強い魔導書を持つと危ないのだ。
例えば「熱血の魔導書」。これは「命中以外のステータスを半分にして獲得経験値を倍にする」という効果を持つのだが、技量のあるものがこれを使うなら何の問題も無い。が、無い者が使用してみろ。悲惨な未来しかみえないぞ。
強い魔導書を得るには、それなりの秘境を踏破できる人材でなければダメ、という事にしなければ……。
かめにんネットワークに頼めば完璧にこなしてくれるだろう。彼らは顧客の願いを完遂する事に関してはプロだからな。
魔導書の話はこれくらいにしておこう。
どの道今アドルフとイマスタと私兵の内の武器に造詣の深い物が行っている小型化・改良が終わらなければ次のステップへは進めないからな。
次に、ユ・リベルテにおける水道工事が終了した。
外見に見える水の
余程気温の変化に敏感な奴以外、今までガンガンに冷えていたユ・リベルテの建物内の温度が1度上がった事になど気付けはしまい。特に宿屋な。冷房強すぎ。
大統領が「私の私室は冷房無しでも良いぞ」などとほざいていたが、それで倒れられては元も子もない。暑さは決して我慢でどうにかなるものではないからな。
適度なら
最後に、スパリゾート。
潤沢な資金、世界最大の人口を誇るストラタ、働き手には事欠くはずもなく。
木材の多さも相俟って、かつてない速度で建設は終了した。エリクシールの大盤振る舞いも効いたな。普段は慎重派の護衛や傭兵たちが、エリクシール片手に獅子奮迅の勢いで魔物を駆逐していく様は圧巻の一言。
また、人間が一極集中したことで、前に話した「生物が嫌う
スパリゾートの敷地を転々と囲う様に出現した白
第一訪問者大統領を皮切りに、少しずつではあるが着々とお客様も増えている。
あの人が夜会か何かで広めてくれているのだろう。頭が下がる。まぁ、
政治に私情は持ち込まないが、プライベートならガンガン悪ノリしてくれる良い大人……もとい、悪い大人である。
ちなみに変装こそしていたがガリードも来ていた。
多分遊びに来たんじゃなく内情視察かなんかだろう。遊びに来たとか……ないない。
ないよな?
そんな感じの、十三歳だった。
十四歳になった。
この年頃になると、ある病が流行する。
此方の世界に中学なんてものは存在しないため、名付けられていないソレだが、見事にイマスタが罹患してしまった。
「……イマスタ」
「なんだ? レイモン」
「お前、その口調……」
「口調? ふん、何を言う。
私は元からこの口調だ。それより、エレスポットの使用状況はどうだ」
これである。
誰に似たのか、粗暴過ぎる口調になってしまって……。
アドルフか。アドルフが悪いのか。
「……ストラタは国防本部を中心に、ウィンドルは近衛兵を中心に着々と広まっているみたいだな。フェンデルの方はかめにん伝えでしかわからんが、浸透率は微妙らしい。あそこは外部からの干渉を極端に嫌うからな……」
「そうか。
軍人の価値はエレスポットをどれだけ使い込んだかで決まる。是非ともこれからも使用を続けて欲しいものだ」
補足説明すると、エレスポットは自身で歩き、闘わなければ成長していかない。
故に成長したエレスポットを持っている事が歴戦の証明になるのだ。と、言いたいんだと思う。
「そっちこそ、装置の改良はどうなってるんだ?」
「ふん、聞いて驚け。
完成した。完璧にな。エレスポットの集積
アドルフおじさんと心からハイタッチをする日が来るとは思ってなかったぞ」
それは朗報だ。
「もちろん、アドルフおじさんをリーダーに既に製作作業を開始している。明日には製本版が上がるだろう」
「素晴らしいなイマスタ。それと、その口調にアドルフおじさんはむしろ可愛らしいぞ」
「ム……ごほん。アドルフはメキメキと力を付けている。私達も一層精進しないとな」
「ありゃ、藪蛇だったか……」
すまんアドルフ。
「ふむ……ま、研究がひと段落ついたというなら……少しだけ、休養にでも行かないか?」
「休養?」
「ああ。
最近、ストラタの秘境にリゾートが出来たんだ。アドルフと、なんならお前の母親も含めて羽を伸ばしに行くと言うのはどうだろう」
「……ちょっと相談してみる」
おお、素に戻った。
こっちの方が可愛いと思うぞ、俺は。
「そこで改めて、みんなで乾杯をしよう。
お前の母親にもそろそろちゃんと事情を話した方がいいだろうしな」
「ん」
さて、職権乱用して貸切にするとしますかね……。
後日行われたお疲れ様の会では、イマスタの母親に無事理解を得る事が出来た上に、ストラタの商業施設……宿屋や武器屋、道具屋などでエレスゲージのチャージを委託できないか聞いてみる、との意見を貰った。
なんでもイマスタの母親はセイブル・イゾレの道具屋で働いているらしく、商人は横のつながりも多いのだとか。
ありがたい限りだ。
そんな感じで、乾杯の音頭とグラスのぶつかる音と共に、十四歳の年は流れて行った。
十五歳になった。
イマスタの口調は相変わらず。もう諦めた。
アドルフに問い詰めた所「ちったぁ鏡をみやがれ」と言われたが何の事だか全く分からない。ウィンドルの諺だろうか。
別段ピックアップする事柄でもないのだが、モーリスとイライザの子供が順調に育っているらしい。現在三歳。
どこぞの光子の塊を彷彿とさせる顔立ちに、薄桃色の髪。イライザが赤髪なのでその遺伝だろうが、髪色も相俟ってやっぱりプロトス1を思い浮かべてしまう。これでツインテールになんかしたらそっくりになるんじゃないか?
