メガネ端正(転生) 作:飯妃旅立
ご都合主義というか、テンプレみたいなの有り(グレイセスssが少ないのでテンプレとは言えないかもしれない)
アンマルチア族の技術とはかけ離れて原始的なレバーをガコン、と下ろす。
滑車と鎖の音。
木材の軋む音。
外へ出てしっかりと橋を確認すれば、北橋が完全に上がっているのが見て取れた。
これで、仕事は果たしたな。
「――!?」
バッと振り返り、弓を構える。だが、誰もいない。
悪寒。いや、疼きとでもいうべきか?
今何か、心の底から唾棄すべきモノが現れたような。
「ああ……今のが、……ラムダか」
そうか。
そうだった。確か、リチャードは中央塔で兵士に斬られて……。
宿主の治癒の為に一度表出した、という所だろう。
俺の中の光子が、「ラムダ、必滅」と騒いだのだ。
「……あの時はがむしゃらに入力してしまったが……早まったか?」
分滅保全……守りたい意志の乗っていない、純度の高い光子。
即ち、対ラムダ特攻のためだけの光子だ。それが俺の体内にある。絶影を見ればわかるのだが、どうにも俺の体か、もしくは魂とやらは光子の方を優先し、
こうやって過敏に反応してしまうのだと思う。少々面倒だが、手放す気はない。手放し方もわからんしな。
さて……後は、信用を得るための一手を打つだけだ。
やらなくても、問題は無いのかもしれない。
だが、確実にしたい。
確実に――彼らに、「仲間」と思われる必要がある。
「……メガネ良し。今はサングラスですけどね?」
虚空に向かって肩をすくめて、薄く笑う。
さぁ、ライモン。目的と欲望の為に、ガラでもないことを本気でやれよ?
「恵み雨」
ウォールブリッジ・地上階。
橋の上。
そこに倒れている兵士を一人一人確認して、無理をしない範囲……四人ずつくらいを対象に癒しの
勿論使っているのは木弓。複合弓を使っても回復量はほとんど変わらないしな。
新国王陛下殿の兵士・騎士、グレルサイド民兵も関係無しに癒して回る。
「あの!」
「うん? 私に何か用ですか、美しいお嬢さん?」
フ、これがユ・リベルテのお嬢様、女の子相手に鍛えた史実仕様レイモン・オズウェル様……! 今はライモンだが、その吐きそうなキザったらしさは健在だ!
このモードは心底心身にダメージが大きいので滅多には使わないが、仕方のない。仕方のない事だ。仕方のない事ならば、割り切るしかない。
「お、おじょ……? あ、いえ、そうではなくて……私はラント領で結成された救護組織の者です。失礼ですが、あなたは……?」
「あぁ、これは失礼を。
私はライモン。ストラタからの旅行者なのですが、ウォールブリッジ内で迷っている内に闘いが始まってしまいましてね。つい先ほど終止符が打たれたようだったので出て来てみると、兵士様方が倒れているではないですか。
これでも旅人、ある程度の治癒の心得は持っています。少しでも皆様のお力になれればな、と、治癒を施して回っていた所なのですよ」
「……他国民でありながら、兵士の方々の治療をして下さった事……ウィンドル国民として、感謝をいたします。もしよろしければ、こちらの治癒術師と連携を取っていただけませんか? 傷ついた人を、一刻も早く楽にしてあげたいんです」
「勿論、協力いたしますよ、美しいお嬢さん。
ですが、申し訳ありません。
「はい。重傷人は私が。
ライモンさんは、あちらでまとまっている方々をお願いします」
美しいお嬢さん、のまま名乗らないな。警戒されているのか?
