メガネ端正(転生)   作:飯妃旅立

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此処からようやく原作介入になります。



原作開始
20.じゆう


 

 そもそも、この同盟の話が持ち上がったのは前ウィンドル国王であるファーディナンド四世が急逝した事に由来する。つい先日のこと、だそうだ。

 まぁ、嘘だろう。前々から行っていた毒殺が功を奏した、とでもいう奴だ。俺がこう言うのはおかしいのだろうが。

 

 現国王は民に愛されたファーディナンド四世ではなく、その座を虎視眈々と狙っていた弟のセルディク。ウィンドルは兄弟に呪いか何かを持っているのか? 「兄を追いやる弟」という構図が立て続けに三件も……いやぁ、義兄の身としては恐ろしいね。

 

 とまぁ、こういう次第で、当然だが正当継承者に当たるファーディナンド四世の息子がセルディクにとって邪魔者になるのは自明の理。毒を盛り、刺客を差し向けて暗殺を試みるのも当たり前。

 そして身の危機を察したその息子が逃げるのも、――その息子の中にいる、「裏切り」という言葉に人一倍敏感なアイツが息子を誑かすのも……ひどく、当たり前の事だ。

 

 証拠と言うべきかはわからないが、俺の中にある光子がひどく疼いている。

 彼らと違い、俺の光子は託されたわけではない真実外付け機能である。だから、初期のプロトス1と同じく、最初に込められた”設定”を真に受けやすいのだ。

 ――即ち、「ラムダ、必滅」。

 

「お待たせいたしました。準備が整いました」

 

「ああ、ありがとうございます」

 

 光子の疼きは王国の地下へ向かっている。

 

 そこに奴がいるのだと言う事がありありとわかる。が、今は同盟の使者としての仕事が最優先。

 

「こちらへ」

 

 ……所でウィンドル国の騎士や兵士のつけているその仮面……国民だけじゃなく外国人にも不安を抱かせると思うんだが、もうちょっとデザインどうにかならなかったのか。目元が暗すぎて怖いぞ、普通に。

 

 扉が開く。

 

 長いカーペットと、その向こうに階段があり、その上に在る玉座で額に険を寄せた男が肘をついて此方を見ている。オイ、同盟国の使者だぞ。なんだその態度は。絶影してやろうか。

 なんてことはおくびにも出さず、膝を突く。

 

「ストラタ国は首都ユ・リベルテより、大統領ダヴィド・パラディの使者として、フェンデル国という脅威に対抗するための二国間同盟の締結を求め、参りました」

 

 書簡を傍仕えの騎士に渡す。

 それがセルディクへと渡り、目を通す。

 

「……ああ、大義であった。これより、我がウィンドルとストラタは手を取り合い、フェンデルという脅威へ対抗していく事を約束しよう。ここに同盟は為された。両国の更なる繁栄を願う」

 

「ありがとうございます」

 

 簡易にして簡素。

 大々的に国民に知らせる同盟ではないためか、周囲には数少ない騎士しか存在しない。

 

「ストラタの使者よ。フェンデルに対抗する取り組みとして、国境近くの()()()、ラント領の守護を頼みたい。昨今、フェンデルの工作が激化している。ラントの領主は現在()()()でな、防衛の強化に協力してはくれないか」

 

「守護。

 それは、ストラタにウィンドルとフェンデルを隔てる壁になれと……そう仰っていると、そう取っても問題はありませんか?」

 

 不敬な問い。

 だが、そう言う事だろう。単なる守護など、こちらを軽視しているとしか思えん。

 

「……ラント領を、ストラタ国の一部として明け渡そう。同盟の為の、こちらの()()である」

 

「ありがとうございます。

 自国領であれば、全霊を以て守護しなければなりません。こちらも()()として、最も信頼できる者を守護にあたらせましょう」

 

「ああ――両国が手を取り合い、必ずや脅威を打ち倒し、未来を掴むことを……私も願っている」

 

「それでは早速国に帰り、大統領に報告へ向かわせていただきます」

 

「うむ、下がって良いぞ。

 使者殿のお帰りだ。案内と見送りを」

 

「ハッ」

 

 滞りなく。

 そもそもウィンドル側から持ちかけてきた話だ。譲歩できる部分は出来る限り譲歩して、ストラタを味方につける。合理的な判断なのだろう、少なくとも彼の中では。

 

 礼をし、騎士に案内されて王城を出る。

 そのままバロニア港へ向かい、特別仕様のライオットピークへ向かわない船(=直行便)を使用してストラタへ向かう。

 滞りなど、あるわけもなく。

 

