メガネ端正(転生)   作:飯妃旅立

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また独自解釈が出てきます。捏造設定も。



3.しらべ

 

 さて、思わぬところで寄り道が発生してしまったが、本来の用向き……ここ、セイブル・イゾレに来た目的を果たさなければならないだろう。

 イマスタの家から出て、そのまま視覚範囲内にある背の高い建物……塔と言って差し支えないだろうそこに向かう。

 

 塔入口右手の石化した魔本の近くの地面から千切られたページを拝借しておく。

 ここへきたらこれを採取するのは基本である。

 

 元から高所という事もあって強風の吹き荒ぶセイブル・イゾレはストラタ共和国にしては比較的涼しいのだが、この研究施設は快適と言っても過言ではない温度に保たれているようで、なるほど、ここなら研究も進むだろうことが伺える。

 

 とりあえず研究員……ではなく、ストラタ軍の兵士に書簡を渡し、待つ事五分。

 

「やぁ。君が大蒼海石(デュープルマル)調査所の所長の手紙にあった期待の新人君でいいのかな?」

 

 ちょっと太り気味の、にこやかな男。

 まーた狸だよ。

 彼らの周りはさっぱりとした人間が多かっただけに、非常に残念だ。類は友を呼ぶとでもいうのか。

 

「いえ、金持ちの調子に乗ったガキと書かれていた方ですね。レイモンと言います」

 

「お、重要書類だというのに、中身を勝手にみたのかい?」

 

「まさか。 

 まだ会って間もないですが、所長(あの人)のことです。口が裂けても紹介文に期待の新人、なんて書かないでしょうから。俺の印象が悪くなる文面である事など、容易に想像が出来ます」

 

「……いいね。うん、凄く良い。

 もしこれで君が認められていたのか、みたいな顔をしようものなら雑用を任せるつもりだったけど……気が変わった。おいで。君が求めている書物はこっちだよ」

 

 ほら、狸だ。

 あぁ、イマスタとの時間が恋しい。愛恋の類いではなく、気を張らなくていいと言う空間が。

 

 本棚に立てかけられただけの梯子を昇る。

 ロックガガンが近くにいるこの地域で……耐震構造とか大丈夫なのか、ここ。

 

「これだ。放射系輝術に関する論文……君が求めていたのはコレで間違いないかい?」

 

「はい。ですが、それ以外の書物の閲覧許可も頂きたいですね」

 

「貪欲だねぇ。遅刻してくるから知識の欠片も無い子供だと思っていたけれど、存外も存外。まぁ、知識を求めるのならば、ここはそれに答えるまでさ。いいよ、好きに見てくれて。

 ただ、見終わった本はしっかり元の場所に戻してね」

 

「ありがとうございます」

 

 じゃ、僕は下にいるから。

 そう言って降りて行く施設長から眼を外し、本の内容へと目を落とす。

 

 今回俺がこのセイブル・イゾレに来た理由は二つ。

 一つは、俺が大蒼海石(デュープルマル)の研究チームに入った、という事に関しての顔合わせ。研究員は横の繋がりが結構大事なようで、特に重要な大煇石と輝術の研究員はいつどこでどのような状態であっても情報共有が出来るように、顔を合わせておくのが基本らしいのだ。

 多分それは、危機的な状況に陥った時、自身の叡智を知り合いの研究員に託せるようにするためのものなのだろうな。

 

 そしてもう一つの理由。

 それは、俺の戦闘スタイルの確立に起因する。

 

 十八年後、俺の弟になる彼は、全く新しいスタイルの術技を獲得していた。あの武器も術技も、今のストラタにはないものだ。

 このストラタ国は世界最大の輝術研究国。七年であれを創る事ができるのならば、俺の理想とする武器だって開発出来るんじゃないか? と考えた次第である。

 

 そのために必要だったのが知識だ。

 アンマルチアの技術についてこそにわかな知識があるものの、武器類に関しては無知も良い所。輝術は幼い頃から(今も十分に幼いのだが)練習していただけに、そこそこ扱いには自信があるので、ならばいっそ俺流のスタイル、というのを確立してみたくなったのだ。

 

「……特定の原素(エレス)の放出。どの原素(エレス)がどの原素(エレス)に強い、みたいな事は無いと思ったが……性質はやはり違うか」

 