まぁ、今ラントを占領しているだろうストラタの民だからな。無意識の敵愾心が出てしまうのは当たり前か。
とりあえず割り振られた通り、軽傷の……つまり動ける者で集まっている場所に行って、恵み雨を施す。この技、見た目が矢なものだから一瞬警戒されるのだが、俺ではヒールウィンドを習得できなかったので勘弁してほしい。
まぁ、高空から降ってくる矢が頭頂に刺さるって、絵面的に凄く怖いのは分かるよ。
「ライモン!」
「はいはい、……と、アスベル。パスカルさんに、ソフィも。どうやら上手くいったようですね」
「あ、あぁ……それより、ライモンはここで何を?」
「そこの可憐なお嬢さんのお手伝い、という所です。私も治癒術が扱えますので」
「か、可憐なお嬢さん? ……、……? ……あぁ! シェリアの事か!」
素晴らしい。期待通りの反応だヤングナイト。
殴っていいぞ、シェリア・バーンズ。
「アスベル、ライモンさんと知り合いなの?」
「あぁ、ちょっとな」
そしてその深く語らない所、親父さんにそっくりだぞ。
そんなことより、先程から黙して語らないソフィが気になるのだが。パスカルはまぁ、気分屋だからいいとしても。
「あの、ライモンさん」
「重傷者の治癒は終わったようですね。後はお任せください。
流石に公爵様やリチャード殿下の集まる場所へ、ストラタ人が行くのは場違いが過ぎるでしょう?」
「……ありがとう、ございます」
「……聞いていたのか。でも、全体的に怪しい人だが、怪しいだけで良い人なのかもしれないな」
小声で呟くアスベル・ラント。あ、ちゃんと怪しいとは思われていたのか。
純粋に信じて貰えていると2%くらいは期待していたんだが。
あと全体的に怪しい人とは。存在自体が? まぁお前さんのように真っ白とは、そりゃあ行かんさな。
ウォールブリッジ内部に入って行く四人を見送って、再度弓を取る。
さて、感覚的にあと少しで「恵雨の誇り」を取れるだろうし、頑張りますかね。
……今の状態のリチャードに
「ライモンさん! どちらへ……?」
話し合いが終わったらしいシェリア・バーンズが、息を切らせて走ってきた。
ここはもう、ウォールブリッジの外だ。
「役目が終わったので、また旅に出るのですよ。今のウィンドルは少々物々しいので、国に帰る事も検討していますが」
「そう、ですか……すみません。お礼をする事も出来ずに……」
「……ここだけの話、今あの砦にいるのは……身の危険を感じますからね」
「……!」
「お嬢さんはラントの民なのでしょう? バロニアに向かうにはラントを通るか、山道を迂回しなければならない。同国民として通行を願い出るつもりではありますが、ストラタ軍は頭が固いですから、山道コースになりそうです。
もしお礼がしたいというのであれば、ラントの抜け道なんてものを教えていただけるとありがたいのですが……いえ、はは、無茶を言いましたね。忘れてください」
「……山側の、風車の裏に……墓地があります。ストラタの軍はそこに警備をほとんどおいていませんでした。そちらを通れば……あるいは。
……どうか、御無事で」
おぉ、本当に教えてくれるとは思わなんだ。
それに、アスベル・ラントが使う用水路の方ではなく……墓地、ね。
グレイセス世界、普通に死霊系のモンスターがいるからお化けなんてのは怖くないんだが……ヒューバートがわざわざ手薄になるような場所を造るかね……?
ちょっと気になる、が……。
ふむ。
ま、今は雌伏の時だ。
あの花畑で、昼寝でもしていようかね。
……アスベル・ラント達が水路を通ってラント領へ入って行くのが見えた。
という事は、バロニア側の……おぉ、大隊クラスがいるんじゃないか? ハッハッハ、こっちの相手は無理だな。親衛隊がいないとはいえ、グレルサイドの民兵に……ウォールブリッジの兵までいるじゃないか。
ということは、史実通り……男三人で戦う事になるだろう、あっちに行きますかね。
「そうか……本気なんだね。そうか……君も僕に逆らうのか。
所詮は……君も……!」
凄むリチャード。剣を抜き、風の
増幅は憎しみが。裏切りと、何よりも友情の鎖の破壊が、彼を、奴をざわめき立てる。
そしてそれは、放たれた。
風の暴力。殺意の塊。大凡、友人に向けるものでも、友人の肉親に向けるものでもないそれは、ヒューバートへと向かって直進する。
「――絶影」
が、こちとらそのタイミングを窺っていたのだ。
目的の為に、一人一人を信用させる必要がある。ただでさえ胡散臭い自覚があるのだから、尚更に。
あんな密閉空間に
風の
それでもこちらのHPを削ってくるのは流石としか言いようがないが……同時に覆し様の無い
弾き返す。
「今の技は……!」
「ライモン!?」
本命はあくまでソフィだ。
だが、彼女の到着までの僅かな間……暴星に対する実力試しと、疼いて仕方がない光子のストレス解消に付き合ってもらうぞ、リチャード陛下!
