メガネ端正(転生) 作:飯妃旅立
「紅蓮、衝破!」
開幕、火の
そしてそれが着弾する前に陽炎で接敵、虚空閃。落葉で離脱。
CCを9消費する、一番使い勝手のいいヒットアンドアウェイのコンボだ。
「ハッ、断雷牙! 崩爆華!」
「衝皇震! 邪霊一閃!」
衝破の主目的はダメージではなく目隠し。それを知っているヒューバートが左に回り込みながらの攻撃、それを見たアスベル・ラントが即座に合せて薙ぎ払いからの右へ斬り抜け。
ヒューバートというファクターが、俺とアスベル・ラントの連携を繋ぐ。
「消えろぉぉお!!」
悲鳴のような音と共に、リチャード陛下殿が赤いオーラを纏う。
ソフィはまだ回復しきっていない。
「絶影!」
そんな彼の背後に回って真空刃に光子を混ぜ、放つ。
割れるような音と共に、そのオーラが割れた。絶影は暴星特攻ありか。さっきの戦いで光子を混ぜ込んでいるにも拘らず効かなかった術技がいくつか見られたからな。こういうのは、出来るだけ事前に把握しておきたかった。
「ハァア!」
「グッ!」
絶影も陽炎も、初見相手には無類の強さを発揮する。だが、それ以降からは少しずつ相手が慣れてしまう。
絶影なら背後に、陽炎なら頭頂に。
来るとわかっているなら、迎撃できないはずもない。
「ライモン!」
「目を離さないでください! 私には回復手段があります!」
「みんなを……守る。リーンカーネーション!」
回復を行おうと思った矢先、自身の光子が復元、
これが、光子による回復。
そんな知的好奇心を満たしたい所ではあったのだが、まだ本調子じゃないだろうソフィを
動けないヒーラーなど、格好の的なのだから。
「アスベル、これを使いなさい!」
ソフィの身体を抱き起し、ただの跳躍。
その後ろを風の
振り向きざまに投げるのは、一つのボトル。
アルカナボトルだ。
「終わらせてやる! 全てを切り裂く! 獣破、轟衝斬!!」
此方に目線をやるヒューバート。その目が物語っているのは、「僕には無いんですか」だろうか。一応、目の前にいるのは(化け物染みているとはいえ)リチャード陛下殿なんだがな。
まぁいいと、アルカナボトルを放る。
「派手に踊れ! アンスタンヴァルス!」
だが、決して弱くない二人分の秘奥義を使ってもまだ、リチャード陛下殿は倒れない。
「もう……大丈夫。みんなを……守らなきゃ」
「わかりました。回復は私が行います。ソフィ、貴方は暴星を出来得る限り抑えてください」
爆発的な勢いで駆けだすソフィ。
その身体は刹那でリチャードに接敵し、光あふるる拳がその胴体に突き刺さった。
見るからに、減衰する赤黒い靄。
対ラムダ特攻兵器。その名を冠するだけはある。
「恵み雨!」
……前衛三人。回復術メインではないとはいえ、全体体力を30%回復できる後衛一人。
回復だけでなく、勿論攻撃も行う。
ヒューバートはそれを見ずとも避け、アスベルはヒューバートに合せ、ソフィは二人に合せる。
誤射など有り得ない。そんな、信頼の置ける関係。
ヒューバートが連携の要である事に気付いたのか、先程からヒューバートの被弾が多いが……。
「使い時、か……。
ふん、潤沢な資源があるんだ。出し惜しむべくもなし」
呟く。
取り出すは、アルカナボトル四個。
いつぞやのモーリス戦で使った、お金の力である。
エレスゲージが一気にLv.2まで上昇する。
「光に消えろ――影楼!」
光子を混ぜ込んだ
ソレ――リチャードの影へと辿り着く前、通り抜け様に彼の身体を光子で包み込み、背後から矢で背中を思い切り刺す。
そしてその矢が、まばゆい光に包まれて爆発した。
「カ……」
「錬気、轟縮!!」
そこへさらに、ソフィの最大規模で圧縮された光子の螺旋が彼の腹部を穿ち撃つ。
前と後ろ、両側からの光子。
それは確実に奴の暴星を減衰、否、削り取った。
「――解放します! 必中必倒! クリティカルブレード!!」
コンボによる余剰
それにより、ソフィが秘奥義を開帳する。
リチャードを、吹き飛ばした。
その後の展開は俺の知っている通りだった。
恐らくラムダの力だろうそれと、光子のぶつかり合い。
守る者が中にいるソフィがこの拮抗に勝利し、しかしなおも引き下がろうとしないリチャードをデール公が介抱。彼を連れて、撤退。
その撤退には勿論、アスベル・ラントは含まれない。
そして、記憶を取り戻したソフィ。
ヒューバートに
あの場所にいた三人と、語り合う。
俺はと言えば、少し離れた位置で一休みだ。
流石に少々疲れた。実戦で第二秘奥義を使うのは久しぶりだったしな。
街の被害は甚大。
あちらこちらで輝術が飛び交い合ったのだろう、焦げ付く匂いが鼻について止まない。
感傷に浸る程の情は持ち合わせていないが、死んだ者がいるのなら偲ぶ程度はしてやろう。
あぁ、それよりも回復が優先だな。
木弓を手に取り、腰を上げる。
