メガネ端正(転生) 作:飯妃旅立
あとご都合主義感あります。
「暑いな……」
思っていた通り。
そして、想像以上に。
普段快適な冷房空間で勉学に励み、室内の鍛錬場で訓練をしていただけに、この直射日光と砂の照り返しは非常に煩わしい。
かめにんという謎の生物が駆る亀車に乗る事数十分。
俺は今、ストラタの大輝石こと
いくら鍛錬を積んでいるとはいえ、実業家ガリードの甥、それもまだ六つという事もあって護衛付きである。通常の魔物しか出ないとはいえ、危険である事に変わりないからな。
そして今、砂漠からは多少マシになった暑さを乗り越え、大輝石・大蒼海石の元へと辿り着いた次第である。
「今日は下見と聞いております。顔合わせとも。研究員の詰所が近くにありますので、そちらへ行かれますか?」
「いや、詰所にいる者に何を問うても実はないだろうさ。やはり現場で、大蒼海石に齧り付いてでも研究を続ける者でなくてはね」
詰所が有った事なんて知らなかったし、出来る事ならすぐにでも退避したいのだが、そこは鋼の精神で押さえつける。
今日は研究員デビューの日。しっかりと輝石についての勉学を受けたわけでもない俺がそこへ混じるのだ。ハナから「暑さに文句を言うお飾り」だのと思われてはたまったものではない。
「……しかし」
いつみても、美しいと……そう思う。
ウィンドル王国の
三つの大輝石の中でも、特に流麗であるのはやはり
先端と根元の波打つような形状。
存在するだけで水の
ストラタの繁栄の要であり、ユ・リベルテが首都として力を付ける事ができたのも間違いなくこの
「そこの君。我々は研究で忙しいのだ。観光は後にしてくれないか」
と、眼鏡をかけた研究員だろう男性が声を掛けてきた。
観光、ね。まぁ、そう見えるなら仕方がない。
仕方がないが、対処する意味もないだろう。
「……まだ十九年前だというのに、ここまで弱いのか……」
「おいっ、聞こえているだろう! 遊びに来たなら帰れと言っているんだ!」
「さて、どこまで出来るものやら。どうです? コイツの不調を改善する目途は立ってるんですか、研究所長?」
コンコン、と
あぁ、ひんやりしてて気持ちいい~……。
「……ただの子供かと思ったが、思ったより知性はあるようだ。大統領から子供を研究メンバーに加えると言われた時は少々あの方を疑ってしまったが……」
「ええ、私も驚いていますよ。ですが、残念ながら既に決定した事です。それで、どうでしょうか? 所長、貴方の目から見て、私はただの観光客か、研究員か」
「ふん、未だ私しか気付いていない
レイモン・オズウェル。君を我がチームに加えよう。
同時に、君の事はオズウェル家の子供、ではなく一研究員として扱う事になるが、良いな?」
「無論です。ただ、一研究員の身に甘んじるつもりはありませんので、そこはご理解いただければ」
好き勝手やるなら、やはりある程度の地位は必要だ。
所長にまで上り詰めるつもりはない。そこまで行くと、今度は止められなくなるからな。
副所長か、チーフか。その辺りがベストだ。
「その自信が口先だけで無い事を願うがな。
それで、レイモン。お前はこの
「……メンテナンス不足、及び外的要因でしょうか。少なくとも我々にどうこう出来る不調ではありません」
「ふん、結論は同じか。
私も大煇石は人工物だと推測している。メンテナンスが酷く長い間行われていないだろうこともな。
しかし、外的要因と言ったな。それは、なんだ」
「はっきりとはわかりません。ですが、近い内……二十年以内には、はっきりしたものになるかと」
「そうか。だが、不調そのものを取り除けなくとも、遅らせる事は出来る。違うか?」
「いいえ、違いません。
まず、
「それをお上が了承すると思うか?」
「いいえ。
