メガネ端正(転生) 作:飯妃旅立
外道行為アリ。
ラント領・墓地。
ラントの人間でさえ滅多に来ることの無いと言うこの場所は、なるほど警備も見当たらず、非常に静かだ。
暴走したリチャード陛下こそそうであったが、元来ウィンドル人もストラタ人も死者を利用したり辱めたりすることは無い。風の気質か、水の気質か。はたまた、フォドラの二の舞とならぬように……アンマルチアの民が、エフィネアに生まれた人々にそういう概念を決して与えなかったか。
人間に似せたヒューマノイド。死の際に意識を移したヒューマノイド。
どれもこれも、決して、遍く広がって欲しい技術ではないからな。
そんな墓地近くの木陰で休んでいると、街の方から二人……アスベルとソフィが歩いてきた。
「隣、いいか?」
「ええ、かまいませんよ」
俺がここにいることを知っているのは……シェリア・バーンズか?
ま、誰か住民が見ていたのやもしれんが。
「……ライモン。
お前は、一体何者なんだ? あの時……リチャードとの戦いで、お前が使っていた力は……」
「ソフィと同じ力ですよ。ああいえ、アスベル、あなたとも」
「ッ! お前は、この力が何か……知っているのか?」
「いいえ。これがなんであるかは知りません。ですが、使えるようになった時から……鍛錬は欠かしませんでしたから」
光子がなんであるか。
対ラムダ消滅用に造られた、
だが、これがなんであるかは知らない。何が原料なのか、どういう製法で造られているのかまでは、俺の領分に無い。
だから、嘘ではないと胸を張ろう。
「使えるようになってから? お前はいつ、その力を手にしたんだ?」
「十五年前ですね。貴方達と出会ったあの遺跡……あそこに初めて入った時、入手しました」
アスベル・ラントの口から、「七年前では、ないか……」という呟きが漏れた。ソフィのいなくなったタイミングでは、確かにないな。
ソフィの力と同じとは言ったが、厳密にはアスベル・ラントの持つ力とは違う。
あくまでソフィの力と同じなだけだ。
「……ライモンは、リチャードの、敵、なの?」
「正確には貴女の味方ですよ、ソフィ。貴女が彼と敵対するのならば、私は喜び勇んでこの力を彼の撃退へ使います」
「ライモン、お前はソフィの事を知っていたのか?」
「いえいえ、知りませんでしたよ。
ソフィ、貴女が戦闘をしているところを見るまでは、ね。
前にも言いましたが、私は
そしてソフィ、貴女の扱う力こそが、この力の源流なのだと気付いたのです」
「それで、ソフィの味方だと……?」
「ええ、ソフィに死なれてもらっては困るので」
「まさか……ソフィを研究、」
「そんなことはしませんよ。この力については、これ以上調べ用が無い、という所まで調べましたから。それに、一人の女の子をどうこうしてまで調べたい事でもありませんしね。
私の本命は、あくまで
「そうか……っと、忘れる所だった。
ライモン。俺達はこれから、ストラタへ向かう事になった。確か国に帰るつもり、とか言っていたよな。一緒に来ないか?」
「ええ、勿論です」
さぁ……ある程度、仲間と認められたかね?
「シェリアがいない?」
心臓が跳ねた。
……何?
「ライモン、見ていないか?」
「申し訳ありません、ずっとあの場所で昼寝をしていたもので……」
「オレも見ていないな」
「ソフィ、パスカルはどうだ?」
「見てない」
「あたしも~」
思考の底が冷えて行く。
何故、シェリア・バーンズがいない?
