メガネ端正(転生) 作:飯妃旅立
繋ぎ回ということで、よしなに。
ヒューバートとちょっとした些事を終えて、アスベル達の元へ帰ってきた。
というか、今まさにトラブル――フェンリル軍との諍いに間に合ったようだ。
既に密偵はバレているらしく、しかしいい感じに相手が挑発に乗ってくれたので、そのまま便乗。ライオットピークにて之を打ち負かす次第となった。
ただ、今回ばかりは旅での戦闘とは違い、人数制限が史実通り。つまり、四人まで。
バランスを考え、俺とパスカルは観戦席へ。とはいえそれなりの戦闘力を有し、さらには因縁ありという事で、ライオットピーク運営から監視役が付けられ、特別貴賓席(という名の監視席)での観戦となった。
パスカルはこのほぼ貸切状態である観戦席にいたく喜んでいたが、俺は本心から喜べていない。まぁ、恐らく監視役が付けられる原因が俺とヒューバートである、という理由もあるのだが、それ以前にこの監視役の男が大きな要因である。
どこぞのレンズ会社の幹部がつけていそうな黒衣を纏った、男。
通称、黒衣の番人。
「……」
無言で座っているこの男は、只者ではない。
というかヴェイグ・リュングベルその人なので、間違ってもおちょくるつもりはない。真面目過ぎて洒落が通じないからな。
「……」
「……」
「へぇ~。ここの仕組み、前時代的だけど洗練されてるねぇ。アンマルチアの技術とはちょっと違うっていうか、すっごい埃臭いけど逆に新しいかも!」
元から話しかけられなければ話す方ではない俺と、寡黙極まりないヴェイグ・リュングベル。そして興味のある事が一つでもあれば自分の世界に入ってしまうパスカル。
別に悪いわけではないのだが、無言の空間になるのは必然だった。
だからこそ、
「……お前は、何が目的だ?」
彼が話しかけてきたのは、意外以外の何物でもなかった。
「何が目的、といいますと……? あ、私はライモン。ただのライモンです」
「……俺はこの塔の上で、お前達の旅を見てきた。その中で、ただ異質。お前は、何者だ?」
……史実でもそう言っていたのだが、いやはや、意味の解らん視力である。
この世界がどんだけ広いと思っているんだ。
だがまぁ、ヴェイグ・リュングベルの元居た世界でも似たような事を彼の仲間がしていたしなぁ。
「私は私ですよ。貴方には関わり合いの無い事だ。あぁ、でもこれは渡しておきます」
懐から三枚のチケットを取り出す。
それを差し出した。
「……これは?」
「スパリゾート特別優待券ですね。このお仕事に疲れましたら、仲の良い方をつれて是非どうぞ」
「……」
受け取るヴェイグ・リュングベル。うん、贈り物を素直に受け取るのは良い事だ。
足技の彼女、聖女の彼女を引き連れてバカンスにでもいくといい。
ちなみに特別優待券は、疑似海ことプール無料は勿論のこと、水着貸出し無料、宿泊費8割カットの一週間分。まさに特別な優待券である。
職権乱用ではないぞ。ライオットピークのトップにスパリゾートの良さを知ってもらえば、儲けに設けているライオットピーク運営からも客が入る。日々の戦闘、魔物の世話に疲れたライオットピーク運営や猛者たちが来るのだ。無論、リゾート内での暴力沙汰は俺の私兵が速やかに”対処”する。
経営学は一通りガリードから学んで――と。
「……」
アスベル・ラント達に敗北したフェンデル兵が、密偵――人質であるストラタ軍人に武器を構えた。
敗北者が再度武器を構えるのは、ここライオットピークではご法度。
ヴェイグ・リュングベル――否、黒衣の番人は、15mはあろうかという貴賓席から飛び降り、音も無く(無論衣服がはためく音はあったが)着地。
そのままなんでもないかのようにフェンデル兵を昏倒させた。
無手で、よくやる。
最も、大剣を片手で持つような男だ。その腕力、膂力は計り知れんがな。
「パスカルさん、決着が付いたようです。向かいましょうか」
「あれ? いつのまに?」
この天然さも、計り知れんが。
ベラニック行の船が手配出来た。
船に乗り込み、ベラニックを目指す。
「……ガリードに動き無し、か。……ふむ」