ですから、大統領と私と所長、この三人のみが知り得る秘密としましょう。工事はオズウェル家の中でも特に無知である者を使って行います。それならば、秘密が漏れる事もありません」
「……よくもまぁ、往来でそんな話を口にできるな。誰が聞いているとも知れないというのに」
「此処にいる研究員は皆熱心ですからね。実業家の一人息子と、それの対応に忙しい所長の言い争いなど聞いている暇はありませんよ。
何より、これでも鍛えておりますので。誰かが聞き耳を立てていようものなら、こんな話はしませんよ」
「ふん。食えない子供だな。可愛げが全くない」
「生来ですので」
威嚇しあいが終わった。
俺が肩を竦めると、所長はニヤリと笑う。
共犯結構、と言った所か。
食えないのはどっちだよ、全く。
「まぁ、これからよろしく頼むぞ。期待はしておいてやる」
「それはどーも。盛大に裏切ってあげますよ」
「それは楽しみだ」
これだから人の上に立つ人間ってのは……。
七歳になった。
俺が生まれる一年前、フェンデルでは相当な規模の改革運動なるものがあったと、謎生物かめにんから聞いた。
そういえば二十年前か、と独り言ちる。だって、どうしようもない。
俺はあくまでアンマルチア族の技術のファンなのであって、技術者ではないのだから。
ちなみにこのかめにんは砂漠で魔物に襲われていた所を助け、仲良くなった一人である。あの黒いのや別世界の白いの、端末の小さいの以外彼らを判別する術が無いので同一人物かどうかすらもわからないのだが、まぁどうでもいい事だろう。
「ううーん、ストラタ砂漠の遺跡、ッスか……。石柱群なら良く見かけるッスけどねぇ」
「あぁ、そういうのでいい。出来れば片端からマップに書き記してもらいたいくらいだが、そこまでの負担を掛けるつもりはないからな。
ユ・リベルテ周辺でそう言った石柱群を見つけたら、適当な方向を教えてくれるだけでいいんだ」
かなり仲良くなった事もあって、口調もかなり砕けたものにしている。
対外用の優しい口調は自分でも吐きそうになる程辛いのでありがたい。
かめにんは商売人。自身の不利益になると判断すれば、例え甲羅を割られたって口を割らない筈だ。
「ん、わかったッス! 他でもない、レイモンさんの頼みッスからね~! ぼくは受けた恩は恩で返すっすよ!」
「ああ、ありがとう。だが、それでお前が危険な目にあっては本末転倒だからな。良いか、深入りはするなよ」
「勿論っす! それじゃ、そろそろ出発するっす~。またのご利用、お待ちしているっす~!」
大きく手を振るかめにんに、俺は小さく手を振りかえした。
ご利用。
かめにんショップの事ではない。無論そちらも利用しているが。
だが、今回は(今回も?)利用したのは亀車の方である。
「……さて、と」
ユ・リベルテにはない涼しい風が吹き渡る。
遠くに見える高い建物。あれが、今回の目的地だ。
正直あの吊り橋を亀車で渡ると言い出した時は(知っていたにも拘らず)流石に肝を冷やしたが、存外丈夫も丈夫。「いつも通ってるッスから~」などという軽い言葉は嘘ではなかったようで、危なげも無く此処へ辿り着けた。
「レイモン様。これを」
「ああ、ありがとう。お前はこの街に不審人物がいないか探っておいてくれ」
「ハッ」
部下……というよりはオズウェル家の、中でも俺直属の私兵であるソイツから貰った紙を見る。
これは依頼書だ。町の住民や研究者が出しているソレ。
本来こういったものについては、俺は出す側であり、解決する側ではないのだが、それもこれも報酬のためである。
輝術……そう呼ばれる技術は、
形だけを真似るならば誰にだって出来るだろう。
だが、モノにするとなると器の成長が必要になってくる。
そこで必要になるのが、こういった依頼の報酬にあるSPだ。
マスタリーCOOLやマスタリーEXといった秘薬で無理矢理成長させる事は出来るが、経験と実力が伴う依頼の方が得てしてSPの量は多い傾向にある。