では……誰だ。
「忙しいのかな……今度はちゃんと、行ってくると伝えたかったんだが」
「兄さん!」
ヒューバートが走ってくる。
その手に握られているのは、紙。
「ヒューバート。どうしたんだ?」
「……執務室の扉の前に、こんなものが」
「これは? ……なんだって!?」
……下手人がわからない。
彼女の掴まっている場所は変わらないのかもしれないが、もしもを考えると下手に動けない。
史実通り押し花を落としてくれていればいいのだが……。
「アスベル?」
「シェリアが……誘拐された。ストラタ行きを止めなければ、シェリアを殺すと……」
「オズウェル少佐殿。最近、というか、この進駐軍を設立するにあたって、貴方の率いる隊に最も新しく編入した人物は誰ですか」
「……! そうか、オズウェル家の……僕のお目付け役として派遣された者がいます」
矢張りか。
レイモンという監視役がいないのだから、ガリードは他の誰かを宛がうと思っていた。
そいつは史実のレイモンのように、オズウェル家の不利益となる行動をとるヒューバートを妨害して当たり前なのだ。さらに言えば、レイモンよりも立場の緩い……動きやすい地位にいるだろうソイツなら、誘拐もたやすい。
「その者の名、特徴は?」
「特徴はこれといってありませんが、短剣術を使用します。名はアクウェル。細身の男です」
……ふぅ。
そうか。そういう所にツケが回って来るのか。
まぁ、でも良かったよ。
知っている奴で。
「インスペクトアイ」
「ライモン?」
インスペクトアイとは名ばかりの、光子で造り上げた望遠鏡の役割をするレンズを片目に展開する。術技ではない。光子を使用していると言うか、形を変えているだけだしな。
コレの役割は単純に、遠くをよく見えるようにするという、本当に望遠鏡の働きをするのみだ。
ゆっくりと全方位を見渡していく。
周囲の人間、モンスターの
治癒術師なら多分みんな出来る事だ。望遠鏡という物がこの世界に在るのかどうかは知らんが。まぁ双眼鏡はあるだろ。多分。顕微鏡はあるんだし。
「こうしていても仕方がない。とりあえず、手分けをしてシェリアを探そう!」
「兄さん、まってください。
……ライモン。
「見つけました。……西ラント街道の小屋にその男と……寝かされた状態の人間一人。他、外にサーブルボアとグラニットータス、人間二人」
「何……?」
マリク・シザースが懐疑の目を向けて来るが、その場合ではない。
これはある意味俺の不始末だ。こればかりは、俺に責任がある。
「西ラント街道だな! いくぞ、みんな!」
だが、アスベル・ラントは一切疑いもせずに駆けだしたではないか。
俺が言うのもなんだが、そんなにあっさり信用してもいいのか。マリク・シザースの疑いこそがもっともで、俺は怪しまれる行動ばかりを取っている自覚があるのだが。
「兄さんは、既に貴方を身内として見ているようですね。排他的な貴方では及びつかない思想でしょうが……兄さんは、甘いんです」
「……いえ、貴方にそっくりですよ。同じくらい甘い貴方に、ね」
走り出す。
ふん、仲間とみられるためにお人好しのような演技を続けていたが……もしかしたら、一切の必要が無かったのかもしれないな。
杞憂。いや、徒労か?
それなら初めから素の口調でいればよかった。丁寧語、自分でもちょっと嫌いなんだよなぁ。
「シェリア!」
自分で脱出を試みたのだろう、シェリア・バーンズが小屋を抜け出している。
だが、周囲にはストラタ軍人の格好をした人間二人、サーブルボア、グラニットータス。
そして、小賢しい顔をした……オズウェル家の私兵。
それらが、シェリア・バーンズを囲い、今にも襲い掛からんとしていた。
「陽炎!」
先行していたアスベル・ラント達を追い抜いて、その私兵の男の頭頂に跳躍。
そのまま何の捻りも無い回し蹴りで、側頭部を蹴り飛ばす。
「ッテェ!?」
ふん、もう取り繕えていないのか。
流石は――元盗賊。
「ライモンさん!?」
「シェリアさん、申し訳ない。
魔物の相手は苦手でしてね。まぁ、コイツの処理は任せてください」
