メガネ端正(転生) 作:飯妃旅立
なんで休筆日ですが溜まっていた分を投稿……できるといいな。
「……」
「どうした。何か、気候などに懸念があるのか?」
「いえ、気候ではなく……生態系の方ですね」
オル・レイユへ降り立った俺達。だが、覚えのある地響きに立ち止まった。
モーリスとの関係が出来た切っ掛け。なんなら、アクウェルとの関係が出来た切っ掛けでもあるだろう。後者の関係は断ち切ったのだが。
「ロックガガンが、暴れているようです」
「ロックガガン……?」
「別名、岩石獣と呼ばれる超大型の魔物ですよ。一応、トータス系と考えられています。
何分一体のみしか確認されていませんのでね、はっきりとしたことは何も。
普段はおとなしく、人の住まう場所に出てくる事は無いのですが……ふむ」
「この港から出られないんですか?」
「いえ、ロックガガンが出て来られるのは砂漠地帯のみ。オル・レイユとセイブル・イゾレの間に在る地域はどちらかと言えば岩石地帯……ロックガガンが来ることはできません。
とりあえずは、セイブル・イゾレを目指し、その後どうするか考えるべきでしょうね」
「よし、それでいこう!」
さて、俺は俺で少々細工を五郎次郎……もとい、ご覧じろう。
砂漠を進む。
「ライモンは、ストラタで生まれた……だよね?」
「はい、ソフィ。私はユ・リベルテで生まれました」
「ストラタじゃ、ないの?」
「ストラタという国の、ユ・リベルテという街ですよ。ウィンドルという国のラントで生まれたアスベルと同じです」
「ライモンとアスベルは、同じ?」
「はい。同じです」
「いや、全然違うと思うんだが……」
思えば、こういうタイプの天然はあまりいなかったからな……。
イライザも天然と言えば天然なのだが、アレは”周りに迷惑をかけるタイプの天然”なので、ソフィとは違う。イマスタは無口なだけで天然ではないし。
いやー……癒される。戦闘や研究の時以外がこうやって何も考えずに話せる存在と一緒にいたいよなー。
「……なら、私は……? 私は、どこで生まれたんだろう……」
「ソフィ……」
……答えを知っている分、罪悪感が凄いな。
だがまぁ、知るべき時に知る事が出来る答えならば、俺が先んじて知識を出すのは間違いだ。心の成長もある。いきなり自分が異星人だと、人間ですらないと聞かされて、その時のダメージは計り知れん。俺なら……まぁ、「へぇ?」くらいで済ませられるのだが。
俺を基準にしたらいけないことは、うん、わかっている。
「ライモンは、帰る場所、ある?」
「帰る場所、ですか?」
唐突だな。何か答えが出たのか?
しかし、帰る場所、ね……。
「うーん、帰る場所は……無いですね。拠点と呼べる場所はありますが……あくまで拠点ですし」
「ないの?」
「はい。恥ずかしながら、家を出たままでして。もう帰る事はありませんし……どこか、安住の地を見つけるまでは、家無し子ですねぇ」
「ふむ。ユ・リベルテというのはストラタの首都だろう。ある程度の生活が保証されているものと見ているが……それでも家を出たのか?」
「事情は人それぞれですよ、マリクさん。貴方も、そうでしょう?」
「教官も家出したの?」
「いや、オレは……そうだな。そういう意味では、家出になるのかもしれん」
「家出は、楽しいの?」
「私は楽しいですよ。自由とはこれほど素晴らしいものなのかと、実感している真っ只中です」
「楽しいかどうかはわからんが、確かに自由である事に間違いはないな。自由故の不自由というのもあるが……」
もっとも、俺は家に居た時から自由にやっていた節はあるのだが。
しかし自由故の不自由か。
確かに、今の俺はかなり不自由だな。素を曝け出す事もままならん。
「私も家出したら……楽しい、のかな」
「はいはいそこまでです! 教官もライモンさんも、良い歳したオトナなんですから、ソフィに変な事教えないでください!」
「そうそう~、別に家出しなくたって楽しいし自由だよ~!」
「パスカルはな……」
しかしアスベル・ラント。お前の今の状態は家出扱いになるのではないか?