報酬とは言うが、別に依頼人がSPを支払っているわけではない。
ただ、己がその依頼を解決した、という事に対し、器の成長という形で応えているだけである。
であるのだが、本来の報酬であるガルドやアイテムの受け取り時に成長する事が多い物だから、分かりやすく報酬と言っているのだ。
輝術はこの星において最も大事な要素。育てないわけには行かない。
また、覚えられる輝術は器の広がりの傾向によって分別され、それぞれが「称号」という名で括られている。
称号は経験が形作るモノで、その習得方法は多岐に渡る。
同じ輝術を使い続けたり、特定の速度で敵を殲滅したり、普段着ない衣装をつけてみたり。
だが、どの称号も「経験する事」をトリガーに習得できるので、己の器をうんと広げたいのであれば、見聞を広める事が何よりも大事なのである。
話が逸れたが、今回依頼の書かれた紙を部下に持ってこさせたのは、器を広げるためのSPを得るためだという事を言いたかった。
自身の持ち物で都合できる物をピックアップし、宿の主にそれを渡す。
その時点で宿の主に渡されていた報酬と共にSPが入る仕組みであり、依頼者からの感謝などは次、宿に訪れた時などに見る事が出来るのだ。
なお、誰が依頼を達成したのかは基本的には知らされないシステムになっている。依頼者から直接依頼を受けた場合は別だが。
「……ん?」
依頼物を次々と納品していると、トタタ、と小さな女の子が宿へ近づいてきた。
紙と……バナナを持っている。
「あの、これお願いします」
俺の前を通り、宿の主にそれを渡す少女。宿の主は俺が誰なのか知っているのだろう、若干煩わしそうにしながらも、同じように俺の手前無碍にも出来ずに対応する。
「報酬がフルーツか……。お嬢さん、手数料は持っているのかな?」
「えっ……あ、その……」
手数料。
当たり前であるのだが、宿屋の依頼管理は慈善事業ではない。
報酬やガルドの管理に依頼の管理と、ロハでやるには些か仕事量が多すぎる。
そこで、ある程度の金額……取引手数料を宿屋に収めるのが常識なのだ。
だが、少女はあまり身なりが良いとは言えない。紙とバナナしか持っていないようにさえ見て取れる。
今現在言いよどんでいる事から、それは当たりなのだろう。
「すまんね、お嬢さん。ウチも商売なんだ。申し訳ないが、その依頼は――」
「では、俺が承ろう。報酬は前払いでな。それなら管理をする必要もないだろう?」
まぁ、これも何かの縁である。
予定が崩れる事をガリードは怒るかもしれないが、彼の叱りなどカーカーの羽ばたきにも劣る煩わしさだ。問題は無い。
俺の護衛役も文句を言う奴はいない。そもそも此奴らは俺に口出しをする事がない。
「あの……?」
「宿屋もそれで構わないか? 依頼を横取りする形になってしまうが……」
「ええ、問題ありません。ウチの前で依頼契約が行われたに過ぎませんからね」
「ほう、中々いい性格をしているな。今日はあちらで泊まるつもりだったが、ここの宿を予約しておこう」
「これはこれは、ありがとうございます」
少女を置いてけぼりに話を進める。
依頼は宿屋を通すのが暗黙の了解。そう言った風潮が、このストラタ国だけでなく他の二国にも共通した考え方として根付いている。
それを堂々と無視したにも拘らず、この言いぐさだ。
恐らくオズウェル家に恩を売っておいた方が良いと考えたのだろう。俺はそう言う素直な奴が大好きだ。
「さて、じゃあ場所を移すか。君、どこか風の凌げる場所を知らないか?」
「それでしたら、ウチの陰をお使いください。誰も来ませんよ」
「……なるほど。良い考えだ。俺が年端もいかない少女を路地裏に引き込んだように見える素晴らしい考えだな」
「いえいえ、それほどでも」
狸め。
くそ、大統領といい所長といいこの宿屋といい、化け狸しかいないのかこの国は!