 同盟が為された以上、そして正式にラントが明け渡された以上、「最も信頼できる者」を派遣しなければいけなくなった大統領は、すぐさま彼を手配する。

 

 しっかりとした家柄を持ち、近年最も実績を上げている若き将校、ヒューバート・オズウェル少佐を。

 

 

 

 

 

 

 

「レイモン君。本当に、姓を捨てるのかね?」

 

「はい、大統領。私の意思に揺らぎは有りません。

 ストラタ国防軍第三情報統括本部特殊魔物対策本部特別顧問は辞退させていただきます」

 

「むぅ……いや、その願いを聞き入れたのは私だったな。

 レイモン・オズウェル。君からその名を、姓を剥奪する。これからはライモンとでも名乗るが良い。君が築いた研究成果の功績、軍部への貢献、オズウェル家の者としての、私への注力。その全てが無かったこととなる。

 良いか?」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 ……ようやくだ。

 

 ようやく、俺は自由になる。

 勿論国防の真似事はするつもりだ。イマスタやモーリス達を捨て置けるほど、俺は冷酷になったつもりはないからな。

  

 資金は潤沢にある。俺の部下はオズウェル家の私兵ではなく、俺の私兵。拠点はスパリゾート近くだから、オズウェル家とは関係が無い。組織力に不足は無い。

 はは、素晴らしいな現状。再スタートと呼ぶにふさわしい。

 

「……寂しくなるな」

 

「そうですね。これからは気軽に会える仲でもなくなってしまいます。ストラタへ密入国をさせていただけるのならば、その限りではありませんが」

 

「わざわざ密入国をするのか? 正式な手続きの元会いに来ればいいだろう」

 

「正式な手続きをしていては、ただの旅人が大統領に謁見するなどという事は出来ませんから」

 

「……ふむ。なるほど、確かにそうだ。

 ならば、私が選挙に落選すればよいのだな? そうすれば市井の一人として、君と酒盛りが出来る」

 

「それは楽しみだ。

 ……貴方と出会ってから、二十年以上。本当にお世話になりました」

 

「こちらも、君には苦労をかけた。その才を逃すまいと、わざわざ研究チームなどという君が興味を持ちそうな立場に縛り付けるくらいには、私は君を評価していたよ」

 

「……では、置き土産として一つ。

 大蒼海石(デュープルマル)は、近々史上最大の危機に陥る事でしょう。これは予測ではなく、予言と取ってもらっても構いません。

 その時、貴方が国民をどう鎮めるか。それが次の選挙に関わる大事な要素の一つとなるはずです」

 

「……それは」

 

「あぁ、大蒼海石(デュープルマル)の危機に関してはご安心を。それはなるべくしてなる事。必ずや、元の姿を取り戻す日が来ます。

 ……それを早める事は、研究者の努力に左右されるでしょうが。所長頑張れ、と言った所ですね。私はもう手伝えませんから」

 

 手伝っても良いが、手伝わせてくれないだろう。

 所長ぐっらっく。

 

「……ガリードには挨拶をしたのか?」

 

「いいえ。叔父に対する言葉など、一つもありません。

 残念ながら私はソレを持っていないらしいのです。他ならぬ叔父曰く、ですが。

 ですので、私は親不孝者として、何も言わずに去りたいと思います」

 

「そうか。

 ……そうか」

 

 大統領は何か思う所があるのだろう。

 まぁ、この人も”親”だからな。俺にはないソレを持っているのかもしれない。

 

 さて、じゃあ……そろそろ。

 

「それでは、大統領。

 ストラタはどうか知りませんが、貴方の健康と幸せは願っています。さようなら」

 

「……ああ。また、いつか会おう」

 

「はい」

 

 この先に待ち受ける、全ての不幸が、どうか貴方を刺し貫かぬ事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウォールブリッジ。

 ここは今、厳戒態勢が敷かれている。所謂緊張状態という奴だ。

 

 なんでも逃げ出した手配者がここに来る可能性があるのだとか。

 一市井の者としては、恐ろしい限りである。

 

「だから、申し訳ない。十五年ぶりのウィンドルを楽しんでほしかったが……今はバロニアに、いいや、国に帰った方が身のためだぞ」

 

「……覚えていてくれたんですか?」

 

「勿論だとも。

 といっても、私だけだとは思うがね。なんせ他の者は十年も二十年も外の警備などやらされない。私のようなうだつの上がらない騎士だけが、こうしてここを守り続けているのだ」

 

「……怖い国ですね、ウィンドル。貴方レベルの騎士がうだつの上がらない、ですか……」

 

「はは、まぁそう言う事もあるということさ。

 さぁ、帰りなさい。今ここを通す事は出来ないよ」

 

