メガネ端正(転生) 作:飯妃旅立
「……どういう事だ?」
モーリス一家との食事会を経て、昼過ぎ。
イライザが自慢するだけあってその料理は美味しく、母の味というものを知らない俺の舌にも良く馴染むものだった。
その後は家族水入らず、酒はまた今度に取っておいてくれと託けて、彼の家を出てきた次第である。
そして現在、俺は大統領府の裏……大統領の執務室にある窓のすぐそばで、聞き耳を立てていた。中にいるのはアスベル・ラント、ガリード、大統領。信書の話と、ガリードの横暴についての話……だと、思っていたんだがな。
『セルディク大公との同盟、我が軍の進駐。
君の主導も大きい所だが、確かに君と、君の息子達には助けられてきた』
『いえ、そのようなことは……』
『ラント政策はオズウェル家の貢献による部分が大きい。君の行為は些か目に余る部分も多いが、それを補って打ち消し得る功績だと考えている』
『……ありがたいお言葉です』
本来、糾弾されて然るべきガリードの暗躍染みた行為。
だが、危険極まる同盟の使者とラント領への進駐、この二つを俺達がこなしたことで、それを帳消しにしてやると大統領は言っている。使者がライモンではなく、レイモン・オズウェルだったからこその言葉だ。
『オズウェル。君はまだ、ラント領に関する政策を自身の手で行いたいと……そう思っているかね?』
『……
……何?
その答えは、予想外だ。いや、そもそも……なぜこんなに落ち着いた声を。
『ほう? 君はこの案件から手を引くと、そうとってもかまわないかね?』
『はい……ヒューバートに、全てを一任する所存でございます』
『……ふむ』
『あ、ありがとうございます!』
本当にコイツ、ガリードか?
誰かが入れ替わっているんじゃ……。
あ、いや、そうか。
俺がいなくなった今、跡継ぎ候補はもうヒューバートしかいない。
ガリードとしても、ヒューバートの意向に沿わない結果になる事は避けたいのだ。
……そう言う事、だよな?
『オズウェル、もう下がっていいぞ』
『はっ。
……アスベル・ラント。君がまともな兄であってくれることを祈るぞ』
『え?』
あ~。まともじゃない兄の方にはもううんざりって事ですか。
そりゃ、こちらから願い下げだが……ま、結果オーライ、という所か?
何がガリードの心情を変えたのかは、よくわからないままだが。
アスベル・ラントと大統領だけになった部屋では、今のままではいずれヒューバートを更迭せざるを得ないと言う事、それは輝石の採掘量がどうしても間に合わないからだという事が話されている。
確かにストラタは輝石を大量に消費するが、その辺は節約工事で大分寿命が延びているはず。なるほど、間に合わなくなるのは当分先だが、確かにそれでも”いずれ”だな。
『何もせずに諦めたくないんです』
『そうか……良い結果が出る事を祈っているよ』
そしてその解決に、アスベル・ラントが乗り出す。
一朝一夕に解決できることではない。確かに、アスベル・ラントだけではそうだろう。
だが、パスカルを始め……なんだかんだと知恵者や特異者が揃っているパーティだ。
そこにアテを見出すのは、確かに無謀な事ではない。
アスベル・ラントが部屋を出て行く音が聞こえる。
数拍おいて、執務室の窓が開かれた。空調の作用をする輝術の効果によって、熱気が部屋に入り込む事は無い。
「盗み聞きとは感心しないな。ましてや君はもうストラタ人ではないのだ。国家転覆罪などに問われても弁護は出来ないぞ」
「その時は星の外にでも逃げますよ。
それより、ガリードのあの態度はなんですか? 正直、別人かと見紛うものでしたが」
「おや? 素の口調とやらで話してはくれないのかね?」
「……イマスタがいない以上、問題は無いかと思いますが?」
「ふふ、そう言う事にしておこう。
それで、オズウェルの話だったな。私も驚いているよ。あれほど躍起になっていたオズウェルが、こうも簡単に手を引くなど……昔の彼ならば、考えられない事態だ」
いや本当に。
舌うちもしない、文句も垂れない、抵抗もしない。
ん、昔?
