メガネ端正(転生)   作:飯妃旅立

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原作開始!!(原作に介入するとは言ってない)


19.野心家

 

「……行ったか。ふん、血の繋がりとやらがそんなにも強固なのか、それとも後悔しないためか……。

 あぁ、いや……この世界は、『守る強さを知る』世界だったな」

 

 旅人の装備一式と、ルーンソード一本。

 部屋に置いてあったそれが、忽然と姿を消した。

 

 発破はかけたが、正直行く可能性は低いと思っていた。それほど、アイツの故郷に対する恨みは深かったからだ。

 それに、単身で向かうと言う事は……死をも、覚悟している証。

 それほどの価値があの領主にあるのか?

 

 寡黙という免罪符で、真意を伝えられなかった男。

 史実ではその死と、子供達の成長によってようやく真意がわかったほどに、口下手で、コミュニケーションを主とする領主では考えられない程の、あの男に。

 

 血か、それとも思い出か。

 

 弟を守るという、兄としての矜持か。

 

「……困るんだがな。エレスポット開発に関する自衛の出来る錬成士として育てた奴に、勝手に死なれるのは。

 俺はもう手を出さん。そう言った。

 だから、勝手に行って、勝手に守って……勝手に帰ってこいよ」

 

 言葉は煤けた部屋に消えて行く。

 それが難しい事だということくらい、わかっている。

 

 俺にとって奴は「手ずから育てた」という以外の付加価値を持っていない。

 だから、もしいなくなったとしても、「そうか」くらいの感想しか出てこないだろう。

 

 だが、あの子は……イマスタはどうか。

 明言していなかったが、あの子には父親がいない。母親があくせく働く事で生計を保ってきた一家だ。だから、というわけではないのかもしれないが、イマスタはアイツに懐いていた。

 いなくなったら、イマスタは悲しむだろうな。

 アイツはどうでもいいが、イマスタは妹のような存在だ。悲しませたくないという想いは……少しは、ある。あるな。

 

 良かった、人並の感情が……俺にもあるようで。

 

「……はぁ。

 俺はもう手を出さん。俺はな。

 最近仕事が少なくて、暇してただろ? 万が一の時だけでいい。何もないなら、そのまま帰ってこい。お前が死ぬのも許さん。

 

 出来るか」

 

「御意」

 

 ……いかんな、情に絆されすぎると、ろくな結果を生まない。

 ()()()()()部下を一人失う可能性もあるというのに、何をしているんだ俺は。

 

 さて。

 俺は俺で、やる事をやって……あいつらの帰りを待ちますかね。

 心配はしないぞ。してやるものか、馬鹿め。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大統領」

 

「うむ、来たか」

 

 数日後、俺は大統領に呼ばれて彼の執務室に来ていた。

 既に軍属で無い俺を個室に呼び出すなど国のトップとしては言語道断なのだが、それほど信頼されているということなのだろう。それにしたって危ないが。

 ちなみにこれはガリードを通しての呼び出し。故、何が目的かは大体理解している。

 

「もう研究チームは抜けましたが?」

 

「話が早くて何よりだ。

 君には、ストラタ国防軍()()情報統括本部特殊魔物対策本部特別顧問として、仮入隊を依頼する」

 

「おっと、お願いではなく依頼。なるほど、私が数多くの依頼をこなしている事を御存じのようで」

 

「ふふ、気付いていないだろうが、君は有名だからな。

 そして、ストラタ国防軍第三情報統括本部特殊魔物対策本部特別顧問レイモン・オズウェル。君に、ウィンドルとストラタを結ぶ同盟の使者としての役割を担ってもらいたい」

 

「想像通りですね。ですから、いいんですか? なんて問いかけはしません。

 ただ、お願いがあります」

 

「ふむ。

 ――姓を捨てたい、という旨かな?」

 