「はい。

 お仕事、頑張ってください」

 

「ああ、ありがとう。

 十五年前と同じく、君に剣と風の導きを」

 

 レベルにして80を超えていそうな騎士に門前払いにされてしまった。

 まぁ、分かっていた事ではあるのだが。なんだあの騎士怖すぎるだろ。

 

 さて、今俺は、見ての通り聞いての通り、ウィンドルはウォールブリッジにいる。

 装いはストラタの旅人のそれで、念のためメガネはサングラスに変更してある。だからまさかバレるとは思っていなかったのだが、彼以外には特に声を掛けられなかったので、彼だけが特別なのだろうと思う。思いたい。

 

 で、何故俺がこんな所にいるのか。

 とっととアンマルチアの里行けよ。そう思った方も多かろう。

 が、アンマルチアの里の入り口はフェンデルにあり、フェンデルは現在緊張状態。というか鎖国状態だ。船は出ていても外国人は乗れないので、行くことは叶わない。

 

 ならば密入国を、とも一応考えたが、流石にリスクが大きすぎる。

 俺は寒い場所にまだ慣れていないし、弓を扱う以上は気候の把握なんかも重要になってくる。事を起こすには性急すぎるのだ。

 

 そんなことをするくらいなら、時を待って、今こちらの国で出来る事をした方がいい。

 それ即ち、ウォールブリッジ地下遺跡の再調査である。新しい魔導書のいくつかは作ったが、未だにわからない単語も多い。

 

 であるならば、沢山の資料が眠る場所で、分かる人に聞けばいい。

 

「……先に行っているか。いつ来るかもわからんし。そこで寝てると思ったんだがなぁ……」

 

 ウォールブリッジ手前の、地下遺跡への入り口。その近辺の樹の根に彼女を探したのだが、見つからなかった。まだ遺跡の中にいるのか?

 まぁ、今会った所で何を話すべくもなし。

 先に行かせてもらうとしよう。

 

 ワープゾーンに立ち、意思を込める。

 

 このワープゾーン、原理は陽炎や絶影と大体同じである。

 

 身体を原素(エレス)に分解し、別の場所で再構成するという……今にして思えばエレスポットと似た原理で行われているこれは、行先が決定されている分陽炎のようにバラバラになる事も、絶影のように取りこぼすという事も無い。

 もちろん、エレスポットのように形成失敗も無いらしい。あったら怖すぎる。そんなの実用化しないだろう。

 

 この機構そのものも調べればエレスポットに大いに役立つと思うのだが、こんな場所のを調べるよりアンマルチアの里にある物を調べた方がはるかに有意義だろう。メンテもされているだろうしな。

 

 さて、風の原素(エレス)溢れる空間に降り立った。んー、懐かしい。

 そして感慨深いな……。前に来た時も、俺はライモンだった。

 

 今もライモンだ。ライモンって誰だよ。

 

「ふぅ……あぁ、いい原素(エレス)だ……」

 

 大きく深呼吸をすれば、風の原素(エレス)が体内に行きわたる。

 輝術を扱う弓は原素(エレス)を多く消費するからな。あまり関係ないとは思うが、こうして補充するのも悪くは無い。多分吸った傍から出て行っているとは思うが。

 

 さて、移動する床を使用する……と、彼らが来られなくなってしまうので、ここ数年で完全にモノにした陽炎で移動する。もうバラバラになる事は無い、と思う。

 頭に叩き込んであるマップを元にひょいひょいと飛んで行く事二分弱。

 そこを発見した。

 

 彼女はいない。

 

「……ま、広いからな」

 

 史実においては機能の終了した、もしくは壊れてしまった移動装置の先の離れ小島にはいけなかったが、俺には関係が無い。故に、最短ルートを辿っているので、彼女たちが通り得るルートからはかけ離れた場所を通っている。

 故に、すれ違う事もある、ということだ。

 

 さて、辿り着いたプロトス1の記録設備。

 

 彼女に倣って言うならパチポチーと操作して、プロトス1の記録……ではなく、この機械に記述された設定(システム)の方を引き出す。

 

 表示されるコード。昔はほとんどわからなかったが、今になっては大凡五割が理解できる。読めるというのは、はは、快感だな。残りの五割はまだまだわからないのだが。

 ま、それに関しては圧倒的知識量不足だ。文法や記述方式は理解していても、単語の意味が解らなければ意味が無い、というヤツだな。

 

「……記録、保持……書き込みもできるのか。ああ、出来るわな、それは。ふーむ……魔導書……魔法? あぁ、お? んー……ははー」

 