「今は違うと?」
「家族である……家族であった君が気付いていないにも拘らず私が言うのはおかしな話であるのだがな。
ヒューバート君がストラタ国に来てから、軍の将校になってから、そして君が放蕩を始めてから……節目節目を挟んで、彼はヒューバート君に信を置く様になっている。オズウェル家の方針すらも任せるほどにな。
手塩をかけたはずの君の反意が、相当堪えたのだろう。ヒューバート君に注ぎ込んだ時間と金を不意にしてなるものかと、最近の彼は”良い父親”だぞ」
……そりゃ、知らなかった。
奴にそんな殊勝な心がけがあったのか。
良い父親、ね……。笑い種だが。
「アスベル君たちの旅に、君も同行しているのだろう?
君は、頼りにされているのではないかね?」
「……だと、良いんですがね。
怪しい自覚はありますから。むしろある程度疑ってくれた方がこちらの心情は楽なのですが……大統領も見た通り、彼ですから」
「ふ、確かに……あれほど真っ直ぐな青年は中々育たないだろうな。生来の気質、ウィンドルの気質……そして、遺伝と意志。
わが国には中々いない人材だ。逸材、といっても過言ではない。
だが、政治には向かんな。あれはやはり、騎士という言葉が最もしっくりくるのだろう」
「おっしゃる通りで。
汚れ者には、いささか眩しい存在ですよ」
ソフィ含めて、な。
純粋で素直とは、ただそれだけで日陰者を焼きつけるらしい。
「それでは、そろそろ行かせてもらいます」
「うむ。
……時にライモン君」
「はい?」
「君は今フリーである、という事だが……君を傭兵として雇う事は、可能かね?」
「不可能ですね。私は傭兵ではなく旅人。
宿屋に依頼を出して、それに私の目が止まれば、そう言う事も吝かではありませんが……直接のご依頼は受け付けておりません」
「ぬぅ……」
「ですから大煇石の研究およびアンマルチア族の遺構に関する知識の披露などは、ご遠慮いたします」
「アンマルチア族についての事まで知っていたのか……ぬぅ、やはり惜しい人材を逃したようだ」
「いえいえ。それでは、失礼します」
絶影……なんて使うはずも無く。
普通に歩いてその場を離れる。
「……あぁ、私からも一つだけ」
「何かね?」
「いつか――
それはもう、後ほんの少しの事でしょう。ですが、同時に……」
これは、言わなくても良い事だ。
言わずとも勝手に、この人は見抜くだろうから。
それでも。
「その危機を救うのは、彼らです。今、全ての事象に追い風と波が来ている。危機も、救いも、今までとは比べようもない速度で、進み始めている。
時代の波を逃さないよう、気を付けてください」
「……いつになく難解な言葉だが、わかった。気を付けるとしよう」
「それでは、失礼」
さて……感動の再会と参りますかね。
「おや、皆さん。ご無事でしたか」
「ライモン!? 無事って……お前の方こそ無事だったのか!?」
「てっきり私達とは違う場所に飲み込まれて……溶かされてしまったのだと……」
「ライモン、どうやって出てきたの?」
ストラタ、西の砂漠。
そこで、まるで奇遇、とでもいうような風体で合流する。マリク・シザースの懐疑が強まっているが無視無視。
「あぁ、私はロックガガンに飲み込まれていませんよ。むしろ貴方達が目の前で飲み込まれた私の気持ちを考えてくださると嬉しいのですが」
「あ……そう、だよな。
すまない、心配をかけた。この通り、みんな無事だ」
「ええ、そのようで。何よりです」
素直だなぁ。素直だし謙虚だし……。
いやほんと。
灰になってしまいそうだぞ。
「そうだ、ライモンも一緒に来てくれないか? 俺達、これから
「あそこは一般人ですと近づけませんよ?」