「ライモン様の言っていた謀反の兆しは一切ないようですよ? 私兵を集めている様子も、大統領府を探っている様子も無し。むしろヒューバート様に家の諸々を継ぐためでしょうか、家に関する書類を記している所を散見しているとの報告もあるほどで。
確かに二、三年前までのガリード様は目に余るところもありましたが、今はそれほどでも……」
「何、俺が出家した事でタイミングを逃した、くらいの理由だろう。準備が整えば奴は離反するさ。そういう男だからな」
「……まぁ、我々は貴方の手足ですから、貴方の命に従いますけどね。
それともう一件。調査を命じられていたオーレンの森ですが、狂ったように哄笑する鉤爪を付けた男と部下四名が戦闘、内二名が負傷しましたが、無事に撃破したとのことです。あ、怖い顔をしているので言っておきますが、こちらから仕掛けたわけではなく相手が襲い掛かってきたとのこと。逃走をはかったものの、外をうろついていたウィンドル兵に見つかりかねないため、やむなく、と。
負傷はそこまで大きなものではありません。既に治癒術で回復後、安静のために一か月間の休暇を取らせています。家族もいますからね」
「……だから怒らないで上げて欲しい、と?」
「まぁ、有体に言えば」
「ふん、元より怒る要素が見当たらん。しかし、負傷者に休暇か。良い制度だ。
お前も休暇を取るか? 余程酷いけがをしていたようだが?」
「そうしたいのはやまやまなのですが、どうにも手のかかるお坊ちゃまがいましてねぇ。私の分まで彼女には休んでもらって、私はキリキリ働きますよ」
「お前が良いならいいがな。
そういえばアドルフはどうした? まだ絶対安静か?」
「いえ、日常生活に問題ない程には回復しました。
今はイマスタちゃんと『レイモンが解読したっていうあの言語絶対解読してやるぞ勉強会』で鋭意勉強中ですね」
「……レイモンって誰だよ、とだけ言っておこう」
「伝えておきましょう」
船はベラニックへ向かう――。
「ねね、ライモンの昔ってどんなのだったの?」
「おやパスカルさん。藪からスティックに何事で?」
「ん、ちょっとそんな話題になってね~。で、どうだったの? 昔からそのサングラスだった?」
部屋を出て甲板に向かうと、一同がそろい踏みしていた。
どうやらマリク・シザースの過去を聞いて、それを拒否されたためか、他の人にも何でもいいので聞いて回っている……という流れらしい。
しかし、俺の昔、か。
ヒューバートの視線がヒシヒシと。
「ふむ、そこまで大した物ではありませんよ?
ストラタ出身ですからね、砂漠を旅したり、生物や気候について良く学んだり……そう、良く学ぶ子でした。
最も、齢六つを数えた辺りで
「そこからずっと研究者? なんで研究チームやめちゃったの?」
「家出しまして。元から家族とはあまり仲が良くなかったのですが、ストラタ国外に夢が出来ましてね。これを機にと、袂を別けた次第です。”優秀な弟”がいましたからね、家の事は心配していませんよ」
「へぇ~」
ふむ、そう言う意味では、大人になってからようやく”ヤンチャ”をしたと、そう言えるのではないだろうか。
ハ、年甲斐の無い話だな。
「でも、ご家族は心配しているんじゃないですか? どれほど仲が悪くても、家族……なんですし」
「ハッハッハ、それは有り得ませんよ。そも、実父ではありませんし……何より、私は目の上のたんこぶでしたからね。今は一人残った息子の方が大切でしょうから」
「……そう、ですか」
シェリア・バーンズはまぁ、家庭環境が家庭環境だからな。
色々思う所があるのだろう。
ラント兄弟も、パスカルも、兄弟と姉妹、色々あるのかもしれんが……俺には無いな、それは。仲間、意識共同体としての絆というかリードならまだしも、家族だからと心配するような関係ではないのだ、俺とオズウェル家は。
「……『縁を切る程だったのか。……そうか』」
「ヒューバート?」
「……僕にも
そう、何でもない方が楽だぞ、ヒューバート。
敵対者に同情すれば、行先は地獄だ。例え家族でもな。
「そろそろベラニックに着きます。気温が低いですから、体調・体温にはお気を付け下さい」
念願まで――あと、少し。
本編はもう割と中盤手前というのは嘘です。もう中盤ですね