とは、勿論言わない。
ソフィも家出というか……星出? あ、それなら俺とマリク・シザースは国出か。
結論から言えば、どこにいようが……どこに所属していようが、自分さえ楽しくて自由なら、それは本当、と。
そんな、陳腐でありきたりな答えが、真実なのだろうなぁ。
セイブル・イゾレに着いた。
「さて、少し私は離脱しますよ。旧知の間柄に挨拶などがありますのでね」
「わかった。それじゃあ、後で宿屋に集合にしよう」
「わかりました」
アスベル達一行から離れる。
向かう場所は勿論、イマスタの家。
イマスタの家はセイブル・イゾレの研究塔の奥の方にあるので、地元民でなければ知らないような細道でしか向かえない。アスベル・ラント達では辿り着けないだろう。
研究塔周辺の研究員、三十代四十代くらいが多いか? その年代の研究員たちに会釈をしながら進む。皆、一度は話した事のある知り合いだ。
道具屋や武具屋の店主とも、エレスポットの関係で大分助力してもらった。
そういえばアスベル・ラントの持つエレスポットは、セット数如何程にまで成長しているのかね。
「ん?」
……家に気配が無い。
外出中か。そりゃ残念。
ま、そんなこともある。
そう思って来た道を戻ろうと――。
「おや。
「……なにをしているんですか大統領。護衛も付けずに」
「はっはっは、何、君の真似事だよ。お忍び、という奴だ」
大統領と、出くわした。
あ、後ろにイマスタもいるじゃないか。
「研究塔で調べることがあってな。少々足を運んでいたわけだ。
まさか、君に出会えるとは思っていなかったがね」
「そこまで予見されて居たら、私は貴方の国を出たりしませんでしたよ」
「……? レイモン、その口調はなんだ? 気持ち悪い」
サングラスは外してあるが、大統領の手前口調を外交用にしていたのに、これだ。
確かにイマスタとは出会った時から素の口調だったか……。
「私もプライベート。どんな口調でも気にしないぞ」
「……はぁ。いや、まぁ……ここの所ずっとあの気持ちの悪い口調だったからな。
こうして気楽に話せるのは、割と助かる。ぅ、あ゛あ゛~っ!」
大きく伸びをする。パキポキと肩や首が鳴り、すっきりとした感覚が戻ってくる。
「レイモン、おじさん臭いぞ」
「もう二十五だからな。十分おじさんさ。それと、イマスタ。俺はレイモンの名は捨てた。これからはライモンと呼んでくれ」
「……ほとんど変わってないじゃないか。でも、家を出たという噂は本当だったんだな」
「お、セイブル・イゾレまで噂が広まっていたのか。大統領、話を漏らしたのは誰だと思います?」
「私だな」
「だと思いましたよ。ガリードがオズウェル家の醜聞を言いふらすワケもないですし」
大統領発信というか、大統領の私兵発信で俺の家出を言いふらしてくれた方が情報規制もしやすいのだ。噂の尾ひれが変に突く前に、こちらで操作しようと言う魂胆だな。
オープン戦法である。
「レイ……ライモン。私達と一緒に暮らす、という選択肢は無かったのか?」
「まぁ、あったにはあったさ。
だがな、俺は全てを捨ててでもやりたい事がある。行きたい場所があるんだ。
だから、すまないがここでは暮らせない」
「……ふん、別にいい。
それより、口調が戻っていないぞ。普段のレ……ライモンは、もっとこう……ぶっきらぼうで、乱暴な口調だ」
……大統領の前だから遠慮しているんですけどねぇ。
どうやらイマスタはお気に召さないようで。見れば、大統領はニヤニヤしている。
「……ふん、これでいいか?」
「うむ。それでこそいつものレ、ライモンだ」
「ク、尻に敷かれているな。スパ・リゾートでもチラと見かけたことがあったが、良い子ではないか」
「まぁ、そうだな。俺に憧れ、俺の口調を真似てしまうくらいには良い子だ。
もっと可愛げのある口調だったのになぁ」
「う、うるさい! もうこれで染み付いてしまっている! 今更変えられない!」
ま、今も可愛いのだが。
可愛い妹である。
「で、大統領。
本題……というか、ロックガガンについては、どうお考えで?」