「大統領に身分証をもらってある。確か、
「……ええ、わかりました。では、
「ありがとう!」
……さて、正念場かな。
「何者だ! ここは関係者以外立ち入り……? ん? レイ」
「久しぶりですね、ジョッシュ。今回は大統領の命で大煇石・
……私の事はライモンと呼ぶように皆さんに伝えてください。こちらも大統領からの命です」
ボソッと呟く。
レイモンの名を捨て、ライモンと命名されたのだ。
大統領の命だな。大統領の名かもしれない。
「……わかった。
皆さんも失礼しました。どうぞ、お通り下さい」
「ありがとうございます。さ、行きましょう」
ここにいる全員と知り合いなので、流石に騙しとおすのは無理と判断している。
特に所長は騙せる気もしないしな。
「ライモン? 知り合いなのか?」
「はい。私はここの研究チームにいたことがあるんですよ。既に辞めた身ではありますが」
「そうだったのか!?」
あれ、言ってませんでしたっけ、などと嘯く。
ちなみに言った覚えはない。
「研究員とも知り合いですからね。多少の融通は効かせられますよ」
「助かる。パスカルと共に、その知恵を貸してほしい」
「ええ、勿論です」
若干一名の視線が凄まじく強いが、シェリア・バーンズとアスベル・ラントから尊敬の念すら籠った視線が放たれる。そんな大したことはやっていないんだがな。
「最近石柱の倒壊があったようで、進めなくなっているところも多いですが……アンマルチア族の遺構を抜ければ、
「ああ!」
解き方は頭に入っている。
どうもアンマルチア族の血に反応しているらしく、ストラタ人が何度パズルをクリアしても元の状態に戻ってしまうのだが、パスカルが今しがた通り過ぎた通路の遺構は既に役目を終え、ただの通路と化していた。
これで通りやすくもなるな。
一行は
GC「ここってさ」
騎士の炎前
「ねね、ライモン。ここってさ、やっぱり大昔の国だったのかなぁ」
「私もそう睨んでいますよ。
ですが、彼らは
「なるほどね~。だからああいう、壁みたいにせり上がってくる石柱群があるんだ。あれってバリケードみたいなものだよねー」
「……その考えは無かったですね。勉強になります」
「その線で行くと、もしかしたらユ・リベルテの元となった国は、ここにあった国を滅ぼした国かも知れないねぇ。戦勝国として
「それによってユ・リベルテは発展。離れていたからこそ
「全部仮説だけどねぇ」
「それを考えている間が楽しいんですよ」
「わかるな~」
「ぜんっぜんわからないけど……ま、楽しそうだから放っておきましょ」
GC「海と島」
合流直後
「ライモン」
「はい、なんでしょうか、ソフィ」
「ロックガガンの中にね、家があってね」
「へぇ……それは凄い。大きい大きいとは思っていましたが、そんなに大きいとは」
「でね、家の中にあったこれ……ここに映ってるのって、もしかしてライモン?」
「へ? ……こ、れは」
「それでね、これ、研究日誌? だって」
「……ウェル。貴方、そんな所にいたのですか……」
「知ってる人?」
「はい。
……数年前に行方不明になった、研究員の一人ですよ。そうですか……」
「あのね、これ、外の研究者に渡してほしい、って」
「ええ、確かに受け取り――」
「僕はもう少しここで研究していくから気にしないでくれ! って」
「生きとるんかい。……おっと失礼」
「いきとるんかい?」
「ええ、イキトルン海という場所がありましてね……」
「ライモンさん……教官と言い貴方と言い、ソフィに変な嘘教えないでください!」
「ちなみに今のシェリアさんみたいな人達が集まっているイカリシン島なんてのもありますよ」
「ありません!」
ちなみにソフィはテンネン湖