「
「ッ!」
「
「落葉!」
そんなことを考えていたら、隙を突かれて危ない所だった。
対峙しているのはモーリス。引退して四年経つというのに、腕に衰えは見られない。
「俺を相手に考え事かぁ? 随分と余裕になったな」
「ああ、いつモーリスが娘に拒絶されるのか楽しみでな。イライザ、お前が父親に忌避感を抱いたのは何歳くらいだった?」
「へ?
えーっと……十歳くらいかな?」
「あと七年だモーリス。クク、せいぜい愛される父親になれよ」
「……手加減無しだ、レイモン。お前は俺を怒らせた……!」
ふん、世の中の父親の98%が経験する事だ。
せいぜい頑張れよ、パパ。
「丁度いい、俺も秘奥義の開発に着手していてな。
受けてもらうぞ、モーリス」
「ほう? グラニットータスに苦戦していたガキがほざくじゃねぇか」
ちなみにお互い装備している武器は木刀と子供用の弓。
怪我は極力しない方向だ。
「やれやれ、何年前の話を持ち出しているのか……。
……だがまぁ、成長というものを見せるには良い比較対象だな」
真っ直ぐ、正鵠に矢を番える。
秘奥義という術技は、莫大な
そのため普段はエレスゲージ(余剰
アルカナボトルさんで一気に余剰
あとは、爆発のキーとなる一連携目を起こせば完璧だ。
そしてそれは、もう射てある。
「鷲羽!」
「何ッ!?」
天から降ってきた一つの
「覚悟は出来たか? 無様に舞え……アンタディッドプレイス!」
なお、戦闘中の俺は
実矢を伴わない、
この秘奥義はダメージを持たない。そう言う意味では、かなり弱い部類の秘奥義だろう。
だが。
「……」
「動けんだろう?
鈍足と石化、麻痺と弱体、凍結に封印……大凡敵をその場に縫い付ける状態異常を引き起こす
モーリスは動けない。
性質上単体にしか効果の無い秘奥義だし、相手に想像以上の耐性があれば無駄になると言っても過言ではない秘奥義だが、事初見の人間や魔物相手には強い。
動けないモーリスに向かって、紅蓮を放つ。
有効打一撃。
これが試合の判定だ。
「ほれ、パナシーアボトル」
「……お前らしいっちゃお前らしいが、相手が複数の時は回復されて終わりじゃねえか?」
「複数相手だったら別の戦法を取る。単体相手だったらこの上なく有効だろう? 勿論、始めに一度状態異常にして、エレスポットの料理対策を取る事も忘れないぞ」
「なるほどね……。
すまん、イライザ! 負けた!」
「え? あ、どっちも応援してたから特に残念に思ってなかったカモ……」
「あ、レイモン様勝利おめでとうございますー。かっこよかったですよー『覚悟は出来たか? 無様に舞え……』って!」
「うるせえ減俸だお前なんかばーかばーか」
イライザと娘の護衛用に付いてきていた部下が死ぬほどウザイ。
違うんです。ほら、俺も十五歳だから、みたいな?
いや、あの文言は戦闘中の俺が言ってるのであって俺じゃなくてだな。
「次、やる機会があったら俺が勝つぞ。最初から手加減抜きでな」
「そうしてくれ。
立場上、本気の戦闘なんかとは中々出会えないんでな」
そんなことがあったら、部下の職務怠慢である。
……近い将来、ヴィクトリア嬢辺りが挑んできそうではあるけれど。
「あ、じゃあ。
二人とも、お疲れ様! モイちゃん、どっちがかっこよかった?」
「ぅ」
「レイモン君だって!」
ドヤァァ……!
「飼い主はペットに似るな……」
「失礼な。モーリスさん、私をレイモン様と一緒にしないでください!」
「こっちのセリフだよ!!」
そんな感じで、十五歳。
アンタディッドプレイス Lv1 秘奥義
エレスライズ中、連携中に発動可能。
極密度の状態異常原素をあなたにお裾分け。
ダメージは無い。