 そのスタイルというのは、弓。それも複合弓(コンポジットボウ)と呼ばれる、非常に威力の高い弓である。

 無論ウィンドル兵に弓使いはいるし、ストラタの砂漠を彷徨っているハンターにボウガン使いは存在するので、少数とはいえ弓を使うものがいないわけではない。

 

 だが、輝術……攻撃術を飛ばす弓兵は、俺の知る限り未来の弟である彼しかいないはずだ。

 それに彼も秘奥義の中でそれを使っているに過ぎず、常に使う者は見た事が無い。

 

 あの不思議双両刃剣が創造出来るのであれば、その中間地点にあるだろう弓は存外簡単に造れるんじゃないか、というのが発想の源でもある。

 

「スピーディにダメージを与えられるのは、やはり風の原素(エレス)か。ウィンドニードルやエアプレッシャーの有用性は計り知れんな……」

 

 なお、弓使いが少ないのは(ひとえ)に銃器が発達しているからだと思われる。

 ウィンドルはあまり流通していないようだが、ストラタとフェンデルではバリバリに使われている銃器。確実に矢よりも速く、遠くまで飛ぶ攻撃手段があるのだから、色々と計算が必要で威力の弱い弓を使おう、なんて輩は少ないのだろう。

 

「汎用性の面においては水の原素(エレス)が光るな……。水、氷と使い分けができれば、様々な面での戦法が確立できそうだ」

 

 出来る事なら弓はいくつものパーツで構成したい。分解、もしくは折り畳みが可能なら尚良しだ。

 子供の身体で複合弓を持つのなら、背負うくらいしか術は無いだろう。

 であるならば、折り畳めた方がいい。

 成長に合わせて弓の大きさを変える、なんて事は流石に期待し過ぎだろうから、始めから大きな弓を造り、俺が出来るだけ早く成長する……これが理想だな。

 

「広範囲、そして大破壊はやはり火の原素(エレス)か。貫通力も期待できる……だが、少々扱いは難しいようだな。まぁ、簡単ならフェンデルはもう少し発展しているだろう」

 

 ちなみにだが、攻撃術の中には威圧術という特殊な分類の術が存在する。

 放出する原素(エレス)に威圧の心を込める事で、対人戦において無類の強さを発揮する術だ。

 他者を威圧する心が必要で、それには相応の自信が必要である。使用するのであれば、軍上層部に所属する軍人や国王といったレベルの存在でなければいけないだろう。

 

「……原素(エレス)の複合も考えなければな。単一の性質ばかりに(かま)けていては、足元を掬われるだろう。

 問題は暴星対策か……。光子が無い以上、身を護る術を身に着けておかないといけないな」

 

 術はこんな所か。

 とりあえず完成形は見えてきた。次に必要なのは、装備……そして宝石だな。

 どれほど強い術技を覚えていても、チェインキャパが低ければ意味が無い。

 チェインキャパ……CCと呼ばれているそれは、その名の通り連携の許容、要するにどれだけ呼吸が持つか、という概念を明言化したものである。

 

 術技の連携を行う際、どれほど効率よく呼吸が出来るかは、非常に重要な要素だ。

 呼吸と言っても酸素だけの話ではない。原素(エレス)の呼吸も絡んでくる。

 一つの術技を使うのに一呼吸。次の術技に繋げる際、タイミングによっては無駄な動きが生まれ、必要以上の酸素と原素(エレス)を消費してしまう。反対に極めてキレのいいタイミングで動けば、効率よく酸素と原素(エレス)を活用できる。

 

 これがチェインキャパの概要だ。

 そして世の中に存在する装備や宝石には、これを手助けする恩恵をもたらすものがいくつか見つかっている。

 肺活量、原素(エレス)許容量を底上げしてくれるのだ。

 

 息が切れるまでの時間が長くなれば、そこにたくさんの連携を入れる事が出来る。

 単純な話ではあるが、非常に重要な事だ。何故なら、威力の高い術技ほど一度に使う酸素と原素(エレス)は膨大な物となってくるのだから。

 上限と下限、そのどちらをも増やすことが出来れば、戦闘に置いて非常に心強い助けとなるだろう。

 

「……やはりエクシード、そしてライズ……幸いにして岩石砂漠にエクシードを落とす奴がいたはずだ。大砂漠の北にはライズも……」

 

 早いうちに秘核までは持っておきたい。無論神魔が手に入るならばそれに越したことは無いが、そこまで行けるとは思っていない。

 貰った練磨道具は既に使用している。錬石を錬昌にする事は成功したのだ。かなり時間はかかったが。

 あれをたったの三十分で成し遂げられるマーレンという女性には感服だ。

 