「……難しい所だ」
「ふん、ロックガガンは大切な生き物だ。もし殺す、などというようであれば、私達セイブル・イゾレの民は全力で反抗するぞ。国が割れる程にな」
「それも、確かに民衆の本音だな、お嬢さん。
だが、街道が使えないので始末してほしい、という声も確かに上がっているのだ。かくいう私も、ここ数日首都へ帰れずに立ち往生している」
解決策を知っているだけに、俺に焦りは無い。
だが、街道を使えない人も、ロックガガンを大切にする人も、これからの未来が不明故に焦りと不安が押し寄せているのだろう。
「だが、ここでライモン君に出会えたのは僥倖だった。
知恵を、貸してほしい。エレスポットの開発や
「エレスポットの開発? ……あぁ、ライモンがすべてやった事にしたんだったか」
「イマスタ。相手は存外口が軽い事で有名な大統領だぞ。余計な事は言わない方がいい」
もう遅いようだが。
大統領は流石に知らなかったのだろう、目を見開いてイマスタを見ている。
ふふん、そうだ。
俺の妹分は凄いのだ。俺と同じか、いや、零からここまでを成し遂げた分、俺よりも頭がいい。
「……色々聞いてみたい事が出てきたが、それは一度端に置こう。
改めて、ライモン君、そして……イマスタさん、と言ったか。
君達に、知恵を頂きたい。全ての国民が笑顔になれる、最良の道筋を」
頭を下げる大統領。
ここまでされて、黙っているなんて出来るはずもないわな。
「……問題ないようだぞ、大統領。
ライモンがこの目をしている時は、何も問題が無い時だ。多分、既に解決策も解決のための準備も、手段も人材も、全部揃っている」
「そう、なのか?
いや、イマスタ君はライモン君の事を良く知っているのだな……」
「ずっと一緒にいたからな!
それで、ライモン。どうなんだ?」
……目、ねぇ。
よくある表現だが、俺には今一理解できないソレ。
だが、正解だ。是非ともその見抜く技能、俺に分けて欲しい。
「正解だ。
もうすぐ、問題は解決する。なにも不安に思う事は無い」
「ほらな。
どうせ、お前のいう安住の地とやらもアタリがついているんだろう。まるでこれから探す、かのように言っているが、そこへの行き方さえもわかっている。だから国にも家にも未練が無い。違うか?」
「正解、正解だイマスタ。
どうやらお前には敵わないらしいな」
「ふふん」
胸を張るイマスタ。
……そんなにわかりやすいかね、俺は。
「凄いな、君は。
私の秘書官にならないか? 相手を見抜く才は、非常に稀有なものだ」
「断る。
私は研究員だ。エレスポットを遍く人に広めるという使命がある。大統領の秘書官など、忙殺される未来が見えている。お断りだ」
「ハ、フラれたな大統領。
イマスタ程の人材はもう現れんだろうさ。強引な男は嫌われるってな、そう言う事だ」
「……それは妻にも言われた言葉だな……」
あ、琴線に触れてしまったか。
大統領が影を帯びる。
「……さて、そろそろ俺は行く。
ロックガガンの問題を解決するというのもあるが……目的の為に、手段は択ばないタチなんでな」
「ん。
……また、
「……あぁ。また来るよ」
来るさ。またな。
GC「真実の塩」
「見て見て! この塩、嘘つきが舐めると甘いんだって!」
「私達の中にうそつきなんかいないわよ?」
「でも、折角だしみんなで舐めて見ないか?」
「誰がうそつきかな~? はむ、もぐもぐ……うわぁ、しょっぱいよ~! アスベルは~?」
「うぇっ、しょっぱい! 口に入れ過ぎた!」
「うん……しょっぱい。シェリア、しょっぱいね……」
「え? えっと……ぺっぺっ! しょっぱ~い♪」
「おや、マリクさん。ノーリアクションですか?」
「そちらこそ、何か反応したらどうなんだ?」
「まぁ私はストラタ人ですからね。塩辛い物には慣れています。もっとも、甘いとは感じませんよ。私はうそつきではありませんので」
「オレも、甘いとは感じないな」
「え……えっと、教官も、ライモンさんも、血圧上がっちゃいますよ?」
「おい」
「ひどくないですか」
ちなみに砂糖ばりに甘かったみたいですよ?