返事を待たずに、再度接敵して紅蓮。避ける奴にさらに追撃をし、彼女から距離を取る。
だが、奴も然ることながら……短剣を使用し、こなれた体捌きで俺の弓を防ぎ始めた。
「ヘッ、誰かと思いやぁ……まさかまさかの大本命! アンタだったとは思いやせんでしたよ!」
「なるほど、いつの間にか私ではなくガリードの方へ取り入っていたようだ」
「へん、次期当主の元で好き勝手やれるならまぁ従っても良いか、なんて考えてたオレを裏切ったのはアンタの方だ。家を出るだぁ? そんな事は聞いてねぇ。アンタがそう言う事をするってんなら、オレもオレのやりたいようにやらせてもらうだけだ。
幸い、アンタのトコで実力は十分に育ったからな!」
部下のアイツを彷彿とさせる短剣術。
当たり前だ。アイツが育てたのだから。
アクウェル。
その名は……何時の日か、俺がヘッドハンティングした盗賊の名である。
「ガリードサマへの恩義も忘れて、敵国でボーイミーツガールですかい? ハッ、反吐が出る! 蛇咬牙突!」
「恩義? おかしなことを言う。
私があの男に、恩義を抱く? ハ、有り得ませんね。
初めから俺は、あの男もストラタも、視界にすら入れていないぞ、馬鹿め」
カニタマ、チョコパイの発動を確認しつつ、火傷の
コイツの実力は高い。レベルで言えば、俺と同じくらいはあるかもしれない。部下のアイツが俺より強いからな。可能性はある。
だから、エレスポット……料理によるバフを、今盛れるだけ盛って、確実に仕留めさせてもらう。
「三叉槍!」
「下からの二連射撃、と見せかけて、上空からの三射もしくは四射、時間差で下からのに連射撃、ですよね。アンタの攻撃はもう見切っている!」
宣言通り、全て防がれ、避けられた。
アルカナボトルを割る。
「馬鹿が、そんなもの、任意で変えられなくてどうする。轟天!」
「落雷を誘発させる矢――グッ!?」
轟天と言いつつ、放ったのは衝破だ。
そして一連携目があれば、十分だ。
「覚悟は出来たか? 無様に舞え……アンタディッドプレイス!」
それは奴の胸に吸い込まれ――。
「それも、知ってるって、の……」
「馬鹿め。
それは矢ではなく
いつかモーリスに使った、第一秘奥義。
ダメージの無い状態異常のフルコース。
「……お前の道を捻じ曲げたのは俺だ。あのまま盗賊として死んでいた方が幸せだっただろう。そして、お前の道を閉ざすのも俺だ。この仕事ぶりが評価されれば、あるいはオズウェル家の私兵として、最高の地位を与えられただろう。
運が悪かったな、アクウェル。俺に出会ったのが……俺と同じ亀車に乗ったのが、運の尽きだ。俺を一番恨んでいるはずのお前が、俺の代わりをしたのは……皮肉だがな」
いやはや。
シェリア・バーンズには、申し訳のない事をしたな。
それでは、俺を恨んでくれ。また来世で会おう。地獄かもしれないがな。
シェリア・バーンズとアスベル・ラントの痴話喧嘩も終局を見せた。
俺は不始末を処理した。うん、万々歳だな。
「ライモンさん、さっきの人は……」
「……申し訳ありません。追い詰めたのですが、川の方に逃げられてしまいまして……」
「まだ警戒が必要かもしれない、か」
「健を射抜いたので、当分戦闘は不可能かと思われますがね」
剣ごと射抜いたので、一生戦闘は不可能かと思われますがね。
始末したと言えば、シェリア・バーンズに悪印象を抱かれる。折角アスベル・ラントが身内認定をしてくれているのだ。不和は避けたい。
……「私、疑っています」というあからさますぎる目線を向けてくるマリク・シザースも、いずれは信用させなければいけないのだが……中々。
「ともかく、シェリアが無事だった事を報告に戻ろう」
「ええ」
……逃げられた、などと。ふん、ヒューバートならわかるだろうな。
警戒の必要なし。そう判断する事も容易く予想できる。
それがマリク・シザースに見抜かれなければいいのだが……アイツ、わかりやすいからなぁ。兄と似て。
さてはて……もうすぐ、ストラタに出戻りだな。
シェリアと会話した直後からだいぶ離れた所で戦ってるので会話は聞かれていません。