「……やはり敵いませんね、大統領には。何時まで経っても足元が見えない。

 この橋渡しを無事終える事が出来たら……オズウェル姓を捨て、国を出る許可を頂きたい。元から出るつもりはありましたが、どうせなら、円満に出て行きたいですからね。

 追放という形なら尚良しでしたが……使者を追放というのは、大統領として外聞が良くないでしょう。ですから、レイモン・オズウェルという者はそのままに、私に新しくライモンの名を頂きたいのです」

 

「……今やオズウェル家は、若き将校を輩出し、資産も多く持つストラタ有数の大家だ。

 それを自ら捨てるのは、何故だ。この美しいストラタを捨てるのは、どういう理由か。

 昔から気になっていた。それを、教えて欲しい」

 

 真っ向から聞かれるとは思っていなかったために、少しだけ面食らう。

 

 大統領の目は真剣だ。俺という人間を見極めようと、本気で探りに来ている。

 そりゃあそうだ。

 ここで逃がした後、味方となるか、脅威となるか……国家元首として見極めねばならないのだから。

 

 あぁ、だから二人きりになったんだな。

 俺が本音を言うように。

 

 そして俺は、これを隠す気がない。

 

大煇石(バルキネスクリアス)。我が国の大蒼海石(デュープルマル)、ウィンドルの大翠緑石(グローアンディ)、フェンデルの大紅蓮石(フォルブランニル)

 美しい石だと、そう思いませんか。造形も、役割も、その在り方も。佇まいで生物を圧倒し、その性質で生物を祝福する。私達では絶対に作り得ない、奇跡の境地」

 

「……そうだな。大煇石なしでは、三国全て、ここまでの発展を遂げる事は無かっただろう。見た目も、在り方も、美しいものだと思う。

 それが、どうしたというのかね? まさか新しい大煇石を求めて旅立ちたい、とでも」

 

「いいえ、大統領。

 新しい大煇石などありません。大煇石と呼ばれるものは、あの三つしかない。それは絶対だ。見つかっていないだけ、という可能性はゼロです。

 それはなぜか。

 それは――大輝石が、人工物だからです。そしてその役割は火、風、水の原素(エレス)の循環と流転。この星の気候は意図して造られた物であり、大煇石によってその制御が為されています。水の原素(エレス)の抽出は、その機能のほんの一部でしかありません」

 

 二の句を継げない大統領を前に、少々熱を入れて口を開く。

 

「素晴らしいと思いませんか、大統領。

 あれほどのモノが人工物。大煇石についている装飾だけでなく、その輝石そのものが――人工物なのです。

 私は、あの技術に恋焦がれています。その技術を有す一族を知っています。その一族の扱う言語を研究し、エレスポットをも造り出しました。

 ……ストラタ(ここ)に居ては、彼らの技術が遠く恋しいのです。私は一族の里に移住したい。移住し、研究の日々に明け暮れたい。

 申し訳ないが、ストラタの平和も、オズウェル家の繁栄も、弟の昇任も、全てどうでもいい。この願望の前には、ですが。

 

 ……もう止まれないのです。その為だけに生きてきたが故に。その為だけに私は、ここにいる」

 

 多少熱っぽくはしたが、全て本心だ。

 移住する、という要素を除けば、ストラタの平和も、弟の昇任も喜ばしい事ではある(オズウェル家の繁栄は心底どうでもいい)が、アンマルチアの里への移住の前には雪が解けるように瓦解する。

 

「……それは、いつからだ? レイモン、君は……いつから、その技術に焦がれていた?」

 

「――生来、なもので」

 

 いつぞやの返しを。

 それを考えなかったことなど、今生において、ただの一度たりともない。

 

「同盟の使者の件、ありがたく。

 書簡などは用意してありますか?」

 

「あ……あぁ。すでに、作成してある。

 予定は問題ないかね? あっても、キャンセルしてもらう次第になるが」

 

「問題ありません。

 全ての予定は、この使いが終わった後消え去るように調整してありますので」

 

 初めから、この使者の案件が無くとも国を出る予定だったのだ。

 エレスポットの発注は俺個人へのもの。秘書の任は、前回ヒューバートと闘った時に解かれている。

 他、俺を縛る物は全て排除した。

 