「アスベルといい、君といい……ぼくを、僕に刃向うか……!」
「いえいえ、とんでもない。刃向ってなどいませんよ、陛下。
私は初めから、貴方の敵ですとも。私が味方をしていたのはソフィであって、決して、貴方ではありませんよ」
微かに、矢先に光子をチラつかせる。
お、目の色が変わったな。あ、これは比喩だぞ。
「そうか……貴様……貴様も!」
「そう言う事です。
……君達は下がっていなさい。守る戦いというのは不得手でしてね……」
「しね……しね、しね! しねぇぇぇぇええええ!」
「周りに人がいない方が、戦いやすい」
絶影でリチャード陛下殿の背後を取る。そのまま無言で虚空閃。入った。が、すぐに治ったか。もうほぼほぼラムダだな。人間の治癒速度じゃあない。
振り向き様の切り払いを落葉で避け、天空に三射。さらに一射。
目の前に迫る風の
しかし目立ったダメージ無し。このレベル差があってこれか。やっぱり俺の光子量では、今の状態には勝ち得ないって事だろうな。
「ちょこまかと……!」
「ライモン! 待ってくれ! リチャード、話を聞いてくれ!」
「うるさい! うるさい、うるさい……まずはお前から死ね、アスベル!」
ヘイトがアスベル・ラントへ向かう。衝破で吹っ飛ばす……という手が一瞬浮かんだが、同時に膨大な量の光子の気配を感じ、弓を収めた。
「だめ!」
流星のように飛来したソフィが、リチャード陛下殿に突撃する。意思によって溢れ出る光子は、俺の持つ最大量をはるかに上回る。流石全身光子。俺に出番は無かったようだ。
「アスベル、そこのストラタ軍人! 離れますよ!」
「だ、だが!」
「今は、です。彼女ならば、必ず活路を開いてくれます。そこなストラタ軍人も、いいですね?」
「……はい」
激しい攻防を繰り広げる二人。
ソフィの「守る」という言葉に反応し、ヒューバートの内から光子が彼女に戻って行く。
これで、完全。
だが、本調子ではない。
「……俺は」
次第に劣勢になって行くソフィを見て、アスベル・ラントが震えるように呟く。
……守る、か。
彼や彼女のように、命を捨ててまで、と思った事は無いが……俺にも少しはある。
だが、それによって通常以上の力が出るなど、眉唾でしかないと。史実を見てきたにも拘らず、それは起こり得る事ではないと、どこかで感じていたんだがな。
こうも変わっていく様を見せつけられると……ガリードの言っていた俺に無いモノが、欲しくもなるというものだ。
「また、守れないのか……」
その震えが、覚悟に変わる。
あの時を、繰り返さぬように。
ソフィが倒れる。リチャードが、剣を、
「やめろぉぉぉおおおおお!!」
――その胸を、凄まじい速度で駆けぬけたアスベルが、切り裂いた。
苦しみにフラつくリチャード。だが、それよりも……それよりも、親友に、言葉や態度だけではなく、明確に。
剣を向けられた。命を狙われたという事実が、憎しみを増加させ、倍化させ、溢れ出させる。
「裏切ったな……裏切ったなぁああああああああああああああ!!」
どろりと、怨念のような、怨嗟のような、赤黒いそれが滲みだす。
俺の中の光子が叫ぶ。滅せ、滅せ、必ず滅せと。
そんな使命に興味はないが、ハハ、初めてじゃないか?
前衛に並び立つ、二人。ラントの兄弟。
俺を含め、兄弟義兄弟が、協力して敵を打ち倒さんとしている。
ヒューバートとの共闘。
「
「あぁ、わかった!」
……あぁ、わかった!
ちなみに原作でレイモンが初登場するシーンはカット