「……性質の開放がどうなっているかわからん現状、デンジャラスさを目指し、武器CC成長の倍率を高めて……」

 

「レイモン君」

 

 ぶつぶつと呟きながら思考に耽っていた所、横合いから声を掛けられた。

 ……俺としたことが。もし彼が暗殺者であったら殺されていたな。

 

「はい」

 

「自身の興味を引く内容に没頭し、時間を忘れるのは僕達研究員の基本だから、それを咎めるつもりはないけれど……そろそろ夜ということでね。宿を取っているんだろう? 研究は一旦ここまでにして、一度帰ったらどうだい?」

 

「……なるほど。そんなに時間が経っていましたか。

 わかりました。今日は一度宿に戻らせていただきます」

 

「それがいい。明日が出立なのは知っているけど、セイブル・イゾレはいつでも君の来訪を歓迎する。また時間があいたら来るといい」

 

「重ね重ね、ありがとうございます。

 ……さらに重ねて、お願いしたい事があるのですが」

 

「うん? 何かな」

 

「そこの棚に無造作に置かれているダマスカス鋼と柔らかい石、火浣布(かかんぷ)を譲ってはいただけないでしょうか」

 

「ふむ? 別に構わないよ。ダマスカス鋼の研究は終わっているし、柔らかい石も特に珍しい発見は無かったからね。火浣布に至ってはフェンデル地方の動物の革なら大体が同じ性質を持っている様だし」

 

「では、いただきます」

 

 早速エレスポットの材料三つを入手だ。 

 なお、千切れたページも材料の一つである。他の用途にも使用するつもりだが。

 

「それでは、ありがとうございました」

 

「うん、気を付けて帰るんだよ」

 

 施設長に頭を下げて、塔を出る。

 成程。

 

 夜の砂漠。それも高所は――。

 

「寒いな……なるほど、冷房だけでなく暖房の必要もあるのか、ここは」

 

「レイモン様。上着をどうぞ」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 塔の出口で待っていた部下に上着を貰い、歩きはじめる。

 一定の距離を開けてついてくる部下に少々申し訳ない事をしたなと思いながら、昼間の宿へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セイブル・イゾレを出立し、ユ・リベルテへと帰る道中の事だった。

 

「む……」

 

 地鳴り……地響きという方が正しいか。

 亀車に乗っているというのに、その振動は強く大きく感じる。

 地震か?

 

「ロックガガンが移動してるんでさぁ。さ、ガガンの食事に巻き込まれないように行きましょうさね」

 

 相乗りになった研究者が軽い口調で言う。

 かめにんが「わかってるっす!」と元気よく答え、多少トータスの歩行速度が上がったように思える。

 

「……ロックガガン。一度は見てみたいが……」

 

「遠目で見る分には雄大で、自然の凄さって奴を感じますがね。正面に立ったらもう身の竦む思いをしまさぁよ。ああいうのを畏怖っていうんでしょうかねぇ」

 

「会った事があるのか?」

 

「ええ。それも極至近距離で。あの時は死を覚悟しましたねぇ」

 

 ロックガガン。

 甲羅や爪、顔の形状からしてトータスの一種なのだと思われるが、余りにも生体が謎に包まれているため正確な事は一切不明。

 超巨大な、セイブル・イゾレでは大切な存在として扱われてきた非常に強力な生物である。

 

 俺の予想では、この星ことエフィネアが荒野だった時代を脱した直後……つまり千年以上前に生まれたトータスが、何らかの因果……主に溢れかえった原素(エレス)を吸収すると言う形で()()()()()()()()()()古代種なのではないかと思う。

 つまるところ、現在存在するトータスのご先祖様だな。

 

「……地響きが収まったか」

 

「食事場についたんでしょうなぁ。いやはや、我々人間では到底手を出せない存在ですが、それでも食事は必要と。

 ということで、我々も食事と行こうじゃありませんか」

 

 背負っていた袋から保存食を取り出す研究員。

 ビーカンに干し肉……。

 こういってはなんだが、今まで一応上流階級のような立ち位置で、それに伴った食事をしていたがために、ひどく新鮮だ。

 

「レイモン様。毒見いたします」

 

「あ、あぁ……平気だとは思うが、頼む」

 

 どこの誰とも知れない物に差し出された物をはいそうですか、と食べるわけには行かない。一応、オズウェル家唯一の子供だからな。

 問題は無かったようで、俺もそれに手を出す。

 

「……」

 

「保存食はお口にあわねぇですかい?」

 

「……いや、新鮮……というよりは、懐かしいなと思ってな。この塩辛さ……酒が欲しくなる」

 

 そう呟くと、ギョッとした目で見られた。

 なんだ?