「……まだ、お世話になりましたとは言わないで置きますよ。名前も貰っていませんし」

 

「……もしかしたら、言わないで良い未来が来るのではないかと……期待していたのだがね。

 意志は強いようだ。君はガリードよりも遥かに野心家だと過去に称したが……訂正しよう。

 この私よりも、この国の誰よりも野心家だ。生来の野心家だな」

 

 ――「生来の野心家」の称号を入手。

 

 ……おー、確かに称号だわな。

 大統領に認められた称号だわ。一気にシリアス吹き飛んだが、まぁ、うん。

 

「それでは、行ってまいります」

 

「うむ。頼んだぞ」

 

 ――「二国同盟の使者」の称号を入手。

 

 ラッシュだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダイランさんがいないのは意外ですね……からかい過ぎで解雇でもされました?」

 

「俺は護衛が毎回アンタなのが意外だがな。アイツは今別件だ。アイツにしか頼めんことを命じてある。俺は俺で、俺が出来る事をやるだけさ」

 

「でも、わかっているんですか?

 同盟の使者は、それなりに危険が付き纏いますよ」

 

「ふん、そんなものどこに至って同じだろう。同じになる。

 しかし、船旅というのはいつも思うが暇だな。何かないのか、余興は」

 

「うわー、今の言葉、お金持ちのお坊ちゃまっぽくてとても感じ悪いですよ」

 

「ああ、今自分で言っていて少し引いた」

 

 バロニアへ向かう船の上。

 俺と護衛しかいない甲板の上で、潮風を感じながら話す。

 

 前方から、バロニアからの帰りだろう船が向かってくるのが見えた。

 何かが飛来する。

 

「ッ伏せてください!」

 

「ああいや、これは問題ない」

 

 流石に護衛というか、しっかりとそれが何かを見極めて俺を守ろうとする護衛に、しかし制止する。絡ませるようにしてそれを掴み取れば、鏃の無い矢。真ん中には紙が結ばれている。

 

「それは……?」

 

「んー……届くかね……」

 

「レイモン様? 何を……」

 

 すれ違う船に対し、複合弓を組み上げて狙いを定める。

 あいつらの組成は理解している。どこを怪我しているのか、しっかり書いてあった。

 

「――恵み雨」

 

 相対速度、風向き、その他諸々を考えて射出された矢は、綺麗にすれ違う船の甲板へ向かって飛ぶ。

 

 そして、そこにいた二人……意識が無いのか、抱えられたまま動かなかった一人とそれを抱えて微動だにしなかった一人に、恵み雨が降り注いだ。

 恵み雨のHP回復量は30%。オル・レイユにつけば宿屋もある。

 保つだろう。そう信じるしかない。

 

「……今のは」

 

「アイツだよ。ふん、しぶとい奴らだ。

 ……まぁ、良かった。そうは思ってやるさ」

 

 矢文は所々に血が滲んでいて、戦闘の激しさを物語っている。

 書かれた怪我は数十に及び、二人合わせると三ケタを超える。

 

 それでも、アイツは命令通り生きて帰ってきた。

 帰ったら休暇くらいは出してやるか。

 

「……懸念事項が一つ消えた。

 おぉ? 俺、しっかり心配してたんじゃないか。はは、これは驚いた」

 

「……一つ余計な事言っても良いですか?」

 

「ダメだ。余計な事だとわかってるなら言うな阿呆」

 

「目、潤んでますよ」

 

「護衛対象の言う事を聞けよ馬鹿め」

 

 ……ふん、良かったよ。

 あぁ、アイツは家族だからな。良かったよ。これで良いかばーかばーか。

 

 

 海風の塩辛さを舌に感じながら、船はバロニア港へ着く――。

 

 




レイモンたちの乗る船がバロニア港へ着く前にアスベル・シェリアがラントへ向かった、くらいの時間軸ですね。
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