ストラタ軍の幹部だろう二人が向かってくるのとすれ違いながら、少しだけ笑う。
史実であれば、あの駆けつける者の中に、レイモンはいたのだ。
正反対の方向に向かっている事実が、なんだか面白かった。
「まさか貴方だったとは思いませんでした……見違えるほど、いえ、あの時からご立派でしたな」
「はは、貴方には及びませんよ、フレデリックさん。
十五年の月日が過ぎたと言うのに、体捌きに全く衰えが見られない。ウィンドル人というのは皆そうなのですか?」
「こんな老骨に何を、と言いたいところですが……どうやら、貴方の目は誤魔化せないご様子。私はいざという時の旦那様の剣となる者。
身体を鍛える事を辞めるわけには行かないのです。ぎっくり腰も、治りましたからね」
ラント家。
そこの階段を、廊下を、ゆっくりと進む。
隣にいるのはフレデリック。前にいるのは、いつぞやアスベルとヒューバートの足止めを手伝っていた一番の古株らしいメイド。
家の奥へ、奥へと進んでいく。
風に薬品の匂いが混じってきたか、と思った所で、メイドが止まった。
扉。
「こちらです」
「どうぞ、ライモン君」
「失礼します」
部屋に入る。
そこには、全身、至る所に包帯の巻かれた――アストン・ラントがいた。
胸は上下しているが、眠っている。
「先日……フェンデルとの争いの最中に、旦那様は敵の凶刃を受け、重傷を負われました。
その時偶然その場にいたストラタ人の旅人二人の助力が無ければ、旦那様はこの世を去っていたやもしれません」
「……そうですか。今、命に別状は?」
「ありません。安静にしていれば、二月はかかるでしょうが、死ぬことは無いとの見込みです」
「安心しました」
ストラタ人の旅人二人、ね……。
もちっと格好考えろよ。ウィンドル人用のローブなんてその辺で売ってるだろ。
……あぁ、片方がストラタ人で片方がウィンドル人だと変だから、仕方なく合わせたのか。先行した馬鹿の方に。
「その二人は、今どちらへ?」
「それが……礼をしようとした矢先、煙のように消えてしまいまして。
ライモンさんは、ご存じありませんか?」
「――さぁ、無いですね。ただまぁ、
ま、これで伝わるだろう。
フレデリックなら、わかってくれるはずだ。
「……ありがとう、ございます」
「何に礼を言われているのかわかりませんね」
「あのような下手な変装で、旦那様はまだしも私を欺けるとお思いですか?」
「割と辛辣ですね、フレデリックさん。彼なりに頑張っていたと思うのですが」
「旦那様と同じく、私は彼を幼少のころから見ています。バレバレ、という奴ですよ」
だ、そうだぞ。
帰ったら一言一句丁寧に伝えてやろう。
「さて、そろそろ私は失礼します。アストンさんの生死がずっと気がかりでしたが……本当に、生きていてよかったです」
「重ね重ね、ありがとうございました」
頭を下げるフレデリックを後に、部屋を出る。
ま、繋がりは分かりやすすぎるもんなぁ。
礼を言われて悪い気はしないが、良い気になる事も無い。
俺は別に、何もしていないのだから。
礼はあいつらに届けておくよ。
アストン・ラントの様子を見に行った帰り。
ばったりと……「そこなストラタ軍人」こと、ヒューバート・オズウェル少佐殿に鉢合わせてしまった。
「……確か、ライモンさん、と言いましたか。何故この屋敷に?」
「フレデリックさんとは旧知の仲でしてね。昔話に、花を咲かせていたのですよ」
「……そうですか」
ライモンである事を肯定する。
それは、レイモンではない事を肯定する事にもつながる。
ヒューバートに、俺が国を出たという事実が伝わっているかどうかはわからないが、既に俺は身寄りのない旅人。
ウィンドル国民と仲のいい旅人と親しくしているところなど、少なくとも現状他人に見られて良い利益は産まないだろう。
「それでは」
背を向け、歩き出す。
いずれは共に戦うこともあろうが、ここではっきりと、決別だ。
もう俺は、オズウェル家の人間でも、ましてやストラタ国民でもないのだから。
「――貴方も、僕を捨てるんですか」
踏み出そうとした足を止める。
振り返らない。振り返っていいのは、レイモン・オズウェルだけだ。
「……
あなたが誰かに捨てられたと思っているのならば、それは全て
「ッ、貴方に何が!」
「しっかりと、父親と話をしなさい。どちらも仏頂面ではありますが……
それと――」
服の下から矢を取り出し、ヒューバートに向けて投げつける。
それはヒューバートが反応するよりも前に彼の目の前へ辿り着き、ポンという軽い音を立てた。
出てくるのは、花束。
「少々遅くなりましたが、出世祝いと誕生日祝いです。
後ろ手をふって歩き出す。
一応、毎年誕生日プレゼントを上げていたが……十八歳までで、十分だろう。
もう彼は、年下に上げる側の年齢だ。
色々な意味を込めて――プレゼントフォーユー。
文字数伸びないなー