「えと……こっち、です」
「ほう、良い場所があるのか。素晴らしい。ということだ、宿屋。また夜に伺う」
「ええ、お待ちしております」
宿屋に断りを入れ、少女に案内を促す。
少女は一つ頷くと、トタトタと歩きはじめた。逐一俺が付いてきているかを窺いながら、少々細い道を歩いていく。
この辺りは
「ここ……です」
連れてこられたのは小さな民家。
「……無人のようだが」
「今、お母さん……出かけてるから」
「ほう。とすると君は、親の居ない時間を見計らって宿へ依頼を出しに来たという事か」
「見つかったら、また没収される……」
少女は俯き気味に言う。
ちなみに丁寧に喋っているものの敬語でないのは、少女が俺の身分を知らないことに加え、俺と同い年くらいであるからだろう。
「それで、宿に何を依頼しようとしていたんだ?」
「……欲しい素材があって」
「ほう。それはどんな?」
「……レアメタル、コモンメタル、クリアコア、竜のうろこ……」
「待て待て待て。君はそんなものとの引き換えの報酬にバナナ一つを用意したのか?」
まだまだたくさんあるような口ぶりだったが、今挙げられた四つでさえそれなりに珍しいものだ。
それを、何故こんな年端もいかない少女が欲しがるのか。
あと、バナナ一本で引き受けてくれる奴がいると本当に思っていたのか。
「……でも、これは絶対に役に立つ……」
「これ? ……それは、設計図か?」
「うん。旅人さんに貰ったの……」
少女の持つその紙。
それを覗き見る。
「これは……エレスポットか!?」
「すごい。なんで私が考えた名前、知ってるの?」
知っていたからだ。
そんな事より、何故エレスポットの設計図なんかが……。いや、設計図というより調合図と言った方が正しいか。
各種様々なレア素材で形成した壺を……ほう。
そういえば、生まれて七年になる現在に至っても誰かがエレスポットを使っている、という所を見た事が無かった。
軍人の持つものだから、という先入観からなかなかお目に掛かれないのかとも思っていたが、どうやら違うらしい。
まだ造られていないのだ。
エレスポットという不思議便利アイテムは。
「君、名前は?」
「……イマスタ」
「そうか。俺はレイモンだ。コレの完成に協力したい。そして完成の暁には、これを販売する権利……利益の四割を頂きたい」
「……信じてくれるの?」
少女はいきなり気を張った俺に怯えるように問うた。
信じてくれる、と来たか。むしろ俺の話を信じてくれるのか、と問いたい所なんだがな。
「何がだ?」
「これ……エレスポットが、作れるって事」
「無論だ。俺にはもう完成したエレスポットまで見えている」
「……お母さんは信じてくれなかった」
「案ずるな。これは確実に完成する。完成し、他国や軍へ回せば利益も跳ね上がるだろう。どうだ、共にこれを造らないか?」
「……うん。一緒につくろう。エレスポット」
心の中でガッツポーズをする。
レア素材ばかりといえど、集められない素材ではないのが救いだ。
フォドラの素材なんかを提示されて居たらお手上げだからな。
エレスポット。
セットしたアイテムを確率で増やしたり、戦闘中に料理の効果を発生させたり、魔導書のセットで様々な恩恵が得られる不思議な壺。
各種店でゲージをチャージをしないと使えなくなってしまうが、ガルドさえあれば半永久的に使用できる余りにも便利な壺だ。
確かにこんなものが遥か昔からあるのなら、様々な分野において研究や生産が進んでいたはずだし、フェンデル帝国ももう少し豊かになっていただろう。
なるほど、これは最近開発されたものだったのか。
しかしラッキーだ。
これを、オズウェル家ではなく
上手く行けば、オズウェル家をも凌ぐ財産源が得られるぞ。
無論、この少女……イマスタとその家族も養おうじゃないか。
詐欺をするほど、俺は堕ちていないからな。
「何分、珍しい素材ばかりだ。すべて集めるのは少々時間がかかるかもしれないが……」
「……わかってる。その間、勉強、してる」
「ほう?」
「……私、セイブル・イゾレの、研究施設で……見習いしてる」
「それは、奇遇だな」
「?」
「俺はユ・リベルテで
「……一緒、だね」
イマスタは笑う。
俺も笑う。
久しぶりに、疲労の無い笑顔が出せた気がする。
……無邪気っていいなぁ。
エレスポット、作中でも言ってますが、昔からあるんならもう少し世界が全体的に豊かになると思うんですよね。主に食材を増やすと言う意味で。
エナジー以外の何も消費しないで食材を増やせる壺。それが活用されていないのは、やっぱり極最近でてきたものだから、なんじゃないかと思ってます。
攻略本とか持ってないんで間違ってたらごめんなさい。
2018/6/23 諸々修正