 一人であるのを良い事に、ぶつぶつと独り言を呟きながら操作を続ける。

 メモは取らない。紙媒体残しておくほど俺は用心浅くない。頭に叩き込めば覚えるしな。

 

「共有……観測……保全、再生、再構成。浄化? 浄化……ああ、原素(エレス)のか。状態異常……そういえばプロトス1の術技は英語なんだよな。ああいや、英語以外もあるか。そこにこだわりはないのかね……」

 

 単語の意味は分からずとも、その単語がもたらす効果の方を記述として読み取れば、おおよその意味は推測できる。どう考えてもわからないものだけをピックアップし、後で聞くために覚えておく。

 いや、いや。

 参考資料があるって素晴らしいな。

 

 カァン、という……硬質な音が鳴り響いた。

 複数人の足音。ピリ、とした気配。

 

「……何者だ!」

 

 先頭を行っていた若者が、腰だめに剣を構え――俺に問うた。

 この声、はは、感慨深いな。

 一応再会になるのか? それとも初めましてか?

 

 ははは……そして、そして……彼女が、夢に焦がれた、あの一族の末裔!

 

「私は旅人のライモンという者です。あなた方こそ、何者で? ここは早々迷い込むような場所ではありませんが……」

 

「あーっ! ねぇねぇ! その装置、壊してないよね!?」

 

「あ、おい、パスカル!」

 

 青年と俺の話なんか知ったこっちゃないというマイペースさで、彼女が走り込んでくる。

 そして俺が操作していたパッドをパチポチーとやり始めた。よどみのない操作は、理解していないとは思えない程に適確だ。俺が辿り着いた解法を全て知っていたかのように操作していく。

 これが、本物か。

 

「ふぃー、よかった。特に壊れてはないみたいだね」

 

「勿論、それを壊すほど私は愚かではありませんよ。なんせ、アンマルチア族の貴重な遺跡だ。ところで貴女は……」

 

「ん? あたし? あたしはパスカル!」

 

「そうですか。ではパスカルさん、ここの記述なのですが、ちょっと分からない部分がありまして……」

 

「え? なになに~? どれどれ……ふんふん、ここは多分時間に関する記述だねー。どれほどの時間が経ったか、とか、どれほどの間使用するか、みたいな!」

 

「……おぉ、なるほど! つまりこちらは、時間経過における空間含有原素(エレス)量の増加比率ですね!」

 

「ん~、でもそれだけじゃない感じがするよ? それにしては余計な要素が多すぎるっていうか……」

 

「……増加比率じゃなくて、影響予測という事でしょうか?」

 

「それだ!」

 

 す、すごい。

 こちらが疑念に思う事を即座に解決しただけでなく、俺が疑念にすら思わなかった部分を気付いてくれる。余計な要素が多すぎる、なんて考えもしなかった!

 おぉ、おぉおぉ……た、楽しい。ずっとここで研究していたい!

 

「……あの、」

 

「ん? 

 あ、えーと……」

 

 視線を向ければ、どうしていいのか分からない、と言った佇まいで此方を見遣る青年と、その後ろに隠れる少女、そして俺に厳しい目線を向けている青年。ま、ストラタ人の格好だからな。

 

「俺はアスベルといいます。こっちはソフィ。そして……」

 

「僕はリチャードだ。ライモンさん、どうしてこんな場所にいるのか、聞いてもいいかい?」

 

 声色は優しいが、心情は暗い。

 光子に反応している、というわけではないのだろう。単純にストラタ人だからだろうな。同盟協定はリチャードの想う所ではないわけだし。

 

「数年前、ウィンドルに観光に来た時に偶然ここを見つけましてね。以来、ウィンドルに来るたびに此処へ通っているのですよ。おかげである程度の操作も覚えました」

 

「ってことは……ライモンさんもソフィの幻を見た事があるんですか?」

 

 この質問は、この装置がプロトス1を映し出すためだけの物、と思っているが故のものだろう。

 そして答えは、

 

「はい、ありますよ。ソフィ……そこの少女の事で良いのですよね」

 

 モーリスの娘に良く似ている彼女。

 勿論、見た事がある。というか研究させてもらっている。

 

「ほら、あたしの言った事、嘘じゃなかったでしょ?」

 

「うーん……まだ実物を見たわけじゃないからな……」

 

 ま、エフィネアの民にとって映像装置、なんてものは見た事も無いだろう。フェンデルにあるものでも平面、まさか投射装置など、夢にも思わん。

 信じられないというか、想像できないのは当たり前である。

 さて、実物を見せよう……という前に。

 

「……何か、来る。変な足音が近づいてくる!」

 




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