メガネ端正(転生) 作:飯妃旅立
文字数伸びなかった……
二十一歳になった。
最近
効率化もしたし、少ない知識でケアもしている。まだ奴が本格的に動くまで四年はあるはずだ。
だというのに、何故。
「……まさか」
食事に毒を仕込む、という行為は、簡単そうに見えて実は中々至難な業である。
その食事を対象者が必ず食べるという確信が無ければ出来る事ではないし、仮に殺すことが出来たとしても、食事をそのままの状態で置いておく、という事が滅多にない以上、誰が仕込んだのかはバレやすい。
その対象が王族ともなれば、尚更だ。
数いる毒見を潜り抜け、メイドやコックの視線を掻い潜り、毒を盛る。
それには何度かの試行錯誤が必要だろうし、いきなり大量の毒を仕込めば足も着きやすい。
現ウィンドル王国国王、ファーディナンド四世と、その息子。
彼らがその、”試行錯誤”に充てられているのだとすれば……。
既に巣食っているだろう奴が、反応してもおかしい事ではないのだ。
「……だが、どうしようもない」
どうしようもない。
俺はストラタの人間であり、且つ相手は王族ときた。いや、まぁ、大統領と直接つながりのある俺では説得力に欠けるだろうが、ウィンドル王国の王族というのはそんな気軽な存在ではないのだ。
勿論、全てを無視して事の発端となったあの大公を殺す、という手段もあるのだろう。
そうすればあの王子の暴走は止まる。
そしてその代り、ウィンドルとストラタは全面戦争になるだろうな。ストラタの手の者とバレなければ、疑心暗鬼が蔓延して結局暴走に繋がるやもしれん。
そもそも暴走を止めた所で、それでは何の解決にもならない。ただ、問題を先延ばしにするだけだ。
理解者。利用される者。対抗する存在。そして、真の理解者。
必要な駒の揃っている今でなければ、奴を憎しみから解放する事は不可能だ。
根本の原因が分かっているにも拘らずどうにかできないのは心苦しいが……。
「すまん、あと四年……耐えてくれ」
二十二歳になった。
ヒューバートが軍学校に入って早四年目となる。この歳、高等部で己の進路をある程度決め、来年には選択、再来年には実際に軍の見習いとして従軍する……のが、
その噂は、ガリードの耳にも届いているらしい。
「ヒューバートがスキップを選択したようですね。貴方も鼻が高いのでは?」
「ふん、オズウェル家の者ならば当然だ。お前と違ってな」
「これは失礼を」
そう、ヒューバートはスキップを選択した。
スキップ……所謂飛び級の事だ。高等部の後半で習うべきことを全て一年目に終わらせて、専攻部へ行ったのである。勿論俺達が手を回したわけでも、ヒューバートが金をチラつかせたわけでもない。
単純な実力と、貪欲なまでの姿勢が評価されたのだ。
ガリードもこうは言っているが、その面持ちは果たして如何な物か。
思考が鈍るから、と言って滅多に口にしないワインを開けている辺り、丸わかりだがな。
「……お前は、この家が嫌いか」
唐突にガリードは、そんなことをのたまった。
何の話だ?
「いえ、特にそんなことは……」
「ふん、そうだろうな。お前は、私も、この家も、この国さえも……全く以て、興味が無い。私がお前を心底憎んでいたとしても、お前は何も思わないのだろうな」
やけに饒舌なガリードが、俺を振り向くことなく窓を向いて話し続ける。
まぁ、正解だ。この家に興味なんかないし、ストラタに固執するつもりもない。
憎まれたところで、何の情もわいてこない。
いつも通りだ。
「お前は、私ですら持っている物を持っていない。
それは必ず、お前を滅ぼす牙となるだろう。ふん、もう下がっていいぞ」
「はい」
俺を滅ぼす牙、と来たか。
ガリードがこういう抽象的な表現をするのは稀だが、ないわけではない。
言いたい事はわかる。それが必要だと思えないだけで、何が無いと言われているのかもわかる。
であるならば、問題は無いだろう。
ヒューバートは俺からそれを感じていてくれたようだし、俺は知らないが、ある様には見えるのだろうから。
それより、次の休日にはヒューバートを祝う準備でもしていようかな……。
二十三歳になった。
流石に海外情勢にも敏感になる。特にウィンドル国について。
部下にも一応調べさせてはいるが、帰ってくる情報は大体想像通り。
王室の闇。腐敗。
正直に言えばストラタのお上も似たような物なのだが、ウィンドルのものは苛烈に酷い。
これだけのピースが揃っていて、何故誰も犯行を予測しないのだ、ってくらいには酷い。
即ち、手立て無し。
これ以上は、何をしても……ケアをしても、効率化を図ろうとも、一切合財全部無駄。
どうしようもない、という結論が出てしまったのだ。
衰退していくしかない。だが、あの日所長に言った二十年以内という刻限も迫っている。
所長もそれに気付いているのか、それとも何かを確信しているのか。
悲壮感の漂う研究チームで、俺と所長だけが焦りを見せていない。
「……
……つらいな。我が子のようなものだ。それが、元気を失っていく姿を……見ているだけというのは」
「父親気取りですか。勘違い甚だしいですね」
「こんな時くらい、お前も感傷に浸ったらどうだ?
「感傷に浸って
「け、いつまでたっても可愛げのない子供だな」
「もう二十三ですからね。所長こそ、そろそろ家内に目を向けて上げたらどうです? もう貴方にできる事はないわけですし」
「余計なお世話だ。
しかしその言い方、まるでお前にはできる事がある、と言っているように聞こえるぞ」
「ええ、そう言っています」
炎天がお互いを焼く。無理だとわかっていながらも懸命に研究を続ける部下たちを差し置いて、涼しい場所に等帰るなんてことは出来ない。
「……じゃあ、その手に持っているものはなんだ」
「
書類を所長へ差し向ける。
今日かぎりを以て、この研究チームを離れるという旨の書かれた辞表だ。
「……十七年前、お前が言っていた外的要因、か?」
「おぉ、良く覚えていましたね、そんな言葉。
ま、そんな所です。その為には、研究チームにはいられないんですよね」
前にも言ったが、研究本部は国防軍に所属している。
俺は今から、国への攻撃を見逃し、果ては
そんな者が研究チームにいていいはずがない。
なにより、ヒューバートが専攻とはいえ軍入りするのだ。
知っていて見過ごした者がいては、彼のウィークポイントになってしまうだろうから。
「所長。諦めて帰れ、というのは何もからかいだけではありません。
貴方には少なからず世話になりました。だから、助言です。聞くも聞かぬも貴方の自由ですが……もしもの可能性は、考えておいた方がいい」
研究チームとここの護衛は、最も死に近いのだから。
「どこへ行く気だ」
「あぁ、まだ行きませんよ。
行くための準備をするだけですから」
「答えになってないぞ」
答えていないのだから当たり前だ。
そう、準備だ。
もし、俗語に例えるのなら――レベル上げ、である。
「それでは、受理、お願いしますね」
「……ああ」
こうして俺は、大統領の勅命たる研究チーム入りを、自身の意思で辞めた。
当然それは悪い噂となって広がり、堕ちた神童という名はさらに広まる事となる。
特に問題は無いな。
さて――未踏の砂漠へ、向かいましょうかね。
プロット上、次の話で原作前編終わりですね。