 

 あ。

 

「流石に……その歳で酒は止めた方がいいんじゃねえかと思いますが……ああいや、俺達庶民にはわからない世界があるのか……」

 

「レイモン様、至急ワインを取り寄せましょうか?」

 

「い、いや! 良い、違うんだ。あ、しかし、赤ワインは……ゴホン。忘れてくれ」

 

 そうだった。

 俺、七歳児だった……。

 

「ついたっす~、ユ・リベルテっすよー」

 

「お。

 そんじゃ、またご縁がありましたら。これにて失礼しまさぁ」

 

「……くれぐれも、オズウェル家の子供が酒におぼれている、なんて情報を売ろうなどと考えるなよ? お前もまだ死にたくは無かろう?」

 

「げっ、バレてた。

 ……見逃してくれたりはしませんかね?」

 

 まぁ、口調が粗暴過ぎたな。

 コイツは研究員なんかではなく、砂漠を生きる盗賊だ。

 その服は本当の研究員から奪ったものだろうか。

 

「……お前、身寄りはあるのか? 仲間は?」

 

「はい?

 いや、俺ぁ独りでやってますが……」

 

「ふむ。

 俺の部下になる気はないか?」

 

 ヘッドハンティングだ。

 砂漠で独り生きられる盗賊。有能に違いないだろう。

 

「……そんな美味い話、俺が信じるとでも思いまさぁか?」

 

「思う。だから問うた。

 お前は、美味い話は利用し、自身に被害が向きそうになれば即座に逃げる。そう言うタイプだからだ」

 

「へっ。随分と……お坊ちゃまらしくないガキのようで。

 けど、残念。俺は誰かの下につくのが嫌で、独りでいるんでさぁ。というワケで、逃げさせてもらいまさぁ……!?」

 

「残念だったな。俺は欲しいモノを欲しいままにしておけないタチでね。

 ユ・リベルテに亀車が付いた時点で、俺の私兵が出迎えに来る事はわかっていた。後は合図をして、亀車を取り囲むだけだ。何、お前を捕縛するわけじゃあない。指導し、必ず有能な部下に仕立て上げてやる」

 

「それを捕縛っていうんじゃ――」

 

「かめにん、驚かせてすまなかったな。駄賃を三倍払う。それで許してはくれないか」

 

「いえいえ! 亀車を妨害する盗賊を一人更生したんすから、お詫びなんていらないっすよ!」

 

「そうか。

 では、また利用させてもらおう。信用の置ける商人はありがたいからな」

 

「どもっす!」

 

 私兵に囲われ、連れ去られていく盗賊を後目にかめにん(襲われていた奴ではないらしい)と会話をする。

 どうにか識別方法はないものか。

 

「それじゃ、またのご利用お待ちしてるっす~!」

 

 ブンブンと手を振るかめにんを後にして、帰路に就く。

 イマスタもそうだが、やはり無邪気な存在はいいな……。無論かめにんは商売人なので商売の事となれば気は抜けないのだが、こういうカラっとした関係は好みであるのだ。

 

 商業区を抜け、オズウェル邸へ辿り着く。

 

 ガリードは帰ってきた俺を見ても、何も言わなかった。

 当たり前だ。今回セイブル・イゾレに行きたいと言ったのは他ならぬ俺であり、顔合わせという用事はあくまでついでで、戦闘スタイルの確立のための知識収集は初めて俺がガリードに対して言った「わがまま」なのだから。

 「わがまま」を言わない子供を好むだろうガリードが、俺に対して抱く想いなど煩わしさしかないだろう。

 

 一応俺はただ今戻りました、とだけ言って自室へ。

 

 メガネを外し、着替えを畳み、そしてベッドへ倒れ込んだ。

 

「……冷房ってやっぱサイコーだな……」

 

 いやはや。

 亀車、暑いよ。

 

 

 




結局原素撃つならコンポジットボウである必要なくね? と思われた方。
……まぁその通りなんですけどね。

2018/6/23 諸々修正
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